ストライクウィッチーズRTA「駆け抜けた空」   作:ヒジキの木

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 E-17の機内は拡張されているにも拘らず狭かった。その狭い室内に10名もの人員が乗るのだから実際にはかなり狭くなるのだろう。

けれどその日乗るのは私を含めて5人だけだった。

その最後の一人、ニーマントがようやく乗ってきた。

 

 カールスラントの軍服の上からフライトジャケットを羽織った格好の彼女は相変わらず何を考えているのか分からない表情をしていた。

「久しぶりね、少尉」

 

「シュレイナ伯爵、お久しぶりです」

そう言いつつ、この場にいる私以外の要員を睨みつけていく彼女。まるで猟犬のようだ。

「安心していいわ。この機内には私の信頼のおける部下しかおりません」

副操縦士のフリントは軍にいた頃の戦友で今は私兵部隊隊長。航空機関士も通信士も軍で私が支援する派閥のトップ。

私が貴女をスカウトするのも、これからの計画も全て知っている。

そして貴女が断った場合の保険としての機能も持っている。

「そう、私の席は?」

 

「そこの士官席よ。貴女の任務は……」

「502統合航空戦闘団の管制士官。必要に応じてだがレーダーと無線は借りる」

 

「好きにしなさい。元々この場は貴女の答えを聞く場でもあるのだから」

士官席に腰を下したハルはそのまま横の窓に視線を向けていた。不満があると言うふうに見えるけれど、それでも抵抗しないあたり話をするつもりはあるのだろう。

「盗聴される恐れもなく、最も安全な密室……ですか」

 

「もちろん任務も遂行してくださいね」

 

そう、これはあくまでも軍の任務の一つ。人が足りないから退役軍人である私達がブリタニア空軍から機材を借りて任務を代行しているだけ。そして502統合戦闘航空団の実力もついでに測る。

 正直彼女たちは敵対しては来ないでしょうけれど念の為、巣を私たちより早く破壊されては困るのだ。

 それにしてもこの機体を飛ばすのは初めてね。B-10からの転換訓練と操縦訓練は受けているけれど電子戦機だから随分と勝手が違う。

 

全ての発動機を始動させるのにたっぷり三十分がかかり、機体を引っ張っていく。

ウィッチ時代のストライカーユニットやそれ以前の飛行ユニットと違って後ろから蹴り飛ばされる感覚がない。元ウィッチとして空を飛ぶ時に感じる寂しさの一つだ。

 

「伯爵はこの機体を初めて飛ばすのかしら?」

エンジンの騒音の中で彼女の声が透き通って聞こえた。

「ええ、お気に召しませんかしら?」

 

「……他人の操縦するものに乗るのは安心できない性格でね」

難儀な事ですね。私も人の操縦に命を預けられるかと言われれば少し怖いところがある。

飛び上がったウィッチ達に続いてこの機体も飛び上がった。朝日が眩しく機内を照らす。

爆装しているわけじゃないのにやけにずっしりとした重たさを感じる機体だ。

 

「さて、無線は一時的に切らせていただきますわ。フリント、操縦を預けるわ(ユー・ハブ・コントロール)

 

承知しました(アイ・ハブ・コントロール)

操縦はしばらくフリントに任せる事にした。飛び上がって安定してしまえば二人も操縦士は必要ない。

「そう、じゃあ内緒の話をしてもいいわけね」

 

「ええ、既に命令は下っていると思うけれど、貴女の意思を確認したいのよ」

 彼女の意思が反対だとしたら、残念だけれどここで降りてもらう事になる。もちろん代わりを探すのは手間だけれどいないわけじゃない。

もちろん彼女が適任ではある。エースウィッチかつ手元に置ける人は少ないのよ。

「聞いても良いかな?どうして私だったの?」

 

「そうね……適性があったからと言うだけじゃ納得しないわよね」

 

「当然ね。たとえ貴女が私の技術を買っていたとしても同じだけれど」

 

少なくとも運命という言葉を使うわけにはいかない。まあ、ラル中佐からの頼みで貴女と出会わなければきっと私は貴女を見つけることは出来なかったでしょうね。。

「そうね、貴女は私の思想に賛同しているわけではないし事実を並べてみれば貴女にこだわる理由はないわね」

 

「つまり偶然?」

 

「でも、私のエースウィッチとしての勘が貴女を選んでいるのよ。これは理屈とかじゃない、本能的なもの。でも私のためじゃない、全人類の共栄のために必要だってそう魂は訴えているのよ」

 

 

「私はそれほどまでの存在とは、貴女も人が悪い」

 

「でも貴女は意思を持ってここにきた。それは間違いないわね」

別にこの機体に乗らなくても良かったのだ。それでも乗ったという事は意思があったのだ。そこを履き違えてはいけない。

 

「もうすぐ、空戦領域に入ります。おしゃべりはこれくらいにしましょう伯爵」

 

「ええ、少尉……いえ、アントナー伯爵」

私の言葉に彼女は複雑な表情をしながら士官席から管制要員のためのレーダーと無線機が設置された座席に向かった。既に大型ネウロイはレーダーで捉えている。そこに向かうウィッチ達の姿も小さいながらスコープに見えていた。

エーテル機関は特徴的な電磁波を発生させる。それがある周波数帯の電波を反射させてしまう性質を持つ。それ故に人間サイズでしかないウィッチの姿はレーダーでも航空機と変わらない反応を示す。

 

「戦闘が開始されました。お嬢様」

 

「ええ、見えていますわ」

遠くの空に、大型ネウロイの黒い影とその周辺で発生する爆発が見え始めていた。

「今のストライカーユニットは高速化、高性能化して私の時代とは大違いですわ」

あの頃はせいぜい高度300m前後。速度も今の機関車と同じくらいでしかない。そして箒に推進機が取り付けられたようなもので操縦も両手かあるいは片手で行う空飛ぶ馬のようなものだった。

当然武器も片手で撃てる拳銃か2メートル超えの槍を振り回すくらいだった。

「技術の進歩は目まぐるしいものです。そしてネウロイも同じく…あるいはそれ以上」

 

「だからこそ今ここでネウロイを根絶やしにして時間を作らなければなりませんわ」

「そう、次の戦争までの準備をしなければなりませんわ」

後ろが騒がしく無線に向かって喋っている。直接姿を見ていないのによく指揮を行うことができるものだと思うと同時に、そのうち電子の世界だけで全てが解決するのではないかと思えてきてならない。

もしかしたらそのうちウィッチすら、ネウロイを相手にしなくて良い日が来るかもしれない。だが明日の、10年後の事を考えたらそれは不可能だ。

「全てはウィッチ…いや人類のために」

 

 

 

 

お姉ちゃんはやっぱり強かった。

大型ネウロイの攻撃をたくみに回避して、即座にコアの位置を特定した。だけれどコアを破壊してもネウロイは再生した。コアの中にそのコア自体を司るもう一つのコアがあったらしい。

 

『ネウロイ表面に活性反応、ネウロイが分離した』

無線から聞こえてきたあの人の声でネウロイを注視すると、黒色に幾何学の赤い模様が描かれた胴体が剥離するように剥がれ始めた。それらは剣のような見た目となり高速で動き始めた。

 

「小型ネウロイだ!全員ブレイク!ブレイク!」

集まっていると即座に包囲されて攻撃されかねない。慌ててみんな散開。数が多くて鬱陶しい。小型ネウロイのビーム一発一発はそこまで強力ではない。けれど四方八方から攻撃されたら処理しきれない。

お姉ちゃんは……魔眼に集中できていない。

魔眼は確かに見るだけで内部の透視ができるかもしれない。だけどそのためには意識と魔法を視界に集中させないといけないからこう言った乱戦では使用が難しいはず。

その点私の接触魔眼は魔法発動中に接触さえ出来ればいい。魔法運用に集中する必要はない。その点こう言った場面では……私が有利だ!

 

触れれさえすれば良いんだ。小型ネウロイは回避すれば良い。ニーマントさんくらい上手に掻い潜れるわけじゃないけど、それでも教えてくれたんだ。やってやる!

『ひかり、右側からもネウロイの一群が突っ込んでくる。クロスファイアされるぞ』

 

「ひかりさん!」

ロスマン軍曹とニーマントさんの声が重なった。咄嗟にチドリの出力を下げてフラップを作動。失速した体が急激に高度を失って、さっきまでいたはずの頭上でネウロイ同士が衝突を起こしていた。

『まだだ!左下方からネウロイ6!』

「え?……しまッーー」

見えたのは下から迫って来るネウロイが横隊でビームを一斉に放とうとする姿だった。

シールドを展開する時間がない。死ぬ。そう思った。

だけどネウロイの集団に白煙をあげてロケット弾が飛び込んできた。それは信管を作動させると周囲のネウロイに向けて金属の破片を撒き散らした。

ズタボロになったネウロイが白い破片になって砕け散った。

 

「どうやら補習が必要みたいね。思い出しなさい、あなたがここで得たものを、あなたの飛び方を」

 

「は、はい!」

 

「いきなさい。ひかりさん」

そうだ。私は……まだやれる!

 

『ひかり、大型ネウロイまでの最短コースを算出した。左旋回十時の方向、その後こちらの合図で右旋回で3時の方向に迎え』

「あ、ありがとうございます!」

私は一人じゃない。

チドリに力を極めて再びネウロイに向かった。

相変わらず容赦のない攻撃が飛んでくるけど、不思議と今度は当たらない。回避できている。

『クルピンスキー、孝美の援護に回れ、方位2-2-0より小型ネウロイの一群そこから500ft上空だ。それとひかり、次のネウロイは右上方から被せて来る。20秒後に交差、通過したら合図で右旋回だ』

視線だけを上に向けると、確かに言っていたネウロイの一群が見えた。

頭の中で秒数を数える。

今だ!

バレルロール、ネウロイが上から放ったビームがさっきまでいた位置を掠めていった。黒い物体が左を通過して下方に消えていく。

ネウロイまでの距離は近い。

『今だ右旋回!』

言われた通りに旋回すると、大型ネウロイまで小型ネウロイの姿はない。完全に開かれた空間になっていた。

迷わない。飛び込む。

 

ビームが私目掛けて飛んでくる。シールドと最小限の動きで回避。もうすぐ……

 

お姉ちゃんの魔眼がネウロイのコアを捉えたのと、私が接触魔眼でコアの位置を探り当てたのはほとんど差はなかった。

あったとすれば、それは私の伝え方の問題だった。私はまだまだお姉ちゃんには敵わなかった。

 

 




フォッカーDr.1

開発国
カールスラント空軍/ネーデルラント空軍

開発会社
フォッカー社

エンジン
オーバーウルゼルⅡ回転式空冷九気筒魔道エンジン
魔道
軸出力160馬力
最高速度120km/h
航続距離170km/h

宮藤式が登場する以前の航空ウィッチ用機材。ストライカーユニットの名称の由来になった当時最強のユニットである。
足に装着するものと違い魔女が乗る箒のイメージを彷彿とさせる跨り型のユニットである。
エンジンは後ろ向きにカウルによって覆われた初期の魔道エンジンである。翼が両側に3枚ほど飛び出しており推力の変更はこの翼自体を使って行う。これにより従来まで移動方向に対しても魔術式で調整する必要があった煩雑な操作方法を簡略化し扱いやすいユニットとなった。
ただし着陸の際に垂直に降りることができずストライカーユニットの中では離着陸に滑走が必ず必要な珍しい機材である。
また操縦に片手、または両手での操作が必要であり武器を構えるのが難しいという問題もある。
シュレイナ伯爵の愛機でもあり撃墜記録のほとんどはこの機体で得たものである。

ハルちゃんの三走目

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