ストライクウィッチーズRTA「駆け抜けた空」   作:ヒジキの木

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 大型ネウロイは撃破された。雁淵孝美中尉の活躍によって。

 無論ひかり自身の活躍も目を見張るものがあった。だが、孝美の方が僅かにネウロイのコアの位置の特定は早かった。後半月、ひかりにそれだけの時間があれば結果は変わっていただろう。だが奪還作戦は一週間後だ。その時間が彼女にはなかった。

 

そしてもう一人、私が502に連れてきて保護兼監視していた彼女もまた私の元から離れる事になった。

 非常に困った事になった。彼女は軍の中でも立場が危うい。一部の派閥からは新兵器を破壊した存在として目の敵にされ、別の派閥からはそれが英雄視されている。

 暴走し、処分するしかなくなったウォーロックを撃破した宮藤軍曹の方がまだ穏便に落ち着いている。

彼女を引き抜いたのがシュレイナ伯爵だというのも気がかりだ。彼女はウィッチ至上主義に資金援助をしている。確定ではないがおそらく私兵部隊もその見返りに設立の支援が行われたものとみていいだろう。

だが彼女は熱心なウィッチ至上主義かと言われればそうではない。そんな彼女がどうしてハルを必要とするのか。

 

 

事務処理がいち段落ついた私は、一度頭を冷やすために酒保へ行く事にした。

隊舎から少し歩いたところにある小さな小屋のような建物が酒保となっている。戦線の変動に合わせて移動するため酒保なども倉庫保管にするなど移動に備えているのだ。

そんな酒保の隣には小さなバーカウンターがある。バーカウンターと言ってもバーテンダーがいるわけではなくて、好きに持ち寄ったものを飲むための机だ。バーカウンターにそっくりだからそう呼んでいる。

元々は無かったものだが、クルピンスキーの要望で作られたものだ。

バーカウンターと酒保を分ける大して高くない衝立の向こうで茶髪の髪の毛が動いていた。珍しく彼女も飲みに来ていたらしい。

 

「隣、よろしいかな?」

バーカウンターの方に顔を覗かせると、やはりそこにはハルがいた。毛先が銀色になった茶髪を指でいじりながら彼女はバーボンを煽っていた。

 

未成年飲酒だがそれを咎める者は基地にはいない。死と隣り合わせの世界では酒もタバコも好きにしろというのが暗黙の了解だった。特に大人に交ざって戦うウィッチ達にとっては酒も煙草も大人の証のようなものだ。

酒が飲めて大人の仲間入り。そんな風潮だからかウィッチも飲酒は普通のことなのだ。

「構いません」

私はまだ業務があるからお酒は控えるが、そうでなければ彼女と同じものを頼んでいただろう。

「ところでそのバーボンは何処から仕入れたんだ?」

 

「リベリオン。ケンタッキー州で作られたやつです。ちょうど纏まって司令部に送られる予定だったので一箱貰ってきました」

あまり酔っているようには見受けられない彼女は、少し自慢するかのようにバーボンの瓶を渡してきた。

確かに高級品だ。

「そうか、さぞ美味しいだろうな」

 

「残りは置いておきます。好きに飲んでください」

瓶が数本入った箱を彼女はカウンターの下に置いていたらしい。軽く足で小突いたのかカランと瓶同士が当たる音がした。

「やはり気が変わった、そのバーボン一杯くれないか?」

 

「そう言うと思っていました」

もう一つコップを出したハルはやや濃い黄金色を放つバーボンを静かに注いだ。

「これが最後になるな」

元々は部隊を強化するために声をかけたのだったな。だが流石に固有魔法のデメリットを聞いたらあの役目に収まっていて正解だった。それに今の役目でも随分と部隊は救われている。

「そうですね。短い合間ですがおせわになりました」

そう言う彼女の顔は、未練など全くないような清々しいものだった。

少し不安に襲われる。この表情は、ビフレスト作戦の時幾度となくみてきた。

死を受け入れて吹っ切れた者達の顔だ。言いようのない不安が込み上げて来る。

「シュレイナ伯爵の誘いだが、本当に受けるのか?」

気づけば尋ねていた。無駄だとは分かっている。

「ええ、これは決めた事です」

 

「なら止めはしない。だが、本心を聞かせてくれないか?」

 

「本心ですか……私は、人類の未来を守りたいのです」

やはりシュレイナ伯爵は奪還作戦になにか手を出そうとしているな。問題はハルがそれを阻止したいのか支援したいのか。

 

「……人類の未来か。君はウィッチ至上主義じゃないだろう」

シュレイナ伯爵がウィッチ至上主義かどうかはわからないが、そう言った派閥と繋がっていると言う事実は無視できない。

少し悲しそうな顔をしたハルは消えそうな声で答えた。

「……ええ、分かっています」

 

「何をするつもりなんだ?」

 

「なにも、しませんよ。それよりも明日はひかりさんの見送りでしょう」

 

「……」

結局彼女の口から答えが聞けることはなかった。そして私の手の届かないところに行ってしまう彼女を助ける事も救う事ももう出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 ニーマントさんの運転する車で私は駅に向かっていた。

結局私は勝てなかった、ここにいる事が出来なかった。みんなと離れて、どこかその寂しさが急に込み上げてきた。

「ニーマントさんも部隊から離れてしまうんですよね?寂しくないんですか?」

 

「あまり寂しくないかな。一生の別れでもないし、軍にいると世間は狭いからね。ウィッチならまたどこかで会えるよ」

あっさりとした答えだった。どこか拍子抜けだったけど、でも言われてみればまたどこかで会える。そんな気がしていた。

「そういうものでしょうか?」

 

「空って意外と狭いからね」

 

どこまでも続く青空。でも明日にはこの空の下で奪還作戦が始まる。

「これは助言ですが、貴女の力は必ず必要になります。気を落とさないで、常に好機を見定めなさい」

 

「好機ですか?」

 

「まあ、自分の意思に従いなさい。おそらくそう遠くないはずよ」

どこか遠くを見つめる彼女の瞳には、別の景色が映っているように見えた。なにが見えているのだろうか?何を知っているのだろうか。

「わかりました。なんだか分かりませんけど……忘れないでおきます」

 

「ん、あと飴食べる?」

話題を変えるためか、私の目線に気づいたニーマントさんは小さな巾着袋を差し出してきた。

「ありがとうございます!あれ、二個?」

中から出てきた飴は二つだった。

「お姉さんにもよろしくね」

 

「それってどういう……」

 

「さあね、『世の中には知らない事が良い事もあるのよ』」

急にブリタニア語。いきなりすぎて聞き逃してしまった。

 

「さあ、駅に着いたわ。ここでお別れね」

気がつけばもう駅に着いていた。荷物のほとんどは前日に送ってしまったから持ち物といえばこの鞄一つだけ。それだけ持ってトラックを降りると、名残すら断ち切るようにトラックは動き出そうとしていた。

「そういえばニーマントさんはどちらにいかれるんですか?」

 

あの空よ(変えるべき場所)

ハルちゃんの三走目

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