ストライクウィッチーズRTA「駆け抜けた空」 作:ヒジキの木
彼女が運転する車が飛行場に着いたのは、作戦開始の二時間前だった。既に機体の点検と準備は終わっていた。例のものも積み込みは終わっている。準備は既に完了していた。
「来たわね、こっちよ」
その身長でどうやってトラックを運転していたのか疑問符が浮かぶけれど、ハルはそんなのどうでも良さそうにトラックから飛び降りてこちらに向かってきた。
「これは……」
「扶桑国の爆撃機よ」
一式陸上攻撃機と言ったかしら。変わった名前の爆撃機だけれど私の作戦に必要な積載量、航続距離、そして速度と運動性。それを加味して最適解を選んだつもりだったけれど不満かしら?まああと5年もすればこの機体すら必要なくなるかもしれないわね。
「さあ乗って、貴女の役目を果たしにいくわよ」
「随分と仰々しいね。悪目立ちしてるわ」
機体の周囲を警戒している私の兵を見ながらハルは不機嫌な顔になった。しょうがない。これはそれほどの価値がある。そのための兵器なのだ。
大きさの問題で爆弾倉に入らなかったから爆弾倉の扉を一部切り取って半埋め込め式に積載されたその小さなグライダーのようなもの。それこそ、私の研究の結晶だ。
中古で扶桑国から引き取った機体は重量を削減するために一切の武装を外していた。搭乗員も私とハル以外には護衛役も勤めるフリントだけ。
そしてハルの席はコクピットの後ろに設けられた席。航空無線を移動させ、空いたスペースに必要な機材を詰め込んだ専用の席だ。
固定された机の上にガラスで出来た半球が取り付けられた円筒の装置。半球の中では砂鉄が沈んでいた。
「これは何?」
「ネウロイの巣に対する切り札、操作はその半球に魔力を送って。起動したら片方の視界がジャックされるけど気にしないで」
片目側のみ視界をシンクロさせて誘導装置とする。今開発されている指令誘導式の対空無線誘導装置ではこうはいかない。
でもいずれは術式が完成すればその問題も解決するはずだ。
「誘導噴進弾……弾頭は?」
「あちらが用意している瘴気を吹き飛ばす砲弾も、コアを砕く魔術砲弾も必要がない。ネウロイからも狙われずコアを確実に破壊する…そう言ったものよ」
実際ネウロイにはこれが認知出来ていないのか実験では襲ってくることはなかった。
あの巣に向けて飛ばしても同じ結果が得られるはずだ。ただし、ネウロイの巣の中の構造、イレギュラーな存在、そして万が一ということがあれば一大事だ。だから彼女が必要だった。弾頭さえ無事ならやり直しが効く。
「問題は運搬方法、それとこれを巣の中まで連れて行く誘導よ」
推進機器はジェットストライカーのエンジンを使う事でなんとか解決した。だけれど未知の巣の中を中心部まで送り込めるそんな優秀な誘導が必要だった。
「欠陥が多いな」
「時間がなかったのよ、いずれはこれもリュックサイズに小さく出来るわ。そうなればこのような大掛かりな準備や仕掛けは必要ないわ」
しかし時間は私には味方をしてくれなかった。
「お嬢様、間も無く作戦開始の時間です」
副操縦士席から声をかけてきたフリントに軽く手で了解と送り、ハルを見た。
何を考えているのか、彼女の顔からは読み取れなかった。どこか悲しそうな、そんな表情だった。
操縦士席に座り、エンジンを起動させる。よく使っていた水冷エンジンとは違い、星形空冷エンジンのどこか軽そうな音が機内に響き出した。
機体が空に浮いた。同時に席に座っていたハルが怪訝な顔をし始めた。ああ、彼女にもようやく聞こえてきたのだろう。適性のないフリントは全く聞こえないようだけれど、やはり彼女とアレは親和性が比較的高いらしい。
「…声?いや、歌ってる?」
「ようやく気づいたのね、さっきからずっと聞こえているわよ」
私はアレに近づくだけで聞こえる。仕方がない、なにせ私が作り上げたものだから。
「何をしたんだ」
「知る必要はない」
副操縦士席から冷たい声がした。
「フリント、彼女が操作するのよ。そんな言い方はダメ」
「失礼しましたお嬢様」
「でも事実として貴女が知る必要はないけれど、いいわ教えてあげる」
機体はようやく安定した。自動操縦に切り替えて彼女に改めて対面する。
「私達ウィッチの魔法は大体が十代の合間に覚醒と最盛期を迎える。ここまでは良いわね?」
「ええ、問題ないわ」
ここまでは常識の範囲。稀に生涯魔法を使い続けることも出来るけれどそれは例外だ。
「同時に固有魔法は当人が魔法に覚醒すると現れるものだけど、精神や身体的特徴によって魔力が指紋のように個人差を生む」
それ故に一つとして同じ固有魔法は存在しない。魔眼のような似た効果をもたらす事はある場合はあるけれど魔法の発動原理や本来の用途ではないと言った細部の違いはある。
「なら、それを調整すれば自由に魔法を生み出す事も出来るんじゃないかしら?」
生まれた時から精神に至るまでを調整すれば、望んだ固有魔法が得られるのではないか。理論そのものは古くから存在するけれど、流石に人道的にも技術的にも難しいが故に行われることすらない。
「それは……理論上は可能かもしれない。だけどそれは人道的にも問題がある。それに出来たとしても精神的との結びつきが大きい魔法で行うには不確定要素が大きすぎる」
「何も人にする必要がないわ。いえ、確かに人でしょうけれど……」
人が生まれながらにして個人差が存在するのであれば、それを極力無くせば良い。
「どういうこと?」
「貴女もあったでしょう?リサ」
あの子を貴女は養子として認識しているでしょうけれど、あの子は私の傑作。ええ、あの理論が正しいということを証明した唯一の存在よ。
「何をしたの?」
気がつけばハルから殺気が流れ出ていた。機内の温度が急激に低下しているような錯覚さえ覚える。
「何をしたのという問いは正しくはないわ。あの子はね……」
あの子は私のクローンよ。科学的に生み出された存在ではなくて、半分は魔力で生み出された存在だけれど。
昔ならホムンクルスと言っていた存在ね。私の細胞を培養して生み出された存在。
それを聞いたハルは恐ろしく動揺していた。確かに初めて聞いたのならそういう反応をするわね。
「禁忌を犯したの⁈」
「人類勝利のためには必要なことよ」
そしてリサはあの誘導弾の中に収まっている。
あの子の固有魔法は反転。ネウロイや私たちが使う魔法…魔術の効果を反転させてしまう。魔術によって生まれた存在であるネウロイなら、存在を現世に維持する事は不可能となる。それを巣の真ん中で使えば存在そのものを抹消する事ができる。今はまだ固有魔法という枠でしかないけれど、いずれはこれを魔術刻印に落とし込んでしまえばいい。そうすれば弾丸一発でネウロイを葬る事だって可能だ。最早コアを破壊する必要もない。
「……自在に魔法を作れたとしても、そう簡単に一発で出来るはずがない。一体何人……」
「43人。殆ど魔法の制御が出来なくて死んだか脳に損傷を受けて植物状態よ」
ハルが身を乗り出した。同時に体が浮かび上がりそうになる。襟首を掴まれていた。
「貴女はッ!!」
「たった43人の犠牲で、人類50億人を救えるなら!」
「神になったつもりか!!命の天秤など……」
「他に道はないわ!!」
「私は誓ったのよ!全てのネウロイに鉄槌を下す。村の……ネウロイに殺された全ての人に!!」
動きが止まった。ハルの手から力が抜けた。
「私も第一ネウロイ大戦で両親も、兄弟も、使用人も、村の人たちも全て失ったわ」
思い出すのはあの小さな村。その一帯を治めていたのが私の家系だった。領主としての役目は当の昔になくなっていたけれど、それでも私の家は貴族に連なる家系としての誇りがあった。そして村の人たちもみんな良い人ばかりだった。
綺麗な小川があって、毎年良い魚が釣れたと川の近くの人が魚を分けてくれた。
「人口200人に満たない村だったけど、いい場所だった」
その場所はネウロイの最初の侵攻で全て消え去った。私は当時隣の町の女学校に下宿していたから難を逃れる事ができた。
村は避難する間もなく吹き飛ばされたのだ。
「全てを無くした私に残されたのは軍と、貴族の称号だけよ」
「これ以上私みたいな人を生み出したくないのよ」
黙ってしまったハルは項垂れながら誘導弾の操作席についた。
これ以上は話しても意味がないわね。
「お嬢様、今すぐ彼女を叩き出すべきです」
操縦席に戻るなりフリントが怒りを顕にした。私の計画に最初に賛同したのは貴女だったから、そこまで怒りを覚えるのもわからないことではない。けれど私達は禁忌を犯し生命を弄んでいる。その罪だけは忘れてはならないのよ。
「フリント、あの人は必ず答えるわ」
「ですが……あれの操作なら私でもできます」
「貴女は適性がないでしょう」
そこまで言ってようやく彼女は諦めた。
「わかりました……ですが不審な動きがあれば容赦はしません」
「構わないわ……もうすぐ戦闘地域よ」
黒いネウロイの巣の周りで爆発が立て続けに起こっていた。各国の戦闘機が入り乱れるように飛び交い、戦車砲や野砲の砲弾が地上を黒く染め上げている。その中をウィッチ達が飛び交いビームを弾き返さんとばかりにシールドを展開している。遠く離れているはずなのにも関わらず硝煙と土煙、肉の焼けた臭いが鼻をくすぐった。
「ただいま、
ハルちゃんの三走目
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