ストライクウィッチーズRTA「駆け抜けた空」 作:ヒジキの木
作戦開始時刻T+00:30:12
既に先鋒での戦いは始まっていた。
地上を進撃するネウロイを、ブリタニアのチャーチル重戦車の17ポンド砲が粉砕してく。その隙を縫ってカールスラント陸軍の長砲身Ⅳ号戦車が機動攻撃を敢行して仕留めきれなかったネウロイを片っ端から撃破していった。
中型以下のネウロイは対戦車砲の直撃に耐えることはできない。いくらビームを放とうとも数と機動力の差で蹂躙されていった。
当然ネウロイもそれを見越して大型の地上掃討型の個体を繰り出してくるが、前線観測を行っていた扶桑国陸軍の機動偵察隊による的確な座標指示で放たれた10センチ榴弾砲の餌食となっていった。
この戦闘のために前もって前線支援として展開していた扶桑国陸軍の遣欧第3軍第31砲兵隊、32砲兵隊の二個連隊の装備する重榴弾砲だった。
典型的な機甲戦力による戦闘。しかし本来主力となる地上歩兵はその戦闘に参加をしていなかった。
それらは攻勢のように見えて、その背後にいる施設工作部隊とそれらが最前線で命をすりつぶして建設した列車砲用の軌道線を死守していた。
各国からかき集めた機甲戦力、野砲による攻撃で地上が膠着状態に陥ったと見るや否やネウロイは航空戦力を送り出してきた。
当然対抗するために連合軍も航空戦力を投入し制空権の奪い合いが生じていた。
ウィッチ部隊がネウロイの集団を掻き回し、バラけたところを各国様々に集められた戦闘機部隊が撃破していく。そしてそれらが空けた空の空白を縫うように地上攻撃機が爆弾やロケット砲を放ち地上のネウロイを掃討していく。
中にはビームの直撃で消失したり爆風で吹き飛ばされ、横転する戦車が現れるが、戦場は予定通り膠着していた。
その光景を見ていたクルピンスキーは内心歯痒い思いが溢れ出ていた。
彼女ら502に当てられた任務は制空権の確保でも、敵中枢への攻撃でもない。決戦兵器の護衛だった。
彼女が後ろを振り返れば、複線に敷かれたレールをめいっぱい使い走る巨体が見えた。その巨体は本体後方にそれぞれ4両、合計8両のディーゼル機関車を連結し、押される形で移動していた。
うち一両は塗装が間に合わなかったのか錆止め塗料の淡い赤色のままだ。
後方から来る2両の80センチ列車砲。戦場では異常に目立つ巨体だ。それがノロノロと射撃地点に向けて進んでいく。その巨大な重量を支える軌道は戦場での臨時の敷設とあって規格が低く、速度を上げすぎると軌道を破壊してしまう恐れがあった。
「急いでくれよ。このままだと保たないよ」
「クルピンスキーさん、いくら焦っても仕方がありませんよ」
アレクサンドラ・I・ポクルイーシキン大尉の言葉に彼女は苦笑いをした。
こうしている合間にも戦場は過酷さを増していく。その中で最も個人戦闘力が高い存在が暇を持て余すというのは彼女からすれば辛いものだった。
この二門の列車砲を護衛するにあたってラル中佐は二段階の防御陣を組んでいた。まず列車砲の手前2km地点に設定された最初の防衛ライン。ここを新たに502に配属となった雁淵孝美が率いる4名で防護。その防衛ラインを突破された場合にラル中佐が率いる残りの人員で列車砲を防衛するのだった。
今の所それは順調に行われていた。多くは雁淵孝美の活躍によって列車砲への攻撃は防がれていた。
既にネウロイ側は巣を三方向から同時に攻められている。列車砲を最も大きく脅威度が高いと判断していたとしても戦力を思うように振り向けきれていない様子だった。
それでも一機、二機。ネウロイの大規模な部隊に紛れ込んだ高速飛行をするネウロイが強引に防衛ラインを突破してきた。
それらはクルピンスキーの射撃で撃ち落とされ、列車砲にはいまだに攻撃は届いていなかった。
それ故にクルピンスキーは少し手余気味になっておりもどかしさが生まれていた。
列車砲が予定地点に到着したのか動きを止めた。ここまで列車砲を押してきた機関車は連結されたまま、運転席から降りてきた鉄道連隊の兵士たちが一斉に線路脇の防空壕へ退避していった。
機関車はそのままその有り余る出力を持つ動力源を発電機に変貌させ列車砲を動かすための電力を生み出していった。
設計時からの大きな変更で二台の列車砲は極力無人化、遠隔操作が可能なように改造されていた。
あらかじめ砲室に装填された状態になっている砲部分がすぐそばの盛り土と塹壕に設置された複数の射撃指揮所からの諸元に合わせてネウロイの巣へ向けて動き出した。
それでも総重量で1300トン規模に及ぶ砲が目標を捕捉するのには1分近くが必要だった。
その間もネウロイの攻撃は止まらなかった。むしろ巣が狙われていることに気づいたネウロイ側は攻撃の手を強めた。
「まずい!迎撃し損ねた!」
クルピンスキーの迎撃をすり抜けたネウロイがビームを放つ。
咄嗟にラル中佐がカバーに入り射線を逸らすことに成功するが列車砲のすぐそばで爆発が起こりその巨体が大きく揺れる。
「うしろは任せてくれ」
「隊長、ありがとうございます」
反撃の烽はその直後に放たれた。
周囲の空気を震わせ、衝撃波で近くの雪を吹き飛ばしながら列車砲が発砲した。
大気を震わせながら飛んでいく特殊砲弾である爆風弾はネウロイの巣の周りに展開している霧の中に飛び込んだところで時限信管を作動させた。
雁淵孝美はこの時すでにネウロイのコアを特定するために巣に接近していた。追撃に出てくる敵ネウロイを菅野と共に撃退しつつの接近であるためそう簡単にはいかないが、それでも少しづつ近づいてはいた。
そんな彼女の目の前で黒い瘴気の雲が吹き飛ばされた。事前偵察の写真通りの姿が現れる。
「ようやく魔眼が使えるわ、援護をお願いしますね」
「まかせろ!お前には指一本触れさせやしねえ」
それにしても…とてつもない大きさね。
大きさとしては世界最大の戦艦大和を三隻ほど並べてもまだ大きいくらいだ。まさしく要塞、あるいは飛行都市と言っても過言ではない。
神話に描かれるバベルの塔を空に浮かべるとしたらこのような形になるのではないか。
迫り来るネウロイを菅野が撃墜して回っている僅かな合間に孝美は魔眼を発動した。
(コアの位置さえわかれば問題ないはずだ。これほどの巨体ならコアも相当な大きさを持つはず……)
魔眼が巨大なネウロイの巣のコアを赤く示した。
「見つけました!」
孝美の情報は直接ドーラの射撃指揮を行う指揮所に送られていた。
いくつもの機械式計算機が歯車を回しドーラの砲弾を示された位置に送り込むための諸元が計算されていく。それは位置だけでなく風向、気温、湿度、地球の自転までもを含めた大規模な計算になる。しかしそれらを数秒で終わらせた計算機から算出された諸元は方位盤に送られていった。その情報を元に砲術長がドーラから伸びた電線が接続された機械を操作しドーラを操っていく。僅か30秒の短い時間で全ての準備は整った。
「射撃準備完了、いつでもどうぞ」
だが順調だったのはそこまでだった。指揮官が射撃の号令を下そうとしたところで、テントの外にいた対空見張り員の叫び声が聞こえた。
「ネウロイ急速接近!」
「総員伏せろ!」
接近してきたのは連合軍の呼称で「ディアボルセヴォランティス」と呼ばれる大型ネウロイだった。地上攻撃が得意な個体でこの戦争の初期の頃から飛んでいる存在だった。
大型ネウロイがビームの嵐を降らせた。瞬く間に防衛ラインが攻撃を防ぐことに手一杯になり処理能力が飽和した。
その合間を縫って高速飛行型の槍のようなネウロイが防衛ラインの内側に飛び込んできた。
「まずい!ネウロイがくる!」
「隊長、前に出ます!」
最後の防衛を行うクルピンスキーはアレクサンドラと共に前に出た。
相手は高速型。旋回性能は悪いが速度が速く追いかけるのは難しい。
「チャンスは一度きりみたいだね」
「そうね、いくわよ!」
正面からのヘッドオン。2人の持つ重火器が火を吹いた。
正面でいくつもの爆発が起こるが、その数は侵入してきた数よりも少なかった。
2人のすぐ脇を迎撃を逃れた一体が通過して行った。
損傷して胴体を剥離させながらもそのネウロイは魔導弾を撃とうとするドーラに向けて最後の射撃を行った。咄嗟に合間にラル中佐が入ったが距離が近すぎた。
防ぎきれなかった。シールドで弾かれたビームが四方に四散するが、その太い流れの一つが砲身を直撃した。
融解した鉄と、重粒子の反応によって生まれた水素と酸素がビーム本体が持つ熱によって着火し爆発を引き起こした。
「ドーラ被弾!」
その報告はすぐさま前線司令部に届けられる。
「損害報告!」
指揮官が報告を催促する頃には、すでにドーラでは砲兵達が存在を把握していた。
「砲身が損傷、撃てません!」
「砲弾は無事か⁈」
「砲座基部は無事です。砲弾も誘爆してはいません。ですが……」
すでにドーラは鉄屑と判断されていた。
「グスタフで撃つ!装填を急がせろ」
被弾したドーラの後方にいたグスタフは予備の魔導徹甲弾の装填作業にかかっていた。だが80センチ砲弾を装填するのは簡単ではない。予備弾を載せた専用の砲弾輸送車が横付けされ、列車砲後部のデリックで吊り上げを行い装填するのだ。すでに作業を開始したと言っても次弾発射までは20分がかかる。
「こんな時に……」
ドーラの側に降りてきた孝美とクルピンスキーの頭上を戦闘機より大きな影が通り抜けていった。
作戦開始時刻T+00:33:12
「間も無く投下地点」
戦闘空域はだいぶネウロイの巣の近くなのか、重量物を運搬する陸攻は運良くネウロイの巣から40kmの地点まで接近していた。
後ろの席にいるハルは大人しく装置の電源を入れ始めた。
半球のガラス内に収められた砂鉄が浮かび上がり、周囲の景色を立体的に映し出していく。システムは正常に作動しているようだ。
こちらも準備をしなければならない。投下装置の電源を入れて準備に入る。
列車砲の砲撃がネウロイの巣にまとわりつく黒い影を吹き飛ばしたタイミングが切り札を放つタイミングでもある。
もう一門の列車砲がネウロイの巣を破壊する前に、私達の兵器が有用であることを示すのだ。これは私のネウロイへの復讐の一手。他の誰にも邪魔はさせない。ネウロイを滅ぼし、人類を救済するのはウィッチでなければならない。
その時、私は人類から怖れられるだろう。でも構わない。私1人が畏れられ排斥される、それで他のウィッチが無事なら私は喜んで地獄に行こう。
しかし現実はそう簡単にはいかなかった。
戦場に近づいたことで陸攻の周りにもネウロイが集まっていた。
フリントが操縦桿を大きく横に倒した。
「回避!」
右の翼の先をビームが通過する。ビーム中心は空気をプラズマ化させるほどの熱量を持っている。熱として放出されるエネルギーで、陸攻の翼端の塗装は焦げ付き、超々ジュラルミンが融解していく。
「翼端が溶けた!」
「燃料漏れは?」
「確認できず!」
「なら大丈夫よ」
多少翼が溶けたところでこの機体は落ちはしない。
地上で大きな爆発が発生した。
相変わらず後ろからの攻撃は続いていた。
「列車砲が被弾した模様。魔導弾は発砲されていません」
魔導徹甲弾。コンセプト自体はこちらのものと似たようなものではある。けれどその製造方法は一個中隊規模の陸戦ウィッチから魔力をかき集め、それを砲弾の核としてコアまで届かせ、コアに達したところで内部の爆縮レンズを使用した魔導共鳴によりコアそのものを共振破壊するものだ。
製造コストもさる事ながらその運用方法も相当な労力を必要とする。
言ってしまえば失敗作のようなものだ。平時なら却下されるのが目に見えている。それが採用されたのは単に戦争という極限状態だったからだろう。
いやそれを言ってしまえば私達も変わらない。
「もう一台の方で撃つつもりのようですが……」
「装填には時間がかかるはずよ。攻撃するわ」
あれほど巨大な列車砲だ。装填にも相当な時間がかかるはず。やるなら今しかない。
操縦をフリントが替わり、ネウロイの巣に機首を向ける。
「今よ。投下!」
機体が上に浮き上がった。重たい物体が切り離された証拠だった。
その数秒後に、白煙をあげて機体の下からソレは飛び出した。
「……頼んだわよ」
「絶対に諦めないわ!だって……ひかりならこうするはずだから!」
薬室から引き抜かれた砲弾はそれ単体でも5トンを超える重量を持っていた。それを孝美はネウロイの巣の上に持ち運ぼうとしていた。
ドーラによる攻撃が不可能となった今、巣に攻撃が可能なのは自分達しかない。そして妹なら絶対にこうするはずだった。それがどんなに無謀だったとしてもしてもだ。
「あのなあ……1人で出来るわけないだろ」
その妹の思想に当てられていたのは姉だけではなかった。
「菅野さん!」
「そうそう、それに全員でやればなんとかできそうだし」
「守るよりそろそろ攻めたい気分だったからね、丁度いいや」
502の全員が気付けば集まっていた。けれどネウロイがそれを見逃すはずはなかった。
最初に異変に気づいたのはラル中佐だった。
「まずい!攻撃がくるぞ!」
最も早くそれに対応できたのはジョセだった。だが展開しようとした本人だけは気づいていた。コンマ1秒、シールドの展開が間に合わない。
既にネウロイの放ったビームが迫っていた。
その射線上に黒い物体が突っ込んできた。
80センチ列車砲ドーラ/グスタフ
開発/運用国
帝政カールスラント
運用部隊
カールスラント陸軍第672重砲兵隊
諸元
重量1,350t 全長47.3m 全幅7.1m 全高11.6m
銃身長
32.48m 40.6口径
口径800mm
最大仰角48°
発射速度
1発/30〜45分
1日最大14発
初速
820 m/s (榴弾) 720 m/s (徹甲弾)
最大射程
48 km (H榴弾)、38 km (徹甲弾)
要員数
砲操作:約1,400人
支援要員:4,000人以上
帝政カールスラントがネウロイの巣を破壊するために製造した巨大列車砲。
その計画は第二次ネウロイ大戦勃発直前に遡る。第一次ネウロイ大戦で活躍した列車砲だったが、その運用は地上掃討が基本であった。カールスラント陸軍は列車砲の持つ強大な破壊、航空機と違い天候に左右されず航空機よりも正確に火力を送り込める能力をネウロイの巣の攻略に利用できるのではと考えた。
元は列車砲の研究用に用意されたペーパープランであったが、ネウロイとの戦争が開始されるとこのペーパープランはどういうわけか実行に移された。
本土喪失に伴う工場移転によりドーラとグスタフが完成したのは1944年にまでずれ込んだが、製造の段階で遠隔操作が可能なように改造が施されグリゴーリ攻略戦の際には再装填以外の操作は遠隔で行うことが可能となっていた。
あまりにも巨大な大きさのため長距離での輸送では他の列車砲のように線路を走らせることができず分解して運搬、戦場近くで組み立てられる。
本車両の運用には走行用の二つの線路の他に砲弾を運搬するための貨物列車が走る路線。それらを跨ぐ形で列車砲そのものを組み上げるための大型クレーンが走るための一本軌条線路を含めた八本のレールが必要となる。
運用するのに一ヶ月の時間と師団規模の人員が必要であり、これ以降列車砲が作られる事は無くなった。
ハルちゃんの三走目
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ストパン2期
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