ストライクウィッチーズRTA「駆け抜けた空」   作:ヒジキの木

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 飛行は順調に見えた。パルスジェットエンジンは正常に動作して、小さな誘導弾本体を進ませていた。後ろの席で目を瞑り、操作に専念している彼女もそれに応えようとしていた。

フリントが再び機体を振った。今度は驚くほど機敏に機体は反応した。

 

やはり相当な重しになっていたのだろう。余計なものが一切なくなった陸攻はここまで軽々と飛べるものなのか。

 

コクピットの窓からはネウロイの巣がよく見えた。それは黒い瘴気がなくなってもなお、基地としての機能を放棄せずにそこで使命を果たしていた。

ネウロイが基地に向けて放たれた誘導弾に対して興味を持っているような動きをしていた。近づきつつも攻撃をしない、まるで自ら巣に誘導しようとするかのようだった。

それに気づいたのか、そうじゃないのかはわからない。誘導弾は突然急降下して行った。

 

 

 

 

 

一時的にとはいっても、脳に映像が流れてくる感覚は慣れるものではなかった。

頭の中を弄られる不快感としか言い表せない感覚。それはハルも人間であるから変わらない。

けれどハルには流れてくる映像とは別にもう1人の存在を確かに感じ取っていた。

 

誘導弾から見える景色の端で、別の存在が体を重ねてくるような感覚があった。

 

「ねえ、ハルさん」

声が下から聞こえた。視線を一瞬下に落とすと、破壊された列車砲から砲弾を持ち出そうとするラル中佐達の姿が見えた。

気づいたのはハルと彼女だけだった。

 

高速で飛行する小型のネウロイは目視でも見つけるのは難しいものだからだ。

「……リサ」

リサの姿を最後に見たのはいつだっただろうか。ハルは前に孤児院に立ち寄った時のことを思い出そうとしていたが、簡単にはできなかった。

「ごめんなさい」

リサは申し訳なさそうな、寂しそうな顔をしていた。

考えていることは同じだった。リサとて阿呆ではない。自らが背負わされた役割も、その結果生まれるであろう未来も想像がついていた。

それが嫌で、しかし彼女は犬死すると言うのも嫌であった。

「謝る必要はないわ。貴女がそれをしたいのでしょう?」

 

「うん……でも、」

 

「子供の願いを叶えてあげるのが大人の役目よ」

 

「ハルさんも子供じゃ…」

 

「年上だからいいの」

さあ、行きましょう。

死の理由を見つけることができた少女はどこか安堵したような気配がしていた。

 

 

 

列車砲に向かって進んでいたビームとロケットの進路が交差するのに気づいたのは隊長のラルだけだった。

しかし既に距離が近すぎて有効な手立ては爆風や破片を防ぐ程度のシールドを展開する事だけだった。

 

ロケットとビームが接触した直後、ロケット本体から一瞬だけシールドが発生した。防がれたビームは拡散せずに真反対に収束するように飛んでいき、ビームを放ったネウロイを消し飛ばした。

しかし熱量は防ぐことは出来ず、ロケットの弾頭と中段の燃料タンクは表面の薄いジュラルミンを融解させて爆発した。

残った後部のロケット本体は爆風で吹き飛ばされながらも地面に衝突して大半を砕け散らせた。遅れて残っていた僅かな燃料が誘爆を起こし、火の玉になってあたりに散らばった。

 

「今のは⁈」

 

「わからない。だが今のうちだ、いくぞ雁淵!」

 

 

 

 

 

全てが終わった時、機内は静かになっていた。その静寂を切り裂いたのはフリントの叫び声だった。

「貴様ァ!!」

フリントが銃を構えた時には、ハルも腰に装備したホルスターから銃を引き抜いていた。

動きが遅れていたらフリントは躊躇なく引き金を引いていただろう。

「リサが、そして私が下した答えだ!」

 

「何をしたかわかっているのか!!」

 

「わかっているさ!!」

 

ハルの怒気に気圧された。フリントの表情が固くなる。

私はどんな表情をしているのだろうか、悲壮感に打ちひしがれているのだろうか。コクピットのガラスに映った表情は、どこか安堵しかけているような、そんな表情だった。

 

どうしてなのだろうか、私は……倒すのを望んでいたんじゃないのだろうか?

「なんてことを……」

 

「伯爵、分かっているだろう。ネウロイをアレで倒した先のことくらい」

 

その先にある未来、分かっている。人類はそう簡単に割り切れることも分かり合える事もない。

「分かって……いるわよ。でも他に手段なんかないのよ!!」

 

私の復讐は、どうすればよかったのよ!

 

「空を飛べる貴女が羨ましいわ」

空を私が飛べれば、彼女のように鬼神となれたのだろうか。そうすれば私は外道に身を落とす事なくネウロイと戦い続けられたのだろうか。

 

「私は……私には、冒険に憧れるあの子の方が羨ましかった。戦いの中でしか生きられない私と違って、彼女は戦いの外で生きていてほしかった」

 

ああきっと、私もそれを望んでいたのかもしれない。

 

「もう終わりにするんだ」

 

床がずれたような衝撃があった。窓の外を赤い光が通過していく。

 

 

「ネウロイだ!」

どっちの声だったか、あるいは私だったのか。いずれにしてもネウロイの姿を私達が確認することは出来なかった。

爆撃機の窓だけでは死角が大きすぎるのだ。

「クソ!」

 

フリントが慌てて操縦桿を引いた。けれど間に合わなかった。

 

爆発と閃光。私の体が機体後方に吹き飛ばされた。ハルも吹き飛ばされていた。

 

振り返るとコックピットが粉砕されていた。フリントが機体の外に放り出されたのが見張り窓から見えた。

 

エンジンが火を吹いている。機体を立て直さないといけない。

 

半壊したコクピットにたどり着いた時には機体が急降下を始めていた。

操縦桿をめいいっぱい引っ張った。

同時に燃えていない方のエンジンをフルスロットルにする。だけれど操縦桿は全く動かない。

「操縦桿が動かない!」

 

隣に来ていたハルがエンジンのレバーをいくつか操作していたが、絶望的な表情を浮かべていた。

「エンジンもダメだ!」

 

操縦が全く出来なくなった。

再び衝撃が走った。今度は右の翼が吹き飛ばされた。

危ういバランスを保っていた機体が大きく振り回された。悲鳴と怒号が響いた。

 

脱出しようにもすでに機体が振り回されてしまい体は壁に床に押し付けられてしまう。

 

一瞬見える外の景色は地面一色になっていた。

 

衝撃が体を突き抜けて、痛みを感じる前に私の意識は暗転した。

 

ハルちゃんの三走目

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