ストライクウィッチーズRTA「駆け抜けた空」 作:ヒジキの木
コアの破壊は失敗した。
コアを破壊するはずだった砲弾を受けても無線から流れてくる音は、状況が変わらない事を伝え続けていた。
ノイズ混じりの無線から聞こえてきたのは二重のコアという単語だった。
前例はあった。しかし巣がそのような構造になっているとは想定していなかった。巣のような巨大なやつになればなるほどコアよりもその外周に備えた防衛機構でどうにかするのがネウロイだったからだ。コアに細工をする個体はどれも小型なものばかりだ。
能力をコアの複雑化に持っていかれているからだって研究者は言っていた。
多分それは間違っていないのだろう。けれどネウロイも進化していると言う事だった。
本当のコア、それを見つけ出さないといけないけれどお姉ちゃんならこう言う時、絶対にアレをする。空母蒼龍を守った時と同じだ。
だから私が止めに行かないと!
ここから戦場まではそう遠くない。走れば間に合う。
咄嗟に列車から飛び出した。魔力を使って衝撃を緩和しつつ、戦場の方向へ駆け出した。
魔力制御もここに来た時よりもだいぶ上手くなった。常人じゃ走れないほどの速さを引き出して、森を駆けていくと、硝煙といろんなものが焼ける火事のような匂いが漂ってきた。
「墜落機?」
一瞬視界が開けて、激しく燃える金属の塊が出てきた。
木々が薙ぎ倒され、ガソリンが燃えている匂いが立ち込めていた。
燃えているのは飛行機の翼とエンジンだった。
胴体は引きちぎれて三つに分かれて散乱していた。
その中に動く影があった。
近づいてみると、それはジークさんだった。
誰かを瓦礫から引き出そうとしている。その彼女からも血の匂いがした。
「ジークさん!」
駆け寄ってみると、墜落のせいか彼女はかなりボロボロだった。
彼女が引き出そうとしているのは瓦礫の中にいる誰かの姿だった。
「ひかりか。早く行け」
助けが必要な状態なのは明らかなのに、ジークさんの声は落ち着いていた。
「でもその人は……」
助けなければいけない。だけれど、時間がないのも事実で、どうすればいいのか迷ってしまった。
「ここは私がどうにかする、やらなければならない事があるのだろう?」
列車に乗って戦場から離れているはずだった私がここにいる事がどういう事なのか、ジークさんは察していた様子だった。
それでも、目の前の命を放っておくなんて選択がはいそうですかと取れるはずもなかった。
「そうですけど……でも」
「この戦争で、いったい何人の人間が命を落としたと思う?」
ジークさんの瞳は、何の光も反射しない空虚なものだった。
「唐突、ですね」
「戦争の死神は唐突だからね。だから…そんな理不尽をこれ以上増やさないためにも君はいくんだ。復讐に囚われた者じゃ、戦いは終わらせられない」
それがどういう意味なのか、私には分からない。復讐に駆られて動く人は見た事があっても私自身はそうなった事がないから。でも、ジークさんの言いたい事はわかる。命の選択、戦場に立ったらいつかしなければならないそれを今ここでしろと言う事だ。
「わ、わかりました……ですけど、絶対にその人は助けてくださいね!」
だから、私はお姉ちゃんと、仲間を選択した。
「まかせろ。さあ行け!」
弾かれたように脚が動いた。
私が向かうべき場所はもうすぐのはずだった。
誰かの足音が去ってからどれほど経っただろうか。痛みはとっくに消え去った。一番の重傷だったであろう左腕の感覚は消えていた。
墜落する直前、私は考えるより先にハルを抱き抱えていた。直後に衝撃が走って、彼女は腕の中から消えていったけれど、運良く機体から放り出されたらしい。残骸に潰されてでも助けた甲斐があったというものだ。
「かっこいい事……言いますの、ね…」
少しだけ瓦礫が動いて、上半身が光を浴びた。頭を動かせるようになったので左腕を見てみると、既に左腕は手遅れだった。
骨だけで繋がっている状態で、筋肉や皮膚、血管が全て剥き出しで引き裂かれていた。
意識は半分ほど無かったけれど、それでも無意識のうちに施していた応急処置の魔法が使えてなかったら今頃は大量出血で死んでいただろう。
それは彼女も一緒のようだった。腹部が赤く染まっていた。破片が突き刺さったままだ。応急処置こそ終えているようだけれど、その傷は決して浅くはないはずだ。
「喋らないで」
ハルと目線が合った。何を考えているのか分からない瞳には、何も映っていないようだった。
「もう良いのですよ」
彼女自身も深く傷ついている。それでも瓦礫に別の瓦礫を差し込んで隙間を作ろうとしていた。
「貴女が死んだら、生み出した者の生き残りは誰が面倒を見るんだ?」
その言葉は私の心を抉るようだった。
「少なくとも里親を見つけるくらいはしてもらわないと、責任を取れ」
「そう……貴女に頼もうと思っていたのだけれど」
あるいは私の復讐を継ぐ誰か。最もそれに近いのは皮肉にも貴方なのだけれどね。
「私は無理だ。もう今更普通の生活はできないよ」
貴女も私と同じでしょう?今更普通の生活なんて戻れないわ。でも、私が生み出したものの責任は取らなければない。私は負けたのだから。
不意に体にかかっていた重圧が消えた。
まだ無事な方の腕で体を支えれば、いとも簡単に体は瓦礫から抜けた。
同時にハルも力尽きたのか、地面に倒れ込んだ。
服に血の赤黒いシミが広がっていくのが見えた。咄嗟に私は治癒魔法で止血を行ったものの、だいぶ血を流したのか彼女の顔は青白くなっていた。それは私も同じなのだろう。引きちぎれかけて垂れ下がるばかりの片腕はもう元には戻らない。失った血も相当なはずだ。
結局こんなに代償を払って、得られた答えはこれだったのか。空に再び舞い上がったいくつもの白い飛行機雲とネウロイの巣の攻防が遥か遠くに思えた。
「……私は間違っていたのかしら?」
「その答えはもう出ているのでしょう?」
「……ええ、でもウィッチによる合理的な戦いが出来ていればと考えられずにはいられないのよ」
そうだ。初動で動きが遅い軍全体より、ウィッチが先行していれば最初期の被害は最低限で済んだはずだ。
そうすれば私の家族も助かったかもしれない。
命令違反をしてまで先行したウィッチ達が人を助けていたのだから……そう思わずにはいられない。
「合理的判断なんてその時の妥協の産物。未来における正解とは限らない。結局人とウィッチは共存する事でしか生き延びることは出来ないのよ。だから戦いでもどちらも等しく傷つき、等しく勝利する必要があるの」
どちらかが主導で勝利する。それを貴女は認めないのね。
「ここで主義の是非を問うのはやめるわ」
私はこの道が正しいと思って進んだ。貴女は貴女の正しいと思う道を進んだ。それだけ。
「貴女はどうするの?」
全ての手札を失った私と違い彼女にはまだ希望があるはずだ。
「私は……約束しているんだ。生き延びるってね」
突然ハルは激しくむせ返った。
傷が原因かと思ったけれど、それにしては様子がおかしい。体を問診していくと内臓は傷以外の要因でボロボロになっていた。今ついた傷じゃ無い。もっと昔からの、蓄積だ。
「思った以上にボロボロね」
ここまでして彼女が戦う覚悟があるのなら、彼女に賭けてみるのも良いかもしれない。私の
魔法というのは奇跡を起こすための万能の願望機。アガリを迎えて減少したとは言え私はこれでも元医療ウィッチ所属だ。
「私の固有魔法は、治癒なのよ……」
想像以上にひどいダメージだけれど、全ての魔力を注ぎ込めば……彼女を全快にくらいはできる。
緑色の光が一瞬だけ手から出た。魔法が空気中のエーテルと反応して光ったのだ。そしてそれは彼女の治療の終わり、ウィッチとしての私の終わりでもある。
「もう大丈夫よ」
「だけど貴女の魔法は……」
「良いのよ。もう私に魔法はいらない」
力を使いすぎて視界がぼやけてきた。だんだんと声が遠くなって頭に霞がかかってくる。
それからの事は覚えていない。意識を再び取り戻した時にはフリントに抱き抱えられて森を抜けている最中だった。
飛行機から放り投げ出された後木に引っかかって気絶していた彼女が駆けつけてきた時にはハルの姿はあの墜落現場には無かったらしい。
そしてネウロイの巣の撃破もその頃には終わっていた。
作戦は終わった。多大な犠牲を払って、欧州は少しづつ解放されていく。
ハルちゃんの三走目
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