むかーし、むかし。
あるお貴族様のお屋敷にて、とても可憐なお姫様がおりました。
彼女は仏様が結んでくださったとしか思えぬような大恋愛の末、一人の男の子を授かります。
しかし、その子は彼女の豪運に反して、常に暗い影が手をかけているか細い寿命の持ち主でした。
彼女とその旦那様は西へ東へ駆けずり回り、黄泉の番人すらないて逃げ帰ると有名なお医者様を連れ帰ることができました。
お医者様は様々に不思議な薬を作ることで有名な方でした。
そんなお医者様の秘中の秘、死なずの薬は鮮やかな青い彼岸花、赤鬼の肝、龍の逆鱗、仏様の産毛、土に暮らす鳥の出汁骨と見ていてワクワクする材料でできていました。
当然集めてくるのは至難の技。ですが、お姫様と旦那様は大冒険の末に全ての材料を揃え、お医者様は感動のあまり涙を流しました。
それからそれから、紆余曲折ありましたが、彼女とその旦那様、そしてその男の子は健やかなままに育ち、長い間楽しく、笑いながら過ごしましたとさ。
終わらない。
〜〜〜
「やはり、適度な火炙りが一番いいと思うんだ」
「何を言っているんだお前は」
油壺を両手に抱えてフラフラ近寄ってくる産屋敷に対して、うろんげな目線をやるワカメヘッドこと鬼舞辻無惨さま。
側から見てると、危なっかしい。
せっかくの晴れの日だ。学術書以外の本でも読もうと思った矢先のことではあった。
心地よい日差しと、ワカメを揺らす春風。かさかさと擽るような落ち葉と木の葉の重なりをBGMに、最近巷で話題の小説でもという気分であった。
「だというのに、なぜ油壺なんていう鼻につくものを持ってきているのだ貴様は」
爽やかな気分、台無しである。
油臭い。爽やかな気持ちが台無しである。
「いや、最近は包丁で刺したり、刀で切ったりと若干マンネリだったからね。初心に帰って細胞の一片すら残さず燃やすってのに再挑戦してみようかなとね」
「包丁の時も刀の時も、以前やって無駄だったからと止めたがな。大体、工夫もなくただ燃やすなど何の意味もないだろう」
危ないから油を持って帰れ、気狂いめ。
と、言いかけた無惨だったが、謎の浮遊感の後に全身に油がかけられ、抗議するまもなく火をかけられた。
「何を考えてるんだ貴様はぁ!」
「あー、やはり、衝撃波で火も油も消し飛ばせてしまうね」
「あーではないわ!だいたい、この落とし穴はいつ作った!」
「炭十郎が一晩で掘ってくれたよ。さすがだよね」
「あの化け物は何をしているんだ……。ともかく!無駄な拷問はやめろ。不愉快だ」
ニコニコとしたままの産屋敷。
「返事はどうしたァ!」
「いや、ほら、ね?」
「ね、じゃないわこの気狂いがァ!」
「そんなこと言ったら、殺し方については大体試したからやりようがないんじゃないかい?それなら君を痛めつけることで、仏様からのお慈悲を願ったほうがいい気がしてね。産屋敷センスが囁いているんだよ」
「で、本音は?」
「君の反応、実はとっても面白いん」
スパーンとのびた右手が産屋敷の頭を叩いた。
それに対して、ショックを受けたような表情をとるが、無惨の方は冷たい目で見てるだけ。
「ひ、ひどい」
「何がだ。言ってみろ」
「炭十郎!僕に張り手が行く前に、君なら無惨を粉微塵にできたじゃないか!ひどい!」
「そっちかァ!」
今度は先ほどよりも強めに、コブができるぐらいの威力で叩こうとした。
が
「……」
「……」
「すごいね、さすが炭十郎づぁ!?」
すぐさま切り飛ばされたので、最初と同じ威力で叩くことにとどめた。
それを見て満足したのか、いつの間にか目の前に現れていた痩身の男性は、影法師が溶けていくように目の前からいなくなった。
「お前、あんな化け物、どこで拾ってきたのだ?」
「裏山から」
「返してきなさい。勝手に生き物を拾ってくるんじゃぁない」
「ちゃんと(隠が)面倒を見るし、週に2日は休みもあげて、薬師の手配と息子と娘のための学校の手配までしているから大丈夫さ」
「ちっ、しね」
「言われなくとも、儚い命さ」
わずかな皮肉のこもった回答に、苦虫を潰したような顔をする無惨。
舌打ちをもう一度すると、今日が削がれたと呟いて、スタスタとそのまま着替えを取りに角へと消えていった。
「あ、忘れてたけど、むざーんやーい」
「うるさい」
「今日は甘露寺さんがきて」
きゃー
ああああああああああァァアアアアアアアアアアアアアアアア
絹を裂くような声がした後、凄まじい勢いで産屋敷の横を通り過ぎて(あるいは、吹き飛んでいく)無惨。
「さすがにこれは予想できなかったな……」
ポツリとこぼすと、全裸の男性を見てダメージを負っているだろう甘露寺をフォローすべく、とてとてと声の聞こえたところまでかけて行ったのだった。
ちなみに無惨は壁に埋まったまま、五分ぐらい気絶していた。
全然描けなくなってる。やばい。がんばろ。