練習している絵よりは楽……?
とりあえず、エタらずに頑張ろう
さて、万難を廃し、あらゆる病魔を払う薬師の薬を手に入れたご夫妻。
大事な一人息子はそうして健康なお体を手に入れられましたが、さてさて、ご夫婦共々おひとつ大事なことをお忘れになっておられました。
それは、薬の対価であります。
頑強なお体、人の身を外れた膂力、千切れた手足すら繋がる血に溶けた薬効。
薬師は薬の対価をお求めになりませんでした。
ただ、完成した薬の処方と、効能をのみ記し、霞と消えて行ったのです。
喜びのあまり、ご夫婦はそのことに考えもいかず、ただただ息子を死から遠ざけんと、涙と共にまだ幼き息子へとそのお薬を飲ませてあげましたとさ。
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「何をしている、桜餅頭」
「……え!?私!?今の私に!?」
素っ頓狂な声をあげた、まさに桜餅の具現のような髪をした女性。名前を甘露寺蜜璃。
産屋敷が雇った護衛部隊の一人にして、入隊理由を聞いたらたいていの人が「ええー…」といわれてしまう彼女だが、不意の反応だったり、ちょっとした所作には育ちの良さや性根の明るさが見て取れる。
今も無惨に急に(失礼な感じの)声をかけられ、ワタワタ右に左に右往左往しており、まさか自分ではあるまいよとでも言いたげな様相で他の人間を探している。
「あれ?それを言ったら、無惨様もワカメあたま”っあ”」
「黙れ。普通に不敬だぞ」
一応、無惨様はこれでも雇用主の産屋敷の親族筆頭である。
わりかし加減なしのハタキで、彼女の頭にペシんと一撃を与える。
常人ならばそのままゴロゴロ頭を抱えて転がってもいいほどの衝撃だが、無駄に頑丈な彼女はこれでようやく「いだっ!」というぐらいのダメージにしかならないようで。
不承不承の表情で、いててと頭をさする様子にはあまり反省の色は見えない。
「もう一度聞くが、何をしている?」
「えっ!……あの、その、えーっと!」
気まずいことでも聞かれたのか、逃げ道を探しているのか、先ほどからあのだのそのだの意味を結ばない言葉ばかりが並ぶばかりで、無惨の神経を逆撫してくる。
「もういい。自分で見るぉお”」
「ダメです!」
蜜璃のちょっとした(彼女基準で)ツッコミが無惨に突き刺さる。
もちろん比喩表現としてではあるが、相手が無惨ということもあり(雇用主の筆頭親族であることは置いておいて)、わりかしリミッターはハズレ気味での一撃であった。
「き、貴様……!」
「わあぁ!ごめんなさい!でもでも、できればそっとしていて欲しいです!」
「一体何を…」
そこまで言いかけて、蜜璃がこそこそ見ているものがようやく目に入った。
蜜璃が隠れるように覗いていた先には、というか、開いたままの襖を2、3個挟んだ先には縁側で産屋敷と伊黒小芭内が碁をさしながらボソボソと話し合っていた。
「何だ、貴様の旦那と産屋敷か。つまらん」
「だーーーーー!!」
ボフッと鈍い音がなり、今度は気がついたら膝が地面についていた。
無惨をして、何が起こったか理解が及ぶのに瞬き2つほどの時間が必要だった。
脳に理解が及んでも、体に走る痛みがまともな思考と制御を許さない。
「はぁ!?がっ!はぁ!ヴぅ??」
「あっ!ごめ、ごめんなさい!大丈夫ですか!?」
「だい、丈夫な、わけが、あるか!!」
無惨には、一応痛みはあるのだ。
日頃産屋敷に焼かれたり、炭十郎に斬られたりとしているが、はっきり痛いのだ。
当たり前だ。不死身なだけで、体の構造は人のものなのだ。であれば、人に備わってあるものは当然に収まっていて、それがかければ当然に「痛み」という反応がはっきり返ってくるのだ。
そうであるから、産屋敷がしきりに燃やしたり、刺したり、きりかかってきたりするのであり、できれば無惨はそれらの苦痛を回避したいに決まっているのだ。だいたい、痛覚が存在してなければ、あの産屋敷のこと、もっと悪辣な何かを仕掛けてきてくるに決まっている。
「はぁあ”……はぁあ”……、貴様、来月の給与のとき、覚えていろよ」
いや、来月と言わず、すぐにでも首にするか?
聞こえるようにボソリと呟く。面白いように顔色が悪くなる蜜璃。
反撃の策がいくつか浮かぶが、おそらく全て失敗に終わる。こと、策謀と嫌がらせに関しては無惨は産屋敷に勝てないのだから。
おまけに、今回の蜜璃の所業に関しても、いくら無礼があったとはいえ、相手が無惨でこの様を作り出すことに成功していたということがバレれば、確実に産屋敷が無惨の報復を防ぎにかかる。
無駄な労力を支払うぐらいであれば、とりあえず無惨の言葉を額面通りに受け止めて、血の気のひいている蜜璃の顔で我慢してやらんでもない。
「チッ…。で、のぞきか?なら別の場所でやれ。邪魔だ。私はこの後研究所に出ねばなら”ぁっ」
「そーだった!忘れてました!伊黒さんは!」
無惨に勢いよく背を向けたせいで、彼女の長い髪の毛が無惨の顔面を強かに打ち付けた。
そして当然気づかぬ蜜璃。
もはや苛立つのもバカバカしくなり、その場を黙って離れようとしたが、超人じみた無惨の耳に伊黒と産屋敷の話し声が飛び込んできた。
「火あぶり……」
「いや、毒……海外………溶ける」
「おおっ!それは……」
ピタリと無惨の足が止まる。
毒?毒と言ったか?この体に毒は効かないが、いくつかの植物の成分は煩わしく感じることがある。それをして、溶ける?溶けると言ったか?あの狂人は?たとえ毒蛇の毒とは言え鬼であるこの体に効くとは思えないが、西洋諸国の動植物まで調べが及んでいるわけではない。というか、基本的に自らの体にどの毒が効くなど試すわけがない。せっかく不死の体になっているというのに、なぜまた死ににいくような実験をするのか?いやいや、今はあの狂人どもの策略だ。まかり間違って投与され、それが効いてしまうなんてことになれば、どれだけの激痛か……ふざけおって産屋敷、炭十郎とかいう化物だけではなく、訳もわからん薬師の一族まで抱え込みおって……!!
ふと、怒りが二、三周脳内を巡ったところで、気がついた。
まず、今回の毒は間違っても受けるわけにはいかない。受けたくない。無事でもだ。
となれば、あの狂人の策略をあばいた上でかわさねばならない。
だが、腹立たしいことに、あの狂人は二十三十に罠をはり、最終的に自分が一番はめたい罠に落とし込むことにかけて天与の才がある。仏は脳にうじでも沸いているのではないだろうか?
しかし、偶然ここにその策略を全て聞いているバカがいる。
普段ならそっ首叩き切って(比喩だよ!)、門前に並べ(比喩だね!)、犬畜生の餌にでもする(比喩に決まってらぁ!)ところだが……
「ふむ……そこの桜餅頭」
「え?あ、はい…でも私の名前は甘露」
「どうでもいい。桜餅を10個ほどやろう。あのバカどもの策略を全部教えろ」
「え、たったの10個?普段のおやつの半分……?」
あの蛇フェチ偏執狂が!!普段どれだけ甘やかしているんだ!!
そんなんだからこんなトンデモ頭になるんだろうが!
これだから狂人ども考えは!
「チッ!!……では40個だ。早くこい」
「やったー!!」
すぐさま反転して無惨へとついていくが、二人とも当初何をしていたのか、完全に頭から抜けている。
襖は空いていて、無惨たちから見えたということは、当然産屋敷たちからも見えているのだ。
叩いたり、叩かれたり、叩かれたり、騒いだりしていれば、当然のことだが二人にも勿論聞こえておりーーーーーー
「……迎えに行ってあげなさい。小芭内。彼女、あのままだと無惨の財布がなくなるまで、食べてしまいそうだから」
「お気遣いいただき、誠に申し訳ございません」
「いいよいいよ。碁なんてまた次もできるさ」
「では、炭十郎様。次回は此度の続きからということで、申し訳ございませぬが記録のほどよろしくお願いいたします」
「あっ」
ごめん。
そう残して、静かに、そして疾風のように産屋敷の元から離れ、無惨たちの元へと向かう。
産屋敷にしては珍しく、読みが外れたと言わんばかりに盤面をじーっと眺める。
「炭十郎、お願いだから2、3個有利になるように書き換えてもらってもいいk」
「なりませぬ」
「そうかー」
負けが決まるまで後、数手。
食い気味拒否られた産屋敷は数秒ほど悔しそうな表情をするも、すぐに切りえたのか、ポツリとこぼした。
「よからぬことを考えながらでは、伊黒相手には勝てないか。残念残念」
まぁ、得るものも多かったしね。
いつも通り、穏やかに炭十郎に笑いかけると、体が冷えるからと屋敷の奥へと引っ込んでいった。
後日、無惨は蜜璃から計画を聞き出すも、普通に毒をもられて激痛のうち半刻ほどのたうちまわった。