紫煙燻らせ迷宮へ 作:クセル
迷宮都市オラリオ。
地下迷宮、通称『ダンジョン』を保有している。と言うと語弊がある。正しくは『ダンジョン』の上に築き上げられた巨大都市。
都市を、ひいてはダンジョンを管理する『ギルド』を中心に栄えるこの都市は、神々が初めて地に降り立った土地でもあったとされる。
遠い昔────退屈で仕方の無かった神々は刺激を求めて地上に降り立った。
様々な無駄を拵えながら、文化や営みを育む『
下界での永住を決めた神々は、万能の力たる『
そんな神々が唯一地上で振るう事を許可された神の権能。神が与える力の一端『
それを授かる事で神による派閥である【
神々は恩恵を授けた眷属に対し、お金を稼いで貰ったり、色々なお願いをして下界での生活を樹立していく。身も蓋もない言い方をしてしまえば、【ファミリア】の構成員に養ってもらうという事でもある。
こう語るとまるで人間を隷属させている様に感じられるかもしれない。しかし神々によって与えられる恩恵によってもたらされる利益は人々にとって無視できるものではない。
一度『恩恵』を授かってしまえば、どんな人であっても下等な怪物程度であれば撃退できる力を得られる。
故に、人々はこぞって神々の眷属になりたがり、千年の時を経た今となっては数多くの派閥がこの都市に軒を連ねていると言っていいだろう。
無論、この都市に限らずこの下界には自らの【ファミリア】を国にまで押し上げる神すらも居るが。それでもオラリオこそ、神々が最も多く住まう土地でもある。
そんな都市の一角。
「はぁ……」
線の細い白髪の少年が力無く座り込み街の雑踏をぼんやりと眺めながら深い溜息を零していた。
田舎から出てきたばかりの彼は冒険者志望としてこの都市を訪れ、【ファミリア】の入団を希望して各々の派閥を訪れ、門前払いを受けていた。それも、一つや二つではない。訪ねた派閥の数は両手両足の指の数を合わせても足りない。
そうなる理由もその少年は理解できていた。
有名な【ファミリア】であれば、人材も豊富で基本的に飽和しており、受け入れる余地が無い。中小規模の【ファミリア】ならば田舎者丸出しな少年より、多少なりとも戦闘技能や専門知識を持つ人材を優先するのは当たり前。
残念なことに、少年が持ち得る知識はほんの僅かな農業知識と、農業でほんのり鍛えられたちっぽけな筋力のみ。戦闘なんぞ門外漢、加えて農業知識を何に活かせるというのだろうか。
「僕なんかじゃ……冒険者になれないのかな」
このまま【ファミリア】を見つける事も出来ずに、冒険者になる事も叶わないのではないか、と不安に押し潰されかけながらも、縋る様に立ち上がった少年はもう一度だけと気力を振り絞って次の【ファミリア】を求めて歩き出そうとした、その時。
「おーい、そこの君ぃ。危ないから裏路地には行かない方が良いぜ?」
声を掛けられた事で自身が歩き出そうとした先が裏路地に続く道だと気付きいて足を止め、少年が振り返った。テテテテと駆け寄ってくる少女の姿を見て、礼を口にする。
「あ、ありがとう……えっと、君は? こんな所で、迷子なのかな?」
「……迷子みたいな目をしているのはキミの方だろう?」
首を傾げられ、下から見上げてくる少女の言葉に彼が怯む。
対面する少女は紛れも無い美少女だった。背丈こそ少年よりも低いものの、艶のある漆黒の髪が耳を隠す程伸びていて、更に横にはツインテールが作られ腰まで届いている。丸い顔と丸い頬は幼い容姿を際立たせ、それに反する様に服の上からもわかる程に成熟した胸元に自然と視線が吸い寄せられる。
円らな瞳は青みがかっており、その整い過ぎた容姿の中でも幻想的な雰囲気を醸し出していた。
将来は絶世の美女である事が約束された、そんな美少女の登場に少年が身を強張らせていると。
「はぁ……初対面の子はいつもボクを子供扱いするんだ」
若干不貞腐れた様に呟かれた言葉に彼はびくりと身を震わせ、まじまじと少女を見つめる。
その
「あっ……も、もしかして……その、か、神様だったり……?」
下界に住まうヒューマンや
少年が求める【ファミリア】を運営する、『神』だ。
「ふんっ、ようやく気付いたのかい。失礼しちゃうなぁ、まったくもう」
揶揄う色の含まれた、不貞腐れた態度に彼は青褪めて謝罪を繰り返した。
よもや神だとは思わずに失礼な真似をしてしまった、と何度も何度も頭を下げるその姿に、流石に揶揄い過ぎたかと女神は話を切り替える為にも彼について質問を飛ばした。
「あー、わかったわかった。少し揶揄っただけだよ。それよりも、キミはこんな所で何をしているんだい?」
「それは────」
優し気に微笑む女神の姿に、彼が思わず今までの出来事を語っていく。
冒険者を志望して迷宮都市を訪れた事。
【ファミリア】に門前払いされ続けている事。
出てきた田舎には帰れず、都市で居場所も作れず、途方に暮れていた事。
情けなさに拙くなっていくその言葉を、女神はうんうんと静かに頷き、ただ聞いていた。
一通り、少年の語りが終わると、女神は軽い調子で立ち上がってどこか白々しくも口を開く。
「あー、んんー……実は、丁度ボクは【ファミリア】の募集をやっていてね。ちょうど冒険者の構成員がもう一人欲しいなぁーなんて奇遇にも思っていてだね、その、うん、えーっと……」
若干聞き苦しい様な風にも感じられる女神の言葉ではあったが、けれども少年は話を聞いた瞬間に女神に跳び付いた。此処を逃せば、次は無いという焦りもあったのかもしれない。
「入ります! 入らせてくださいっ!」
「……い、良いのかい? 本当に、ボクの【ファミリア】で?」
「いいです、全然大丈夫です! むしろ僕みたいな奴が入っても大丈夫ですか!?」
其処からは早かった。互いに有頂天になった二人はさくさくと自己紹介を行い合う。
線の細い白髪の少年の名はベル・クラネル。黒髪のツインテールの女神はヘスティア。
女神の行きつけの本屋で恩恵を授けられ、ヘスティアに先導されて女神が住まう
「ああ、さっきも言ったと思うんだけど。ボクの【ファミリア】はキミが一人目って事になるんだけど。実は恩恵を授けた子はもう一人居るんだ」
「はい、先輩ですよね」
「え……あー、せ、先輩かなぁ? まあ、冒険者としては先輩だね。戦闘経験も豊富でダンジョンにガンガン潜ってる子さ」
「本当ですか!」
戦闘経験豊富で迷宮探索も行っている先達の冒険者。
女神が言うには【ファミリア】の
ベルがその冒険者の姿を想像し胸を膨らましている間、ヘスティアは苦笑しながら告げる。
「初対面だと面食らうかもしれないけど、悪い子じゃないから仲良くしてあげてくれよ」
「…………?」
ベルがどんな人物なのか想像が付かなくなり首を傾げながら歩いていると、ヘスティアがメインストリートを外れ、いかにもな細道を通っていく。その後を追えば、いつしか二人は袋小路へと辿り着いた。
目の前に現れた建物にベルが僅かに目を見開き、ヘスティアは胸を張ってその建物を示す。
「ここがボクらの
「こ、ここが、ですか?」
人気のない裏路地深くに立っているその建物は、端的に言ってうらぶれた教会であった。
二階建てのその建物は崩れかかっていると言っていい。ところどころ石材が剥がれ落ちた外観からは気の遠くなる様な年月と、人々から忘れ去られた哀愁が漂っている様にも感じられる。
正面玄関の真上、女神ヘスティアの頭上には全身をぼろぼろにして顔を半分失った女神像がベルを見下ろしていた。
「ほら、おいで」
面食らうと言われた先輩冒険者よりも先に、この廃墟と言って差し支えないホームにベルが面食らっていると、ヘスティアは戸惑う事無く扉の無い玄関口を潜って奥へと進んで行く。
ごくりと唾を飲み込み、ベルがその玄関口を潜った先は、想像通りの光景が広がっていた。
屋内は外観に負けず劣らずの半壊模様。割れた床のタイルからは雑草が繁茂し、頭上の天上は大部分が崩れ落ちてごっそりとなくなっている。
もはや反論の余地のない廃墟っぷりに、こんな所で女神が過ごしているのかと戦々恐々とするベルを他所に、ヘスティアは祭壇の奥に続く小部屋から彼を手招きした。
「安心したまえよベル君、この先に住んでるんだ」
「は、はぁ……」
女神に先導されるままに進んだ小部屋には空っぽの本棚が並べられており、生活感は感じられない。
本当に此処で合っているのかと不安に駆られていると、ガタンッと本棚の一つが一人でに動き出す。突然の出来事に身を強張らせるベルを他所に、ヘスティアはガタガタと軋む音を立てて動く本棚の向こう側を覗き込んで言葉を放った。
「ただいま」
「……ああ、ヘスティア様か。おかえり」
すっと、本棚の隙間から顔を出したのは銀糸の様な髪を揺らす美少女であった。
僅かに顔だけを本棚から出して女神とやり取りをしていた彼女は、ふとベルの方へと視線を向けると、あからさまに表情を険しくして眉間に皺を寄せる。
「……コイツ、誰?」
目が合った瞬間、あからさまに歓迎されていない雰囲気を感じたベルは身を強張らせる。
細い指先を本棚にかけ、険しい目付きで睨み付ける少女。手足は細く、華奢な印象を与える。そして何よりベルよりも背の低いヘスティアと比べても、更に低いその背丈。
どう見ても幼い子供、幼女にしか見えない容姿の少女に睨まれベルが冷や汗を流す中、ヘスティアが喜色を浮かべて少女の手を引き、本棚の影から引っ張りだした。
「ああ、僕の初めての【ファミリア】さ! ベル君って言うんだぜ。ああ、ベル君、この子がさっき言ってた先輩冒険者さ、クロード・クローズ君だよ」
「えっ、こんな小さな子が!?」
驚愕の余りにベルがまじまじとクロードを見つめると、彼女は眉間の皺を深くして呟く。
「……ああ、なるほど。つまりようやく【ファミリア】結成か。おめでと」
ヘスティアの紹介を聞き、その少女が鋭くベルを睨んだ。何処か刺々しい雰囲気を隠しもしないクロードの姿に僅かに怯みながらも、少年は慌てて挨拶をした。
「は、初めまして! これから【ヘスティア・ファミリア】に所属する事になりました。ベル・クラネルです。よろしくお願いします!」
「ん」
一言、唸る様な声を返すとクロードはそのままベルの横をすり抜けて、入れ替わる様に小部屋を出て行こうとする。すれ違う途中、彼女の体からほんのりと甘い煙の匂いが感じられ、ベルは小さく首を傾げる。
それを見ていたヘスティアが眦を吊り上げて少女を追って出て行ってしまう。
無愛想で嫌悪感を隠さない彼女の姿に頭を下げた姿勢のまま困惑していると、小部屋の外が姦しく騒ぐ声が響いてくるのがベルにも聞こえた。
「こらー! きちんと挨拶しないと駄目じゃないか!」
「えー、ヤダ、だってアイツも子ども扱いしてくんだろ」
「ちゃんと言い聞かせるから大丈夫だって、ほらちゃんと挨拶するんだ」
「放してくれよ、面倒臭いし、怠いし、
「キミ、また
「仕方ないだろ。
「中毒になってるじゃないかッ!?」
「それに、あの地下室に虫が湧かない様に煙焚く序だって」
「吸いたいだけだろう!」
小部屋の外から聞こえるやり取りからベルがくみ取れた情報はいくつもあった。
例えば、地下室という単語。空っぽの本棚の一つの奥から出てきた事から場所も察しが付くだろう。ベルがほんの僅かに覗き込めば確かに奥に続く地下室への階段が見て取れた。
そしてもう一つ、あの少女が非常に男勝りな言葉遣いであり、一人称が『オレ』である事。容姿の整った美少女、線の細い華奢な少女が使うには不釣り合いな言葉遣いだ。
抱いた違和感にベルが立ち尽くしていると、小部屋の入口から銀髪の少女を抱えた女神が戻ってくる。幼女と少女の境目ぐらいのヘスティアが、幼女と言って差し支えないクロードを抱えているのは何処か微笑ましい。
「……おい、なんか変な事考えてねぇだろうな」
「い、いや、別に」
抱えられたまま睨みつけてくる少女に、ベルがどもりながらも答えた。
その様子を見ていたヘスティアがクロードを下ろして脳天を小突く。
「こら、ちゃんと挨拶するんだ」
「…………はいはい、面倒臭いなぁ」
気だるげな様子の少女は、改めて、と呟くとベルを真正面から見上げた。
「クロード・クローズだ。オレの事はあんま気にすんな。ただの居候みたいなモンだからな」
「えっと、よろしくお願いします。クローズ……さん?」
明らかに自身よりも年下であろう少女だが、しかし冒険者としては先輩にあたる人物。どう呼ぶか迷ったベルが間をおいて疑問形で呟くと、クロードは眦を吊り上げて舌打ちを零した。
「チッ、コイツもじゃねえか。どいつもこいつも背丈が低いからって
「まあまあ、よくある事じゃないか」
地雷を踏み抜いたかとベルが慌てて頭を下げるも、少女は聞く耳持たずといった様子で出て行ってしまった。
困った様に女神に視線を向けると、ヘスティアは苦笑しながら肩を竦める。
「気にしないで良いよ。あの子は少し気難しくてね。ただ、悪い子ではないから。それじゃあ改めて、この先の地下がボク達の住居さ」
僅かな不安を感じながら、ベルは女神に導かれるままにその地下へと続く階段へと足を掛けた。
屋根に空いた大穴から差し込む月明かりに照らされたなんとか原型を留めている祭壇。
銀髪の幼い容姿の少女が膝の上に紙袋を抱え傍に煙草盆を置いたまま、ぼんやりと空を眺めていた。過ぎ去る時を噛み締めながら、彼女は徐に懐から煙管を取り出し、紙袋から出した刻み煙草を丸めて火皿に押し込んで吸い口を咥える。指先で雁首を撫でながら少女が口の中で呟きを零した。
「【燃え上がれ、燻る戦火の残り火】」
ほんの些細な魔力が指先より溢れ、火の粉が溢れ、煙管に火を入れる。
ゆっくりと長い時間をかけて口腔を煙で満たし、ゆっくりと吐き出す。数度繰り返した後、煙の途絶えた煙管を片手に、ぼんやりと星空を眺めた彼女は、静かに教会の内部に視線を流して溜息を零した。
「……異世界転移、いや転生? 死んでないから転移の方か? にしては、なんというか」
慣れた手付きで灰を捨てた彼女は、自らが手にした煙管を眺めて更に溜息を繰り返す。
彼女はこの世界の住民では無く、元はとあるゲームをプレイしていただけの重度のゲーマー。それも、もともとの世界に居た頃は男であったのだ。
そんな彼女が如何にしてこの世界に辿り付いたのかと言えば、神の悪戯とでも言えば良いのだろうか。
「まさか、サービス終了の大型イベントで最後まで生き残ったら、異世界に飛ばされるとか聞いてねぇっての」
彼女が前の世界でのめり込み、私生活が壊れる程にやり込んだ大型のVRオンラインゲーム。そのゲームのサービス終了が決まった際に行われた大型イベント。
その内容を思い出した彼女は、忌々し気に足元を見て呟いた。
「世界に大穴が開き、怪物が溢れ返る。それらによって世界は滅び、ゲームは終わる、ね」
全てのフィールドがイベントの対象。本来ならば安全地帯であるはずの街ですら怪物の進行によって滅ぼされていく、最期のイベント。
突如として世界に現れた大穴。怪物が無限に湧き出るその穴からあふれ出た怪物が全てを壊していく。イベントの内容はシンプル。決められた防衛対象を守り続ける事。ただし、プレイヤーもNPCも、
世界に残された無数の『楔』を守り抜き、一分一秒でも長く世界を存続させる。それは即ち、サービス終了を遅らせる手段であった。
難易度は
全てのギルド、連合、国家が立ち上がって怪物の進行を止める。そうして集まったプレイヤー達は、けれども余りの怪物の物量を前に次々に倒れていった。一つの楔が破壊され、二つ目、三つ目と次々に陥落する人類の砦。
そのさ中、彼女は一つのギルドを率いて楔の一つを守っていた。所属するプレイヤーの殆どが現実の生活を捨て、ゲームに時間を費やした廃人ばかり。そんな彼等であっても、守り切る事は出来なかった。
「……ああ、なぁ~んで、オレだけかなぁ」
最後の一つ、彼が守ったその楔は世界の終わりを防ぐ最後の砦であった。数多くのプレイヤーが必死に守ろうとし、次々に倒れていき、遂には破壊されてしまう。
煌々とした輝きが立ち昇る光景に、サービス終了に抗わんと立ち向かった廃人達が絶望に立ち尽くす中、終わった筈の最終目標が更新され、最期の
────戦い抜け
最後の一人のプレイヤーが力尽きるまで、サーバーを落とす事無く続ける。それはイコールで自身が死ななければこの
残った数少ないプレイヤーの中から、戦意を残す者を搔き集めての抵抗。拠点を失い、道具の補充も利かない中、次々と仲間が倒れていく。それでも抗っていた彼の目標に一文だけ追記が加えられた。
────
その表示が出たのを見て、彼は戦った。既にサービス終了が決定付けられ、消えゆく世界だと知りながら。それでも諦めきれないと、戦って、戦って、戦って。
瀕死に近い状態に陥り必死に逃げた。戦おうにももはや武具は耐久ゼロで破損状態。回復道具は全て使い果たし、魔力も残っていない。それでも一分一秒でも長くこの
気が付くと其処は洞窟を思わせる場所。何処かもわからずに困惑し、同時にゲームのキャラクターになっている事に気付いた彼、今や彼女となったクロードは【ヘファイストス・ファミリア】の冒険者に救われた。
「はぁ、んで行く当ても無いし身寄りも無い。食い扶持にも困るだろうから女神ヘスティアの恩恵を受けて持ちつ持たれつで~って厄介払いされたんだよなぁ」
上手く言い包められたと本人は感じているが、身分不明で身寄りも無い彼女がこのオラリオで確かな身分と、糧を得られる方法を与えられた事を思えば恩を感じるべき所である。
「それにしても、随分とまあ……慣れたなぁ」
刻み煙草を丸め、火皿に押し込み、火を着け、ゆっくりと煙を口腔に満たし、吐く。
吐き付けた煙が月明かりに照らされ虚空に消えゆくのを見つめ、溜息を零し、クロードは首を掻いた。
「元は煙管なんて吸わなかったんだけどなぁ」
煙管どころか、紙煙草にすら手を付けた事が無かった前の世界の彼は、この世界に来た際にゲームのキャラクターになっていた。性別が変わった事に大きく驚きもあり、困惑もあったがそれ以上に驚いた事は多々あった。
例えば、今彼女が吸っている煙管もその一つ。
吸い方なんてこれっぽっちも知らないそれは、ゲーム内では『クロード・クローズ』と言う名のキャラクターの特徴的な趣味の一つとして設定されていたモノだ。あたかも数年前から吸っていた様に慣れた手付きで煙管を取り扱うのは、彼の趣味ではない。
「ふぅ、まあ、
この世界にきてまだ一ヶ月も経ってはいない。ダンジョンと言う、どこか前世の『穴』を思い起こさせる地下迷宮に潜っては怪物を狩り、資金を得る。
惰性で過ごしていた彼女は、思考を現実へと引っ張り戻して今日出会った白髪の少年の姿を脳裏に描いた。
「……ヘスティアの初の眷属、いや、自分で勧誘した眷属ねぇ」
クロードはヘファイストスの元に拾われ、ぐーたらな女神を追い出す口実として恩恵を授かった彼女は、正式なヘスティアの眷属とは呼べない。
少女は煙管の灰を捨てて月を見上げた。
「オレはなぁ、どうすりゃあ良いんだよ」
可憐な容姿に見合わぬ口調で、月に問いかけた彼女は再度、紫煙をくゆらせた。
ダンまち世界に紙巻煙草(世間一般におけるタバコ)は無いだろうし、煙管で良いよね。煙管ぷかぷか吸ってる幼女とか、どう?
序に喧嘩煙管にしちゃおうかね。煙管で殴って、叩いて、ぶっ倒す系幼女。常に煙をモクモクさせてる系な感じ……。
大丈夫か、この作品?