紫煙燻らせ迷宮へ 作:クセル
ギルドは朝からがやがやとした喧騒に包まれていた。
朝から正午までの間、広いロビーには数多くの冒険者が訪れる。ダンジョン探索の前に担当官の下で今後の打ち合わせをする者も居れば、見目麗しい受付嬢を軟派する者等も居るが、今日は更に人が多い。
彼らの目的は今朝更新されたばかりの巨大掲示板の情報だ。
商業系派閥の新商品発表告知からドロップアイテム買取依頼に始まり、【ファミリア】間の勢力状況、更にダンジョン内での
明日の運命を左右する、または明日の千金になるやもしれぬ情報収集は冒険者達が抜かる事はない。
それに加えて、数日前に発生した【ガネーシャ・ファミリア】の不手際によるモンスター脱走事件の被害を受けた露店商や、本当に全ての逃げたモンスターを討伐できたのかの問い合わせを目的とした不安がる市民なども訪れており、掲示板更新日と重なって日頃以上の喧騒に満ちている。
「エイナ~、弟君とのデート、どうだったの~?」
「こら、職務中。話しかけてこない」
窓口で腰掛けていたエイナは、隣から耳打ちしてきた同僚のミィシャを軽く注意した。
ミィシャの言う通り、本日はいつにも増して多くの人がギルドに押しかけてきている。エイナやミィシャ、他の受付嬢も何かと対応に追われており、忙しさに拍車がかかっていた。先ほどまで市民の問い合わせに対応していたエイナも、今ようやく小休止を得た所だ。
普段なら多少は相手にされていたであろう見目麗しい受付嬢への軟派なども、今日に限っては全く相手にされずに追い払われる程に忙しい。
「にしてもさ、今日は人が多いよね」
「仕方ないよ。フィリア祭の事もあるし」
「それもあるし、仕方ないんだけど。でも、極めつけはやっぱり、あのエイナが担当してる
「……うん、そうみたい」
エイナが掲示板の前に群がる集団に視線を向けると、其処には見目の整った者達の一団が居た。傍から見ても人非ざる者と察する事が出来る彼らはオラリオに居を置く【ファミリア】の主神達だった。
『中層のモンスター倒してたあの冒険者。冒険者になって二ヶ月のLv.1ってマジかよ』
『しかも無所属だってよ! こりゃ勧誘するしかねぇな!』
『冒険者になって二ヶ月かぁ。是非ウチの派閥に欲しいねぇ』
『何処に住んでるのかの情報はないのかしら?』
騒めく神々が真剣に見ているのは、つい先日あったモンスター脱走事件についての詳細だった。
脱走したモンスターの数、種類から、どのモンスターをどこの派閥の冒険者が討伐せしめたのか。不安がる市民向けに安全である事を知らせる為のモノであるその一面の一番上部。
脱走数11に対し、討伐数9匹、ほぼ全てのモンスターを片付けた第一級冒険者【剣姫】の名と【ロキ・ファミリア】の情報が書かれている。
その下、下級冒険者として名が挙がっているのがクロード・クローズ。街中での遭遇戦に対し、完全な格上であった中層のモンスター相手に一歩も引かずに対応し、討伐せしめた人物の詳細が書かれていた。
所属派閥無し。年齢17歳、冒険者経歴二ヶ月。討伐モンスター名称『ソードスタッグ』。
「ねぇ、エイナ。やっぱクロードちゃんに派閥紹介した方が良くない?」
「……それは、そうなんだけどね」
一般的な冒険者の場合、【ファミリア】に所属する事で恩恵を授かる事になる。そのため、都市内においては
【ファミリア】に所属する利点は何と言っても派閥に所属する事によって同派閥の冒険者と繋がりが出来る事だろう。他にも名声が高い派閥であれば積極的に依頼を任せられ、先輩冒険者からの教導が受けられる。
無論、利点ばかりではなく欠点も無くはない。
派閥の主神次第ではあるが、神々同士の諍いから抗争に巻き込まれる事になるだろうし、悪名高い派閥の名を背負ってしまえば同類として周囲から警戒を受ける事になる。
それを踏まえた上で、エイナやミィシャ、他の受付嬢も口を揃えて言うだろう。【ファミリア】に所属するべきだ、と。
だが、問題は後ろ盾が無い事によって派閥の勧誘合戦に巻き込まれる事だ。
「一応、クローズ氏向けに紹介できそうな派閥はリストアップしてみたんだけど……」
「わぁお、献身的だね~。男の子だったら惚れちゃうよ~」
にへら、と冗談を口にするミィシャに肩を竦めつつも、エイナは手元に用意してあったクロード向けの派閥一覧を見て深く溜息を零した。
「それが、あの子、口が悪いっていうか……」
「確かに、柄が悪いよね」
つい数日前の事件においても、不安がる市民相手に喧嘩腰の荒い言葉遣いで接していた事はエイナの記憶に新しい。
荒くれ者が多い冒険者の中で舐められない為なのか、新人冒険者の中には威圧的に振る舞う者も居たりする。大抵は同派閥に所属している先輩冒険者に締められて大人しくなるのだが。
「う~ん、どうだろう。クローズ氏はそっちではないと思うんだけど」
クロードの場合、ただ舐められない為にあえて粗暴な振る舞いをしているのかといえば、そうではない様にエイナは感じていた。何と言えばいいのか彼女にもわからないが、あえて言うならば。
「何かに、怯えてる……かなぁ」
口にしてみてもしっくりとこないその感想にエイナ自身首を傾げていると、こつんっと軽く受付窓口が叩かれた。
「あっ、ミィシャ直ぐに戻りなさい」
人が来たのだと察したエイナが慌てて同僚を追い払い、カウンターの向こう側に居る人物へと視線を向けた。
其処にはカウンター越しに茶色のフードの頭頂部だけが見えていた。顔は確認できないが、エイナが立ち上がってカウンター越しに見える相手を覗き込む。
頭の先からすっぽりとフーデットローブに身を包んだ子供の様な小柄な人物だった。
「本日はどのようなご用件でしょうか」
子供だろうか、と微笑んでその人物を見やったエイナは、フードをほんの少し持ち上げてその下から鋭い眼光で睨み付けてきた灰色の瞳に怯んだ。
「よォ、エイナ。ちょいと手続きにきたんだが」
「あ……クローズ氏、えっと……」
身を隠す様にフードを被っていた人物が件のクロード・クローズであった事に気付いたエイナが慌てて周囲を確認する。
怪しい恰好ではあるが、彼女が身を隠す理由は想像に易い。現在最も目立っているであろう
横に居るミィシャは態度を改めたエイナに首を傾げつつ、気になったのかフードの中を伺う様にそれとなくクロードに視線を投げかける。
そんな彼女らの行動に反応するでも無いクロードは、口元を吊り上げてエイナを見やって告げた。
「あァ、Lv.2になったから報告にな」
「……はい?」
「うわぁ、凄いじゃない。おめでとうございます!」
何でもない様に告げられた内容にエイナが固まる中、横で聞いていたミィシャがその報告を聞いて称賛の言葉を贈る。
【ランクアップ】に至るのがどれほど難しいかを知っているギルド職員だからこそ、報告に来た冒険者に称賛を贈るのは当たり前。そして、ギルドは【ランクアップ】した冒険者の情報を集め、巨大掲示板に掲示したりもするのだ。
当然、【ランクアップ】の報告に来た件の人物からどんなモンスターをどれだけ倒したのかなどの聞き出しを行うのだが。
普段ならテキパキと準備を進めるはずのエイナが完全に固まっているのを見て、ミィシャは軽く彼女を小突いた。
「ちょっとエイナ、その子待ってるよ?」
「あ、えっと……クローズ氏もその様な冗談を仰るのですね」
「え? クローズ氏? って、この子クロードちゃんなの?」
思わず、と言った様子でエイナが笑顔を浮かべて対応するのを聞き、ミィシャがフードの人物を見下ろした。
クロード・クローズ。冒険者になってたった2ヶ月である。そんな彼女が【ランクアップ】した、等と言った所で冗談にしか聞こえないのは当然の事だろう。
「……はァ? ンな詰まんねぇ冗談なんか言わねェよ」
ぶしつけな視線を送るミィシャを一睨みすると、クロードは吐き捨てる様に告げた。
その言葉を聞いたエイナが表情を強張らせる。彼女、クロードはそれなりに捻くれた物言いをする事が多いが、嘘や冗談を口にする事はそう多くは無い事をエイナは良く知っている。それにクロードもそんな冗談は口にしないだろう。
気を取り直したエイナは小さく咳ばらいをして笑顔を浮かべる。
「もう一度、お願いします」
「Lv.2になった」
「誰が?」
「オレが」
「……いつ?」
「つい二日前」
「…………冗談じゃなくて?」
横で聞いていたミィシャが、クロードが返答する度にばっと顔をそちらに向けた。
対応しているエイナは笑顔のまま問いを投げかけ続け、クロードはフードの舌で不機嫌そうに眉を顰めて苛立った様に低い声で唸る。
「冗談じゃねェよ」
「……ごめんなさい。最後に質問良いでしょうか?」
「あァ? 早くしろ」
「冒険者として活動を始めて、どれぐらい経ちましたか?」
「二ヶ月」
即答だった。
返事を聞いたエイナが凍り付いたまま動きを止める。
不機嫌そうな雰囲気を撒き散らすパルゥムと、笑顔を浮かべたまま硬直したハーフエルフ。
窓口で列を成そうとしていた冒険者達から怪訝そうな視線を向けられる。
石像と化したミィシャを横に置いたまま膠着する事少し。
エイナは椅子から立ち上がり、爆発し────。
ガンッ、と勢いよくカウンターを叩かれて慌てて口を噤んだ。
「おい、さっさとしろよ」
苛立ってます、と全身から苛立ちを撒き散らすクロードを見やり、エイナは慌てて口を開いた。
「も、申し訳ございません! こちらへどうぞ!」
「ごめんなさい」
目の前で頭を下げるエイナを他所に、フードを取り払ったクロードは気だるげに煙管に火を入れた。
場所はギルド本部ロビー、面談用ボックス。一対一で使用するには少し広めのこの部屋は、確認のとれていない情報のやり取りを行ったり、他の冒険者に情報を渡さない様にギルドとのやり取りを行う為に作られた場所である。
内装こそ質素ながら、防音対策は完璧であり、他の者に聞かせられない相談をギルド職員に行えるのだ。
「あ、あの~……一応、ここ、禁煙だから」
「あァ? だったらさっさと終わらせてくれよ」
数分前、危うくエイナが爆発してクロードの【ランクアップ】情報があの場に居た全員に知られる寸前だった。
苛立ったクロードがカウンターを叩かなければ、本当にあの場で暴露しかけていた事にエイナが耳まで赤くしながらも、てきぱきと書類を用意していく。
クロードの方は苛立ちからか普段よりも早いペースで紫煙を燻らせていく。個室内が薄らと紫煙に満たされ始め、制服や部屋に匂いが残っちゃうな、とエイナが溜息を零した。
「それで、クローズ氏。もう一度確認の方だけ……」
「あァ?」
「あ、いえ。本当に最終確認ですので」
再三に及ぶ確認にクロードがエイナを睨み、慌てて彼女は両手を振った。
「……ったく、本当だよ」
「はい、わかりました」
怒りが静まったのか、紫煙をたっぷり吸って落ち着いたのか態度を軟化させたクロードに安堵しつつ、エイナは内心で焦っていた。
(かかった時間が、短すぎるし。それに……このままだと……)
Lv.2への到達期間が二ヶ月というのは異例の最短記録だ。たとえ誰が口にしたとしても冗談としかとられないほどには。
Lv.の上昇には『偉業』────格上の相手を打破するなどして、より【上位】の
(あぁ、そうだよね。中層のモンスターを倒した……実績は、あるんだ)
神々や一部の市民など、街中で現れたモンスターと冒険者がやり合うのを安全地帯から眺めていた者達が口を揃えて証言していた。クロード・クローズという冒険者が完全な格上である『ソードスタッグ』を討伐せしめた。と。
ただでさえ注目を集めている冒険者が、『二ヶ月』という最短記録の更新。
そうでなくとも珍しい魔法を使うと噂され、既に顔を隠してギルドを訪れなくてはならない程になっているクロードは、今後更に神々の標的として狙われる事になるだろう事は想像に易い。
ましてや派閥に所属していない
神々の強引な勧誘に翻弄されているクロードの姿を想像して身を震わせたエイナは、いち早く派閥への所属を促さなくてはと内心で決意しつつ、仕事を終わらせるべくクロードの対面で書類を広げた。
「んで、何すりゃあいいんだ?」
「はい、ではこれまでの冒険者の活動記録の方を教えて頂ければ、と」
まっさらな羊皮紙と羽ペンを手にしたエイナに、クロードは眉を顰めながら渋々と言った様子で答え始めた。
莫大な利益を生む魔石の回収効率を上げる為、冒険者の質の向上を目的とし、ギルドは各【ファミリア】や冒険者などに不都合が生じない程度の範囲で情報を公開する。
異例の【ランクアップ】を実現させたクロードの場合は、その【
要は『彼・彼女の成長を参考にして他の冒険者もどんどん強くなってください』という事だ。
冒険者の質が向上すれば冒険者の犠牲が減る事にも繋がる。こればかりはクロードの不機嫌さを前にしてもエイナは引く事はない。
クロードの機嫌を損なわぬ様に、私事を犯さない様に、といくつかの事に細心の注意を払いながら彼女が辿った冒険の軌跡を聞きだし、羊皮紙に綴っていく。
そして、数日前のフィリア祭の際の話へと至った所でエイナは羽根ペンを止めた。
「街中で【ガネーシャ・ファミリア】が管理していたはずの『ソードスタッグ』と遭遇、これを撃破」
しっかりと記載し、確認する様にクロードへと視線を移した彼女は頷いた。
「どうやって倒したのか気になるけど、この『ソードスタッグ』撃破が【ランクアップ】に繋がったのね」
聞き出した軌跡を聞いた限りでは、かなりの無茶を繰り返しているのがわかる。どれもこれも、一歩間違えば死にかねない様な行動ばかり。
冒険者になって三日後には五階層。半月で七階層、一ヶ月足らずで十階層にまで足を運ぶ等。恩恵を授かる以前の経験についても聞いておくべきだろうな、とエイナが口を開こうとして、遮られた。
「いや、『ソードスタッグ』から得られた【
「え?」
そこで冒険の軌跡が終わりだと思っていたエイナが面くらい、同時に疑問を覚えた。
誰が見ても『ソードスタッグ』、中層域に出没するLv.2級に分類されるモンスターの撃破による【ランクアップ】だと思うだろう。なのに彼女は『届かなかった』と口にしたのだ。
では、何がきっかけでLv.2に至ったのか。
「あァ、裏路地でしつこく勧誘してきた【ファミリア】のLv.2の冒険者を何人かのしたんだよ」
「──────え?」
何気なしに言われた台詞にエイナが羽ペンを取り落とした。
エイナは彼女、クロードがフィリア祭で一躍有名になり、
それも、都市内の裏路地で強襲するという形で行われていたと知らされたエイナは痛む頭を押さえ、唸った。
この冒険記録を開示するのか。『都市内で強引な勧誘をしてきた上級冒険者と交戦。これを撃破』と。
そんな情報を記載すればただでさえ荒くれ者が多い冒険者の印象が更に悪くなる。加えて、クロード本人の評判にも関わってくるだろう。
落ち着かせるように息をついたエイナは、落ちていた羽ペンを拾い上げてその一文を羊皮紙の末端に付け加え、俯いた。
「もう終わりだよ。もういいか?」
「待って」
話は終わりだろ、とクロードが灰を携帯灰皿に放り込んで立ち上がった所で、エイナは慌てて呼び止めた。
「ンだよ」
「クローズ氏は【ファミリア】への所属予定はありますか」
エイナ個人としては直ぐにでもある程度の規模のある派閥へと所属するべきだと勧めたい。
フィリア祭の一件で【ロキ・ファミリア】の主神ロキと交流がある事も知っている身としては、彼女の特異性から他の神々のちょっかいを撥ね退けられるであろうロキの下へ行くのも良いだろう。
このまま
「ねェよ」
「……何処にも?」
「ったりめぇだろ。派閥に所属しても良い事なんざ何一つねェし」
吐き捨てる様に呟かれた言葉にエイナは表情を暗くした。
「えっと、派閥に所属すれば派閥の繋がりでパーティも組みやすいし。もし怪我をした時とか、ダンジョンに行けなかった日とかでも派閥の方から多少の助けがあったりするよ。それに、名声のある派閥ならそれだけで依頼を回して貰いやすいし」
エイナはなんとかクロードが派閥に持つ悪印象を改善しようと利点を説明していく。
そんな彼女の言葉を聞いたパルゥムは、舌打ちを零すとハーフエルフを見上げた。
「なァ、オレ、言ったよな」
「えっと……?」
「糞みてェな勧誘してきた『冒険者』を
彼女の言わんとする事を察せずにエイナが困惑していると、クロードは面談用ボックスの入口の扉に手をかけ、口を開いた。
「糞みてェな神様ン所で、糞みてェな仕事やらされるなんて御免被るね」
気になった冒険者を自分の眷属にする為に襲撃する。そんな汚れ仕事までさせられている様を見せられて神の意のままに動きを制限される【ファミリア】に所属したい。なんて思う訳が無い。
ましてや、自分なんかが入れば足を引っ張る馬鹿が必ず出る。派閥に所属なんてすれば規模によっては他派閥からちょっかいかけられ面倒事に繋がる。
じゃあ大きな派閥に所属すればいいかといえば、そうはならない。
「【ロキ・ファミリア】の冒険者、なんて肩書はいらねェよ」
そんな大層な肩書を背負わされてしまったら、重た過ぎて潰れちまう。
「
「でも……」
「襲ってきた奴を返り討ちにすんのも不味いのか? 襲ってくる奴が悪ィんだろォよ。文句言われる筋合いはネェよ」
もし今後も強引な勧誘があれば、相応の対応をする。
相手が格上だろうが関係ない、気に入らないなら抵抗する。
期待なんていらない。信用なんてされなくて良い。
「好きに生き、好きに死なせろ」
吐き捨てる様に告げられた言葉に、エイナは立ち上がって彼女の肩を掴んだ。
「……ンだよ。文句でもあんのか?」
肩越しに振り返り睨む彼女に、大きく息を吸ったエイナは口を開いた。
「忘れないで、貴女が死んだら、悲しむ人は必ず居るから」
「よォ」
耳を澄まさずとも聞こえる金属の打撃音。数多くの
開けっ放しだったヴェルフ・クロッゾの工房の戸を潜ったクロードは真剣な表情で砥ぎ作業をしているの背中を見て、肩を竦めた。
「悪ぃ、邪魔したか?」
「いや、丁度キリがついた所だ」
砥石と剣を台に置き、額から滴る汗を拭ったヴェルフはクロードを見やってから、目を伏せた。
「大丈夫だったのか?」
数日前、クロードが強引な勧誘を退ける為に上級冒険者相手に乱闘を起こした際、ヴェルフは彼女を置いて身を引いた。
【ヘファイストス・ファミリア】の団員である彼が他派閥の勧誘合戦に口出しをするのは不味い。だからこそ直ぐに帰れ、とクロードが言い放ち────それでも見捨てられないと武器を抜こうとした彼を、クロードは容赦なくのした。
気絶させて近場に転がしておき、事が終わってから叩き起こした。
「そりゃあこっちの台詞だ。クロードこそ大丈夫だったのかよ」
クロードに殴られ気絶させられ、叩き起こされてみれば血塗れで半笑いの少女が目の前に居たのだ。
その場で別れた、というよりはクロードが付いてくるならぶっ飛ばす。とヴェルフを脅して一人で帰っていったわけで。
「見ての通り、ちぃとばかし包帯が残っちゃいるが。問題ねェよ」
一人で無茶させない様に手を貸そうとしてもすげなく振り払われる。どころか容赦なく武器を振るってくるのだからたまらない。
無論、彼女なりに理由があっての事だというのはヴェルフにも理解はできる。
彼が手出しすれば無用な争いになるし、その発端が自分となるのが嫌だったのだろう。だが、負傷した状態で治療すら拒むのは行き過ぎている。とヴェルフは感じていた。
「はぁ、まあ無事なら良いが。それで、何の用だ?」
「一応、謝罪にな。あと、ダンジョンに潜るから手伝ってクレって言ってたろ。もし気が変わってなけりゃ予定立てるって話だよ」
肩を竦めたクロードの様子を見て、ヴェルフは軽く溜息を零した。
「クロード、お前って奴は……」
破天荒で捻くれ者。そのくせ妙なところで律義で真面目。しかも常識的な対応をすれば振る舞いや言動こそ荒々しいものの、割と常識的に返してくる。
一言では言い表せない程に滅茶苦茶な性格をしている彼女に呆れたヴェルフは肩を竦めた。
「こっちも一緒にダンジョンに潜ってくれるならありがたい限りだ」
「報酬はきっちりもらうがな」
「ああ、煙管の新調だったな。後二~三日で完成する。今度は前のより頑丈に作ってるから期待してくれていいぞ」
自信満々に答えたヴェルフを見やり、クロードは眉を顰める。
「……あァ、適当に期待しといてやる」
微妙な反応を返されたヴェルフは小さく肩を竦めてから工房の片隅に置かれていた椅子を引っ張り出して腰掛けた。
互いに用事のある日を避けつつ、ダンジョンに行ける日付の予定を立てていくさ中、ふとクロードが神妙な表情で呟いた。
「ヴェルフ」
「どうした? この日は不味かったか?」
「いや、そっちじゃねェよ」
僅かに言い淀む様に口を噤む彼女にヴェルフが首を傾げていると、小さく問いが投げかけられる。
「なァ、もしオレが死んだらオマエは悲しくなるのか?」
「はぁ……?」
いきなりの質問にヴェルフが呆気にとられる。彼女の性格的になされるはずもない様な問いに困惑した彼は、溜息交じりに応えた。
「そりゃあ、知り合いが死んだら悲しいだろ」
当たり前だろ、とヴェルフが返事を投げかけると、クロードは視線を逸らして煙管を取り出した。
「ふぅん……」
「いや、自分で聞いといて全っ然興味無さそうだな」
生返事を返されたヴェルフが思わず突っ込み、直ぐに彼女の横顔を見て、呟く。
「何かあったのか?」
「別に」
誤魔化す様に窓の外へと視線を向けるクロードに、ヴェルフは立ち上がった。
「なあ、本当に何があったんだよ。悩みがあるなら聞くぜ?」
「オレが死んだら悲しむ奴が居るらしい」
何処か上の空で呟かれた言葉にヴェルフは首を傾げた。
「いや、当然だろ。俺だってそうだ」
胸を張って返された彼の言葉を聞いたクロードは、面倒臭そうに眉を顰め、吐き捨てる。
「ンだよ、そういうの面倒臭ェから止めろよ」
『死んだら悲しむ』というのは、つまり『死んで欲しくない』という事だろう。人に想われているというのは良い事のはずだが、クロードは不満そうに呟いた。
「ソレ、身勝手な期待や信頼と何が違ェんだ?」
『死んだら悲しむ人が居る』と言う台詞を聞いて、不愉快な気分になるのはクロード君ちゃんぐらいでしょう。
本当に捻くれた性格してます。
パソコンが絶賛不調中で昨日に投稿できませんでした。申し訳ない。
Windows10の自動更新プログラムをインストールした所、音量が『67』になって滅茶苦茶五月蠅かったから、下げたら音が出なくなった。
何を言っているのかわからないと思うが、俺も何が起きたのかわからなかった。
色んなサイト巡って原因特定しようとしてもわからず、昨日一日ずっと音が出なくなったパソコンとにらめっこする羽目に。
復元ポイントから自動更新前に戻して、そこから更新プログラムインストール。すると全く同じ不調が出る。
音量を常に『5』に設定していたはずなのに、勝手に『67』になってしまう。
音量を上げ下げすると音が消える。音が出なくなる。
何も触らなければ音は出る。音量調整するとアウト。何が原因かもわからない。
音量67でイヤホン使ったら鼓膜破れる。冗談抜きで鼓膜に甚大なダメージ受けた。鼓膜破れてるっぽい、一ヶ月程度で治るみたいだけど。