紫煙燻らせ迷宮へ   作:クセル

20 / 40
第二〇話

 夕暮れに染まる北西メインストリート。

 ギルド本部が設置されている大通りとあって、冒険者関連の店舗が大通りの殆どを占めており、巨大な商店が軒を連ねている為か、屋台や露店等は殆ど姿を見ない。

 冒険者が良く利用する商店が数多くある事に加えて、完全武装した冒険者の集団がすれ違える程の余裕のある道幅もあってか、この大通りには冒険者で溢れ返っていた。

 界隈の者達はこのメインストリートを『冒険者通り』等と呼ぶこともある。

 そんな大通りを草臥れた様子で喧嘩煙管を担いで歩く小人族の姿があった。染みつく様な煙の臭いを漂わせながら歩み、近づくだけで紫煙の香りで一瞬目を奪われ、煙たげに眉を顰められている。

 本人は周囲の冒険者達が自身を避ける中、草臥れた様子で大通りの中央を歩んでいた。

「……ねむ、眠い」

 時折欠伸を漏らして首を鳴らし、腰のポーチに突っ込んである紙切れを触って感触を確かめる。

 普段なら大通りではなく細道等を顔を隠して歩んで神々の勧誘を避ける様に動いていた。だが、今日は珍しく大通りを誰に憚るでもなく歩んでいた。

 そんなクロード・クローズを見て周囲の冒険者達は一様に彼女を見やるとひそひそと声を潜めて囁き合う。

『おい、あれ、クロード・クローズじゃないか?』

『本当だ。確か【ランクアップ】したって……』

『二ヶ月だろ? 嘘じゃないのか?』

『だが、ギルドが発表してるしなぁ』

 つい昨日、ギルドの巨大掲示板に張り出された情報。

 【剣姫】の最速記録を抜いて、たった二ヶ月でLv.1からLv.2への【ランクアップ】を果たした冒険者が現れた。それがクロード・クローズという名の人物である事。

 所属派閥無しの無所属(フリー)の冒険者。恩恵を与えた神の名は女神ヘスティア。

 ヘスティアと言えば都市では無名も無名、そも派閥は存在していても規模も小さく目にも止まらない程度の底辺派閥。加えて時折見かける彼女は日夜バイトに勤しんで生活に余裕が見えない。

 そんな情報から、事情を知らぬ者達は、生活に余裕のない女神が恩恵を与え、対価として金銭を受け取っている。という噂をまことしやかに囁き合う。

 周囲の冒険者達が一様にクロードを避け、様子を伺っているのを鬱陶しく感じながら、本人は喧嘩煙管を担ぎながら、通常の煙管を吹かす。

「ンで、いつまでついてくる積りだよ」

 紫煙を吐き捨てながら、クロードは背後に問いかけた。

「なんや冷たいなぁー、ま、その冷たいんも良いんやけどな!」

「すまないな、ロキが迷惑をかけて」

 彼女の問いかけにへらへらと笑顔で答える朱色の神。そんな女神に頭を抑えながら付き従うエルフの女性。

 容姿に優れたエルフの中でも際立った美しさを誇る人物であり、数多のエルフから敬われる高貴な血族。そんな人物が従う神と言えば、都市内で知らぬ者のいない派閥の主神だ。

「はぁ……だりぃ」

「なんや、ウチらのおかげでトラブル避けられとるんやろ? 虫よけと思っときゃええやん」

 彼女らこそ、普段ならこそこそと面倒事を避ける為に脇道や細道、裏道等を使い分けている彼女が珍しく大通りを歩んでいる理由だった。

 怪物祭(モンスターフィリア)での活躍故に数多くの派閥に勧誘され、いくつものトラブルを起こした事も記憶に新しく、加えて此度の【ランクアップ】の一報によって一躍有名人へと至った彼女を他の神々が放っておくはずはない。ないのだが、今の彼女に声をかける愚かな神は居ない。

 都市有数の強豪派閥である【ロキ・ファミリア】の主神と、その派閥の副団長が共に歩んでいるさ中に、無粋にも声をかけて勧誘なんて真似等、出来る筈が無いからだ。

「虫よけ、ねぇ……オレからしたらアンタ等も虫の一匹な訳だが?」

 鬱陶し気に強豪派閥の主神と副団長をあしらおうとするクロード。

 周囲の冒険者達の中に交じっていたエルフ達が彼女に突き刺す様な殺気を向け、クロードは其れを草臥れた様子で無視する。

「そこのエルフの王族様の所為で視線が痛ェんだよ。どうしてくれんだ」

「それはすまない」

「いやいや、ウチらが居らんかったら視線だけや済まんやろ」

 それこそ、遠巻きにクロードを見つめる無数の神々から送られる興味津々といった様子の視線が、次の瞬間には道を歩む事もままならない程の生垣となって襲い来るに違いない。とロキが笑う。

 クロードと二人が出会ったのはほんの偶然だ。

 先日の探索で道具(アイテム)を切らした事から、買い出しに出かけようとしたリヴェリアに主神がどうしても、と強請って同行してきて、『冒険者通り』に歩みを進めた所で、脇道からクロードが出てきたのだ。

 その時のクロードは運悪く裏通りで神々に捕捉されて逃げているさ中であった。中にはLv.3の追跡者も交じっており、とても逃げ切れなかった。そんな折にばったりとロキとリヴェリアの二人に遭遇してしまった。

 クロードの背後から執拗に追いかけていた集団が現れ、事情を悟ったリヴェリアが彼女の逃走を邪魔せぬ様に退こうとして────ロキがクロードに声をかけてしまった。

 強豪派閥、それも並大抵の派閥では太刀打ちできない派閥の主神が一言。失せろ、と告げてクロードを追う一団を追い払ってしまったのだ。

「なぁなぁ、感謝してウチの派閥入ってくれへん?」

「五月蠅ェな、入らねェって言ってんだろ」

 ロキも勧誘してくるのは他の神々と同じではある。あるのだが、他の神々と違って実力行使をする気はないらしく、脅迫まがいな勧誘もしてこない。ともすれば、良心的な勧誘の言葉にとどまっている辺り、強引な手段すらとって勧誘とは名ばかりの襲撃をしてくる神々と比べたら鬱陶しい以外の害はない。

 付け加えると、もしクロードがロキから離れたら、その瞬間から再度神々が殺到する事間違いなし。離れる方が面倒臭い事になるのは想像に易いだろう。

「せやったら、どうやってあんな短期間で【ランクアップ】したん? ウチにこっそり教えてぇ~」

 クロードの周囲をちょろちょろ動き回って強請る神の姿にリヴェリアが小さく溜息を零すが、そんな彼女も【ランクアップ】までの所要期間『二ヶ月』については気になっている。

 昨日はダンジョンに潜ってから夜遅くに帰還した事もあって、昨日発表された情報を手にしたのは今朝。冒険者として気になるのは当然の事だった。

「はぁ、経歴にかんしちゃギルドに嘘偽りなく報告したっつの。【ランクアップ】に至った軌跡はギルドでまとめられてるンだからそっちに行けよ」

 クロードの言葉の通り、名こそ伏せられているだろうが、【ランクアップ】に至るまでに戦ったモンスターの種類、数や成した『偉業』についてはギルドで閲覧できる書類として記録されており、誰でも好きに閲覧できる。

 編集も既に終わっており、ギルドに申請すればいつでも見れる。加えて、『二ヶ月』等という短期間で【ランクアップ】に至った冒険者等、クロードを措いて他に居らず、調べるのは非常に容易だ。

「そっちは神が群がってまともに閲覧できへんて」

 誰でも自由に閲覧できる。という事は皆がこぞって見ようとするわけで。

 アイズ・ヴァレンシュタインが初めて【ランクアップ】した時も閲覧する事を目的にギルドに人が殺到していたのだ。そして、今回はその比ではない。

 フィンが気になったのか見に行こうとしていたらしいが、閲覧申請欄を見て取りやめる程だ。

「はぁ……ったく、面倒臭ぇ」

「ロキ、しつこいぞ」

「なんや、リヴェリアも気になっとるやろ~」

「気にはなるが、本人が話す気が無いのなら何度聞いても無駄だろう」

 二人のやり取りを他所に、クロードは適当な道具屋(アイテムショップ)を見つけて足を向けた。

 ごつごつとした加工石で構成された二階建ての店舗。店名は『リーテイル』。

「オレはこの店に入る。アンタ等も目的があったんだろ、そっちに行けよ」

「……いや、すまないが、私もこの店に用がある」

「おっ、なんや運命の赤い糸でも繋がっとるんか」

 適当に選んだ店がまさかリヴェリアの目的の店だとは思わず、クロードが苦い表情を浮かべ、溜息を零した。

「はぁ……まあこの店で良いか」

「ほな行こか」

 半ば諦めながらクロードは店の戸を潜る。

 店内中央を陣取る様に、硝子よりはるかに強度の増したクリスタルケースが並んでいる。背の高いそれらの陳列棚を一瞥したクロードは目的の品を探して歩き出す。

 その様子を伺っていたリヴェリアは首を横に振ると、自分の目的を果たす為に消耗品の置かれた棚に歩み寄った。ロキはニマニマとした様子でクロードの後ろについていく。

「オレと来ても面白いもんはねェっての」

「リヴェリアと居るより面白そうやったし」

 そうかよ、と吐き捨てると、クロードは棚を見上げた。

 丸底フラスコの底に溜まる青い液体は回復薬(ポーション)。緑色で細い試験管に入っている物は解毒薬。洒落た造形(デザイン)のボトルに入った万能薬(エリクサー)……同じ回復薬(ポーション)や解毒薬、万能薬(エリクサー)でも、それぞれ丸底フラスコであったり、三角フラスコであったり、細い試験管もあれば、小瓶もある。造形(デザイン)もそれぞれ異なり、数多の商業系の【ファミリア】が製造したものを仕入れているのが伺える。

 この手の道具屋(アイテムショップ)は【ファミリア】が作成した商品ならば殆どのモノを取り扱っている事が多い。加えて、『冒険者通り』に面する敷地を勝ち取るだけあって冒険者からの評判は高く、品揃えも多い。

「んで、クロードたんは何を買いに来たん?」

「その~たん、ってのやめてくんね?」

 オレは萌えキャラになった積りは無い。と切り捨てつつ、クロードが足を向けたのは空の瓶や金属缶等、保存用の容器が並べられた一角だった。

 幾つかを手に取り、小突いたり軽く叩いたりして耐久を確かめていく。

「……質が安定しねェな」

 彼女の前世の世界、それも極東の島国では一定の基準を満たさなければならない、等と品質に厳しかった事もあって、よほど悪質な店か、外国の品でもなければ粗悪品と出会う事は少ない。しかし今世、この迷宮都市(オラリオ)では全ての品々が手作り品。それなりに質は確保されてはいるのだが、それでも粗悪品の割合は非常に多い。

 前世の様に自動工程(オートメーション)化によって安定した質の物を作る訳ではなく、一つ一つが職人による手作りだから仕方ないのだが。

「ま、これにしとくか。一ダース……いや、三ダースぐらい買い溜めとくか」

「ほぉん、クロードたん、自分で回復薬(ポーション)とか作るん?」

 手にしたのはコルク栓付きの小瓶。いくつも並べられたその品が他に比べて質が安定していると判断したクロードがそれを買う為に店員に声をかけようとし、ロキに問われて眉を顰めた。

「まあ、そんなとこだ。独自(オリジナル)のな」

「ほぉ……ま、ええけど」

 違法な薬草類を使用した依存性抜群の違法薬物の数々を保存する為の瓶です。なんて馬鹿正直に言えず、適当に誤魔化すクロードだが、ロキは僅かに目を細めてその言葉を聞いていた。

 視線が交じり合い、見つめ合う事数秒間。即座に駆けてきた店員に声をかけられ、二人は視線を外した。

「こちらの商品を、三ダースですか……?」

「ああ、請求は『グラニエ商会』の方に頼む。えっと、証書は……っと、コレだ」

 ポーチから取り出した証書を見せ、商品を『グラニエ商会』の方に輸送する様にと注文を付けると、他にもいくつかの金属缶も同様に買い付けていく。

 まるで商人の様なやり取りをし始めたクロードの姿にロキは目を真ん丸に開いていた。

「うっし、後は……そうだな、保存食が減ってたか」

食料雑貨(グロサリー)は彼方に」

 店員に片手を上げて応えたクロードが、食料雑貨(グロサリー)と矢印で表示される店の隅へと歩み出す。その後ろにロキが続きながら、口を開いた。

「その『グラニエ商会』ってのはクロードたんの後ろ盾かなんかなん?」

「お得意様なだけだよ。まあ、色々と世話にはなってるが」

 違法品のやり取り等で世話になっている商人の男、テランス・グラニエの管理する商会である。後ろ盾、という程ではないにせよ贔屓にしているのは間違いない。

「贔屓にしとるっちゅうなら、なんでそっちで買わんのや?」

「あのば……テランスの奴がな」

 本来ならば空瓶にせよ保存容器にせよ、どれも一言頼めば用意してくれるのだが。普段から出入りしていた事が既に噂として流れていたのか神々の出待ちが多くみられた。その集団を避ける為にも一時的に別の商店を利用する事に決めた。

 序に、件の煙草の作成者を探る密偵から身を隠す為、暫くは別の商会を通じての買い物となったのだ。

「有名になり過ぎて店が混んでて相手出来ないから、暫く別の店で買ってくれってな」

「ほー、金まで出してくれるんか。エラい好待遇やな」

 訝しむ様子のロキを見やり、クロードは面倒臭そうな表情を浮かべる。

 馬鹿正直に後ろ暗い繋がりがあるから、互いに切っても切れない関係です。とは言えないし、言おうとも思ってはいない。だが、怪しまれたままでは痛い腹を探られかねない。

冒険者依頼(クエスト)を何度も受けてるからな」

 これも貸しとして今後冒険者依頼(クエスト)を頼んでくるだろ、とクロードは肩を竦めた。

 その言葉を聞いたロキは生返事を返すと、笑みを浮かべたまま考え込む。

 クロード・クローズという人物についてロキが知る情報は少ない。というかほとんどない。

 外面的な所で言えば、やる気が無さそう。とか口が悪い、とか色々と知れる部分はある。それでも話してみると案外話が通じるし、冗談にも応じてくれる。

 内面的には絶対的な矜持(プライド)と信念を持っている。そしてそれ以外には微塵も興味を示さない。自身の身の安全もそっちのけで、矜持と信念を貫く人物といった所だろう。

 ロキはおおよそクロード・クローズという人物像を描いて納得して頷く。

「なんや、機嫌がええんやな」

「別に、そうでもないが」

 世間話の様に言葉をぶつけると、ごく普通の対応が返ってくる。

 なんとも言い難いが、他者との距離感の取り方が非常に特徴的だ。人によっては付き合い易いと思うだろうし、人によってはとっつきにくい、ともとられかねない。

 言葉遣いこそ荒いが、普通に会話する事は出来る。ただ、彼女が機嫌を損ねる様な内容だと皮肉と罵倒が混じり始める、といった具合か。

「そか」

 つい今朝リヴェリアから聞いた話では体調が悪そうだったらしいが、今のクロードはそんな風には見えない。多少やつれ気味に見えはするが、神々の強引な勧誘から逃げていて疲れている、と言われれば納得できる程度。

 違和感を覚えつつも、ロキは唸る。

 是非、なんとしても、勧誘したい。とっつきにくく皮肉交じりで口も悪い。だが根っこの部分を見ると、本当に欲しくなってしまう。見ていて楽しい、というのもそうだが、ベート・ローガと似ている部分も愛おしく見えてくる。見えてくる、が。

「ま、ウチに来る気は無いんやろ?」

「何度言えばわかるんだ? ちゃんと耳ついてんのかよ。断るっつってんだろ」

 派閥勧誘を匂わせると、途端に皮肉交じりの言葉が返ってくる。流石にしつこ過ぎたか、とロキが両手を上げて降参を示した。

「すまんすまん、で、後は何を買うんや」

「はぁ……エルフのとこ戻りゃ良いだろ」

 投げ槍気味に返しながら、クロードは食料雑貨の中でも保存の利く探索中に使用する物が多く並べられた棚を見上げた。

 肉や魚の塩漬けや燻製、干した物。ジャムやコンポート等の糖蔵。ピクルス等の酢漬。水分を少なめにした硬パン等。

 長期間の探索に向けた保存用の食品が並ぶ一角を見ていたクロードがいくつかの保存食を買い漁る。

「ロキ、そこの堅パン、三つとってくれ」

「ほいほい~、これでええんか?」

「ありがとな」

 一週間分近い量を籠に放り込んで勘定をしようとクロードが店員の元へ向かおうとした所で、棚を挟んだ反対側から鈍い打撃音が響いた。

「なんや? えらい痛そうな音がしたなぁ」

「どっかの誰かが足でもぶつけたんだろ。小指だったら洒落になんねェな」

 冗談めかして肩を竦めるクロードを見て、感情の移り変わりが激しいなぁ、とロキが頭を掻いた所で、棚の向こうから女性の声が響いた。

『リ、リヴェリア様ッ!?』

 棚を挟んでも聞こえる程の声量。その声に聞き覚えの合ったクロードは眉を顰め、ロキはまたかぁ、と肩を竦めた。

 エルフの中でも王族の高貴な血を引くハイエルフであるリヴェリアは、他のエルフと出会うと大抵が同様の反応をされるのだ。

「エイナか」

「エイナ? クロードの知り合いなん?」

「ギルドの受付嬢。俺の担当アドバイザーだな、まあ、あんまり利用してないが」

 二人が棚を回り込むと、エイナがリヴェリアに頭を下げている光景が目に入ってきた。

 棚にはケースがかけられており、中には無数の酒類が並べられている。それも安酒ではなくそれなりの高級酒ばかり。

「エルフ様は真昼間から酒漁りったぁ良い御身分だなぁ」

「なんや、リヴェリアもお酒飲みたかったんかぁ、ウチも丁度お酒欲しくてなぁ~」

「クロードか、違う。エイナを見かけたから声をかけただけでだ。それとロキ、今日は酒は買わんからな」

 なぁんでやぁ、とロキがリヴェリアに泣きつくのを他所に、クロードはエイナを見やる。

「ンで、糞真面目なアンタがこんな所で何してんだ?」

「あっ、えっと……ちょっとお酒について調べてて」

 エイナは自分が担当しているベル・クラネルと言う少年が雇ったサポーターの所属派閥が悪名高いとは言い過ぎだが、余り良くない噂の流れる【ソーマ・ファミリア】の眷属だった事もあり、彼の派閥について調べていたのだ。その中で、【ソーマ・ファミリア】が市場に卸しているお酒が気になり、調べていたら母の知り合いであり、幼い頃に数度会った事のあるリヴェリア様とばったり、といった流れである。

 とはいえ、ギルド職員が一派閥について探りを入れている、等といらぬ噂が流れれば面倒事になる。それを避けるべく濁した言い方をしたエイナにロキは目を細めた。

「ほう、その酒か。私の【ファミリア】でも愛飲している者が多いな」

「ソーマやぁ! なあママぁ、買ってぇ」

「……無論、コレも愛飲している」

 甘えた様な声で強請り始めるロキに呆れたリヴェリアが溜息を零し、エイナが苦笑いを浮かべる。

 エイナが言う『ソーマ』は他の酒に比べてボトルには飾り気が無く質素であり、中身も無色透明。何も知らなければ美味しそうには見えない品である。そして、その商品に付けられた値札の金額は。

 六〇〇〇〇ヴァリス。

 比較的相場の高い冒険者専用の道具(アイテム)や装備品に匹敵、もしくはそれ以上とも言える額だ。

「……なんでエイナがソーマについて調べてんだよ」

「え?」

 目つきを鋭くして腰のポーチを無意識に抑えたクロードの言葉にエイナが怯む。

 もしや自分がソーマを使っている件について感づかれたか、と警戒するクロードを他所にエイナは慌てた様に言い訳を口にした。

「ええと、友人にこのお酒を勧められたんだけど、あの【ソーマ・ファミリア】のお酒と聞いて偏見があって……」

 苦しい言い訳だ、とクロードが警戒心を引き上げる。

 事情を知らないリヴェリアとロキは、警戒しはじめたクロードの様子に僅かに首を傾げる。

「それで、エイナ。お前は何が知りたいんだ?」

「ああ、はい。このお酒を嗜んでいる方で、依存症とか、少し普通じゃない症状を引き起こしている方とか、いますか?」

「私には酒飲みなどみな普通ではない様に見えるが……常識を逸した素振りを見せる者はいないな」

 リヴェリアの返事を聞いたエイナが考え込み、ロキはリヴェリアの服を引いて買って買ってと小声でせがむ。

 クロードは警戒し過ぎたか、と溜息を零した。

「馬鹿かよ、ンな依存性が出かねない様な完成品は普通は外に流さねェだろ」

「え?」

「外に流れんのは依存性も無い処かただの美味い酒だ」

 悪目立ちしているというのに、わかりやすいその原因を外に出す訳がないだろ。とクロードは吐き捨てると、酒の置いてある棚からそこそこの値段の葡萄酒を取り出し、籠に放り込んだ。

「ンじゃ、オレは帰るわ」

「あっ、クロードちゃん」

「ンだよ」

 咄嗟に呼び止めたエイナは暫し躊躇した後、口を開いた。

「ベル君の事なんだけど……最近、サポーターを雇ったみたいで……」

「……ああ、そういう。それならどうなろうがアイツの責任だろ」

 大まかに事情は察した、とクロードは肩を竦め会計の為に店員の下へを歩んでいく。

 その背を見ていたリヴェリアが顎に手を当てて考え込み、ロキをちらりと見やる。

「ロキ、その酒を買ってやろう」

「え!? 買ってくれるん!」

「条件はあるがな」

 条件ってなんや! と問うロキからエイナへと視線を移したリヴェリアは、片目を閉じた。

「エイナに【ソーマ・ファミリア】の事情を話してやれ。それが条件だ」

「ええで!」

「えぇ!? あの、良いのでしょうか……?」

 突然話を振られたエイナが驚く。

 その様子にリヴェリアは小さく肩を竦めると、口を開いた。

「今の話からおおよそ推測したのだがな。お前に手を貸した方が良いと判断しただけだ」

 【ソーマ・ファミリア】の『酒』について調べるエイナ。

 ベルという少年が雇ったサポーター。

 おおよその情報から、そのサポーターの所属派閥が【ソーマ・ファミリア】であり、件の冒険者の事を案じて調べている。といった所だと推測出来たのだ。

 

 


 

 

 都市外周部、市壁前の宿屋。

 クロードは自室として借り受けた部屋に荷物を運び込んでから、武装を壁に立てかける。

「はぁ……晩飯にするか」

 保存食として買いあさった堅パンを齧りながら、収納箱から調合道具を取り出して床に並べていく。

 序に、不足していた空瓶が補充されているのを確認していたクロードは、頼んでいない荷物まで入っているのに気付いて手を止めた。

「ンだ、これ?」

 この宿の三階の一室。クロードがグラニエ商会に依頼した物品等が定期的に補充される取引部屋の意味合いが強いこの部屋で、頼んでも居ない荷物が入っているのは不自然だった。

 警戒しながら、袋に包まれたそれを取り出してテーブルに置く。しげしげと観察してから、その布の塊に添えられた手紙に手を伸ばした。

 内容を軽く読み上げ、差出人の名を見た少女は呆れて溜息を零す。

「…………、はぁ、余計なお世話だっての」

 手紙の差出人はテランス・グラニエ。

 内容は『食事が偏ってそうなので、おまけを送りました』。

 改めて袋の中身を見やると、保存容器(タッパー)に詰められた数種類の調理済みの食品。

 数日前から購入していた物がおおよそ保存食ばかりだと知っていた彼からの贈り物だろう。妙なところで気を利かせやがって、とクロードは呆れつつも保存容器を開けて匂いを嗅ぐ。

「毒、なんて真似はしないか」

 後で食おう、と適当にテーブルに置いたまま、他の小瓶等を取り出していく。

 注文通りの品がしっかりと入っているのを確認し、調理法(レシピ)の書かれた紙切れを引っ張り出す。

「これと、これだな、後……これも」

 材料を揃え、並べててから薬研に材料を放り込み、ゴリゴリと擦りはじめた。

 つい昨晩、酷い副作用に襲われていた彼女は、それの対応策を編み出した。編み出した、というと語弊があるかもしれない。

 現在出ている症状に対しての対症療法を繰り返すのだ。当然、考え無しに薬を飲めばいらぬ相互作用で症状の悪化や、別の症状が出る事も考えられる。

 しかし、何もせずに居るより薬漬けにした方がなにかと都合がいい、とクロードは幾種類かの解毒剤モドキを調合して服用した。

 臨床実験なんて糞喰らえ、と自身の体で試した彼女はいくつか問題が出たモノの、体調はおおよそ回復──誤魔化しがきく程度に落ち着いた。

「まさかなぁ、小便が青色になるのは想定外だったが」

 おおよそ人体から排出されるのを想像できないような蛍光色の青色の液体が出てきた時、流石のクロードも目を疑ったが。




 お気に入り3000件突破しました。登録してくれた方々、ありがとうございます。

 この作品は『戦争遊戯』まで続けるつもりです。

 当然の事ながら、今後もクロードくんちゃんは数多の原作キャラに皮肉や罵倒を繰り返すアンチ行為が続く事が予測されます。

 特に戦争遊戯辺りでは【アポロン・ファミリア】への皮肉煽り罵倒のオンパレード(になる予定)です。

 それでもよければ応援、感想、評価などよろしくおねがいします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。