紫煙燻らせ迷宮へ   作:クセル

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第三話

 冒険者の間では『ルーム』という名称で呼ばれる正方形に開けたダンジョンの一角。

 四方八方を薄緑色の壁に囲まれた空間は、天上から落ちる燐光によって照らされていた。そんな空間に一人の少女が紫煙を燻らせながら、相対するモンスターを気だるげに睨んでいる。

「一応、対策はしてきたが、果たして効果あるかどうか」

 四本の足に二本の細い腕、大きな双眸。赤い体色をしたそのモンスターの姿ははどこか『蟻』を思わせる。

 殆どの者が想像するであろう蟻と異なる点は、その蟻のモンスターは人ほどの大きさを持つ事と、威嚇する様にくびれた腰を起点とし半身を起き上がらせている点。

 『キラーアント』。

 7階層まで到達した冒険者に立ち塞がる難敵。冒険者の間では6階層に出現する『ウォーシャドウ』と並んで『新米殺し』とも呼ばれるモンスターだ。

 その異名の謂れは、今まで相手にしてきた下級のモンスター達と比べ物にならない頑丈な甲殻、その鋭い爪による攻撃力。鎧の様に固い外皮に覆われた体躯に半端な攻撃は弾かれてしまうだけでなく、例え弾かれずとも甲殻の上から損傷(ダメージ)を与えるのは非常に難しい。加えて腕先には湾曲した歪な鉤爪。

 キラーアントにやられる1つ目のパターンは堅牢な防御を崩せない間に鋭い爪で致命傷を喰らうというシンプルなものだ。そして、それを知っていたとしても5階層までのモンスターに慣れ切った冒険者の多くが餌食となっている。

「はぁ、だっる」

『ギギッ』

 キチキチキチッ、と甲殻の擦れ合う独特な音を響かせ顎を鳴らすキラーアント。

 少女、クロードは紫煙を吹き巻いて口角を上げ、数歩の間合いを置いて相対する相手に一気に接近していく。

 手にしているのは喧嘩煙管。鈍器であるその武器は堅い甲殻の上から損傷(ダメージ)を与えるのに向いているだろう────ただし、それは『力』に優れた冒険者なら、の話であるが。

 左腕を大きく振りかぶるキラーアントに対し、振り下ろされるより前に小柄な体躯を生かして懐に飛び込んだクロードが煙管を両手で振り抜く。

 ガギンッ、と甲高い音を響かせて煙管は甲殻に弾かれた。力不足の彼女では鈍器である煙管を駆使しても損傷を与える事は叶わない。

「ああ、本当にだるいなオマエ」

 キラーアントの討伐方法は大まかにわけて二種類。一つ目は力任せに甲殻諸共砕き潰す方法。もう一つは甲殻の隙間を狙い柔らかな肉を抉る方法。

 後者は動き回るキラーアントの狭い甲殻の隙間を狙うのは駆け出し冒険者には難度が高く。前者はそこまでの力を発揮できる駆け出しは少ない事もあり、討伐難度はかなり高いのだ。

 大人になってもヒューマンの子供程度の背丈にしかならない小人族(パルゥム)は、その体格故に力に優れている訳ではない。当然、クロードもその一人。

『ギギギッ!』

 反撃として鉤爪を振るおうとするキラーアントだが、小柄なクロードはほぼ密着距離にまで潜り込んでおりそのままでは攻撃できない。故に、その顎で噛み砕かんと大口を開けて少女に噛み付こうとした。

 目の前に迫る怪物の顎。冒険者の頭部を容易く噛み砕くであろうその攻撃に対し、クロードは大きく飛び退く事で回避を選択する。小人族(パルゥム)という種族は小柄故に『力』が弱いが、小柄故に回避は得意だ。

 怪物は甲殻の擦れ合う不協和音を響かせてそのまま顎での追撃を行う。誘われる様に、導かれる様に少女の思惑通りの追撃を行った怪物に対し、クロードは口角を吊り上げながら煙管の吸い口を咥えて口内で詠唱する。

【肺腑は腐り、脳髄蕩ける────堕落齎す、紫煙の誘惑】

 大口開けて迫る怪物に対し、クロードは口腔に満ちた紫煙を吹き付ける。

 真正面から紫煙を浴びた怪物がぴたりと動きを止め、ギチギチギチッ、と震え出した。

「ふぅむ、使い勝手が悪いな」

 二、三歩と距離をとってキラーアントの動きを観察していた彼女は、徐に煙管を両手で振り上げ、怪物の頭部目掛けて振り下ろした。

 ズゴンッ、とキラーアントの頭部が地面にめり込み、頭部を守る硬殻が拉げ砕ける。先ほどまでの非力な少女の一撃とは思えない強烈な一撃。彼女の特殊な魔法による身体強化によってもたらされたものだ。

 罅割れた甲殻の隙間から緑色の体液を零しながらも、キラーアントはキチキチッ、と顎を鳴らしていた。

「……まだ生きてんのか。対策はしたが、大丈夫かコレ?」

 キラーアントはただ手強い難敵というだけではない。なんとこのモンスターは自身が危機的状況(ピンチ)に陥ると特殊な生理活性物質(フェロモン)を分泌し、周辺の同種のモンスターを呼び寄せる性質を持つ。

 故に、キラーアントによる犠牲者が出る2つ目のパターンは、長期戦に陥り数え切れないキラーアントに襲われる事になる事。

 完全に息の根を止めるに至らなかった事に慌てるでもなく、クロードは腰のショートソードを引き抜き、身動きの出来ないキラーアントの首元に突き立てる。甲殻の隙間を抜け、柔らかな肉を裂く感触と共にキラーアントの瞳から光が消える。

 完全に息の根を止めたキラーアントを前に、クロードは周囲を警戒しながら煙管に新たな刻み煙草を込めた。

 キラーアントの犠牲になる3つ目のパターンは、止めを刺し損ねたキラーアントによるフェロモンの過剰分泌による連戦。つい先ほど止めを刺し損ねたキラーアントによるフェロモン分泌は間違いなく引き起こされた事だろう、故に連戦に対し警戒しているのだ。

「…………」

 数分程耳を澄まして警戒していたクロードは、暫くして警戒を解いて深く息を吐いて肺に残る紫煙を吐き出した。

 本来ならば既にキラーアントに囲まれていてもおかしくない状況。しかし、彼女は特殊な対策を施して此度の探索を行っていた。

「効果有り、と……これで二〇匹目と」

 懐から取り出した革表紙の手帳に覚え書きを残し、キラーアントの死体から魔石回収作業に取り掛かった。

 依頼者は【ミアハ・ファミリア】のナァーザ・エリスイス。

 内容は特殊な混ぜ物をした煙草を利用したキラーアントのフェロモン対策。

 常日頃から刻み煙草等の嗜好品を密かに用意して貰っている礼として引き受けた冒険者依頼(クエスト)を行っていた所であった。

 もしこの新作が広まれば少しはキラーアントの犠牲者も減る事だろう。冒険者で煙草を嗜む者は少ないが、香を焚く感覚で使用するのであれば何の問題も無い。

 だが、それ以前にこの煙草は重大な問題を抱えている。

「価格に釣り合わないんだよなあ」

 フェロモン対策を行う為に用意された素材からして、価格はどれだけ安くても三〇分程度の効果時間で回復薬(ポーション)数本分の値段になる。

 駆け出し冒険者が欲しがるであろう効果の道具であり、キラーアントに慣れた冒険者には全く売れないであろう道具故に、肝心の駆け出し冒険者では手を出しにくい値段設定では意味が無い。

「まあ、ナァーザならなんとかすんだろ」

 クロードは煙管に火を入れる。混ざりものの入った刻み煙草の煙を口に含み、一気に吐き出して、呟いた。

「何より、クッソ不味い」

 舌がビリビリと痺れる様な感覚に陥る程のエグみを含んだ紫煙は、とてもではないが吸えたものではない。煙草に五月蠅い訳ではないクロードでもこの香味(フレーバー)は二度と御免だと思う程のモノだった。

「ったく、面倒だな」

 魔石を抜かれたキラーアントの灰山に煙管の灰を捨て、お気に入りの刻み煙草を煙管に詰め始めたクロードは、ふと灰の山が一人でに崩れたのに気付いた。

「んだ……?」

 風も無いのに小山がさらさらと崩れる事に本当に小さな違和感を抱いた彼女は、煙管に火を入れずにルーム内を見回した。

 四方八方、天上に床に至るまで薄緑色の空間にはルームとルームを繋げる通路が四方に伸びている。

「…………? 気のせいか?」

 感じた違和感を気のせいだったのだろうか、と首を傾げつつも思考の端に止めながらクロードは灰を捨てて新たな刻み煙草を煙管に詰める。

 そのさ中、つい半月前に冒険者になった駆け出しの少年の事を思い浮かべクロードは苦い表情を浮かべた。可愛い女の子と仲良くしたい、あわよくばいちゃいちゃしたい。といった邪まで青臭い考えを抱いた事を知り、その『可愛い女の子』の中に自身が含まれていた事を知ってしまったのだ。

 次の日、最低限の冒険者指南を文字通りに叩き込んでほっぽり出してしまった事もあり少し気掛かりだった。

「仕方無えな、帰りに様子見とくか」

 流石に死なれてしまえば寝覚めも悪くなる。それに女神に頼まれた事だ、とクロードが今日は早めに切り上げて地上に戻るかと地上に続く階段へと足を進めようとした所だった。

『ヴヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』

「ッ!?」

 突然、迷宮の奥から響いてくる怪物の咆哮。

 背筋に走る悪寒に舌打ちを零し、クロードはその場から駆け出した。

(嘘だろ、この階層であんな咆哮(こえ)なんか聞いた事ねえぞ!?)

 自身の知識に無い怪物の咆哮。少なくとも7階層までで出現するモンスターの中には先の咆哮を上げる種は存在しない。それどころか、下手をすると上層のモンスターでは無い可能性すら有り得る。

 特徴的な咆哮は、何処か牛の鳴き声を思わせる響きが混じっていた。

「……まさか、いや、そのまさかみたいだな」

 ドドドドドッ、と蹄が地面を蹴る複数の足音が後方より響いてくるのを認識したクロードが肩越しに振り返り見た光景。

 燐光降り注ぐ薄緑色の通路を数匹のモンスターが凄まじい速度で駆けてくる姿があった。

「────ミノタウロス!?」

 『ミノタウロス』。

 二Mを超える巨躯を持つ牛頭人体、筋骨隆々とした赤銅色の体皮を持つモンスター。Lv.2に区分されており本来の出現階層は16階層から17階層、つまり中層に出るはずの怪物だ。

 ギルドの区分分けとし1階層から12階層までを上層、13階層以降を中層と区分されており、中層以下の階層に出現する怪物は適性レベルに達していたとしても苦戦必須で、なおかつ数人(パーティ)で挑む事が前提条件とされている。

 更に最悪な情報として、ミノタウロスというモンスターは、熟練の冒険者でも避けて通る程の難敵。

 強靭な筋肉に阻まれるだけでなく、その力も洒落にならず。ある程度の知能も持ち合わせていると、相手にするのを躊躇わせるに十二分なステイタスを持っている。

 当然、Lv.1の冒険者では歯が立たない。

「くはっ、笑っちまうなぁ!?」

 一目散に逃げていく少女の背後、倍近い背丈の筋骨隆々とした怪物が迫る。

 圧倒的歩幅の違いだけではない、純粋なレベルと能力(ステイタス)差によって距離は瞬く間に詰められていく。

 普通に反撃を試みた所で意味が無いか、とクロードは煙管の吸い口を咥え、火を乏した。

【燃え上がれ、戦火の残り火】【肺腑は腐り、脳髄蕩ける────堕落齎す、紫煙の誘惑】

 どちらも短文詠唱によって発動する効力を持つ二つの魔法。

 片や着火し、特殊な効果を発動する付与魔法(エンチャント)。もう一つは紫煙を纏う自身への強化魔法(ステイタスブースト)と、紫煙を吸った敵対者に対しての異常魔法(アンチステイタス)。二つの側面を持つ特殊な魔法。

 強化された能力(ステイタス)を駆使し、一気に加速して引き剥がそうとして────ミノタウロスの蹄による一撃が背後に迫っているのに気付いて回避を試みる。

「うわあっ!?」

 回避は成功したものの、足元に着弾した一撃の衝撃に吹き飛ばされて少女のからだがごろごろと転がって、止まる。

 慌てて身を起こした彼女の前には、三匹のミノタウロス。

 少女は手元に煙管を引き寄せようとして、バギンッ、と鈍く響いた音に表情を強張らせた。

「あ────最悪だ」

 一歩、一歩と獲物を前に獰猛な笑みを浮かべるミノタウロスの足元。蹄によって無残に踏み砕かれた煙管があった。

 腰のショートソードを抜いた所でもはや無意味。自身の敏捷では逃げ切れない。もはやとれる手段はこれまでか、()()()()()()ならば諦めている所だろう。

「はぁ……本当に、最悪」

 羅宇を踏み砕かれた煙管の火皿から立ち上る細い紫煙。迫る筋骨隆々の巨躯。

 少女は手の平を立ち昇る微かな紫煙に向け、秘匿していた魔法の効果を発動せんとし────。

「どけえっ!!」

 牛頭が砕け散った。

 唖然とするクロードの眼前。迫っていた怪物の頭部が狼人(ウェアウルフ)の青年の蹴りで砕け散り、もう一匹は無数の剣閃が閃き一瞬で賽の目状に切り分けられた。

 金糸の様な髪を揺らす女剣士の早業。

「手間かけさせやがって!」

 残る一匹も瞬殺される光景に唖然とした表情のままのクロードを置き去りにし、狼人(ウェアウルフ)の青年とヒューマンの女剣士は駆けていく。

 一言、ごめん、と女剣士に告げられた事を僅かに認識し、嵐の様に去っていった二人の姿を反芻したクロードは呟く。

「【ロキ・ファミリア】の【剣姫】と【凶狼(ヴァナルガンド)】か……」

 都市最大派閥として知られる強豪派閥。幾度も深層遠征に繰り出して迷宮探索に力を入れている探索系派閥の一つにして、ほぼすべての冒険者が所属する事を夢見る【ファミリア】。

 都市の中で知らぬ者の居ない派閥の幹部。Lv.5に至った第一級冒険者だ。

「…………」

 残されたのは三体分のミノタウロスの死体。賽の目状に刻まれたもの、頭部が砕け散ったもの、真っ二つにされた上で鼻を蹴り潰されたもの。それに壊れた煙管と唖然とした少女。

 ほんの数秒間呆けた後、彼女は身を起こしてミノタウロスの死体を見てから二人の第一級冒険者が去っていった方向に視線を向ける。

「…………おい、おいおい、なんだ今の……つか、貰って良いのか? コレ?」

 死体にはまだ『魔石』が残っている事だろう。本来ならば他の冒険者が仕留めた獲物に手を出すのは礼儀がなっていない。しかし慌てた様子で去っていった二人が戻ってくる気配は無い。

(……煙管ぶっ壊されたし。戻ってこねえし、別に良いか)

 クロードはおもむろにナイフを取り出し、『魔石』の回収作業に入った。

 暫くの間、壊れた煙管の修理費が目の前の怪物から得られる収益で賄えるかうんうん唸りながら作業していた彼女は、ふと顔を上げた。

「……アイツは大丈夫なのか?」

 あの第一級冒険者達の慌てっぷりから、上層にはまだミノタウロスが残っていたのかもしれない。もしそれが更に上の階層へ行ったのであれば、と考えて首を横に振った。

(流石に、アイツの行動範囲の2、3階層にまではいかないだろ)

 

 


 

 

「はぁ? ミノタウロスに襲われたぁ? 5階層で?」

 ダンジョンを運営管理する『ギルド』の本部。そのロビーの一角に設けられた一室。ミノタウロスの死体から回収した『魔石』を含め、件の派閥に見つかる前に換金を終えたクロードは偶然にも気に掛けていた少年と再会していた。

 つい先ほどまでシャワーを浴びていたのか妙にさっぱりとしたベルと、対面に座るエイナを見つけた彼女が歩み寄って話を聞けば、自身同様にミノタウロスに襲われて危うい所で助けられたのだという。

「なあ、ベル……お前、人の話聞いてたか?」

「うぐっ……」

 てっきり2階層か3階層で探索しているのかと思えば、よりにもよって5階層にまで足を運んでいると聞かされて少女の目付きは冷め切り、少年の脳天に視線と言う名の槍を突き立てていた。

「そうだよベル君、私の言う事を聞かないどころか、クロードさんの言う事を聞かないなんて、キミの神経を疑っちゃうなぁ」

「うう……」

 美少女と美幼女、二人に責め立てられた少年の眦に涙が滲みそうになる。

 無論、此度の一件において悪いのが誰かと言われれば、自身の実力に見合わぬ階層に足を運んだ挙句に中層の怪物に襲われて危うく死に掛けた少年の方である。とはいえ、クロードの方にも駆け出し冒険者を半端に教育しただけでほっぽりだした事もある為、彼女にも僅かにだが非はあるだろうが。

「ったく、死ななかっただけ儲けもんだと思っとけ。良い経験になったろ」

「そうだよベル君。本当に幸運だったんだからね?」

 適当に肩を竦めて鼻で笑うクロードと、優しく諭す様に少年の鼻先を小突くエイナ。二人の女性の言葉に少年が力無く頷いた。

 ベル自身も、此度の一件は本当に幸運な出来事であったと自覚している。その幸運は助けられた事だけではなく、【剣姫】との出会いも含まれている辺り、懲りているのかいないのか。

「そういえば、クロードさんは平気だったの?」

「何がだよ」

「ミノタウロス。下の階層から来たんだよね?」

「あー…………」

 少年よりも少し深い階層で活動していたクロードもまた、ミノタウロスに出会ったのではないかとエイナが心配そうな表情を浮かべたのを見て、彼女は面倒そうに視線を逸らしてから呟いた。

「此処に居るのが何よりも証拠だろ」

「そっか」

 この場に居る事こそ、自身が無事であった証拠に他ならない。その答えはエイナの質問の意図からすると若干ズレていたものの、おおむね及第点の返答であった。

「あの、それで、ヴァレンシュタインさんの事を……」

 少年が恐る恐る切り出した事で二人の視線が彼に集まる。片や仕方が無いなぁと苦笑し、片や冷めて不機嫌そうな目を向けた。

「オレ、帰るわ。付き合ってらんねぇ」

「あ、クローズさん……」

 少年が抱いた恋心か何かは知らないが、傍から見ていて楽しいものではない、とクロードは話を切り上げる。

「先に帰ってステイタスの更新しとくから、オマエはその相談役(アドバイザー)に恋愛指南でも頼んどけよ」

 捨て台詞の様に吐き捨てると、彼女は壊れた煙管を担いでギルドを後にした。

 

 


 

 

 クロード・クローズ

 Lv.1

 力:E483→E489 耐久:F344→F345 器用:C632→C645 敏捷:D520→D534 魔力:B730→B742

 《魔法》

 魔法名【シーリングエンバー】

 詠唱式【()()がれ、(くすぶ)戦火(せんか)(のこ)()

 ・付与魔法(エンチャント)

 ・火属性

 ・感情の丈により効果向上

 

 魔法名【スモーキーコラプション】

 詠唱式【肺腑(はいふ)(くさ)り、脳髄(のうずい)(とろ)ける。堕落(もたら)す、紫煙(しえん)誘惑(ゆうわく)

 ・増強魔法(ステイタスブースト)

 ・異常魔法(アンチステイタス)

 

 魔法名【カプノス・スキーマ】

 詠唱式【()()()ちよ、(なんじ)()(あた)えられた()加護(かご)よ。戦場(せんじょう)()ちよ、(なんじ)()加護(のろい)(もたら)災厄(さいやく)よ】

 ・形状付与

 ・魔力消費特大

 

 《スキル》

 【灰山残火(アッシェ・フランメ)

 ・経験値(エクセリア)の超高補正

 ・感情(ほのお)が潰えぬ限り効果持続

 ・火属性への高耐性

 

 【煙霞痼疾(パラソムニア)

 ・『魔力』の高補正

 ・特定条件下における『魔法』の威力超高補正

 ・幻惑無効

 ・錯乱耐性

 

 

「冒険者になってから一ヶ月半でこれかぁ……前にも言ったけど、このスキルは黙っていた方が良いね」

 少女が着替えをしている横で、女神は準備してあった羊皮紙に更新したステイタスを書き写していた。

 ヘスティアの住処────現在は【ヘスティア・ファミリア】の本拠(ホーム)としてギルドにも正式に登録された、廃教会の隠し地下室。

 地下室とはかけ離れた生活臭に満ちた小部屋。人が暮らしていく分には十分な広さを持つその部屋で、少女は上半身を包むものが無い状態で女神の手元を覗き込んだ。

「散々言われたから知ってる。オレも面倒は御免被るからな」

 嫌々といった表情で女神の手元から羊皮紙を掠め取り、内容に目を通す。そんな彼女の色素の薄い背にはびっしりと黒い文字が見て取れた。それは神から『恩恵』を授かった証である。

 少女の背に刻まれている【ステイタス】──『神の恩恵(ファルナ)』。

 神の血(イコル)を媒介にして、神々が扱う文字【神聖文字(ヒエログリフ)】を刻む事で対象の能力を引き上げる。神々のみに許された力。

 地上の人間では認識出来ず、神々にのみ扱う事が出来る【経験値(エクセリア)】というものが存在する。

 それはいわゆる人間の歩んできた歴史の事であり、神々はその歴史の断片である『モンスターを倒した』や『強敵を討ち果たした』と言った一つの軌跡を引き抜き、成長の糧へと変える。

 つまるところ【経験値(エクセリア)】とは人々が成し遂げた事の質と量の値の事だ。

 神々はそれを見る事が出来るだけでなく、触れ、干渉し、眷属の背に刻まれた【神聖文字(ヒエログリフ)】を塗り替え、継ぎ足し、能力を向上させる。

「にしても、流石に上がりが悪くなってきたか」

「いや、十二分に上がってると思うけれどね」

 女神の言葉を聞きながら、少女は顎に手を当てて考え込む。

 渡された羊皮紙に刻まれた【ステイタス】。

 Lv.と五つの『基礎アビリティ』と、【器の昇格(ランクアップ)】の際に条件を満たしていれば習得できる『発展アビリティ』。そして《魔法》と《スキル》。

 『基礎アビリティ』の数値はそのアビリティに対する熟練度を現し、0~99がI、100~199がH、と基礎アビリティの熟練度と連動したS、A~Iまでの段階が表示されている。最大値は999であり、最大まで近づけば近づく程に伸びは悪くなっていく。

 Lv.は最も重要なステイタス。レベルが一つ上昇するだけで基礎アビリティの補正以上の強化が執行される。神々曰く『心身の()()』であり、冒険者の誰しもが【ランクアップ】を目指して日夜熟練度を上げんと冒険を続けている。

「……はぁ、力と耐久、もう少し伸びねえかな」

「十二分に高いじゃないか。一ヶ月半でこれならもう十分過ぎるよ」

 女神の言葉を聞いた少女は上着を羽織り、吐き捨てた。

「何処が、全然足りないっての」




 オリ主、クロード・クローズくんちゃんのステイタス公開。


 次回話で『豊穣の女主人』でベートさんのイベントに入ります。


 平日の空いた時間に少しずつ書き進めた『第二話』。土曜日にがっつりと『第三話』を書きました。
 圧倒的に時間あったのに『第三話』の方が苦労しましたね。
 魔法名、スキル名を決めるのに滅茶苦茶時間がかかっちゃったんです。頭がどうにかなりそうでした。

 【シーリングエンバー】→【封じられた残り火】
 【スモーキーコラプション】→【紫煙と堕落】
 【カプノス・スキーマ】→【煙と形状】
 【アッシュ・フランメ】→【灰と炎】
 【パラソムニア】→【睡眠時随伴症】

 我ながら、やっつけな名付けだなと思います。
 英語、ギリシャ語、ドイツ語のごちゃ混ぜですしね。

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