紫煙燻らせ迷宮へ   作:クセル

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第三六話

 迷宮の楽園、18階層『リヴィラ』の街。

 即席の小屋の商店が立ち並ぶ一角。

 目的を果たし、煙管を吹かしながら歩んでいた銀髪の少女は見知った顔を見つけて僅かに表情を歪めた。

 白髪の少年の周囲には、幼い女神や仲間達、そして【ロキ・ファミリア】の冒険者等が居るのが確認できる。

 ついさっき別れて行動してから煙草を入手して落ち着きを取り戻したとはいえ、昨晩の出来事を忘れる事なんて出来る筈もない。

 自身よりも後から恩恵を授かり、冒険者になった少年が既に自身を飛び越え、全能力値(アビリティ)最高評価(オールS)を達成していた、等という事実を受け止めきるには時間が短すぎる。加えて【タケミカヅチ・ファミリア】への対応等で割れた意見の事もある。

 合流すべきか僅かに躊躇したクロードだったが、人混みの中から自身の姿を見つけて驚愕する表情を浮かべた少年、ベルと視線がかち合い、諦めた様にそちらに歩みを進めようとした。

 そんな時に、ドンッ、と。

「あぁん?」

「あ……す、すいません!?」

 クロードに気を取られたベルがすれ違おうとしていた冒険者の肩とぶつかった。

 慌てて謝罪を口にするベルの様子にクロードが紫煙と共に溜息を吐いて呆れる。嫉妬するのも馬鹿らしい程に、注意力散漫な様子に、抱いていた嫉妬や羨望が僅かに薄れ──けれども消えてなくならず、胃の底に重く燻る様に圧し掛かる。そんな不快感を掻き消さんと紫煙で肺を満たした彼女は、少年とぶつかった冒険者、二人の様子を見て表情を険しくした。

 偶然肩をぶつけて謝罪した相手が見知った人物だったとでも言いたげな驚愕の表情を浮かべたベルと、少年の顔を見て目を見開く目や頬に傷跡のある強面のヒューマンと、彼に付き従う二人の冒険者。

 まさか揉め事(トラブル)か、とクロードが足を早めようとした所で、その冒険者が少年と行動を共にしていた【剣姫】や【大切断(アマゾン)】を見て怯み、舌打ちと共に離れていく。

 丁度、クロードの横を不機嫌そうに通っていったモルド達を見て、クロードはベルに視線を向け、僅かに湧き出た殺意を押しとどめた。 

 ほんの一瞬、あの冒険者、モルドは少年の胸倉を掴もうと手が伸びかけていた。明らかに何らかの恨みを抱いており、少年を目の敵にしているのは明らかだ。

 クロード自身も少年の八方美人を思わせる優しさには辟易もするし、才能に醜くも嫉妬したりもしている。しかし、それを表に出して少年にぶつける気はさらさらない。そんな事をするぐらいなら自死する、と断言出来る程なのだから。

「よぉ」

 頭を振り、残った煙草を一気に吸って肺をたっぷりの紫煙で満たした彼女は灰を捨てつつ片手を上げて少年に存在を示した。

「あ、クローズさん……」

「クロードくんじゃないか。用事は済んだのかい?」

「ああ、まあな」

 ベルのそばにいた女神の問いかけに軽く肩を竦め、クロードは問いかけた。

「ンで、今のは? 揉め事(トラブル)か?」

「えっと、実は────」

 過去に少年が昇格(ランクアップ)祝いを『豊穣の女主人』で行っていた際、ベルに絡んで揉め事を起こし、最終的にリュー達店員に叩きのめされて店から追い出された冒険者だ、と聞かされたクロードは細道の奥で背を小さくしている彼らを見て、「へぇ」と侮蔑の籠った吐息を零した。

 くだらない逆恨みをしている。彼らの瞳の奥に燻る粘っこくもどす黒いその醜い色を見た少女は、自身の中に同じ物が燻っているのを自覚しつつも、吐き捨てた。

「なるほど、とんだ屑共だ……」

 

 


 

 

 『リヴィラ』の街で必要装備を整え、野営地に戻るベル達と行動を共にしてクロードが帰還すると、間もなく18階層には『昼』が訪れた。

 天井の水晶群が放つ光が強まり、わずか数十分ほどで階層内の明るさが変化する。

 地上と比べて早い変化にクロードが鬱陶し気に太陽を思わせる白水晶を睨み付けた、そんな時。

「ねぇねぇ、みんなで水浴びしに行こう!」

 明るく呼びかけるティオナの声が響き渡った。

 散開する前の女性陣にも声をかけて回る彼女は、姉妹であるティオネと漫才を繰り広げつつも、ヘスティアやリリルカ、アスフィ等にも提案を伝えていく。

 18階層に至るまでの道程で汗を掻いたのは勿論、派手に地面を転がり土埃に塗れた服。可能ならば清めておきたい、とヘスティアが考え、クロードを誘った。

「クロードくんも来ないかい?」

「……あァ? なんでまた」

「ほら、君も汗かいただろうし、それに……ちょっと匂うよ?」

 鼻を近づけて匂いを嗅いでくる女神に辟易した様子のクロードが肩を竦める。

「モンスターがうじゃうじゃ居るだろ、呑気に水浴びなんかできンのかよ」

「あ、それは大丈夫! 交代交代で見張りをすれば良いから!」

 銀髪の少女の懸念を、ティオナが元気一杯に否定する。

 行こう、と元気一杯に誘われたクロードは、僅かに表情を険しくすると女神を伺い、僅かに頷いた。

「わぁったよ……行きゃあ良いんだろ、行きゃあ」

 男性陣を野営地に残し、【ロキ・ファミリア】の女性陣やヘスティア、リリルカ、クロード、アスフィ等がティオナを先頭に森の奥へを進んでいく。

「じゃーん、ここ!」

『おぉー!』

「……へぇ」

 ヘスティア、リリルカが口を揃え、クロードは僅かに感嘆の声を零す。

 彼女たちの目に飛び込んできたのは、十М(メドル)程の段差から水流が落下する、大きな滝だ。

 滝壺から生まれた水飛沫が薄い霧の様に漂い、涼し気な冷気が場を満たす。肌を優しく濡らす水滴の感触も心地良い。

 ティオナによって案内されたのは、滝の下にある大きな泉だった。周囲は木々と水晶に囲まれ、頭上は分厚い木々の天蓋に覆われている。水晶の放つ藍色の輝きによって照らされる光景も相まって、森の聖域と名付けられていても違和感はない。

「いいでしょー、ちょっと前の探索で見つけたばかりなんだ!」

「……確かに、とても綺麗な所だね」

「少し疑問に思ったのですけど、ティオネ様、この水は何処から流れてくるのですか?」

万年雪(ひょうかい)とは違うんだけど、階層の奥に水晶があってね、そこから溶け出してくるみたいに水が流れてくるのよ。普通に飲んでも問題無し。というか地上の水より断然綺麗ね」

 ティオナの自慢げな様子にヘスティアが感嘆し、リリルカの問いにティオネが軽く答える。

 派閥が違うという事もあって何処か距離感のあった彼女らも、この頃になると女性陣の間には物怖じや遠慮は無くなっていた。言葉を交わしながら衣類を脱いでいき、各々が肢体を晒していく。

 そんな中、クロードは一人薄汚れたコートを水晶に置いて腰掛けていた。

「クロード君も脱がないのかい?」

「見張りが必要だろ、先に水浴びしてろ」

 何処か物憂げな様子で追い払う様な仕草をした彼女の様子に、ヘスティアは僅かに怯みかけ、すぐに気を取り直した様に彼女の腕を掴んだ。

「ほら、見張りなら彼女達がやってくれるし良いだろう?」

 女神が指し示す方向に視線を向け、クロードは僅かに溜息を零す。

 【ロキ・ファミリア】の女性陣達──リーネと呼ばれた少女を中心に警戒している見張りが居た。

 レベルからしてもクロードよりも優れている彼女等が見張りをしている以上、クロードが見張りする理由はない、とヘスティアに急かされた彼女は、物憂げな様子のままインナーに手を掛けた。

 下着を足から引き抜き全裸になろうとしていたリリルカが、上着を脱ぎ捨てた銀髪の少女を見て僅かに息を呑む。

 華奢な体に見合わない様な古傷が刻まれた身体。大きく斜めに刻まれた裂傷と思しき古傷もあれば、打撲を受けた様に赤黒く変色した部分も見受けられる。顔に刻まれた傷跡から想像していなかった訳ではないとはいえ、想像以上に刻まれた傷の多さにリリルカは目を見開いて驚愕していた。

 女神は僅かに申し訳なさそうに衣類を脱ぎ、丁重に水晶に置いていくクロードの背に刻まれた古傷を指先で軽く触れ、擽ったそうにクロードに手を振り払われた。

「やめろ擽ったい」

「クロード君……また、傷が増えたね」

「あァ? 冒険者やってりゃ傷の一つや二つ、増えて当然だろ」

 面倒臭そうに対応した彼女は、傷跡を恥じるでもなく清流に足を踏み入れ、僅かにこびり付いていた血塊等を洗い落としていく。

 周囲を見張っていた【ロキ・ファミリア】の女性達が、彼女の肢体を見て痛まし気に表情を曇らせた。昨日の晩に彼女が放った壮絶な覚悟。それが嘘偽りなく彼女の本心であり、何人たりとも譲らぬ境界線を悟らせる。

 そんな壮絶な生き様を身に刻みつけた様な姿にヘスティアが手を伸ばしかけ、止めた。

 一応は恩恵を授けた女神として、彼女が抱え込んでいる複雑な事情は既に知っている。その上で過去に幾度も会話(コミュニケーション)による無茶の軽減の提案を行い、その全てを蹴られている。本心を言えば、ヘスティアとて彼女の無茶は止めたい。しかし、止める為の言葉を持ち合わせてはいないのだ。

 そんな風に声をかけるのを戸惑う女神を差し置いて、【ロキ・ファミリア】の姉妹がクロードに近づいていく。

「最初見た時から思ってたけど、凄い傷だね」

「本当に酷いわね。どんな戦い方したらそんな風になるのかしら」

「……ンだよ」

 【ロキ・ファミリア】の第一級冒険者。

 体中に消えぬ傷跡が刻まれたクロードとは異なり、第一級冒険者に至るまで数多くの戦闘をこなしてきた筈の二人の身体には傷跡は見られない。

 豊満な胸を持つティオネも、しなやかな肢体を持つティオナも、そして、最強のヒューマンと謳われる【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインも。

 クロードが一通り彼女らの肢体を見やり、肩を竦めた。

「オレはアンタ等みてェに傷跡なんざ気にする余裕はねェんだよ」

 【ロキ・ファミリア】の様に潤沢な資金と眷属想いの主神によって、傷跡が残りかねない怪我や負傷は対応して貰える恵まれた環境に居たわけでもない。自分の身に刻まれた傷跡を治すよりも優先して武装の充実を図り、より戦力の増強を目指す。

 加えて、そもそも負傷を治すなんて考えは微塵もない。そんな事を気にして戦える程、自分には強さが無い。

 思わず嫉妬交じりの皮肉が口から零れ、クロードは即座に口を閉ざした。

 周囲から向けられる哀れみの視線に、彼女は水浴びに同行した事を僅かに後悔してから、ざばざばと乱雑に髪に絡んだ固まった血を洗い落としていく。

 これ以上話す気はない、と拒絶する様な銀髪の少女の仕草にティオナとティオネは僅かに顔を見合わせ、肩を竦めると距離を取る。

 今度は姉妹と代わる様に一人の小人族(パルゥム)がクロードに近づいた。

「……テメェも、哀れみに来たかのかよ」

「違いますよ。背中を流しに来たのです」

 僻んだ物言いで突き放そうとするクロードに対し、リリルカは真っ直ぐ言葉を反した。

 僅かに澱んだ瞳でリリルカを睨むと、クロードは面倒臭そうにリリルカに背を向ける。

 言外に任せる、と言われたリリルカが彼女の背を流しながら、その身体に刻まれた傷跡を見て口元を引き締めた。

 つい昨日、クロードが語った思想。それら全てを貫き通してきたからこその負傷の数々。

 頬に傷が刻まれていたのは一目見てわかるし、その事を認識した上で彼女と行動していたリリルカは、けれども想像していたよりも酷い傷だらけの少女の背に指を震わせた。

 普通の冒険者からはとうてい考えられない、異質極まりない思想。早死にするとしか思えないその思想を貫こうとし、その結果数多くの傷跡を残す背中。それを丁重に流しながら、リリルカは質問を投げかけていた。

「クローズ様は、どうしてそこまで頑張れるのですか?」

 彼女の身体に刻まれた傷は、一生消える事は無いだろう。

 頬に刻まれた傷も、背中や胸元、腹に刻まれた古傷も、全て綺麗に治る事はない。二度と消えぬ傷を刻んで尚、その意思を貫こうとする理由。

 ただひたすらに自己責任を貫き、恩に義理堅く、危機的状況に陥ったとしても決して他者に擦り付けない。高貴とも言えるその意思を貫く代償として、消えぬ傷を背負う。

 リリルカからすれば考えられないその在り方。

「はぁ……?」

 彼女が放った質問に、クロードは大きく表情を歪めて肩越しに振り返ると、呆れた様な声を上げた。

「むしろ、頑張らない理由がわからん」

 至極当然、と言わんばかりの返答にリリルカは眉を僅かに顰め、静かにくすんだ銀髪に手を伸ばす。

 雑に水洗いされ、痛んだ様子が伺える髪を丁重に洗いながら、リリルカは彼女の言葉を噛み締める。

 クロード・クローズという少女が放った言葉。そして、今放たれた返事。

 それらを踏まえた上で、リリルカは冒険者の常識の通じない彼女に口を開く。

「普通、冒険者はそこまでしませんよ」

 古傷が残る冒険者は珍しくはない。しかし、彼等も好き好んで古傷を残している訳ではないのだ。治療が間に合わなかった、治療道具が尽きており治しきれなかった等、事情があって彼らは治らぬ傷を背負った。むしろそれを勲章の様に掲げる者も居れば、恥ずべきとする者も居る。

 そんな中にあって、銀髪の少女はそもそもその傷跡を気にする様子はない。

 周囲から向けられる哀れみの視線に不愉快そうに身を揺すり、傷跡に触れるリリルカの手を睨むと、パシリ、と叩き落とした。

「何が聞きたいんだよ」

 不機嫌そうな色を宿し、銀髪を鬱陶し気に撥ね退けたクロードが振り返り、問う。

 真っ直ぐ向けられた濁った灰色の瞳の奥、燻る様な、ちらつく赤い色を見たリリルカは僅かに怯みかけ、意を決しながらも口を開いた。

「リリは、クローズ様の事が知りたいです」

「……あァ?」

 リリルカはクロードの事を何も知らない。

 ただ一方的に嫌われているだけ。そして、嫌われる理由も大いに納得できる。逆の立場に立ってみればリリルカなんて嫌われて当然。それこそ二度と近づくな、と激しく罵られても仕方ない。そんな風に自身が思えるぐらいに最低な人間がリリルカ・アーデであり、そんな彼女を命懸けで助けてくれたのがクロード・クローズだ。

「クローズ様はリリの事を助けてくださいました」

 最初こそ印象は最悪。二度と関わり合いになりたくない、そう思えてしまうぐらいの人物だった。

 しかし、関わっていけばその印象はガラリと変わった。悪かったのが自分自身だったと認めてしまえば、後のクロードは酷く真っ直ぐで、何処までも芯の通った潔い性格をしている。

 どこが捻くれているというのか。

 リリルカが今まで相手してきた破落戸や無法者と言い切っていい冒険者に比べたら、彼女ほど真っ直ぐな人間は他に居ない。

 むしろ────逆だ。

 クロード・クローズが捻くれているのではなく、自分達の方が捻じ曲がっている。そう思えてしまう。

「…………聞いて、どうすんだよ」

 面倒臭そうに、そして拒絶するかのような反応にリリルカは僅かに目を伏せた。

 知りたい、という気持ちはある。しかし聞くにしてももっと適任が居たとも思えるのだ。

 最初の出会いからして最悪で、今も悪印象を抱かれているであろうリリルカよりも、最初から気に入られ、付き合いもそれなりにあるヴェルフの方が向いているだろう。

 だからダメ元での質問のつもりだった。

「リリは、クローズ様のお力になりたいです」

 最初の出会いこそ最悪で、印象も悪い。それでも、迷宮決死行、18階層に辿り着くまでに幾度も命を救われた。見捨てられていてもおかしくない場面で、見捨てずに、命を懸けてでも守ろうとしてくれた。

 本気で感謝しているし力になりたい、という言葉にも嘘はない。

「はぁ、力になりたい、ね」

 呆れた様子で目を細めたクロードの姿に、リリルカは視線を落とした。

 彼女から向けられる自身への感情は、決して良いものではない。それはよく理解できている。

 何せ、ベルを騙し、嵌めた盗人。迷宮決死行のさ中、幾度も助けられた、それ故にもしかしたら、という淡い期待もあったかもしれない。

「…………はぁ、別に大した理由はねェよ」

 呆れた様な視線を向けつつも、彼女は周囲を見回し、聞き耳を立てているティオナやティオネ、アイズ等を見やってから、肩を竦める。

「兄さんが、オレなら出来るって言ってくれた」

「……え?」

「オレなら、きっと出来る。オレはそうは思わないし、思えなかったが、兄さんは出来ると言ってくれた」

 他ならない尊敬する兄達が、お前なら出来る。と背中を押してくれた。

 兄達の様に才能なんて無くて、いつも居場所なんて何処にも無くて、父は諦めた方が良いと諭してくる。家の中では腫物扱い。存在する価値すら認められず、居場所は何処にも存在しない。

 ただ諦めて、屋敷の片隅で生涯を過ごす。そんな惨めな生活をしていく中で。

「尊敬していた兄さん達は、出来ると言ってくれた」

 お前なら出来る。と、血の繋がった兄弟なのだから、不可能は無いはずだと、励まし、背を押し、応援してくれた。

 善意でしかない彼らの声援を受け、クロードは歩み出したのだ。

 それでも、才能が無いとさえ言われた彼女の努力は実らない──否、凡人からすれば十二分な成果を上げた。

 ただ、その成果は母を、家を納得させる程のモノでは無かっただけの話で。

「他ならない兄さんが認めてくれた。応援してくれた、背を押してくれた」

 お前なら出来る、と。

 腫物扱いで、存在しない者として、日陰者として生きていくはずだったクロードの背を押してくれたのは、他ならない兄達だ。

 彼らに背を押され、声援を向けられ、クロードは立ち上がったし、努力を続ける事が出来た。兄達の死後も、それを止める事は出来ない。

「兄さん達は、オレを認めてくれたんだ」

 母も、父も、祖母も、祖父も、家政婦も、警備員も、教師も、誰も彼もが認めなかった。

 才能が無く、価値のない存在を認めなかった。だが、彼等から口を揃えて価値があると褒め称えられた兄達は、価値の無いそんな存在を認めてくれた。

「だからだよ」

 兄達はこの世を去り、二度と会う事が出来なくなってしまった。それでも、兄達は確かに認めていた。

 クロード・クローズ──彼女、その前世の彼を、彼等は認め、褒め、背を押した。

「あの兄さん達が認めたんだ、出来ない筈が無い。出来ないのは、努力が足りないからだろ」

 足りないのは努力。

 父も、母も、祖父も、祖母も、誰しもが存在価値無しと判断を下した存在に、唯一兄達だけは価値を見出した。

 出来る、とその背を押してくれた。

「あの糞共が認めなかったこのオレを……兄さん達は認めてくれた」

 自分は彼等の言う様な無価値な存在ではない。自分は兄達が認めた様な存在だ。

 だからこそ、クロード・クローズは努力を続けられる。

「ああ、ベルに追い付かれちまうのはきっと努力が足りなかったんだ……」

 足りないのは研鑽、鍛錬、経験、そして努力に────揺ぎ無い意思。

 クロードの口から語られる言葉に、リリルカは言葉を失っていた。

 真っ直ぐに前を向きながら、真っ直ぐに目標に向かって走りながら、なんて歪んだ事を口にするのか。

 認められた兄達と違い、認められなかった自身。劣等感に苛まれ、それでも兄達が認め、背を押した。

 クロードの口ぶりからするに、兄達に対する尊敬と親愛が感じられる。そして、同時に劣等感と嫉妬の念も見て取れる。

 ぐちゃぐちゃに交じり合った感情の渦の中から、クロードは自身がすべきことを真に定めていた。

「それは……」

「そうだろ? ちょっとしたことで嫉妬なんざしやがって……」

 兄達が認めたクロードという存在なら、出来るはず。だから、出来ないのは努力不足の所為。否、ほんの小さなことで劣等感を抱き、嫉妬と焦燥感に身を焦がす自身の軟弱な精神の所為。

「だから、オレは努力を続けるし、止める気もない」

 兄達が価値を認めた存在は、決して折れていいはずがない。

 兄達が価値を認めた存在は、醜い嫉妬なんてするはずがない。

 兄達が価値を認めた存在は、誰かを貶める屑であってはならない。

 兄達が価値を認めた存在は────兄達が、認めた、だから。

「止まる訳にはいかないだろ」

 決して折れない。

 決して止まらない。

 何もかもをやりつくした上で、命を落とすのであれば、それは────。

「────オレが価値の無い人間だっただけの話だ」

 真っ直ぐ、固い芯の通った彼女の言葉を聞いたリリルカは、背筋が震える様な悪寒を覚え、一歩後ずさった。




 更新が遅れて申し訳ない。

 最近は飽き気味なのかキーボードを叩く気力が無くなってしまっています。
 気分転換にゲームしてても、何か気が乗り切らない。試しに短編っぽい何かを書いても、上手く纏まらない。
 本編も上手くまとめる事が出来ない気がしてきてます。
 戦争遊戯編、その後のフリュネとの罵り合いは書きたいので頑張りますが、文字通りの不定期更新になるかもしれません。
 ごめんなさい。
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