紫煙燻らせ迷宮へ   作:クセル

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第三七話

 女性陣が水浴びに行くのを見送って暫く、野営地で何をするでもなく過ごしていたベルの下にヘルメスが近づいてきて、まるで聞かれては不味い話をするかのように声を潜めた彼に誘われ、少年は野営地を抜けひっそりとした森の中を歩んでいるた。

「……あの、ヘルメス様、どこまで?」

 声を潜めた神の言う事を聞いた少年は、大事な話があるものだと思い彼に付き従っている。

 しかし、肝心のヘルメスは話を切り出すでもなく、人の気配が消えた森の深くへとどんどん進んでいく。少年の言葉に返事を返す事のない男神は、一本の木の前で足を止めた。

「……よし、これがいいな」

 一本の木の前で足を止めるヘルメス。

 幹が太く、深く根を張った丈夫そうな大樹だ。ようやく密談の時かとベルが耳を傾けた、その時だ。

 男神は話を聞く姿勢をとった少年の目の前で、慣れた手付きで長い手足を駆使し、木の表面や枝にかけてよじ登り始めたのだ。

 話が始まるとばかりに身構えていたベルが唖然とするさ中、男神は「さぁ、ベル君も早く登ってくるんだ」と急かす。

「あの、ヘルメス様……?」

「思った通りだ。見ろベル君、これなら十分に枝を伝っていける」

 急かされるままに登ったベルは、男前に笑うヘルメスの表情浮かべた。それを訝しむ少年を他所に、男神は空中回廊を形成している木々の太い枝をするすると進んでいく。

「ヘ、ヘルメス様、あの、話があるんじゃなかったんですか!?」

「話? やだなぁベル君。オレはそんな事一言も言ってないぜ?」

 煙に巻く様な事を告げながらも木々の枝が織りなす空中回廊を身軽に進んでいくヘルメスに、ベルは置いて行かれぬ様に必死に追いかけながら、だったら何で、と声を上げようとした所で──ヘルメスは足を止め、振り返った。

 晴れやかな笑みを浮かべた男神は、親指で方向を示している。

 何かあるのだろうか、と少年がそちらの方に意識を向けると、ドドドド……という滝の音が聞こえてくるのがわかった。

「ここまで来たらわかるだろう? ────覗きだよ」

「!?」

 驚愕に目を剥くベルに、世界の摂理を解く様にヘルメスは語りだした。

「女の子が水浴びをしているんだぜ? そりゃ覗くに決まっているだろう?」

「決まってませんよ!?」

「今更恥ずかしがるなよベル君。どうせいつもヘスティアと背中を流しっこしてるんだろう?」

「してませんよ!?」

 揶揄い交じりの冗談にベルが声を荒げてヘルメスを止めようと手を伸ばそうとするも、予期していた様にするりと少年の腕を躱すと、蝶の様にひらりひらりと前進を再開する。

 遅れてベルが死に物狂いで追従するも、複雑怪奇な枝葉の空中回廊の中で順路を見出した身軽な男神と、ただその背を追う少年では勝負にもならない。

 ベルが追い付いた頃には、瀑布が放つ音が葉々の壁を一枚隔てた先にあった。

「駄目ですっ、止めましょうヘルメス様!? こんなことしたらいけませんよ……!?」

「ベル君、静かに……ここで騒いだら第一級冒険者達には簡単にバレてしまう」

 ヘルメスの指摘を聞いたベルが反射的に口を手で押さえてしまう。ヘルメスが枝の下方を見下ろし、自然と視線を追ったベルの目に映るのは見張りとして辺りを警戒する女性団員の姿。

 目を見開いて顔を上げた少年の視界に映るのは、ニコリと清々しくも神々しい男神の微笑み。場所が場所でなければ同性ですら見惚れてしまいそうな笑みに対し、少年が抱いた感想は、こんなに美しくも下劣な笑みは初めて見た、という至極当然のものではあったが。

 滝の大音に加えて厚い葉々のおかげか、見張りの者達も第一級冒険者も頭上に潜む彼らの事に気付いては居ない。

 それでも見つかればただでは済まない、とベルが小声で声を荒げて止める様に言い放とうとし、男神に口を塞がれてしまう。

「ベル君、だから見つかってしまうだろう? 此処まで来たんだ、せめて一目彼女らの肢体を拝みたいとは思わないのかい?」

 キミ、本当に男なのかい? 等と訝しむ男神に対し、あたかも自分の方がおかしいという様な反応をされた少年は心の中で「見たいけど覗きは良くないですよ!?」絶叫を上げた。

 せめて覗きを妨害しようとベルがヘルメスの目を塞ごうとするも、ぬるりするりと少年の妨害を躱して木々の下方に視線を向ける男神。

 枝葉の天蓋の上で繰り広げられる攻防のさ中、ふとヘルメスは首を傾げた。

「それにしても、水浴びをしているにしては少し静か過ぎるね」

 感じた違和感を口にしたヘルメスに対し、そんな事より戻るべきと少年が声を荒らげそうになり────聞こえた言葉に二人は動きを止めた。

『最初見た時から思ってたけど、凄い傷だね』

『本当に酷いわね。どんな戦い方したらそんな風になるのかしら』

『……ンだよ』

 聞き覚えのある双子の第一級冒険者の声と、不機嫌そうな少女の声。

 ────『傷』と聞いたベルが見ない様にと意識していたはずの天蓋の下に視線を吸い寄せられる。

「わぉ……クロードちゃん、可愛い子なのに勿体無い」

 ヘルメスとの攻防も忘れた少年の視線の先には、見知った銀髪の少女が居た。

 真っ白い肌に走る無数の傷跡。真新しいものもあれば、古傷と思しき物まで、裂傷に打撲、ありとあらゆる古傷の残る、痛々しい肢体。幼い容姿の小人族(パルゥム)の身にこれでもかと刻まれた、痕跡の数々。

 迷宮決死行のさ中に受けたらしい傷跡も確認でき、ベルは視線を逸らす事も出来ずに動きを止めていた。

 本来ならば姦しく和気藹々とした水浴びをしているはずの女性陣の中、壮絶な傷跡を無数にその身に刻んだ少女、それも狂気的とも取れる程の信念を貫く一人の人物の放つ圧に周囲の女性達は圧倒され、姦しさを失っている様子だ。

 一人、周囲の視線を煩わしそうにしながらも水浴びをする少女の裸体に、不埒な劣情を抱くより前に憐憫が湧き上がってくる。真っ直ぐ、自分の信念を貫く姿に畏怖と魅力を同時に抱かされた。そんな彼女の身に刻まれたそれらから感じた、並々ならぬ努力の痕跡にベルは完全に視線を奪われていた。

「────凄いな」

 ヘルメスは自身を妨害するのも忘れた様に視線を奪われているベルを他所に、クロードの事を見て目を細める。話に聞く限り、違法行為にすら手を染め、ありとあらゆる手段を駆使してでも目的を成そうとする狂人。それの有り方を、その生き様をその刻まれた傷から読み取った。

(アレで才能があれば完璧()()()()()()に……。()()()()

 値踏みする様な視線を向けられた少女──クロードの下に一人の人物が近づいていく。迷宮決死行のさ中、幾度もクロードの手によって救われたリリルカだ。言葉を失ったベルが視線を逸らし、ヘルメスは耳を傾ける。

 二人の少女のやり取りは、聞く気のないベルにも聞こえていた。

 周囲の女性達も声を潜めて彼女らのやり取りを聞いており、瀑布の放つ音の中でもしかと響く、芯の通ったクロードの声は嫌でも天蓋に隠れる二人の下へと届く。

 存在価値無しと断定された一人の人物の背を押した兄という存在。彼らに恥ずべき自身であってはならない。彼女が定めた、自身に求める理想。それを成す為の信念。

 折れる事は許さぬ。嫉妬する事は許さぬ。他者を貶める事を許さぬ。真っ直ぐ、どこまでも真っ直ぐ、まるで英雄譚に登場する清廉潔白で聖人と呼んでも差し支えない程に透き通った、人間の汚点を全て取り払った理想的人物。そんな理想をクロード・クローズは目指している。

 今まで少年がクロード・クローズに抱いてきた人物像。それはちょっと捻くれていて変わっている、けれど仲間想いの人物。それが、今この瞬間、間違いだと気付いた。

 ただ真っ直ぐな信念を貫こうとする、一人の人間だ。誰にも恥ずべき汚点の存在しない、理想を目指す人間だ。誰しもあるべきはずの汚点の一つすら許さない、清廉潔白さを抱く、人間だった。

 だからこそ、()()()()()()

 完全に息を呑み、言葉を失っていたベルは、木々の下で自身の信念の在り方を語る彼女が、最後に放った言葉を聞いた。聞いてしまった。

「────オレが価値の無い人間だっただけの話だ

 ────瞬間、ベルは今自身が置かれている状況が頭から抜け落ちた。

「違う! それは違う!!」

 隠れている事など頭から抜け落ち、ただ自身を無価値と言い切った少女に思いの丈を告げんと声を張り上げた。それを見たヘルメスが慌てた様子でベルの口を塞ごうとして。

「おい、ベル君!?」

 直後。

 ボキッ、と軋んでいた枝が大きく揺れる。

 ベルとヘルメスが足場としていた太枝が根本から折れたのだ。

 隠れていた意識が抜け落ちていたベルと、彼の口を塞ごうとしていたヘルメスの二人は呆気なく、宙に投げ出された。

「────いいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!?」

「────あららぁ」

 枝葉を突き破り、少年と男神が天蓋から重力に引かれて落下するさ中、ベルは驚愕し悲鳴を上げ、ヘルメスは着水に備えて帽子を押さえる。

 少年はドボンッ、と盛大に水飛沫を上げて着水し、ヘルメスは小さな水飛沫を上げて華麗に着水。

「げほっ、ごほっ、ごふっ!?」

 水深が深かった地点から慌てた様子でベルが浮上し、男神は水面下を泳いで離脱を図る。

 肺に水が入り混乱した少年が手足をばたつかせ、直後に腕を掴まれて引かれた。

「──落ち着け、溺れるぞ」

 迷宮決死行のさ中、幾度も耳朶を打った聞き覚えのある少女の声にベルは瞬時に落ち着きを取り戻す。

 滝壺の深みから浅瀬へと手を引かれ、手足をついて四つん這いになり盛大に咽込むさ中、小さな手が軽く背を撫でてくれたおかげか、少年は荒い息を吐きつつも早くも呼吸を整え始めていた。

「はぁ、はぁ……あ、ありがとうございます」

「別にンな事ァどうでも良い。おまえ、此処で何してんだ?」

 近くから聞こえたその声に、ベルは思わずそちらに視線を向ける。ベルの背をさすりながら訝し気な表情を浮かべた傷跡の残る少女の顔が、すぐ目の前にあった。

 瞬間。

 冷や水を浴びた様に──文字通り冷水に身を浸しているが──少年は冴えわたる思考が状況を飲み込んでいく。

 つい先ほどまで覗きをする男神を止めようとしていた事。

 自身を無価値だと断言した少女の言葉を否定しようとした事。

 そして、足場の太枝が折れて転落した事。

 目の前に居る傷跡の残る少女──クロードは裸だった。

 当然だ、彼女はつい先ほどまで水浴びをしていたのだ。服を着ているはずがない。

 その上で、彼女は自身の裸体を隠していない。当然の様にベルの背を撫で、訝し気な表情を浮かべている。

「おい、聞いてんのか?」

 再度かけられたクロードの言葉に、この後の末路を想像したベルが凍り付く。

 突然の状況に理解が追い付いていない周囲の女性陣の中、真っ先に動いたクロード。ただ彼女の言葉を否定したかっただけだ、という言い訳すら、少年の口は震えて放つ事ができない。

 どうあがいても、今のベルは覗きに来た上、盗み聞きして暴走し、見つかった悪人だった。

「アルゴノゥト君……?」

 クロードと視線を交わしながら硬直していたベルは、彼女の訝しむ様な目から逃げる様に声の放たれた方向へ視線を向けてしまった。

「なになにっ、君も水浴びしにきたの?」

「大人しそうな顔して……やるわねぇ、あんたも」

 少年の眼前に広がるのは双子の姉妹。衣類を一切纏わぬ褐色肌の裸体。

 クロードの様な傷跡もなく、ただただ蠱惑的な肢体を、一切隠しもせずに少年を見下ろしていた。

 ────アマゾネスという種族には、恥じらい等存在しない。

「ベル君、キミって奴は……」

「な、何をなさっているのですかベル様ぁ!?」

 内心で絶叫を響かせる少年を他所に、遅れて事態に気付いた他の女性陣が恥じらう様に身を隠しているのが彼の視界に否が応にでも映り込む。

 数多の女性の裸体が映る中、その中でも視線を奪い去る人物がそこに居た。

 頬を紅色に染め、体を抱く様に隠す憧れの女性(アイズ・ヴァレンシュタイン)が、流れ落ちる滝を背に立っていた。一枚の絵画として描かれていてもおかしくはない、そんな印象を抱かせる光景だ。

 自身が懸想している相手、図らずもその女性の裸体を鮮明に目に焼き付けた少年は言い訳も状況説明も忘れ、一瞬で真っ赤に染まり上がり────。

「ご────ごめんなさぁああああああああああああああああいっ!?」

 側に居たクロードの事すら忘れ、泉から跳ね出ると弾丸の如き速度を以てして、捕らえようと動いた見張りの者達すらも置き去りにして逃走していった。

 

 


 

 

 葉々を突き破り、泉の中に何かが転落してきた。

 あまりにも突然の出来事。第一級冒険者にはそれがモンスターでは無く人である事に気付いていたが、何故人が落ちてきたのかまでは理解が及ばずに動きを止めていた。

 そんな中、真っ先に動いたのがクロードだ。

 水面から勢いよく顔を出し、咽込んで混乱ていた少年の腕を掴んで浅瀬に引き上げたのだ。

 突然の出来事にどう動いて良いのかわからずに様子を見ていただけの周囲も彼女の行動には驚愕する。

 明らかに覗きに来ていたであろう少年を助ける様な真似をしたのだ。

「どうして彼を助けたんですか?」

 見張りとして立っていた女性団員の質問を受けたクロードは、不愉快そうに彼女を見やると肩を竦めた。

「溺れそうになってる奴が居たら助けるだろ」

「では、何故捕まえなかったのですか?」

 最も傍に居て、覗き魔を捕縛可能な距離にいたというのに平然と見逃す真似をした。彼女自身の性格から覗かれても気にもしていないのは一目瞭然ではあるが、他の面々は違う。

 特にアイズ・ヴァレンシュタインは酷く衝撃(ショック)を受けた様子で落ち込んでいた。そんな彼女を見て何故捕まえなかったのか、と声を荒らげる女性団員。

 クロードはそんな相手を見て、不愉快そうに眉根を寄せた。

「オレが悪いとでも?」

「せめて捕縛する姿勢を見せていれば……」

 Lv.2とは思えない敏捷を見せ付けて逃走した少年。せめてクロードも捕縛に協力的であれば、()()()()()()()()()()捕縛できたのに、と文句を零す。

 それらを見ていた銀髪の少女は、インナーに袖を通し、コートを肩にかけると煙管を取り出し、一服しはじめる。自身には何の非もなければ、責められる謂れなど無い、と。

「そもそも、テメェら見張りの目が節穴だったのが悪ィンだろォが。逃げられた云々以前に、見張り立ててた癖に大きな鼠二匹も見つけられずに何ほざくんだか」

 なんの為の見張りだったのか。まさかただの案山子だったとでもいうつもりか、とクロードは文句を言っていた見張りの女性団員を黙らせる。

 事実、見張りとして立っていた彼女達がヘルメスとベルに気付かなかったのが元の原因。

 加えて、クロード自身は小柄で、なおかつ少年と比べると基礎アビリティの『力』は致命的に貧弱だ。抑え込むどころか、彼女が掴みかかったところで振り解かれてお終い。

 ましてやクロードはパーティの中で最も負傷度合いが酷く、消耗もしていた。そんな怪我人に捕縛を要求するのは無理がある。

「まさか、見張りを立ててるから大丈夫。なんて太鼓判おした【ロキ・ファミリア】が鼠二匹も侵入を許した挙句、一匹には逃げられるなんてなァ……?」

 その上でクロードを責める姿勢をとる。だなんて論ずるまでもない。

「自分らの無能棚上げして文句ばっか垂れんなよ。先に覗き魔を見つけられなかったお前らが頭下げる所だろォが」

 一丁前に文句垂れんな、と紫煙と共に吐き捨てた彼女を見て、見張りの団員達は口を閉ざす。

 反感を抱きかねない程に口が悪いが、指摘事項は事実であり、否定のしようがない。ここでこれ以上の問答をしたところで、【ファミリア】の醜聞に繋がりかねないのだ。

「わかったら話しかけんな」

 不機嫌そうに紫煙を吹きかけ、追い払う。

 彼女の周囲から人が散った所で、ヘスティアが彼女の傍に近寄った。

「クロード君、ちょっと良いかい?」

「あァ? ヘルメスへの制裁はお終いか?」

 ベルと共に木々の天蓋から転落し、その後はベルを囮にして一人逃走を図ろうと水面下を泳いでいた男神は。自身の眷属であったアスフィに呆気なく捕縛されていた。

 縛り上げられ木に吊るされた男神の周囲にはクロードに文句を言いに来ていた以外の見張りの姿もある。

 情けない悲鳴を上げる彼に軽蔑の視線を向ける女性陣の中に交じり、同じ神という事で遠慮なくヘルメスをぶっ叩いていたヘスティアは怒りがある程度治まった様子だ。

「アレだけやってもヘルメスはきっと懲りないからね。それよりも君に言いたい事があったんだ」

 煙管を吹かし、紫煙を燻らせる少女を真正面から見つめた女神は先の出来事を思い起した。

 自身の事を無価値だと断言した、その瞬間。

 木々の天蓋の上から少年の声が響いたのだ。

 『それは違う!!』と。

「キミは無価値じゃない。ボクだってそう思う」

「……ンだよ、アレはヘルメスと言い争ってただけだろ。何の関係があるんだよ」

 ベルが放った言葉が何に対して向けられていたのか。彼女らの頭上でヘルメスと会話を交わし、声を荒げただけにも思える。けれど、女神はそうではないと感じていた。

「キミは無価値なんかじゃない」

「…………」

「ベル君はキミに言ったんだ」

 あの時、木々の上から自身が隠れている事すら忘れて、クロードの言葉を否定した。そう断言する女神の姿にクロードは半眼を向けた。

 タイミングとしては、確かにそうであると言えるかもしれない。しかし、ただの偶然の可能性も否定できない。少なくとも、少年自身に確認をとらなければ断定する事は不可能だ。

 だというのに、女神は断言する。

 そんなヘスティアの様子に、クロードは肩を竦めた。

「っつー事は、だ……ベルは覗きだけじゃなく盗み聞きまでしてた、と?」

 自身の眷属を貶める気か、と少女が半眼で呟くと、ヘスティアは苦笑する。

「まさか、ヘルメスに聞いたんだ」

 あの時、男神は覗きを決行する為に息を潜めて隠れていた。ベルがそれを邪魔しようとして、偶然聞こえたクロードとリリルカの会話を聞いて、声を荒らげて否定しようとして転落した。と。

 縛り上げた男神から話を聞きだしたヘスティアの言葉に、クロードは酷く否定的に言い放つ。

「それで? そのヘルメスが嘘を吐いてないって保証は何処にある?」

「ヘルメスは確かに胡散臭い奴だけど、そんな嘘を吐く奴じゃないさ」

 天界に居た頃から知っている、と告げられたクロードは不愉快そうに眉を顰める。

「リリも、クローズ様が無価値だなんて思いません」

 二人のやり取りに、服をしっかり着込んだリリルカも合流した。

 あの瞬間、リリルカもクロードの言葉を否定しようとした。それより前にベルが声を上げた事で言えなかったが、それでもリリルカは断言できる。

 そんな女神と少女の言葉に、紫煙を燻らせながらクロードは不愉快そうに眉根を寄せた。

 結果を出さない自分は無価値だ、とそう断言する彼女の言葉を否定する二人に、クロードは火皿に残る煙草を一気に吸い尽くし、灰を放り捨てた。

「ふぅ……鬱陶しいな」

 酷く嫌そうに、再度火皿に刻み煙草を詰めながら、クロードは自身を見つめる二人の瞳から逃れる様に視線を逸らす。

「何度でも言うさ、キミは無価値じゃない。結果なんて出さなくたって、ボクは気にしないさ」

「もう十分、クローズ様は結果を出しているではないですか」

 説得する様に声を重ねる二人に、クロードは捨てられた灰に視線を落とし、鼻で笑った。

「結果も出さない足手纏いなんざ邪魔なだけだろ。それに、その程度の結果で、誰が満足するってんだ……」




 前回更新から1ヵ月も経ちました。おかしいですね、なんで更新されてないんでしょうか……? 私が執筆しなきゃ更新されないバグ、どうにかなりませんかね。
 しかも質までだいぶ落ちてますし。誰か、代筆してくれませんか……?


 今後の展開として、クロードくんちゃんが致命的に狂った原因を次の原作5巻の『5章 無法者達の宴』と『6章 英雄賛歌』で明らかにしようと思ってます。
 絶対に止まらない、今の結果に納得しない。嫉妬を全否定する。そんな風に狂う程に真っ直ぐな信念を抱くに至った原点(オリジン)であり心的外傷(トラウマ)


 次の更新は……一週間後に、頑張ります。止めると、動き出すのが非常にきついので、週一更新を維持したいです。というかしないと次が更新出来る気がしないので。
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