隻腕の兎   作:衛鈴若葉

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ぷろろーぐ

雨の下、足音が無数に広がる。

馬の声、人の悲鳴、首が落ちる音。

下卑た声、モンスターの声、人の声。

頭蓋が砕かれ、首が落ちる。

荷は全てが解かれて持ち去られる。

野盗の仕業だ、その場にいたものは皆殺し。

 

「チッ、大したもん持ってねぇな」

 

左腕をなくした少年が蹴り飛ばされる。

少年の手からはナイフと魔石が剥ぎ取られ、野盗どもは去っていく。

微かに見えていた、しかし動くことは出来なかった。

雨が冷たい、血が出てる。

痛い、このまま死ぬのかな。

 

「しにたくない」

 

雨で湿った泥の感触が顔につたわる。

目に入った、痛い。

不快感がすごい。

腕がないから這うことも難しい。

ああ、だるい。

 

「やだ」

 

たてない。

バランスを崩して倒れ込む。

あ、また泥が入った。

いたい。

 

「やだよ‥‥」

 

死ぬのなんて嫌だ、英雄になりたいのに。

そんなことを思った。

雨か涙か泥かなんてもう分からないだろう。

動く気力はもうありはしない。

 

しにたくない、そんなことを思うけど周りには何もない。

モンスターに噛みちぎられた腕はどこにも見えない。

腹から血が出てる。

右腕も動かない。

どこもうごかせない。

くろくそまっていく、きがあめがみえなくなっていく。

いやだ、いやだ。

し に た く な い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「‥‥んぅ?」

 

生きている、その感覚は何物にも変えがたい。

一旦は安堵したが薄く瞼を開くと見慣れない光景が広がっているのが分かる。

藁でできている敷物が雑にかけられていて、それを何とかどかす。

 

「え?」

 

腕をなくした、冒険者にはもうなれない。

骨だけのような義手が僕の腕にくっついていた。

しっかりと固定されていて頑丈そうに見える。

握ることができる、動かせる。

手入れは行き届いており、血や油がこびりついている。

 

次に周りを見る。

義手の存在によって否が応でも冷静になってしまった。

木造の室内、なにやら木製の像が並んでいる。

サクサク、と何かを彫る音が耳に届いてくる。

 

真新しい布を羽織っているのと何か像を彫っている。

それ以外はよく分からないけれど、助けてくれたのは状況から見てあの人だろう。

 

「あのぅ‥‥‥」

 

「なんだ」

 

謎の人は僕の言葉を遮るように答える。

彫る音は途絶えることなくこちらに目を向けることも無い。

無愛想というか、ぶっきらぼうというか、これまでの短い人生の中で見たことのない人物だという印象を受けた。

 

「えっと、ここはどこですか?」

 

少し気圧されながらも質問を紡ぐ。

 

「荒れ寺だ」

 

「寺?」

 

聞いたことはある。

祖父はあらゆる文化に精通していて、色々と教えてくれたのだ。

その時に極東の文化に神社や寺、というものは聞いたことがある。

とすると周りの像は仏像なのだろう。

抱いていた仏のイメージとは全く違っているが。

 

「あとこの腕は‥‥?」

 

「忍義手だ」

 

忍び、そう聞いて心を昂らせる。

カッコイイものだとそう認識しているからだ。

影に生き、主のために死ぬ、これ以上にカッコいいものがあるかとそう思う。

 

「勝手にしろ。儂は仏を彫らねばならん」

 

そう、恩人は吐き捨てる。

お言葉に甘えて、と立ち上がって出口に向かおうとするが一つ問題を思い出す。

ここからどうやってオラリオに行くのか、である。

そんなに離れていない、と思ったが周りには森は見えない。

 

「待て」

 

「え?」

 

彫る音が途切れる。

そして、何かが置かれる音が聞こえる。

振り返ると既に彫る音は再開され、恩人のすぐ後ろに刀が見えた。

 

「カタナ?」

 

鞘に独特の柄、それらから極東の武器であるカタナであると予想する。

ナイフや農具は握ったことはあったが、それらより重い。

 

「持っていけ」

 

「いいんですか?」

 

「ああ」

 

肯定の意ととって腰に差すことにする。

何とかどこかにつけられないかと探すが、そんな所はない。

 

「‥‥‥ありがとうございます!」

 

今まで忘れていた言葉を表す。

 

「‥‥‥」

 

彫る音は少し止まるがすぐに再開される。

少し疑問に思ったけれど外に出ることにしよう。

 

「あら。お客様とは珍しい‥‥‥」

 

外に出た時、女の人の姿が見えた。

妙齢に見える和服の美女に少し目を奪われた。

女の人の方も僕を見ているようだけど見ているのは刀と義手のようだ。

 

「腕を無くしたのですね」

 

「‥‥‥はい」

 

ゴブリンに腕を食いちぎられたこと、野盗に馬車ごと襲われて死にかけたことが蘇る。

忘れていたわけじゃないがそれでも堪えるものはある。

 

「その義手はこの寺の者が?」

 

「はい。助けてくれました」

 

「そうですか。では、剣に覚えはありますか?」

 

女性は淡々と質問してくる。

それには少し不快感は感じたが答えていく。

 

「ナイフなら少し‥‥‥」

 

「分かりました。それで、貴方のお名前は?」

 

荒れ寺の階段を女性が上がっていく時だ。

その時に振り返って僕に聞いた。

 

「ベル・クラネルです」

 

「べる殿、ですか。少しお待ちください」

 

べる、自分の発音とは少し違った。

ここは極東なのだろうか、でも極東に行く道ではなかったはずだしそもそもそんなに距離を走っていないはずだ。

 

「‥‥‥荒れ寺」

 

所々に穴が空いているボロい寺。

あの人がなんでここに住んでいるのかは分からない。

上に見えるのは青空、周りには竹や石垣が見えるくらい。

それ以外には特に何も見えない。

 

「べる殿」

 

「は、はい!」

 

「申し遅れました。私はエマと申します」

 

深く、エマさんはお辞儀をする。

 

「あ、よろしくお願いします!」

 

釣られて僕も慌てて頭を下げる。

 

「‥‥‥フフフ」

 

色っぽい、そんな声が聞こえて頭を上げるとエマさんが笑っている。

祖父のような大笑いではなく、魅力を助長させているものである。

 

「べる殿。剣には覚えはないのですよね?」

 

「はい。扱ったことはなくて」

 

「でしたら、お教えしましょう。仏師殿から伝書を頂いてきました」

 

「え、いいんですか?」

 

エマさんの両手に巻物が抱えられている。

それが伝書というものなのだろう、とは想像に難くないが申し訳ない気持ちが勝ってくる。

 

「強くならなければ生き抜けません。貴方には夢があるのでしょう?」

 

見透かされている、と感じた。

不快には感じず、優しさと慈愛を感じた。

 

「ありがとうございます」

 

目から何かが流れ落ちる。

エマさんはこの義手に特殊な感情を持っているのだろう。

刀にも、また別の感情を持っているんだと思う。

それ以外にも夢を遂げるのも応援してくれている、そんな確信がある。

 

 

 

 

 




ベル君の今の年齢は十四、原作通りです。
隻狼、プレイはできてないので至らぬ点は多いと思います。
エマ殿のキャラが合ってるか分かんない。
狼も合ってるかわかんない。
忍義手についてはあれものすごく頑丈ですよね。
手入れはしていたとはいえ、頑丈すぎると思います。
アレに耐えてるんだからいけるだろうという安易な考えです。
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