隻腕の兎   作:衛鈴若葉

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女神の紐

竈の女神ヘスティアが身につけている紐。
身につけると回復アイテムによる回復量が増え、消費精神力が減る。
全ての孤児の守護者たる彼女は今は一人の少年を見守り、助ける。
家族として、母として、彼女は少年を愛するだろう。


開門

目が覚める。

いつもとは違う目覚めだ。

布団が違うのだろう、それに体の調子もすこぶるいいと感じられた。

眠りについてそんなに重視していなかったが、これはいい。

これまでで一番気持ちの良い朝だ。

 

「んー」

 

伸びをしてみる。

布団から出て縁側に続く障子を開いた。

 

朝日が目にダイレクトアタックを仕掛けてくる。

眩しい、と兔は目を細めるがすぐに開いた。

朝日はすでに昇っている、がそんなに寝坊をしたわけでもないだろう。

起こしに来ないのが証拠だと祈る。

目は完全に覚め、いつもの調子に戻っている。

 

「べる」

 

「九郎様。―――寝坊してませんかね」

 

九郎様が見えて、一つ心配していることを言った。

ふかふかな布団が悪い、気持ちよく眠れたのが悪い、いや本気でそう思ってはいる。

だって、今までは結構なせんべい布団だったんだもの。

後ソファ、もう慣れたけどね。

 

「いやまあ、誤差だな」

 

「―――申し訳ありません」

 

「問題はない。今起こしに行くところだったからな!」

 

それでも、である。

起こしにいく手間をかけさせるなど、そんなものは完全なる寝坊だ。

恥ずべきこと、未熟が過ぎる。

 

「本当に、申し訳ありません」

 

「そう落ち込むな。次に生かせばよかろう」

 

九郎様は実に良い方だ。

無邪気で、主の器量もあり、お強い方である。

 

「―――必ずや」

 

「うむ。では行くぞ!」

 

おー、と腕を上げる九郎様。

その意図は分からなかったが、とりあえず九郎様についていく。

 

「来たか」

 

「遅いぞ、ベル君」

 

「申し訳ありません」

 

一心様にヘスティア様、命さんに千草さんなど。

僕とヘスティア様以外は【タケミカヅチ・ファミリア】の方たちのようだ。

お蝶殿や梟は帰ったらしい。

 

「俺たちもさっきまで寝てたんだ。ヘスティアもだろ?」

 

「だって、ふかふかの布団だったんだもん。ベル君もだよね!ね!」

 

神様に同意を求められた。

 

「え、ええ。そうですね」

 

事実として、とてもふかふかだった。

暖かく、物凄く快眠であった。

神様の言うことにはこれ以上ないほどに同意できる。

 

座らせてもらい、楽しい朝食の時間となる。

葦名にいた頃の食事とはまた違ったものだった。

無論、じゃが丸くんとも違う。

―――何か、物足りない。

 

「お世話になりました」

 

食べ終えて、皿洗いの手伝いを少しして。

それから葦名の開店前に帰る。

朝の鍛錬もまだだ、早くしなければ。

 

「ベル殿。共にダンジョンに行きましょう!」

 

「ええ、またいずれ」

 

「はい!」

 

そうして、葦名から離れる。

共にダンジョン探索をする、そんな約束を命と交わした。

恐らく【タケミカヅチ・ファミリア】との共同探索になるだろう、楽しみだ。

 

「ベル君ってモテるんだねぇ」

 

「どういうことです?」

 

「命君と手合わせしたんだろう?それに約束もしてたじゃないか」

 

命さんとは兄弟子、姉弟子?そんな関係だ。

モテるとかそんな感じではないと思う。

ヘスティア様の言っていることが分からない、と首を傾げた。

 

「分かってるよ」

 

「えっ、とぉ?」

 

ヘスティア様の言っていることがよく分からない。

からかっているだけなのだろう、と納得することにする。

 

「命君ってタケのことが好きだからね」

 

「‥‥‥なんでそれを僕に?」

 

「なんとなくねー」

 

うん、本当によく分からない。

タケ、というのはヘスティア様によるタケミカヅチ様のあだ名だ。

命さんがタケミカヅチ様に恋心を抱いていたとして、僕に何かできることはあるだろうか。

ないだろうなぁ、と思う。

恋愛ごとは分からないし、タケミカヅチの好みも全くわからない。

 

「今日もダンジョンに潜るんだろ?」

 

「え、ええ。その前に梟殿の所に行ってきます」

 

「頑張るねぇキミは」

 

「当たり前です」

 

仏師殿のために、もっと頑張らなければならない。

実力をつけて【剣聖】や【大忍び】を越えて【怨嗟の鬼】を討ち滅ぼさなければならない。

僕の人生はもう、それに捧げることに決めたのだ。

 

「でも、死なないでおくれよ?」

 

「それも当たり前ですよ」

 

「それは良かった。九郎君もボクも悲しんじゃうよ」

 

「ハハ、ご迷惑おかけします」

 

僕はまだまだ未熟で、死にかけることなど日常になってゆくかもしれない。

その度にヘスティア様や九郎様を悲しませるかもしれない。

そのつもりでオラリオにやってきたのだ。

 

「む、迷惑なんて大歓迎だよ?ボクはキミの主神(おや)なんだからね!」

 

ああ、やはりヘスティア様は温かい。

こんな女神(ひと)に人が寄ってこないなんて信じられないくらいには。

守護らねばと、支えなければと思うのだ。

 

「‥‥‥ありがとうございます」

 

恩恵を与えてもらえればいいと思っていた。

神はただ娯楽のために地上に降りてきた人でなしだと思っていた。

そんな文献を読んだ気がする。

 

「神様」

 

「なんだい?」

 

「僕は貴方を守護ります。何があろうと必ず」

 

ヘスティア様は良くも悪くも人間みたいだ。

だからこそ、寄り添ってくれるのかもしれない。

九郎様を主として守り抜く、そう決めてやってきた。

仏師殿のために、やってきた。

それは僕の自己満足のためだけのはずで、恩返しのためだ。

その他に僕の勝手が介在するはずがなかった。

これ以上我儘を言っていいのかとも思っていた。

 

「ありがとう」

 

ヘスティア様の笑顔が見えて。

それを守護りたいと心が叫んで。

仏師殿が九郎様と出会ったように、これは運命なのかもしれない。

 

「これから、ボクと一緒に生きてくれるかい?」

 

少し、返しに困った。

しかし心は決まっている。

 

「勿論」

 

無理をしてでも生きて、生きて、生きて。

最期までヘスティア様の傍にいよう。

仏師殿はできなかったことを、僕は成し遂げて見せよう。

 

「約束だよ?」

 

「‥‥‥御意」

 

より、死ねなくなった。

僕のこの体は僕だけのものではなくなった。

 

「よし、じゃあ待ってるよ」

 

「稼いできますね」

 

本拠で最低限の準備をした。

楔丸に忍義手、あとは回復薬。

用意はそれくらいだ。

異常事態(イレギュラー)がない限り、この装備で苦労することは無いといえる。

今のところ義手忍具を使うことはあまりない。

 

「いってらっしゃい」

 

「いってきます」

 

ヘスティア様の期待を背負って、地下室から出る。

日はもう既に上りきり、人々はとっくに活動している時間だ。

 

「来たか」

 

「申し訳ありません。遅くなりました」

 

「よい。儂も頭が痛い」

 

酒を飲んだのだな、と理解する。

自他に認めるくらいには梟殿は酒が苦手だ。

ものすごーく、苦手だ。

すぐ酔っ払って無茶振りをしてくると偶に仏師殿が愚痴ってた。

なんだか楽しそうに。

 

「ハハハ‥‥‥。大丈夫ですか?」

 

「大丈夫、とは言い難いな。しかしお前を相手するにはちょうどいい」

 

余裕がすぎるだろう。

少し腹が立ったが事実は事実だ。

勝てる気は全くと言っていいほどしない。

 

「お願いします」

 

「ああ」

 

一泡くらいは吹かせたい。

この人にも勝たねば、鬼には勝てない。

 

「来ぉいっ!」

 

「参る!」

 

一泡は吹かせたい、ただ勝ちたい。

そう思っても、実力と経験の差は埋められない。

 

完膚なきまでに負けた。

意地かなにかか、義手忍具を使わなかったのだ更に良くなかったのだろう。

勝つためならどんな策でも弄し、勝ちをもぎ取るのが忍びのはずだ。

ただ勝てばいい、過程などは関係ないのだ。

 

ダンジョンは代わり映えしなかった。

いつもより更に、何も無かった。

怪物の宴(モンスターパーティ)も何も。

不完全燃焼のような気がして、なんとはなしに階段を降りていった。

5階層、変わりはしない洞窟で出てくるモンスターもそんなに変わらない。

出現頻度が少し上がったかというくらいだ。

しかし、ピタッと止んだ。

違和感を感じた瞬間、戻ろうと踵を返した。

決意をした矢先に、慢心をしてしまったが故か、勝てない強敵がそこにいた。

 

来た道を真っ直ぐ戻っている途中、何かが駆けてくる音が聞こえた。

逃げたけれど、逃げ切れるはずもなかった。

牛頭の頭、それだけでソレが何か理解できた。

 

「ミノタウロス」

 

鼻息が荒く、様子がおかしい。

怯えのような感情が見て取れ、僕を見て口角を歪めた。

何かから逃げてきて、僕はその八つ当たりをされるのだろう。

逃げたいが、無駄だろう。

まず追いつかれるし、僕と同じような新人が殺される恐れもある。

ここで僕が生き残る手段は実質一つになった。

時間を稼いでこの牛頭を逃がした本人さんか勝てる人が通りがかってくるのを待つくらい。

絶望がすぎるけれど、やろうと楔丸を握る。

 

「いざ、参る」

 

 

 




思えばこのベル君ものっそいチート具合なんですよね。
エマ殿と狼に教えをこい、全義手忍具を持っていて、どこでも設置できる鬼仏もあって、一心様や弦一郎殿、梟やお蝶にも教えをこえる。
本人も意欲めっちゃあるから伸びるわ伸びるわ、レベルの差って大きすぎひんかねぇ?
まあ一心様はランクアップするほどのことがないだろうけれどね。
未だにレベル1だろとしか思えないけれどね。
やっぱバケモンだな一心様。
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