隻腕の兎   作:衛鈴若葉

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鍛治神の紹介状

女神ヘファイストスがしたためた、紹介状。
これを【ヘファイストス・ファミリア】の団員に見せるとヘファイストスに会うことができる。
しかし、それは一時しか効果を持たない。

女神ヘスティアが我が眷属のため、交渉して手に入れたもの。
眷属が専属の鍛冶師をパーティに引き入れる一助となるだろう。




神の宴

ある日、いきなり思い立った。

原因はやはり酒場のことだろう。

【凶狼】に雑魚と呼ばれてしまったことだと思う。

弱いことはわかっている、しかしだからこそ。

強くなりたいと心が叫んでいる。

 

「神様」

 

「なんだい?」

 

そう思ってしまったらもう最後。

素人に毛が生えた程度の兎とて矜持はある。

 

「怪物祭まで帰りません」

 

「更新にも帰ってこないのかい?」

 

「はい」

 

「んー…何をって決まってるか」

 

「強くなってきます」

 

狼の叱咤は確かに兎の炎を滾らせた。

少し、平和に慣れてしまった兎を戦場に赴かせるには十分なものだ。

人と戦うのは慣れた。

しかし、仏師が語った鬼との戦いにはまだまだ。

鬼を殺すにはモンスターと戦い尽くすのがいちばん良い。

 

「必ず帰ってきます」

 

「絶対だよ?みんなには言っておくね」

 

「ありがとうございます」

 

ヘスティアは笑顔だが、少し不安で陰っている。

兎に危うさを感じているのか、単純に帰ってこないことに不安を感じているのか。

主に不安を感じさせてしまうのは従者としては失格なのだろう。

それでいいのだ。

兎は、まだ完璧ではない。

 

「アドバイザー君にも心配はかけないようにね」

 

「それは、無理な相談ですね」

 

苦笑い。

帰ってきたら説教は確実だろう。

言いつけを必ず破るからだ。

 

「いってらっしゃい」

 

「いってきます」

 

朝日が昇る。

まだ、冒険者はダンジョンにはいっていないだろう。

だから危険度は高いと言える。

故に、故にこそ。

行く価値はある。

 

「べる」

 

朝の大通り。

目立つはずの梟。

 

「危うい目じゃ」

 

毛むくじゃらの口から、そんな言葉が飛び出す。

 

「分かっています」

 

「行くのか」

 

「これしき、乗り越えられぬようでは」

 

「そうか」

 

修羅、という言葉。

今のベルの眼はそれ以前のものだろう。

死にに行く、愚か者のそして死にたがりの。

そんなことは分かっている。

 

「ご心配を」

 

「心配などしておらん」

 

「そうですか。では、また」

 

「おう」

 

帰ってくる。

それは事実だ。

 

「まだまだ、お前は未熟」

 

「知っています」

 

「お前は儂を越えるだろう」

 

「そのつもりです」

 

「……容易く勝てると思うなよ」

 

「当たり前でしょう」

 

目標は元々天よりも高い。

剣聖を下した、忍びが鬼へと変じた姿を殺すこと。

 

「勝ちます」

 

遥かなる高みはまだ見えず。

大忍びに、巴流に、剣聖に。

勝てる様は未だ想像もできず。

何より、自分が死ぬ様を想像できない。

そして流派技を扱う自分は、想像は容易い。

 

「……で、私のところに来たと」

 

場面は変わって。

神ガネーシャが主催する【神の宴】である。

定期的に開催される宴だが、ヘスティアが参加するのは初めてと言って差し支えない。

ドレスは持っていないし、ファミリアも誰もいなかった。

来る理由もないし、来れるわけもなかったのだ。

そんな場所に来た理由は神友であるヘファイストス。

ヘスティアの目の前にいる赤髪の女神だ。

 

「私にやれることないと思うけど?」

 

「そこを…なんとか?」

 

「何も考えてないのね」

 

「ははは…」

 

ため息をつくヘファイストスに乾いた笑いを浮かべるヘスティア。

図星を突かれて頭をかいている。

 

「そもそもあなた、私に何か頼み事できる立場?借金まだ全部返してもらってないんだけど」

 

「そうだけどさ!それでも!それでもだよ!初めての子供だし、ベル君頑張ってるんだ。だから助けてあげたいなーって」

 

「気持ちはわかるけど…うちの子に仕事依頼するのにいくらかかるか知ってる?」

 

「そこはさ!ベル君と同じレベルの子とか」

 

「その子を見繕うのは私。つまり私の労働量が上がるんだけど?」

 

「そ、それはー…。もっと働くからさ!なんでもやるよ!ねっ?」

 

「馬鹿ね、そんな問題じゃあ。…その子義手してなかった?」

 

「してるけど、どうしたんだい?」

 

ヘスティアに呆れながら話していたヘファイストスだったが、何かを思い出すように言葉を紡ぐ。

ヘファイストスはヘスティアからの返答を受けて少し俯いた。

 

「ミノタウロスにも襲われて生き残った」

 

「なんで知ってるんだい?」

 

「風の噂でね。中層域でも使える技術……その義手少し見せてくれないか言ってくれない?それならこっちで見繕っておくわ」

 

「えっ。嬉しいけどいいのかい?」

 

ヘファイストスの剣幕に少し、ヘスティアが押される。

これほどのものは追い出された時…それすら超えているかもしれない。

 

「ええ。多分その義手、オラリオの技術を越えてるわ。もちろん見せてくれなくてもいいのよ。その場合はあなたをこき使わせてもらうわね」

 

「うっ、もちろんだよ…」

 

「ま、大したことはやらせないから。そんなに長くもないしね。で?用はそれだけ?」

 

「いや!純粋に会いに来たのもあるよ」

 

「そうよね。約束取り付けたらさっさとトンズラはないわよね」

 

「当たり前だよ!ヘファイストスはボクの友達!だからね」

 

「フフフ、まあ雑談なら付き合うわよ」

 

「ようし!久々だねぇ」

 

他愛もない雑談。

久々に神友が出会ったならば、それは人間同士でも変わらないことだ。

他愛はなく、生産性もなく、ただ時間が無為にすぎる行為。

子供の自慢、それを話せるようになった神友への微笑み。

それはいつなくなるかも分からぬ、尊いものである。

 

「あら?二人とも揃ってるわね」

 

「げっ」

 

そんな至福の時間はいきなり破れるものである。

白いドレスを着た女神は美と豊穣を司るフレイヤが二人を認識し、やってきた。

グラスを傾けながら、主にヘスティアを見て微笑む。

 

「あら、お邪魔だった?」

 

「まあ…ボク、君が苦手なんだよね…」

 

「フフ、知ってるわよ」

 

そういうところだよ、とヘスティアは口を尖らせる。

それに対してもフレイヤは不敵に笑ったままだ。

 

「来てたのね、フレイヤ」

 

「ちょっと気になることがあってね」

 

「気になること?」

 

ヘスティアの背中に悪寒が走る。

なぜだかフレイヤの視線がヘスティアに向けられているのだから仕方ない。

 

「ヘスティアのところに新入団員が入ったのよね?」

 

「あ、うん」

 

想定外の圧。

ヘスティアの足が自然と後ずさった。

 

「うん、よし」

 

「よし?何言ってるんだい?」

 

「あら、ロキが来たわよ」

 

「げっロキが?あ、マジだ。あ、いやそれよりフレイヤ…っていない」

 

「いつになく忙しないわね」

 

ロキがいるかを確認した隙にフレイヤは消えていた。

そして、別の厄介事が舞い込んでくる。

 

「ファイたーん!あとどチビ」

 

黒いドレスを着た洗濯板。

赤髪の女神ロキが走り込んできた。

 

「ロキじゃない」

 

「ロキかよ…」

 

「なんやドチビ喧嘩売っとるんか」

 

「苦手ランキングトップを突っ走ってるかな」

 

「やっぱり喧嘩売っとるやろお前」

 

「うえーい洗濯板ー」

 

「ストレートに喧嘩売ってきたなお前」

 

「ボーイズな服装も似合ってるー」

 

「変な動きで煽ってんなぁ!!」

 

「そうだよ!!売ってるよ!!!悪いか!!クソ雑魚板ァ!」

 

「なんや最近団員捕まえられただけのクソ雑魚ドチビがァ!」

 

「その団員クソ強いですぅ!!」

 

「ウチの子供の方が強いに決まっとるやろうか!!!」

 

「可愛さと健気さではこっちだ!」

 

「なんやミノタウロス相手に互角だっただけやろが!」

 

「それは褒めてない?」

 

「……とにかくウチの勝ちやぁ!」

 

「誤魔化したー!絶対誤魔化したー!」

 

「誤魔化してないですぅ!」

 

ロキとヘスティアの喧嘩は日常風景のようなものだ。

しかし、今回は少し風向きが違う。

 

「ただの親バカ決定戦じゃない…」

 

ヘファイストスのつぶやきに周りの神は賛同しただろう。

しかし、二人の喧嘩にものすごい勢いでうなづいている姿も見られる。

ファミリアを持った神は軒並み親バカなのだろう。

完全にエンターテインメント感覚で見ていた神々も賭けをせずに見守っている。

すんごい笑顔である。

 

「二人とも染まったわね」

 

「うわフレイヤ」

 

「あの喧嘩は見てて楽しいわね」

 

「まあ、そうね」

 

保護者感覚、従業参観、だろうか。

二柱の目線はすごく、生暖かいものであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




なんかフレイヤ様が常識人になってる…。
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