力尽きました。
就職したのでさらに頻度が下がると思いますが失踪は多分しません。
がんばります。
雲がまばらに広がる青空はまさにお出かけ日和の快晴といえる。
眩しいと思える太陽光も暑いとは思わない。
朗らかな風が吹き抜けて、涼しいとすら思える。
こんな日はベンチに腰かけて日向ぼっこをするのが良いと相場は決まっている。
たまに、ほんのたまにだがこうする日がある。
何も考えず、何もせず、空虚な時間を過ごすのは無駄だがその無駄な時間は素晴らしいものにもなるのだ。
雲を見て、青空を見て、何やら変な形の雲を見つけて。
「アイズさーん!」
ボーっとしていると遠くから後輩の声で現実に引き戻された。
遠くから駆けてくる山吹色の髪が特徴的な長い耳の少女、レフィーヤの声だ。
スライムのように溶けていたであろう身体を定型に戻し、声のする方向を眺めると本当にいた。
「レフィーヤ?」
「はいっ私です。何を見てたんですか?」
可愛い後輩の笑顔に少し、頭を悩ませる。
レフィーヤの顔から目線を外して空を見るが特筆してなにか見るべきものはない。
「…何も?」
「何も?」
「何も考えなかったから、覚えてない」
「そうですか」
ベンチの背もたれにもう1つ、重みが加わる。
自然に、当然のように座ったレフィーヤを横から見ると鼻歌を鳴らし、笑顔は柔らかく、しかしどこか緊張しているような顔が見えた。
「何か用?」
「えっ、あっ、その」
なにか言いたそうにしていたので聞いてみると瞬きがすごく早くなった。
レフィーヤがなにか言えるようになるまで、数分であった。
拳を握り、深呼吸をして、目を見開いて。
「おっ、お出かけしませんか!」
顔が赤くなり、煙が幻視される。
そんなレフィーヤを見ながら、あるものを思い浮かべた。
「いいよ」
ちょうど、暇だったのだ。
町を歩くのも悪くはないだろう。
こんな晴天の下でこもっているのは勿体ない。
「珍しいわねぇ。アイズから誘われるなんて」
「暇だったからちょうど良かったね」
「どこ行きましょうか」
「決めてないのね」
「テキトーでいいじゃんテキトーで」
「そうだね」
ティオナ・ヒリュテとティオネ・ヒリュテとレフィーヤ・ウィリディスとアイズ・ヴァレンシュタイン。
この4人の休日の散歩である。
何もない休日に友人と街を散策する。
先程までベンチで溶けていたが、こういうのも素晴らしい。
「じゃあ、あそこに行きませんか?」
「あそこ?」
レフィーヤが突飛に言い出す。
あそこ、なんて言われてもレフィーヤ以外の3人はピンと来ない。
「極東のお菓子が食べられるってところです!はずがしながら行ったことがなくて」
「聞いたことは、あるけど…」
「なんて名前だっけ」
極東とお菓子、その2つの単語が当てはまる施設があるのかと言われると、ある。
さすがにオラリオは世界の全てが集まる都市と言ってもいい。
そんなオラリオにないわけがない。
「葦名?」
一番に浮かんだ言葉を口に出してみる。
「それです!」
良くも悪くも思い出がある場所だ。
直ぐに思い浮かぶのは当然と言える。
「行ったことあるの?」
「うん」
「じゃあ、何か食べた?和菓子ってどんなの?」
「えっと…」
そういえば食べたことはない。
お茶を飲ませてもらったことはあるが、いつもお金を持って行ったことはなかった。
もう何年前になるだろうか。
その頃はお菓子も種類は少なかった。
「ない、かな」
「じゃあいい機会ですね」
「そうね。じゃあ行きましょうか」
いい機会だと頷きあう。
自然と葦名に行くことが決定する。
とまあ、そういうことになった。
メインストリートからやや外れた場所に、その茶屋はある。
裏路地のような場所ではなく、ちょうどよく人があまり通らない、そんな通りに葦名という旗を出している。
華やかさとは程遠い店内は妙に親近感が湧く、素朴な店内は自然と長居してしまう。
そんな、不思議な茶屋である。
軒先には布をかけた長椅子が二つ。
葦名と書かれた旗に、中央には入口らしい戸がある。
その奥には、店が広がっているのだろう。
「おー…雰囲気あるね」
「これが極東のカフェ、ですかね?」
「茶屋、だよ。極東のお茶とお茶菓子を」
「ふーん?…早く入らない?こんなところでたむろってたら迷惑じゃないかしら」
「うん。入ろう」
ガラスは見えず、あるのは見えるのは窓の役割を果たしている障子。
こじんまりとした店は遠征の度に行く【豊饒の女主人】の半分くらいだろうか。
こんなに狭く、甘味とお茶が美味いと少し話題になっているのに、繁盛しているところは見たことない。
考えれば考えるほど不思議な茶屋だ。
久々だが、純粋に客としてくるのは初めてである。
少し緊張するが、ガラガラと戸を開ける。
店内にはカウンター席はなく、テーブル席がいくつかあるのみ。
中に足を踏み入れ、席に座ろうと歩き出した時だ。
「いらっしゃいませ…」
妙に渋い、格好の良い声が耳に届いた。
声の源は店の中央、そこには長髪の背の高い極東の男がいる。
その男に見覚えがないわけがなかった。
「弦一郎、さん?」
「【剣姫】か。それに…何の用だ?」
「甘味とお茶を頂きにきました」
「客か、ありがたい。座って待っていろ」
「はい」
弦一郎という男は酷く無愛想だ。
私が言えることではないが、客商売には向いていないだろう。
前は女の子がいたと記憶にあるが今はいないのだろうか。
まあ、それはともかくとして弦一郎は暖簾を分けて奥の厨房に入っていく。
「あれってもしかして【巴流】?」
「そうだよ」
「えー?なんでそんな人が店番してるのさ」
「ちょっと…かなり怖かったですね…」
「まー、とりあえず座ろっか」
テーブル席は四人席だ。
ちょうど、4人なので座ることができる。