ただの鈍の刃ですら達人が振るえば必殺の刃となる。
そんな話はよく聞く話だが、冒険者にとっては信じられる話ではなかった。
少年にとってもまた、疑心暗鬼であったのだ。
狼に忍びの技を教え込まれ、エマに葦名流を仕込まれ、実戦を葦名の地にて磨かれ、夢の中にて死を体験した。
そして今度は迷宮都市にて新たなものを得ようとしている。
少年は達人には到達していない。
まだ、子兎にも満たないくらいには未熟である。
梟とは鳥類の一種である。
【森の忍者】とも呼ばれる、その所以は音もなく飛び立ち獲物を狩ることにある。
目の前に立つ梟の動き、それに音は伴っていない。
鳴っているのかもしれないが少なくとも少年には聞こえなかった。
見切り、弾き、反撃、知っていてもそれができない。
しかし、それに恐れはなかった。
梟は音もなく飛び立つ。
故に音もなく攻撃が飛んでくる。
極限の切れ間、そこに思考を挟む余地など生まれない。
忍びの戦いにおいてそれは致命傷、だからまだまだ未熟なのである。
搦手などない単純な攻防であった。
梟は幻術を使わず、煙玉もクナイも手裏剣も、ただ剣術で勝負していた。
少年はというと、なんでもありである。
左手にある忍義手に仕込まれている忍具を使用していた。
しかし、梟には届かない。
「‥‥‥ッ!!」
刀を弾かれ、忍具を使おうとした瞬間である。
目の前に靴底が見えた。
「終わりじゃな」
地に打ち付けられた。
そして大太刀は顔のすぐ横に突き刺さっている。
「‥‥‥負けました」
少年は潔く負けを認めた。
しかし、その瞳からは戦意は失われていない。
毛むくじゃらの顔、少し見える肌色から笑みが感じ取れる。
「べるよ。どうやってそこまで至った」
「仏師殿とエマ殿のおかげです」
夢の中で幾度も死んで、ここまで至った。
どこか少年の面影がある黒いドレスの女性、黒い鎧に身を包んだ男性、緑髪のエルフ。
少年そのものの顔の道化、牛の怪物。
そして別の未来の自分。
全てを忍殺して首を刈り取ってきた。
「狼と道玄の義娘か‥‥‥」
「そう聞きました」
梟は狼の義父。
裏切って狼に斬られて死んだのだ。
そしてこのオラリオの地には葦名衆がいる。
あの土地にいた、英雄たちが。
「一心様にお会いしてもよろしいでしょうか」
「儂の許可なぞいらんだろう」
「場所を聞いたのですが」
「ならそう言え」
カッコよく決めたんだぞと梟はため息をつく。
ベルはそれを見て意味がわからないと首を傾げた。
「それで、一心様方はどこに?」
「知ってはいるが‥‥」
「会いたくないと。地図を渡してくださるだけでも良いですが」
「‥‥‥」
梟は間が悪そうに瞼を閉じる。
眠っているわけではないことは明らかだ。
その様子を見てベルもまた瞼を閉じた。
「帰った、っとその小僧は?」
忍びだ。
音もなく帰ってきて、そのしゃがれた声を聞くまでベルはその存在がいることを分からなかった。
見えたのは老婆。
白髪に顔は老婆のものだ、しかし確かに忍びである。
「狼の弟子らしい」
「ほぉ?狼の」
「‥‥‥はじめまして、ベル・クラネルです」
「ああ、よろしく。べる」
優しそうな人である。
ベルはそんな第一印象を抱いた。
「お蝶、べるを一心様のもとに連れて行ってくれんか」
「まだ会ってないのかい?」
「儂は小心者での」
えっ、とベルは梟を見る。
梟の顔に表情は浮かんでおらず、お蝶と呼ばれた女性は呆れたように額に手を当てていた。
彼女は梟をよく知っているようだ。
「‥‥‥はぁっ。べる、ついてきな」
「はい。お蝶殿」
お蝶はベルを一瞬、驚いた目で見た。
それに対してベルは首を傾げる。
ベルは仏師からお蝶のことを聞いている、だからお蝶のことをお蝶殿と呼んでいる。
その姿にかつての弟子の姿を想起させたのだろうか。
「‥‥‥行くよ」
「はい」
事情もわからないし、詮索も無粋だとベルはお蝶について行く。
オラリオの地下からお蝶とベルは這い出してきた。
梟は忍びにはぴったりな場所だと笑っていたが、なんとも窮屈な場所だとお蝶は話していた。
「お蝶殿」
「なんだい?」
オラリオの大通りをお蝶と共に歩く。
その様は祖母と孫のようであった。
「僕は、仏師殿と似ているのでしょうか」
「まったく、これっぽっちも似てないよ」
まずとして、狼は無口で無愛想だ。
表情を変えることは滅多になく、口を開くのも滅多にない。
それに比べてベルは表情は割と変わるし、口数も少ない方であろうが狼ほどではないのだ。
似ているところと言えば考え方くらいなものである。
考え方まではお蝶でも見ただけでは分からない。
なので、お蝶はこれまでの印象をもって話した。
「ですよね」
ベルはそう納得する。
エマにも仏師にも忍びは向いていないと言われたこれまでのこと。
仏師には表情はなく無愛想で、エマはベルの持って来た酒をすぐに飲み干していた。
不器用な元忍びと酒好きな薬師の二人に世話されたベルはとてもあの二人に似ているようには思えなかった。
似ているのか、と聞いた理由は特にない。
お蝶殿と呼んだ時のお蝶の反応くらいなものだ。
そんな二人の間には気まずい空気が流れる。
どちらも率先して話すような性格ではないが、なにか話さないと気まずくなってしまうのだ。
無理やり話を作ろうにも相手をほとんど知らないので気安くは作れなかった。
「べる、狼は元気かい?」
ベルはそのお蝶の言葉に救われたような気になった。
気まずい空気が、共通にある話題で払拭されたような感じがしたからだ。
「はい。修羅の炎には蝕まれてたみたいですけど」
「鬼と化したら、あんたが狩るのかい?」
「もちろんです。しっかりと、あの人を
それが自分にできることだと語る。
ベルが仏師にできることは介錯くらいのものだ、関わってしまった以上、命の恩人だから、恩義には報いなければならない。
「なら、しっかり鍛えないとね」
お蝶の目の色が変わる。
なにか決意を固めたような、そんな顔つきに変わった。
「お願いします。僕に忍びの技を」
「お安い御用だ。挫けるんじゃないよ」
「挫けません」
絶対に、と付け加える。
仏師は絶対に救うとそう誓ってしまったんだ。
世界の英雄になんてなれなくてもいいと心に決めた。
「‥‥‥さて、見えてきたね」
「どこですか?」
「アレだよ。茶屋さ」
お蝶に言われた通りに茶屋を探す。
やがて見つけた看板には【葦名】と極東の字で書かれているのが見えた。
小さく
【茶屋 葦名】ということなのだろう。
「‥‥‥ここに一心様が?」
「あんたの言う一心様が【剣聖】ならね。違ったかい?」
「いえ、違いません。あと、ここに九郎様はいらっしゃるのでしょうか」
【剣聖】と名前を轟かせているだろう葦名一心を探すことによって九郎様探しを少し楽にしようという算段であった。
「いるよ」
「それは良かった」
早くも目的の一つが達成となり、一つ安堵の息を漏らす。
「仲介は頼めますか?」
「‥‥‥お安い御用だね」
少し目を閉じて考えた後、お蝶は結論を出す。
いきなり、大切な人の持ち物を持った人物が自分の元に押しかけてきたらと思うと、少し気持ちがゾッとする。
だから、梟殿やお蝶殿がいてくれたのは心強かった。
【葦名】と書かれた看板、そして独特の意匠の暖簾をくぐって中に入る。
かなりすっ飛ばして超速で九郎様に会わせることにしました。
一心様は、何をどうしてるんでしょうね。
絶対、化け物以上の活躍してるよこの方は。
【秘伝 竜閃】や【秘伝 一心】だけでも化け物ってわかるもんな、この方。
作中の動き見てるだけでも十分化け物なんですけどね。
この方に剣で勝てる人いるなら教えて欲しい。
型月ともタメ張ると思うんだよね。
書いてる方いたけど、あれば良かった。