エルフの里の大聖樹の枝を削って作られた木刀。
仏像に供えれば世界を渡ることができるだろう。
魔法の触媒にも、武器にも使うことができる。
とあるエルフは友の形見としてこれを持ち続けている。
狭い室内に生活のための品が密集している。
広めのベッドに質は普通のソファ、洗面台にちゃぶ台。
決して生活環境は良いとは言えないが、寝床はあるし趣好品もあり、雨風も入ることがない。
良くはないが悪くもない、寧ろ恵まれているとさえ思える住居だ。
そんな地下室はとても住居には見えない廃教会の地下にある。
その廃教会自体は雨風入りまくり、ボロボロでヘスティア様が勧誘に成功したとしてもこの廃教会を見て帰ることなんてザラだったらしい。
そもそも勧誘に成功するのが少なかったらしいが。
魔石灯の頼りない光が地下室を照らす。
白髪の少年とツインテールを揺らす小さいながら胸にある巨峰のアンバランスさは侮れない。
それに流される白髪の兎でもなし、ベルは特に気にすることなくヘスティアに背中を預けている。
ヘスティアはその上に馬乗りになるような形で指に針を刺してその先からベルの背中に向けて血を垂らした。
「‥‥よし、これで」
ベルの背中から光が現れる。
神々が使う言葉である
光が収束して残るのは【ステイタス】と呼ばれる【
竈の火の中にそれらは記され、ヘスティアは慣れない手つきで
「できたっ!!」
「ありがとうございます」
初めてのことらしい、成功に歓喜するのは当たり前だろう。
嬉しそうなヘスティアの様子にベルはどんな反応をするか少し困って、素直に礼を言うことにした。
「ベル君っ!これが君のステイタスだよ!」
テンションが上がったヘスティアがベルに羊皮紙を見せびらかす。
できたよ、という自慢と喜びが入り交じったような顔なのだろう。
そんな顔が見えないくらいに羊皮紙が顔に近づけられているが。
「おお、‥‥‥見えないですね」
「あ、ごめんね」
文字が読めないくらいに極限まで顔に近づけられていた。
鼻がつくくらいだ、見えないことを言うとヘスティアは写しを手渡す。
ベル・クラネル
Lv 1
「力」 I 0
「耐久」 I 0
「器用」 I 0
「敏捷」 I 0
「魔力」 I 0
魔法
【忍殺忍術】忍殺魔法。
【義手忍具】 速攻魔法。
スキル
【忍殺呼吸】忍殺とは忍びの呼吸、殺すとともに体と心を整える。
「これは、どうなんですかね」
「異常、だと思うよ。速攻魔法や忍殺魔法なんて聞いたことないし」
ベルもヘスティアも首を傾げる。
どちらも初めてのことで当たり前なのだが、それでもベルのステイタスは異常と分かるものであった。
忍殺魔法や速攻魔法なんて魔法はこれまでそれぞれ一人にしか発現していないが、事実としては認知されていない。
常識として、魔法は【詠唱】が不可欠なものである。
そこから考えると速攻魔法、というものは詠唱が要らない魔法なのではないか。
忍殺魔法というものは全くもって理解できない、というのがヘスティアの頭の中である。
「何となく分かりますよ」
「本当かい?」
「はい。どっちもよく使ってたので」
ベルが話したのはあくまでで予想である。
【忍殺魔法】というのは忍びの美学である【忍殺】を決めた時に使えるものだろう。
【忍殺忍術】という魔法の名前から明らかなことだと思われる。
【速攻魔法】はよく分からないが、これまで義手忍具は使ってきた。
その時に詠唱などは必要なかったので無詠唱で放てるものなのではないか、というものである。
これまではどちらの使用にも【形代】が必要だった。
それが【魔法】の使用に必要な【
簡単なものですが、と最後に付け加えてベルは説明を終える。
「うーん、よくわかんないなぁ」
「試してみるまではですね」
「でも今日はもう遅いよ?」
「分かってます。そろそろ寝ましょうか」
夕飯はベルが腕を振るい、じゃが丸くんだけの食卓に彩りを加えた。
【
つまりはもう寝てもいい、だからベルは服を着てソファに向かった。
それを見たヘスティアは少し頬を膨らませる。
「では、おやすみなさい」
「むぅ、おやすみ」
ヘスティアは布団に潜り、ベルはソファの上で毛布を被る。
安心して眠れる場所があるのは嬉しいもので、その夜は幸せに眠りについた。
オラリオ北西にあるギルド本部。
ベルはつい先日に訪れた、冒険者を目指すものなら訪れなければならない施設である。
ファミリアを探すのにも、探して所属した後に冒険者登録をするのにも訪れる場所だ。
冒険者登録をしなければギルドの施設が使えず、それはオラリオにおいてかなりの不自由を強いられることになる。
オラリオの物理的な中心は雲をも貫く巨塔【バベル】であるが、実質的な中心はこのギルド本部だろう。
見た目も神殿みたいで壮大だ。
ノブを掴んで扉を開けると、朝だからかあまり人は見えない。
受付が見え、その奥では人が忙しなく動いている様が見えた。
昨日対応してくれた受付嬢を探して、受付に向かう。
「あ、ベル君」
「昨日ぶりです、エイナさん」
眼鏡を掛けたハーフエルフの受付嬢、エイナ・チュールはベルを見て少し驚きながら仕事モードに移る。
ベルは軽くお辞儀をして要件を話し始めた。
「冒険者登録に来ました」
「‥‥‥では、用紙に必要事項を」
「はい」
記入はそんなに時間はかからなかった。
ほとんどが任意のものであったからである。
「はい、確認致しました。ベル・クラネル氏、あなたを冒険者として登録します」
エイナは用紙を確認すると事務的な話し方で受理したことをベルに伝える。
それを聞いて少し、ベルは安堵した。
「じゃあ、ベル君。相談室まで来てくれるかな」
「分かりました」
口調を砕けさせたエイナの指示に従って相談室に向かう。
足取りは軽く、音はなかった。
「‥‥‥だよね、知ってた」
「やろっか」
ベルの目は虚ろになり、エイナの目はイキイキとしている。
勉強は苦手な訳ではないベルだが、なるべくはやりたくないのだ。
机の上に積み重なっているのは辞書のような厚さの本が五冊以上。
こんなモン覚えろってのか、という感じの愚痴を言おうとして口を噤む。
エイナの教え方はスパルタであるが的確で分かりやすい。
それでも地獄であることには変わりない。
この時間が早く終わって欲しい、なんて何度思ったことだろうか。
一時間の時の流れがとんでもなく長く感じた。
一日経ったような、そんな感覚であった。
エイナに見送られ外に出た時の空は晴れ渡り、太陽が眩しい。
ベルの心の内とは全く同じである。
受けている最中は地獄でも、終えてみれば良いものであったと思うことなどよくあることだ。
心は晴れ渡り、軽い足取りで向かう先はバベルだ。
初めてのダンジョン、死地に赴くという緊張感や恐怖、そして高揚感が心を支配している。
武者震い、というものが体を震わせている。
冒険者登録まで。
次回は初ダンジョンから一心様との対面ですかね。
ステイタスはね、マジで思いつきませんでした。
良かったら知恵を貸してくださると嬉しい。
流派技は魔法には含みませんでした。
スキルに流派技関連のものをぶち込みたかったです。
まだ隻狼未プレイなもので、至らない点は指摘してくだされば嬉しいです。