隻腕の兎   作:衛鈴若葉

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今回はお休み。


好敵手

命は弦一郎を師としている。

彼女の構えは巴流のものではなく、葦名流には決まった構えはなく。

故に、どのような戦いをするかはわからず。

兔は未熟、ただの人間だ。

怖気は人を殺す、それは比喩なしに真実。

 

兔は恐れを考えないように、常に頭で何かを考える。

夢では死ぬことが許された。

しかし、ここは現実である。

ましてや兔は死なずではなかった。

 

「準備は」

 

「いつでも」

 

聞こうとしたら、即答

瞳を見て、口角を吊り上がらせた。

真剣そのもので、腹をくくっている。

 

忍義手は使わない、殺し合いではないのだから。

そんな思いで忍義手は使わない。

 

居合は竹刀であるため使えない。

 

 

徹底して何もやらせない、やりたいことをすべて、遍く潰す。

それが兔の理想だ。

 

小鬼は弱すぎて、弦一郎は強すぎた。

ならば、目の前の命はどうだろう。

 

―――やってみた方が早い。

 

そう、兔がつぶやいた。

 

 

兔と命が向かい合って数秒。

先に動いたのは、兔だ。

 

二連には届かぬ、一文字。

踏み込みより無骨に叩き込む。

 

竹刀であるから、音はあまりなかった。

実感はこもらずとも、確かに防がれた。

 

当然、当たり前だ。

この程度は防がれて当然である。

予期できてさえいれば次を弾くことは難しくない。

 

体幹を崩すことのみを頭に置き、命に何もやらせない。

そのためにも、ただ攻め続ける。

地味であろうと関係ない、ただ勝つのみだ。

 

弾き、弾かれ、竹刀のぶつかる音が庭に広がり消えていく。

 

「純粋な葦名流」

 

「巴流は教えてはいただけませんでした」

 

「そう、ですか」

 

巴流の技は飛んでこない。

そんな事実にかすかに笑みが浮かぶ。

巴流は舞のように攻撃が飛んでくる。

―――見蕩れてしまうのだ。

 

そう思い、少し慢心してしまった。

ほんの少し、気がそれてしまった。

 

「外し―――っ!?」

 

耳に竹刀のぶつかる音が聞こえなかった。

故に外したのだと分かったが、それでは遅すぎた。

 

「ぐぅっ」

 

本来ならば見切れたはずの突きを防ぐことができなかった。

しかも腹部に衝撃が突き抜ける。

 

動揺、振り返り、まだ不要である。

足踏みなどしては勝つなど万年早い。

命のみに意識を集中させ、瞬時に構えを取り直す。

 

「流石」

 

命の、称賛の声だ。

弦一郎に教えを乞うている彼女、千草もだが尊敬している人物は弦一郎や一心、お蝶の他にもいる。

又聞きでしかないが、エマという薬師である。

薬師であるが、柔の剣により弦一郎にも引けを取らない。

 

「―――お戯れを」

 

兔はエマに鍛錬をつけてもらっている。

一心に打ち勝ったかつての狼にもだ。

九郎が自慢げに語ったであろうそのことに、うらやましがったに違いない。

だからこそ、興奮していたのだ。

 

兔はそんなことなど一片も知らない。

命のいった言葉が理解できなかった。

なぜ、称賛されたのかわからなかった。

過小評価だと感じたのだろう、速さが増した。

 

勝ち方など関係ない。

ただ、勝ちに行く。

故に、

 

「えっ」

 

命の竹刀の行く先は虚空。

完璧にはじき続けていた兔は、避けた。

 

下段、その動きに従って跳ねたのだ。

足に向けられた下段攻撃は弾けぬ。

両手に構えた竹刀を、まっすぐ振り下ろした。

 

「これで、あいこ」

 

「いてて、そうですね」

 

「終わりは如何様に」

 

「先にもう一撃与えた方で」

 

「―――承知」

 

終わりが見えた。

ならばと兔のモチベーションも上がる。

正眼に構える命を見据えている。

 

先ほどとは違い、兔は待った。

弾くために、見切るために。

その為に眼光をとがらせている。

 

「――!一文字」

 

速かった。

明らかに兔のそれよりも研ぎ澄まされている。

 

しかし、そんなものであればまだ弾くことはできる。

どれだけ身に受けたことか、どれだけ死んだことか。

死合いの中で兔も成長していたのである。

それに、エマのものよりはましであった。

技で圧倒してくるあの薬師に比べれば。

 

無論弾いて終わりではない。

あちらから来てくれたのだ。

 

弾かれた、弾いた。

何度も、何度も、命を休ませないように。

逃がさないよう、一定のリズムで。

 

パン、と音が響く。

三度目の、人体に当たった音だ。

 

たまらず逃げ出そうとしたとき、命の腹部に逆袈裟が入った。

 

「―――勝ち、です」

 

「負けました」

 

竹刀を収め、お辞儀。

それにて試合は終わる。

 

「騒ぎが聞こえませんね」

 

少しの声すらも聞こえない。

集中していた時ならばまだしも、今も全くだ。

 

「もう寝たんでしょうか」

 

「どうでしょう。九郎様ー?」

 

縁側にたたずんでいるはずの九郎に、兔は声をかける。

 

「ありゃ、いない」

 

消えていた。

兔と命が気づかなかっただけで単に移動しただけだろう。

どこに行ったのだろう、と兔は頭を巡らせようとする。

 

「千草殿も。道場でしょうか」

 

千草もいなくなっていて、命がどこにいるのか予想を出した。

 

「運んでいるのであれば、手伝いましょう」

 

兔は命の言葉で合点がいったと同調し、言葉を吐く。

 

「もちろん」

 

それに対して、命がうなづいた。

どうやら二人とも考えは同じであったようである。

 

兔は命の後についていって、道場に向かう。

途中、命に仏師やエマのことを聞かれて包み隠さず兔は答えた。

本人たちに口止めされているでもなし、一心の関係者である彼女に隠しておく必要はなかったのだろう。

質問攻め、そういうのがふさわしかった。

それも仕方ない。

一心に勝った仏師にオラリオにおいてでも類稀な強者であろうエマ。

 

 

「羨ましいです」

 

「命さんには弦一郎殿がいるでしょう?武神のタケミカヅチ様も」

 

その方がうらやましいと兔は語る。

 

「梟殿にも稽古をつけてもらっていると聞きました」

 

「それが?」

 

「ずるいです!」

 

「絶対弦一郎殿の方が教え方うまいですよ」

 

エマや仏師、梟とやったことは実戦のみ。

完全に体に叩き込まれるだけの教え方であった。

お世辞にも教え方がうまかったとはいえず、器用そうな弦一郎の方がよいのではなかろうか。

そんな素朴な疑問である。

 

「む、ベルに命か」

 

歩いてきた弦一郎が二人に気づいた。

 

「弦一郎殿」

 

「倒れておられないのですね」

 

心底不思議そうに二人は弦一郎に聞く。

てっきり酔いつぶれていると思っていたらしい。

弦一郎の顔は健康そのものであり、酒を飲んでいたようには見えなかった。

 

 

「あの方たちにはついていけん」

 

「たしかに」

 

弦一郎は目をつむって答え、兔は頭に地獄を思い浮かべて同意した。

酒豪たちの中に入るのは勇気と希望が必要だ。

 

「一心様方は、もう寝られたのです?」

 

「ああ、御子と千草の力を借りて寝室に運んだ。二人ももう寝室だぞ」

 

お前たちを呼びに来たんだ、と弦一郎は続けた。

兔を寝室に案内に来たらしい。

ありがたい、と兔は弦一郎に感謝を送って今度は弦一郎の後ろについていく。

 

案内し終えると弦一郎はもう寝ると自分の寝室に向かっていき、命も同じくだ。

 

「ふかふか」

 

疲れた体は自然と布団に吸い込まれていった。

枕に顔を埋め、干した直後の様なふかふかで温かい布団に包まれる。

ああ、至福と瞼が下りていって、意識がプツリと途切れた。




隻狼のキャラが浮くのは当たり前だよなぁ!!
オラリオになじめるとは思えんよな。
このままだと梟と弦ちゃんにしごかれそうなベル君。
強くなるねぇ。
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