『剣聖』ラインハルトと『腸狩り』エルザ・グランヒルテの一騎打ちは『盗品蔵』を全壊へとさせた。
屋根を失った盗品蔵を引き抜き空間ごと真っ二つにした。
建物だけが真っ二つになっていればこんな事にならなかったんだろうが、空間ごと斬ってしまってるので元に戻ろうとする空間。
大気が歪曲するほどの威力の余波が部屋の中を暴風となって荒れ狂う。
逆巻く風が盗品を、家財を、廃材を巻き込んで暴れ回り、柱がこちらへ倒れてくる。
アレに当たったら死ねる。
そんな事はさせない。
『
フェアリーテイル最強の魔道士、ギルダーツの粉砕魔法を掛け、銀髪の周りを囲んでいた結界を解いて、物を弾く結界をかける。
スバル「化け物かよ…」
たった一振の一撃でこの威力。
剣術を極めれば魔法をも斬れると言われてるが建物も斬れてしまうとは…。
…流石『剣聖』だな。
ラインハルト「そう言われるとさすがに僕も傷付くよ、スバル」
苦笑しながら破壊の原因ラインハルトが振り返って言った。
彼の持っていた両片手剣は力に耐えきれず、粉々に壊れてしまった。
ラインハルト「無理をさせてしまったね、ゆっくりおやすみ」
建物ごと切り裂くような斬撃のあとは何も残っていない。
その破壊は入口付近のカウンター席ごと吹き飛ばし、その余波は蔵の前の広場にも及んでいる。吹き荒れた暴風は建材を軒並み崩壊させ、今にも建物が崩れそうだ。
一撃で更地にするほどの威力。やはり化け物だ。
エルザがいたはずの場所は、当然のようにその斬撃の範囲内。黒衣の長身の姿はどこにも見当たらない。
――だが、エルザのマナがあるので、生きている事が伺える。
銀髪「無事に、終わったの?」
スバル「ああ、ホントの意味でどうにかな」
銀髪が弱々しくスバルに問うが、マナ探知のできないスバルは終わったと思うだろう。
警戒しながら辺りを見渡す。
スバルが銀髪に生存確認をした後、ラインハルトに感謝を述べる。
ラインハルト「お礼はそちらの少女とエトワールに言おうか。エトワールが炎魔法を上げてくれなかったら気づかなかったよ。来るのが少し遅れちゃったけど。――その後は騎士の務めを果たしただけよ」
ラインハルトの言う少女はフェルトの事だ。
彼女は今はなくなってしまった入り口付近におずおずとこちらを見ている。
スバル「騎士の務めって、平屋を更地にすることか?」
ラインハルト「それって意地悪過ぎやしないかい、スバル」
痛いところを突かれた、と胸を押さえるラインハルト。
これほどの惨状を生み出しておきながら、その変わらぬ親しみやすさはどこか空恐ろしくもある。
銀髪「あの子は……」
銀髪もまた、おぼつかない足取りの中でフェルトの姿に気付いた。
スバルはそんな彼女の視界からフェルトを守るように回り込み、
スバル「タンマタンマ。あいつとエトワールがラインハルトを呼んでくんなきゃ、俺たちはきっと全滅してたんだぜ? ここは俺の顔に免じて、氷の彫像の刑は見送ってくれよ」
銀髪「そんな乱暴しないわよっ。というか、あなたの顔に免じてって……」
疲れたように眉間をもむ偽サテラ。
そんな仕草のひとつすら、どこかスバルは嬉しそうに見える。
――そんなスバルの姿を見て愛おしいとなる僕である。
…あれ、スバルの事好きなのか。
まぁ、今はスバルの傍に入れたらいいや。
スバル「あとは俺のネゴシエーション次第か……そこが一番、信用できねぇ!」
銀髪「さっきからどうしたの? わたわたして、すごーくみっともないけど」
スバルもまた胸を押さえてラインハルトと同じリアクション。もっとも、そこにはひょうきんさがあるだけで、彼のような凛々しさは微塵もない。
そんなスバル達のやり取りを見て、ラインハルトは小さく嫌味なく笑う。それから彼はこちらをうかがうフェルトの方へ、片手を挙げて迎えにいった。
警戒しつつも、助けに応じてくれたことへの恩義を感じているのか、歩み寄ってくるラインハルトからフェルトは逃げようとはしない。
そんな二人を若干、微笑ましいような感じでスバルは見守り、
ラインハルト「――スバル!」
ふいにこちらを振り向いたラインハルトの叫びに、スバルを守るように前に、短剣を構え滑り込む。
『――生きてるのは知ってるんだよ!!』
たった一瞬。それだけに様子を伺っていたのだろう。
たった一撃を退けばラインハルトが来てくれる。
それを弾き返す。
エルザ「ち、残念だわ」
弾き返されたククリナイフを見ながら舌を鳴らす。
ラインハルト「そこまでだ、エルザ!」
駆け戻るラインハルトを前に、戦闘続行の無意味さを悟る。
エルザは手の中、僕の攻撃で完全に歪んだククリナイフをラインハルトへ投擲。矢避けの加護によってそれは当たることはなかったが。
エルザ「いずれ、この場にいる全員の腹を切り開いてあげる。それまではせいぜい、腸を可愛がっておいて」
廃材を足場に、エルザが跳躍する時間を稼ぐには十分だった。
遠ざかる背中を見送って、ラインハルトは銀髪の少女に駆け寄る。
ラインハルト「ご無事ですか――」
銀髪「私のことはどうでもいいでしょう!? それより……」
端正な顔に焦燥感を走らせるラインハルト、彼の言を振り払い、偽サテラは僕の方へ向かう。
銀髪「ちょっと大丈夫!?」
『大丈夫、スバルや銀髪は大丈夫かい?』
心配そうにこちらを覗き込む、銀髪に片手で制し無事な事を明かす。
スバル「今度はもう、完璧にいなくなったよな?」
ラインハルト「すまない、エトワール。さっきのは僕の油断だ。君がいなければ危ないところだった。彼女を傷つけられていたら僕は……」
『あー、大丈夫だよ、スバルも無事だったし。全員無事で良いじゃねぇか』
流れを変えるかのようにスバルが天に手をかがける。
スバル「俺の名前はナツキ・スバル! 色々と言いたいことも聞きたいことも山ほどあるのはわかっちゃいるが、それらはとりあえずうっちゃってまず聞こう!」
銀髪「な、なによ……」
スバル「俺が知りたいのはただ1つ。」
指を一本だけ立てて突きつけ、くどいくらいにそれを強調するスバル。そのあとに指をわきわきと動かすアクションを付け加えて少女の不安を誘い、喉を鳴らして悲愴な顔で頷く彼女にスバルは好色な笑みを向ける。
スバル「――君の名前を教えて欲しい」
呆気に取られた少女は紫紺の瞳が見開かれた。
しばしの無言が周囲を支配し、決め顔を維持するスバルは静寂の中でかすかに震える。
――スバルらしい。
銀髪「ふふっ」
彼女から出た笑いは覚悟を決めたわけでもなくただ純粋に楽しいから笑った笑みだった。
銀髪「――エミリア」
笑い声に続いて伝えられた単語に、スバルは小さな吐息だけを漏らす。
彼女はそんなスバルの反応に姿勢を正し、唇に指を当てながら悪戯っぽく笑い、
エミリア「私の名前はエミリア。ただのエミリアよ。ありがとう、スバル」
彼女は手を差し出し、
スバル「まったく、わりにあわねぇ」
と言いながらエミリアと握手するスバルだった。
『――さて、エミリア、一番最初に言ったかもしれないが、エトワールだ。気安くエトって呼んでくれたらいいよ』
エミリア「うん、エトもありがとね」
エミリア握手する僕だった。
――それで終わっていたら良かったのだろうが、終わらなかった、この時の僕は知らない。