エミリアの来訪に驚いていたスバルだったが、すぐに喜びの感情へと変わっていった。
軽く会話をし、ジャージを双子に持ってこさして、スバルは疑問に思っていたことを言う。
スバル「――そういえば、俺をこの服に着替えさせてくれたのって?」
エミリア「1回目は、私だけど。ラムとレムが出払ってて、手当てついでに着替えさせられるのが私だけだったから」
欠片も気にする素振りもなく言い切るエミリア。
スバルはそっと履いている下履きの中を覗き、下着まで取り替えられている事実を確認。その場に崩れ落ち、顔を掌で覆う。
スバル「…1回目は?なぜ、下着までも変えられてるの…」
『下着は、僕だね。夜中ベアトリスに会ってちょっかい出されたやん?それで服ごと汚れたから体洗うついでに…』
スバル「そっか……。ありがと、エトワール、エミリアたん」
まぁ、スバルの心情は察する。
スバルは衣装を持って目配せをする。
着替えの意図を察したエミリア達は部屋を出ていく。
スバル「――いや、エトも出ていけよっ!」
『んー?今更じゃない?大丈夫、僕は気にしないから。なんならスバルも見たいのかい?』
スバル「いや、えっと、見たいは見たいけど…ってなんて事を俺に言わす!?」
『別にいいのに。どーせ換装で別の服に着替えるだけだし』
部屋を出ていかない僕にいそいそと着替え始めるスバル。
スバル「…換装?」
『んー、異空間または別空間にある服や武器とかを瞬時に身につけてる魔法かな』
換装は、FAIRYTAIL最強の女魔道士、『
それ以外にも銃を乾燥していたアルザックやビスカの魔法。
『まぁ、こんな風に着替えられるという事だ』
昨日来ていた服に瞬時に換装する。
元々来ていた服は手持ちに残るようにして。
本来ならば、来ていた服と交換するように入れ替わるのだが、この服は屋敷にあったものだろうし、手持ちに持っといた方が良いだろうと判断。
スバル「ふーん、良いな」
『スバルは何が使えるだろうね。パックにでも聞いてみるか。――まぁ、僕もこの世界の魔法が使えるのかが気になるなら見て欲しいけど』
スバル「そーだな、よっし、着替え終わった!」
『ん、行こうか。スバル』
部屋を出て着替えるのを待っていてくれたエミリアに服をどうしたらいいか聞く。
彼女いわく、置いといてくれたら双子メイドが回収してくれると。
…凄いなぁ。
双子の能力もだが、この屋敷も。
スバル「しかしやっぱでけぇな。屋敷もそうだけど、庭っていうより原っぱだ」
『ああ、それほどまでにお金持ちな屋敷だよなぁ』
スバルはさっそくとばかりに屈伸運動を始める。
リズムに乗るスバルを見ながら、傍らのエミリアは不思議そうな顔をして、
エミリア「珍しい動きだけど、なにしてるの?」
スバル「ん? 準備運動の概念ってないの? 体動かす前にあちこちの筋をほぐしとかねぇと、思わぬとこで靱帯損傷! アキレス腱断裂! とかするぜ」
エミリア「ふーん、あんまり見たことないかな。でも、確かに体を温めないで急に動かすとケガしやすいものね」
『この世界じゃ、運動するというのがあまり無いんじゃない?魔法が発展してるし』
スバル「準備運動しねぇのか、んじゃ、仕方ない。教えてやろうじゃあーりませんか。俺の故郷に伝わる、由緒正しい準備運動をな!」
スバルの言う準備運動はラジオ体操の1か2だろうな。
スバルはエミリアに自分の隣に並ぶように指示。
二人で横に並ぶと、屋敷に背を向ける形になりながら、太陽を正面に大きく息を吸い、
スバル「ラジオ体操第二~! ちゃんちゃんちゃちゃんちゃんちゃんちゃん♪」
なるほど、2か。
なら―伴奏居るかな?
異空間からピアノを取り出し、弾き始める。
エミリア「え、うそ、なに?」
スバル「手を前に伸ばして、のびのびと背伸びの運動~! 俺に続け、フォローミー!エト、そのままで頼む!」
戸惑うエミリアを叱咤しつつ、スバルは全国的に有名なラジオ体操を歌う。
最初は怪訝な様子で真似していたエミリアだが、次第に真剣な顔つきで運動に没頭。
最後の深呼吸までしっかりやり通す。
そして、僕は間違えないように弾くので精一杯だった。
スバル「で、最後に両手を掲げて、ヴィクトリー!」
エミリア「び、びくとりー」
スバル「よし、以上。初めてにしちゃ上出来だ。エミリアたんには『ラジオニスト初級』の称号を授ける。今後も励めよ! ファイト!」
『――終わったか』
エミリア「スバルの発言はともかく、運動がちゃんとしてたのは事実ね。体の中、マナが綺麗に循環していくのを感じるから」
スバル「広めてくれていーぜ。ただし、ちゃんと歌と歌詞を正しく広める条件で」
『必要とあらば伴奏係として僕も参加するよ?』
ラジオ体操第2はあの音楽と掛け声あって、初めて成立するの物だ。
いつになく真剣なスバルの態度に気圧され、エミリアは頷く。
エミリア「えっと……ちゃんちゃんちゃららら♪ だっけ?」
スバル「違う! ちゃんちゃんちゃちゃんちゃんちゃんちゃん♪ だ!」
しばらく二人で「ちゃんちゃんちゃらちゃん」言い合う時間が続き、最終的にスバルが歌詞を紙に書くことで決着する。
言い合ってる時間は僕はラジオ体操第2の序盤を繰り返し弾いていた。
『―多分、文字読めないと思うよ、日本語は。僕は街の看板とかで読めてるから、書けるけど』
スバル「マジで?。うわー、詰んだ」
もうピアノは必要ないか。
異空間に戻す。
エミリア「それにしても、スバルってけっこう、体鍛えてるのね」
手首と足首を回して関節をいじめるスバルに、ふいにエミリアがそう呟く。
スバル「あー、まぁ、多少。ひきこもりだし、体鍛えるくらいやっとかねぇと」
エミリア「その、ひきこもりっていうのよくわからないんだけど。スバルってかなりいい家柄の出でしょう? 武術とかならってたんじゃないの?」
スバル「いや、俺はマジ普通の中流家庭出身だけど……俺が名家出ってどこ情報? 高貴な家柄っぽい雅な気風が溢れ出してた?」
エミリア「好奇な感じは確かにするわね」
うまいこと仰る、とスバルは両手を挙げておどける。
と、エミリアはその掲げたスバルの両手を素早く掴み取ってきた。
女の子に指を触れられ、スバルの喉が「ぁぅ」と凍る。
…スバル、女の子慣れしてないなぁ。
そんな所も可愛いんだが。
エミリア「この指もそうだけど、肌とか髪の見た目が理由。庶民とは暮らしが違いすぎる手よ。筋肉のつきかたも仕事でついた感じじゃないし……。エトも指とか細いけどしっかりしてるよね」
『んー?まぁな、所々傷跡沢山あるけどなぁ』
ただの異邦人、では済まない見た目の範疇を話題にされて、めまぐるしく頭を回転する。
その間にもエミリアは、
エミリア「黒髪黒瞳。南方の流民に多い特徴だけど、ルグニカでその状態でしょう。見当たらなかったけど、従者とかもいたんじゃないの? あの衣装だって、見たことない材質だったもの……どう、当たりでしょ」
押し黙る僕らに勝ち誇るようなエミリアの微笑み。
その微笑み、綺麗だなと思い内容を吟味して僕はスバルの方に向いて頷く。
《スバル、任せた》
スバル「違うか違わないかで言ったら全然違うんだけど、どう言ったら傷付かない?」
エミリア「違うなら違うではっきり言ってくれなきゃ、私が恥かくだけじゃないっ」
スバル「大丈夫大丈夫。俺もなんだかんだで無知っぷりを連発してっから気にしない。むしろ3人で仲良く赤っ恥かこうぜ!」
エミリア「一緒に恥をかくのを恐がらないほど、関係を深めた記憶がないんだけど。話進まないから素直に聞くけど、スバルとエトってなんなの?」
恥も外聞も取っ払った質問が飛んできて、僕らは思い悩む。
ここで素直に「転生者でーす」なんて言おうものなら、頭のおかしい紅魔族判定食らうだろうな。
この世界に紅魔族は居ないけど。
でも、いつか扉が、見つかって別世界に行けるものなら――考えるんだかなぁ。
スバル「となると、ここは妄想パターンBでいくのが最善かな」
エミリア「ぶつぶつ言ってるなんて、すごーく感じ悪い。答えるつもりないの?」
スバル「あるよ! 超ある! でも残念だけど、その答えの持ち合わせが俺にはないんだ。……なぜなら俺、記憶喪失で自分のこともなにもわからないから」
エミリア「ナツキ・スバルって名乗ってたじゃない」
スバル「やべ『――僕ら名前しか分からないんだ!』って、エト?」
スバルが墓穴掘ろうとしているのを無理やり遮る。
エミリア「――事情があるのなら深く詮索しないけどね」
そんな僕らを見て見逃すエミリア。