彼女は「さて」と一言残し、懐から緑色の結晶を取り出した。
『それって』
エミリア「精霊が身を宿す精霊石よ。パックのことは、知ってたわよね」
スバル「肝心な場面で居眠りこいた灰色の猫だろ? その後の俺の活躍とか、寝てたから知らないんじゃないの?」
エルザ迎撃の戦いの最中、姿を消した精霊の寄り代だ。
この世界で見るのは初めてだが、1回目ではちらと確認している。
その緑の結晶が、スバルの悪態に反応するかのように輝き出す。
パック「あいにく、ちゃんと騒ぎが片付いたあとでリアから話を聞いたからね。ずっと寝こけてたわけじゃないよ、スバル」
結晶から漏れ出した光が結集し、次第に小さな輪郭を作り出す。
数秒後にはエミリアの掌に小型の二足歩行猫が出現していた。
パック「や。おはよう、スバル。いい朝だね」
スバル「俺にとってはわりと波乱万丈だったけどな。無限廊下と尿意、そして乗り越えた先でエトにお嫁にいけない体に……」
『人聞きわりぃなぁ、スバルよ。もしそうなるなら貰うって言ったじゃん』
エミリア「そのセリフ、男女逆なら納得のいく話だけどね…」
微笑みながらエミリアは目をつむり、それから掌のパックを見て、
エミリア「おはよう、パック。昨日は無理させてごめんね」
パック「おはよう、リア。でも、昨日のことはボクの方が悪いと思うよ。危うく君を失うところだ。スバルとエトワールには感謝してもし足りないくらいだね」
パックはその丸い瞳で僕らを見上げ、小さな首を傾げて、
パック「お礼をしなきゃいけないね。なにかしてほしいこととかあれば言ってみるといいよ。大抵のことはできるから」
スバル「んじゃ、好きなときにモフらせてくれ」
『なら、僕らのどんな魔法が使えるのか知りたいな』
大きく出たパックに対して、僕らも即答で返す。
返事の速さもそうだが、その内容も驚きだったのかもしれない。
目を丸くしたのは元から丸いパックだけでなく、聞いていたエミリアもだ。
エミリア「ちょ、もうちょっと考えて決めてもいいんじゃない? 小さくて弱そうな見た目だけど、パックの力は本当にすごいのよ?」
パック「少し引っかかるけど、そうだよ。こう見えて、ボクはけっこう偉い精霊なんだ。だから欲張っても構わないんだけど。エトワールの願いに関してはこの後調べようか」
スバル「おいおい、俺みたいな一流のモフリストからしたら、モフりたい対象をいつでもモフれる権利ってのは、ある意味じゃ巨万の富と引き換えても余りある対価だぜ。モフモフ権――それは人の心をさらなる高みへ導き、荒み切った魂すら浄化するモフモフモフモフモフモフ」
『――まぁ、パックって気持ちよさそうな体してるもんな』
言いながら権利を履行して、スバルはエミリアの掌の上のパックを思う存分にモフり続ける。
腹に顎、トドメは耳だ。
ついでに僕も軽く触る。
スバル「耳ヤバいな! もう俺はお前のモフっ子ぶりにメロメロだ」
『こりゃ、良い触り心地だ。パック、先程の事に追加して僕も好きな時に触れるようにも良いかな?』
パック「ふーむ、スバルのすごいところは本気で言ってるとこだね。うすぼんやりと心が読めるからわかるんだけど。エトワール、もちろん大丈夫だよ」
スバルの手指で自由に弄ばれながら、パックは愉快げにそう言った。
『やった!!ありがと!パック』
戯れる3人の様子にエミリアははっきりと呆れのため息をついて、
エミリア「なんだかもう、スバルを理解しようとするのって疲れるわね」
スバル「諦めんのよくないぜ。人生物事、対人関係は相互理解の精神から成り立ってくもんだ。でも、そう簡単に俺を理解できるなんて思わないでよねっ」
最後の思わぬツンデレに吹いてしまった僕である。
エミリア「なにそれ、すごーく癇に障る」
『スバル、それ似合わねぇからやめといた方がいいぜ』
エミリアはスバルの指先からパックの体を回収。軽く手を振りながら庭の外れの方へ足を向けて
エミリア「それじゃ、私は誓約を済ませちゃうから……エトワール達はえっと、そっちの方で静かに草むしりでもしててくれる?」
スバル「よーし、張り切ってむしっちゃうぞー。って、俺そんなことやるために庭まで下りてきたわけじゃねぇよ!?」
『草むしり、任せなよ』
「冗談、冗談」と笑いながら離れていく銀髪を見送る。
『誓約』、それは精霊と契約者の間で交わされる日々の約束、守り事みたいなものだ。
FAIRYTAILの世界でも、精霊と何かしら契約をする時は対価を求められたなぁ。
聖霊の方は何曜日なら召喚しても大丈夫かの確認だったしな。