ベアトリス「上から見てた感じ、あれなのよ。……お前、相当に頭おかしいのね」
朝食の場、と関節技をかけられたままのスバルの後を付いて行った食堂で、先に席についていた巻き毛の少女が挨拶代りにそう言った。
痛む肘を回しながら顔をしかめるスバル。
スバル「会って早々、なにを言いやがるんだこのロリ」
ベアトリス「なにかしらその単語。聞いたことないのに、不快な感覚だけはするのよ」
スバル「攻略対象外に幼いって意味だ。俺、年下属性あんまりないし」
『スバルは年下属性無いんだ…』
ベアトリス「……ベティーにここまで無礼な口を叩けるのも、かえって可哀想なのね」
憐れむような顔で言って、少女は椅子に体重を預けてため息をつく。
そのまま卓上にあるグラスを持つと、琥珀色の液体をすっと喉に通した。
形状的にワイングラスに近い食器だ。
まさか中身は……鑑定してみるとウィスキーだった。
…呑んでみたいな。
ベアトリス「なぁに、ひょっとして飲みたいのかしら」
スバル「え、でも、間接キスになっちゃうし。ちょっとイベント進行早いかなって」
『スバルが飲まないのなら僕飲みたいな』
ベアトリス「腹いせにからかおうとしたら、この初心な感じはなんなのかしら! こっちの方が恥ずかしいわよ。小娘、飲むならそこらにあるグラスを取って」
『あいよ、ペティ』
彼女に指示されたグラスを手元に渡す。
ベアトリスはグラスに突如手にウィスキーのボトルを持ち、それを注ぐ。
『……それは、』
ベアトリス「転移魔法の1つなのよ」
『そうか、ありがとう』
入れてもらったグラスを受け取り、舌で舐める。
『!?!!?……よくコレをストレートで呑めるね』
少ししか舐めてなかったのに、舌と喉が焼けるように痛い。
ベアトリス「ペティは慣れたからね」
グラスに氷を創造してロックにする。
現状、食堂の中にいるのが3人だけなのでやりたい放題なスバル。
広い食堂には白いクロスのかかった大きな卓が置かれ、奥の上座から手前の下座まで十席近く椅子が並んでいる。
すでに食器の置かれている席がいくつかあるので、そのどれかがスバルと僕の席だろう。
単純に考えれば下座のどれかが該当席だが。
スバル「あえて上座に座ってみる」
と、スバルは思い切り間違えている上座に座る。
ベアトリス「もの凄い選択肢なのよ。わかりきってるけど、間違いなのよ?」
スバル「へっへっへ、ここが普段からエミリアたんが座ってる席だろ。今、俺の尻とあの子のお尻が間接シットダウンしてると思うとほのかな興奮が……」
ベアトリス「高度な変態かしら! 気色悪いというか胸糞悪いのよ!」
『…スバル、変態すぎるよ。…所でペティ、スバルが座ってる所ロズワール卿のだよね?』
ベアトリス「そうなのよ、だから勘違いしてるのよ」
『面白いから黙っておこうか』
スバルは上座に座っているまま話を進めていくのでペティと小声で話していた。
スバル「――だからこれらの行動は決して、俺の本意じゃないんだぜ、げへへ」
ベアトリス「説得力皆無なのよ、最後の笑い。……話が進まないにも程があるかしら!」
『下卑た笑いをしたらますます悪人面に直進コースだが?スバルよ』
額を押さえて頭を振る少女に、スバルは椅子の上で尻を起点に回転しながら摩擦熱で加熱しつつ、温度を上げていく。
スバル「むしっかえさないだけ良心的じゃねぇかな。けっこうきつかったぜ?――ふと気付けば俺の意識消失回数が二日でヤバいレベルに。むしろ起きてる時間の方が少ないとか……あれ、ひきこもり時代と変わってねぇな」
首をひねるスバルを眺めながら、少女は欠伸を噛み殺すような表情で、
ベアトリス「ゲートをこじ開けた影響でどばっとマナが漏れたのよ。こぼすのももったいないから全部飲んであげたかしら。感謝するといいのよ」
スバル「中身漏れたのお前のせいだろ。器に穴開けといて感謝しろとは、態度がでかすぎてへそで茶沸かすついでに風呂まで焚いて極楽気分だぜ?」
スバルの文句をうるさそうにかわし、少女はまたグラスを傾ける。
パッと見幼女が当たり前のように飲酒している件について。
古文書で調べたら15歳以上から飲んでいいとの事。
ついでに成人扱いも15歳以上からだそうだ。
スバル「そして少女は夜遊びを覚え、金回りが派手になり、挙句の果てには十代で出来婚……兄ちゃん、情けなくって涙が出らぁ!」
ベアトリス「ベティーを勝手に一大悲劇作品のヒロインに仕立てないでほしいのよ」
スバル「俺からしたら出来の悪いケータイ小説の頭悪い主人公だよ」
ベアトリス「まあ、いいのよ。それよりお前、ベティーに感謝の言葉はないのかしら」
スバル「感謝って? 貴重な三次ロリの罵倒、ありがとうございますって? 別に俺の業界じゃそれご褒美じゃないし。誰でもいいわけじゃないんだよ!」
『僕にとってはありがとうございますなのだかな、ペティ、スバルに代わりエトワールが感謝いたす』
ベアトリス「ふん、小娘の感謝が聞けたから良いのよ。しかし、誰が死にかけのお前のことを助けてやったと……」
尻すぼみになる少女の声に、スバルは「はぁ?」と疑問を返す。しかし、少女がそれに明確な答えを出す前に食堂の戸が開かれ、
レム「失礼いたしますわ、お客様。食事の配膳をいたします」
ラム「失礼するわ、お客様。食器とお茶の配膳を済ませるわ」
台車を押し、食堂に入ってきたのは双子のメイドだ。
青髪がサラダやパンといった、オーソドックスな朝食メニューの載った台車を押し、桃髪が皿やフォークなど食器の乗った台車を押している。
2人はテーブルを挟んで左右に別れると、テキパキとそれらの配膳を開始。
一糸乱れぬ連携で食卓が彩られ、温かな香りに思わずスバルの腹が鳴る。
スバル「おほー、いいねいいね。いかにも貴族的な食卓だ。……これで異世界チックなゲテモノばっか並んだらどうしようかと思ってたぜ」
『それは同意だ。虫料理じゃなくてよかった。僕虫料理食べられないんだよね…』
スバル「それな、虫だけはマジで無理。あいつらなんで存在すんの? わっけわっかんねぇよ、あの形と生き様。あいつらの存在意義って、幼児時代に殺しまくって命の大切さを学ばせるとかぐらいしかなくね?」
ベアトリス「弱者を虐げれば、己が弱者となったときに強者に同じように虐げられる。それを学ぶことに意義があるのよ。静かにするかしら、弱者」
優雅にグラスを傾ける幼女を演じることにしたのか、芝居がかった返答をしてこちらを牽制してくる。
スバル「はーやーくーもー我慢の限界!」
ベアトリス「雅さに欠けるのよ。もっと優雅に典雅に待てないのかしら」
スバル「酒飲んでる幼女に言われたくねぇよ! ほら、メーシ! メーシ!」
置かれたナイフとフォークを取って、カンカン合わせるスバルの不作法ぶりに、さすがに少女も怒る。
グラスを置いた手が空間を歪ませ、なにかしらの超常現象的なエネルギーを帯びてスバルを指差そうとする。
が、その魔の手がスバルに届くより先に、
ロズワール「元気なもんだねぇ。いーぃことだよ、いーぃこと」
嬉しそうな顔で変態が顔を出していた。
その装いは外出着から着替えており、先ほどまでの礼服のような服装から一新。
襟がやたらカラフルででかい、悪趣味なものへモデルチェンジしている。いかにも道化じみた姿に、変わらぬ変わり者の態度。
――なるほど、まごうことなく変態だな。
ロズワールは食器でビートを刻むスバルを楽しげに見たあと、ふとグラスを静かに傾ける少女の方を見て眉を上げる。
ロズワール「おややぁ、ベアトリスがいるなんて珍しい。久々に私と食卓を囲む気ぃになってくれたのかなぁ?」
ベアトリス「頭が幸せなのはそこの奴だけで十分なのよ。ベティーはにーちゃと食事しに顔を出しただけかしら」
でれでれなロズワールをすげなく断ち切り、ベアトリスの視線は彼の背後へ。
そこには長身に続いて入室したエミリアの姿があり、彼女の銀色の髪の内側には、
ベアトリス「にーちゃ!」
弾むように席を立ち、ぱたぱたと長いスカートを揺らしながら少女が走る。
その表情は花の咲いたような笑みが浮かび、これまでの少女の生意気な評価を忘れさせるほどの愛嬌が満ちていた。
ようやく、やっと見た目相応の振舞いをする少女、その小走りに反応したのは銀の髪の中に埋まる灰色の猫だ。顔を出した彼は表情をゆるめて、
バック「や。ベティー、二日ぶり。ちゃんと元気にお淑やかにしてた?」
ベアトリス「にーちゃに会えるのを心待ちにしてたのよ。今日はどこにも行く予定はないのかしら?」
バック「うん、大丈夫だよ。今日は久しぶりにゆっくりしようか」
ベアトリス「わーいなのよ!」
エミリアの髪から、抜け出したパックがベアトリスの掌に舞い降り、受け取ったベアトリスは小猫を抱いたままくるくると回る。
和気あいあいの2人の様子にスバルが驚いていると、苦笑を浮かべながらエミリアが隣に並んできて、
エミリア「ビックリしたでしょ。ベアトリスがパックにべったりだから」
スバル「ビックリっていうか、なんだよあのロリの態度。猫の前で猫被ってるとか狙いすぎじゃねぇ?」
『見ていて癒されるのは僕だけか?』
見た目幼い少女が灰猫を喜んで抱き抱えているのに、胸が踊る。
「ごめん。スバル、ちょっとなに言ってるのかわかんない」
スパッと切り捨て、それからエミリアは首を傾けて、不思議そうな顔でスバルの座る上座を指差し、
エミリア「その席って……」
スバル「ああ! そう、椅子も冷たいと心まで冷え込んじゃう、みたいなことってよくあるじゃん? そんな隙間風吹き込む心を癒す、君の毛布になりたいキャンペーンを実施中。なわけで、俺が自ら席を温めておいたよ! 別に間接シットダウン狙いとかじゃないよ!」
エミリア「ごめん、なに言ってるのかわかんないし……そこ、ロズワールの席よ?」
エミリアから絶望の言葉を告げられたスバル。
そんな落ち込む彼の姿を見て僕は大爆笑。
『スバルよ、よく考えたら分かることでしょ』
スバル「――だが、俺は転んでもタダでは起きない男。かくなる上は……そう、かくなる上は明日に賭ける!!」
エミリア「別に私の席はやらなくていいから。ちょっとヤだから」
スバル「神は死んだ――!」
ついには地面を涙ながらに叩き出すスバル。
もはや世界に希望はない、未来はない、と打ちひしがれる。
好意を持っている彼女にそう言われたら落ち込むなぁ。
と、打ちひしがれているスバルの肩をふいに優しく誰かが叩いた。
ロズワール「君の温もり、しぃっかり堪能させてもらうよ」
優男がそう語るのを聞いて、スバルは躊躇なく椅子に唾を吐いた。
スバル「俺の尻余熱が穢されるくらいならこうしてくれるわ!」
ロズワール「おややぁ、即断即決で意表を突く、すばらしい。でも、ホイ」
ロズワールが痛快そうに笑ったあと、軽く指を立てて椅子を示す。
吐かれた唾に視線がいき、それを確かめたあとで彼は立てた指を鳴らし、
――直後、見ている眼前で唾が消失したのを見た。
『凄いな、瞬間的に火魔法を放ち、極小の範囲での魔法行使。並外れている…』
スバルの吐いた唾を瞬間的に消えた事に感嘆する。
スバル「おお!?」
消えたのが信じられず、スバルは思わず座席に手を伸ばす。
スバル「蒸発、した?」
そんな僕達の結論に、ロズワールは感嘆するように口笛を吹いて、
ロズワール「あはぁ、よくわかったねぇ。2人とも。でも、エトワール、先程の一瞬でよくそこまで分かったものだァねぇ」
『お褒めに預かり恐縮です。――唾だけを蒸発したのを見るとタダ者では無いですね。さすが領主様だ。タダの変態じゃないってのもね』
エミリア「そんなでも、ルグニカ王国の筆頭宮廷魔術師よ」
返答したのは隣のエミリアだ。
筆頭宮廷魔術師。
名前からして、国とかの筆頭魔術師なのだろうか。
それなら、先程の魔法にも証明が行く。
*****
ロズワール「さぁ、朝食の準備もできたぁことだし、食事にしよう。―――木よ、風よ、星よ、母なる大地よ」
そういうロズワールを見習い、食前の祈りを捧げる。
席順は上座がロズワール、その反対にエミリア、その左側若干エミリア側にスバル、その横に僕。
ロズワールの左右には双子が居て、スバルが座っている反対側にベアトリスが居る。
スバルの提案で皆固まって食べている。
こういう貴族の食事のテーブルとかは細長いからバランスよく座れないのが残念だ。
ロズワール「それじゃ、スバルくん。エトワール、いただいてみたまえ。こう見えて、レムの料理はちょっとしたものだよ?」
ロズワールに勧められ、祈りがいつの間にか終わっていたのだと慌てて食事に加わる。
メニューはおそらくサラダと、パンのような食材にハム的なものの乗ったトースト風の感じ。
曖昧な表現だが、一般的な洋食での朝食メニューといった風情に思える。
鑑定して、毒物がないことを確認。
――まぁ、この場で殺すのは場違いすぎるけど。
しかし、異世界だ、何があるか分からないからな。
常に鑑定しなくては。
人知を超えた食材が出なかったことに感謝しつつ、トースト的なものを口に含む。
『美味しい…』
スバル「む……普通以上にうめぇ」
2人して絶賛。
『この料理は青髪の……えーと、レムでいいのか。が作ったの?』
レム「ええ、その通りですわ、お客様。当家の食卓は基本、レムが預かっております。姉様はあまり得意ではありませんから」
スバル「ははーん、双子で得意スキルが違うパターンだ。じゃ、桃髪は料理苦手で掃除系が得意な感じ?」
レム「はい、そうです。姉様は掃除・洗濯を家事の中では得意としていますわ」
『じゃ、レムりんは料理系得意で掃除・洗濯は苦手なの?』
レム「いえ、レムは基本的に家事全般が得意です。掃除・洗濯も得意ですわ。姉様より」
スバル「桃髪の存在意義が消えたな!?」
スバルのツッコミが炸裂する。
家事全般が得意な片割れと、掃除系だけが得意だがそれも相方に及ばない片割れ。
――逆に双子としては新しいパターンだ。
あんまりな発言だが、レムの反対側にいるラムは気にした様子もない。
スバル「もしくは分野が違うのか。ラムちーの方は戦闘職……いや、ここは夜の御勤め系!? やべぇ、今宵の俺は様々なものに飢えてるよ!」
『スバル、変態すぎるよ』
レム「姉様、姉様。お客様の中であらぬ疑いをかけられてますわ」
ラム「レム、レム。お客様の中であられもない姿にされているわ」
ピンク色の妄想たくましいスバルに、双子が互いに手を重ね合って悲劇的に振舞う。
そのやり取りを見ながらロズワールは小さく笑う。
ロズワール「いーぃね、君。ラムとレムの二人は個性が強いから、初対面のお客さんにぃはなにかぁと敬遠されがちなんだけどねぇ」
スバル「主がこんだけ欠点まみれなら従者の欠点なんぞ気にならんだろ。それにファンタジーだからなんでも許すよ、今なら俺」
エミリア「有能なことには間違いないもの。そこを見ない人間が多いって話」
割って入ってそう言ったのはエミリアだ。彼女はスープを少しずつ口に運びながら、やや不機嫌そうな声音で続ける。
エミリア「実際、2人はすごいのよ。この大きい屋敷の維持をほとんど2人で回してるんだから。種族がどうとか、馬鹿みたい」
スバル「なんか、色々と複雑な心境なんだな」
義憤的な感情を瞳に灯すエミリアにそれだけ言って、僕は疑問に思った事を口に出す。
『今、エミリーが2人しか居ないって言ってたけど…』
ロズワール「あはぁ、現状はそうだねぇ。ラムとレムしかいなくなっちゃったよ」
スバル「――このどでかい屋敷の管理が二人だけとか馬鹿じゃねぇ? 質にこだわるとか以前に二人が過労死すんぜ。――それとも、『召使いが雇えない』みたいな感じの制限かかるような状況ってこと?」
スバルの問いかけにロズワールはしばし沈黙し、手をテーブルの上で組む。
その表情には笑みが張り付いているが、こちらを見る瞳の感情は明らかに雰囲気が変わった。
……スバル、やらかしてくれたな。
もう少し深く入り込まないといけないかな…?
警戒心を顕にしたロズワールを警戒しながら昨日初めて食べたデザートのリンガを食べていた。
ちなみに、主人公のエトワールちゃん、百合属性アリです。