ベアトリスが部屋に戻り、ロズワールが話を進める。
「さぁて、水の刻も半分がすぎてしまう、時間は有限だぁよ―ラムとレムはさっき言った通りに。エミリア様は私の部屋に一度寄ってください。それじゃ、解散」
ロズワールのその言葉を最後に、完全に朝食の団欒は終了だ。
レムが食卓に並ぶ食器類を手早く片付け始め、エミリアが今後のスケジュールを思ってか物憂げに吐息。
ロズワールはそれこそ弾むようなステップでスバルに歩み寄ると、微妙に置いてけぼりな彼の肩を叩き、
「それじゃぁ、君達の仕事ぶりに期待させてもらうよ。もちろん、雇ったからにはお給金も出すし、そこの心配はしなぁいようにね」
「雇用内容に関してはあとで詳細に詰めるとして……とりあえず、便宜図ってもらってありがとう。旦那様とか呼んだ方がいいのか?」
『僕は、ある程度敬語で行きますよ。ボロが出そうなので…』
「あはぁ、客人の前でなければロズっちで構わないよ。案外、人にそうした渾名で呼ばれることに新鮮味があってねぇ」
黄色の方の目をウィンクさせて、ロズワールは軽く手を振ると食堂を退室。
その直前にラムに軽く目配せし、それを受けた桃髪の少女は頬を赤らめると無言の指示を与えられたように何度も頷く。
表情と語調の変化に乏しい双子なのだが、ロズワールと接するときだけはその淡々とした姿勢が崩れる。忠犬、といった単語が頭をかすめた。
「それじゃ、バルス」
「予期せぬ既視感っ!!」
目潰しの呪文を唱えられた。
効力はないけれど、有名なのをこの世界でも聞けるとは……。
「…?バルス。ロズワール様のご指示だから、まずはあなた達に屋敷の案内をするわ。はぐれないでついてきて」
「エミリアたんじゃねぇんだから、そんなふらふらしねぇよ」
「ス・バ・ル!」
スバルにからかわれたエミリアが憤慨する。
****
ラムに屋敷の説明を受けた後、仕事服を着に衣装部屋に入る。
「バルスはコレね。エトワールは、コレね」
と、渡されたのはスバルがメイド服、私は執事服だ。
「いや、何の嫌がらせだよ!新たな扉開きたく無いわっ!!」
『女装は似合いそうだがな。ラム、僕は執事服のままでいいよ。メイド2人、執事2人の方が数的に良くない?見た目だけは男っぽいし、僕は』
メイド服で私の着れるサイズがないから執事服の提案をした。
「それもそうね………。着替えの部屋は、2階の使用人控室の……西側の部屋ならどれでもいいわ。好きなところを自分の部屋にしなさい。着替えたら1階の食堂の奥にある厨房にいらっしゃい」
『了解でーす。ラム先輩』
「ラジャー」
そう言ってラムは1階に行ってしまった。
『……で、部屋どうする?』
「俺は階段の近い方が良いな」
『じゃ、その隣の部屋。僕で――また、着替えたら』
扉のドアノブを軽くひねり、部屋に入ろうとするが、気配がした。
『ごめん、『扉渡り』の正解は開いちゃった。ああ、そうだ。ベアトリス、ここにある本って読んでいいかな?できる限り邪魔はしないし…』
ベアトリスがパックを撫でているのを確認しながら慎重に言葉を選ぶ。
「ペティーの目の届く範囲の本なら読んでいいのよ」
『ありがと』
よし、この回ではベアトリスの禁書庫読める。
これからもループする度に読めるように交渉するのを忘れないようにしないと。
ここにある本は珍しい本や魔法の書などがあるみたいだから。
ベアトリスと交渉した後、再度扉を開け『扉渡り』を別の扉に行くようにする。
そうじゃないといつまで経ってもベアトリスの部屋のままになるからね。
見慣れた部屋に入り執事服に着替える。
さぁ、今日から頑張るぞ。
********
スバルの啖呵から4日目の夜。
スバルの働きぶりはあんまり、良くなかったけど裁縫だけは得意という事で服の見繕いをよく任させていた。
私は、というとそれなりにこなしているお陰で、料理を任されたりしていた。
夜は各自自由で、スバルは庭で夜にしか会えない微精霊と会話しているエミリアと共に居た。
私は知識を深めるためにベアトリスの部屋にいた。
「よくもまぁ、毎日来るのね」
『知識深めるのに本を読むのは必然だろ?』
ベアトリスと会話しながら読書を進める。
途中スバルが一発目で部屋を当て茶化しに入るというのがあった。
「ペティーには関係ないことよ」
スバルが扉を閉めた時にかすかに聞こえた。
『――、僕はそろそろ寝るね。また、ベアトリス』
声をかけようとしたが言葉が見当たらず、禁書庫を後にする。
そして…向かう先はスバルの部屋。
寝ている彼はこの世で1着しかないジャージを寝巻きに活用し、眠っている。
そんなスバルの右手に回り、昼間ラムの買い物に付き添い、子犬に引っかかれた跡を撫でる。
『スバル、ゴメンね。アンタが死ぬって分かってんのに、私は何もせずただ傍観としていた。スバル、アンタが好きだ。――貴方が苦しんで絶望し、苦痛に歪む顔が……』
……オレは見たいんだよ、とは口にしない。
『――でも、苦しむ姿はあまり見たくない、生きて生きて、足掻け……。矛盾しているのは分かってる。スバル大好きだ』
――アタシと同じ様に狂ってるね、アンタ
不意にそんな言葉が聞こえた。
『…近くにいるのか』
――ええ、アタシはいつでも見守っているよ
『ああ、そうだったな。――サテラ』
サテラ…彼女はスバルの中そばに居る、嫉妬の魔女の名だ。
本来ならば、もう少し後で出てくる彼女。
この世界ではエトワールという例外が居るから出てきたのだろうと推測。
握っている手がだんだんと冷たくなっていくのを感じる。
死にそうな彼にキスを落とす。
『寝ている時ぐらいしか今は出来ないけれど、いつかは……』
…起きている時にでも出来たらな、と決意する。
スバルの体からエミリア似のサテラが出てくる。
『――どうしたの』
「貴女を見に来いって」
『そう。貴女も好きだもんね。もう1人の方が執着しているけれど。ちなみにループに制限は?』
「ないわよ。だから色んな選択して、色んな世界を見たいって」
『了解――次へ行くね』
「ええ、楽しみにしてるわ」
ここで取るべき選択は朝まで知らずに部屋で寝るかそのまま、自殺するかの2択。
私は自殺を選ぶ。
異空間からダガーナイフを取り出し、喉に刺す。
1回では死ねないから何回も喉元を刺す。
――いたい、痛い、イタイ、痛い
出血多量で意識が朦朧とするが、冷たくなっているスバルに再度キスをする。
――大好き。
ロズワール邸でのリスタートが始まる。