楽しみです(*´ω`*)
エルザと名乗った女性はフェルトの説明を聴きながらも一つ一つの仕草が艶っぽい。
少し、色気に当てられそうだ。
フェルト「――そんなわけで値段の釣り上げ交渉ってわけだ。別にアタシはどっちが徽章を持ってくんでも構わねーし、高い方に高く売りつけるさ」
エルザ「いい性格だわ、嫌いじゃないよ。――それで、お兄さんはいくら付けたの?」
フェルト達にしたようにエルザの写真をフラッシュで撮るスバル。
それを眉をしかめながらもそれ以上にリアクションを起こさないエルザ。
スバル「俺はこの魔法器だ。そこの爺さんの言った通りだと聖金貨20枚はするだろうと」
エルザ「魔法器ね。――実は私も依頼主から余分なお金を貰ってるの。あなたが渋るようなら上乗せも考えてね…」
と言いつつ懐から革袋を取り出す。
重量があるソレはテーブルの上に置いた時金属音が響く。
スバル「依頼主って事は一緒に受け取る様に…?」
エルザ「そうなるわね。欲しがってるのは依頼主の方だけれど。――もしかしてご同業?」
エルザのご同業って事は…盗人になる。
スバルは違う解釈をするだろうけど。
スバル「ご同業って事は無職って事になるぜ!」
フェルト「――で、無職のお兄さんが飛び出すような値段をつけた。依頼主の方は?」
挑発めいたフェルトが言うと、エルザは革袋から聖金貨を取り出し数える
その数
エルザ「20枚ジャスト。これが依頼主に渡された数よ。上はそれで値切れると思ったようだけど…。厳しいかしら?」
問いかけはロム爺に投げられた。
不安になるスバルにロム爺は、
ロム爺「そんな不安な顔をするな。聖金貨20枚は法外な報酬だ――だが、この交渉はスバルに傾く。お前さんと依頼主には悪いが、この金貨袋に戻して返すのだな」
交渉成立。
小さくガッツポーズをしたスバルが少し浮いた。
スバル「な、なんだ。俺一人はしゃいで。まぁ、目的は達成だ」
『お疲れ様』
フェルト「別に何も言ってねぇじゃねぇか、兄さん。アタシは儲かればいいし」
エルザ「私の雇い主も、別にそれが手元になくとも構わないはずだから。そこまで食い下がる必要はないの」
スバル「あー、悪いな、エルザさん。たぶん、怒られちまうよな」
エルザ「仕方のない話よ。私に落ち度があるならともかく、この場合は雇い主が支出を少なく済まそうなんて考えたのが原因だし」
ロム爺「聖金貨二十枚持たせて少ないのじゃ、ちょっち浮かばれんのぅ」
フェルト「ま、アタシの運気が絶好調だったんだな! こりゃアタシの時代が到来したか?」
ともあれ、これでスバルを悩ませていた交渉も成立したとみていいだろう。
今の所、実質的な損害はサテラの精神力とスバルの携帯のみ。
ほんの少ししか話していないが、彼女らを牢屋へブチ込む強靭な精神はスバルにはなかった。
甘いなぁ…。スバルは。しかしまぁ、スバルが行動しないのなら僕も行動しないけどね。
エルザ「それじゃ、交渉は残念な結果だったけれど、私はこれで失礼するわね」
立ち上がるエルザを皆で見送る。
最後に残ったミルクを飲み干して、またもや舌なめずりでそれを舐め取ったエルザは、ふと思い出したようにスバルを見据えた。
冷たい視線でスバルを射抜く。
エルザ「――そういえば、あなたはその徽章を手に入れて、どうするの?」
どこか低い、感情の凍えた問いかけだった。
「……ああ、元の持ち主に返すんだよ」
スバルがそう言うとエルザの冷たい殺意を実行させるには充分だった。
『スバル!しゃがめ!!』
――瞬間、スバルの胴体目掛けてククリナイフを振り回すエルザを換装した短刀で受け止める。
エルザ「あら、受け止められたわね…」
腰が抜けていて恐怖しているスバルは置いといて、ロム爺とフェルトに素早い指示を出す。
『ロム爺!援護する!フェルトは逃げて応援を!』
フェルト「でも…!」
『良いから!ここで全員死にたいのか!?』
フェルト「…わかった」
雄叫びを上げながら交渉中も離さず持っていた棍棒でエルザ目掛けて振り下ろす。巨人族の腕力も相まってスピードが早い。
『フェルトを追わせねぇよ…!』
棍棒を避けるエルザに短刀を振り回す。
ロム爺「――食らえい!」
事態は動く、怪しい方向に。
ロム爺が雄叫びをあげ、テーブルを蹴り上げる。木造のテーブルは簡単に砕け散り、木屑をまき散らしてエルザの前面を覆い尽くす。
破損した木材のカーテンのように。
前面が見えない方、私はエルザの後ろを切りかかる。
風で察したのか横に避けるエルザ。
その向こう側目掛け、ロム爺の棍棒が渾身の力を込めて放たれた。
上から手加減抜きで打ち込まれる一撃は、それだけで人を叩き殺しかねない威力が込められていた。だが、
『――ロム爺!動くんじゃねぇ!』
私の声が遮られ、エルザの方が上だった。
くるくると、回転しながら吹き飛ぶのは棍棒を握りしめたままのロム爺の右腕だ。
太くたくましいソレが、肩口から切断されて宙を舞い、血をまき散らしながら壁に叩きつけられる。
部屋中にぶちまけられた血の雨を、私もフェルトも頭から浴びた。しかし、その鮮血に意識を向けている暇はない。
ロム爺「せめて、相打ちに――ッ」
右腕を肩から断たれて、蛇口から水を流すように血をこぼすロム爺。
その巨体を前に飛ばし、傷口を押さえず残った片腕でエルザを狙う。
粉砕されたテーブルが床に落ち、その向こうでエルザは刃を振り切った体勢だ。
ククリナイフの刃がひるがえるより、ロム爺が細身を押し潰す方が早い。
そんな儚い、ロム爺の命懸けの一撃は、
エルザ「言い忘れていたけれど――ミルク、ごちそうさまでした」
エルザの反対の手に握られていた、割れたグラスの一閃によって阻まれていた。
グラスの先端は鋭利だ。
ソレがロム爺の喉にたどり着く。
右手を失い、喉を切り裂かれたロム爺は大量の血を口から溢れ出し、光を失っていく目をしながら倒れて行った。