「今日も一日頑張りますか」
と、そんな独り言を呟きながらベッドから顔を出す。正直に言えばずっと寝ていたいのだが、そういう訳にはいかない。さっきの独り言も自分を鼓舞するために言っているのに過ぎないのだ。
ベッドを出た俺は、身支度を済ませて職場に向かう。職場といっても同じ建物内なのだが・・・。
申し遅れたが、俺の名前は星野。この鎮守府で提督をしているものだ。つまり、職場とは執務室のことである。
「職場が近いっていうのはいいねぇ。何せギリギリまで寝ていられるんだから」
通勤の時間というのは人生で最も無駄な時間だと俺は思っている。だってそうだろう? 一体、この時間が自分の人生に何か有意義なことをもたらしてくれる訳でもないのだから。
さてさて、そんな無駄なことを考えているうちに執務室の目の前に来てしまった。はぁ、この部屋に入る前が一番嫌なんだよなぁ。まぁ、入らない訳には行かないのだが。
「おはよう、今日も早いんだな」
「もー、司令官が遅いんですよ」
部屋の中には、俺の秘書艦でもある吹雪が既に仕事に取り掛かっていた。ちなみに彼女は俺の初期艦でもあり、付き合いは最も長い。故に他の子に比べれば、ある程度気心も知れている関係だ。
「そんなことはない、ちゃんと始業時間には間に合っているだろうが」
そう、この鎮守府において俺の始業時間は午前8時半。今はまだ8時15分といったところだ。
「何を言っているんですか、その始業時間て司令官が勝手に決めただけじゃないですか」
「馬鹿野郎、お前は俺にずっと働けとでも言うのか。パンクしちまうよ。それに今となっては俺がいなくてもお前や大淀なんかが上手く回せるだろ?」
「確かに、それは否定できないですけど。でも司令官は司令官なんですから、私にはその代わりを務めることはできませんよ。それに私のことを良く思わない人だっていますし」
と、吹雪は若干暗い表情で発言をする。
確かに、彼女のことを良く思わない子がいるのは確かだろう。周りから見れば初期艦というだけで俺に贔屓されているようにも見えるだろうしな。
「それでも、俺が一番信頼しているうちの一人だよお前はな。言わせたい奴には言わせとけばいいんだよ。それに、お前のことを理解している子だっているだろ? あいつとかあいつとかさ。だから気にすることなんてないさ」
「司令官・・・」
なんか、格好付けすぎたかもしれないな・・・。今、若干の恥ずかしさを感じている、というか吹雪のことを直視できないし。
「おー何やら、お二人とも良い雰囲気だね。こりゃあ、あたしはお邪魔かなっと」
なんてケラケラと笑いながら部屋に入ってきたのは雷巡の北上。吹雪程ではないが、彼女も古参の一人ではある。
「からかうなよ、北上。ほら、吹雪も何か言ってやれ」
正直、北上が来てくれたのは非常に有り難い。おかげで吹雪とも自然に話せるきっかけが生まれた。それよりも、気分屋の彼女がこんな朝から執務室にやって来るというのは、一体どういうことなのか? 鎮守府に鎗でも降らなければいいが・・・
「酷いなぁ、提督。せっかく、この北上さんが非常に重要な情報をもたらしてあげたっていうのにさぁ」
こいつ、俺の心を読みやがった。
まぁそれはともかく、彼女のもたらす重要な情報なんて所詮はたかが知れている。大方、今日の食堂のメニューが豪華だとかその程度のものだろう。
「えっと、重要な情報ていうのは何なんですか北上さん?」
吹雪が若干訝しみつつ北上に問いかける。吹雪もきっと俺と同じようなことを考えているのだろう。
「お、聞いちゃいますかそれを」
「もったいぶらずに、早く言え」
「なんだよー提督は遊び心がないなぁ。そんなんだから女の子にもてないんだぞ」
うっ、北上の発言が俺にダメージを与える。べ、別に彼女いないのはもてないからじゃなくて、縁がないだけだからな。
「まぁ、そこでダメージを受けている時点で図星だよねぇ。さて、それじゃあ私も落ち着いたから重大な報告をするとしますか」
落ち着いたから・・・? どうも、その言葉が引っかかる。
「提督、いまこの鎮守府では反乱が起きてる。それもほとんどの艦娘が反乱側についてるよ」
北上が先ほどまでとは違う真剣な声色でそう告げる。
「北上さん、何を言っているんですか。そんなことあるわけないじゃないですかー。流石の司令官も騙されませんよ」
吹雪は冗談と捉えたのか、口元を抑えて静かに笑う。俺も冗談だと思いたいが、いつにもない北上の態度がそれを拒ませる。
「北上、真剣に答えろよ。それは本当か?」
「提督、私はそりゃあこんな性格だし適当なことも良く言うよ。でも今回は違う、反乱は本当に起きているよ」
「分かった、お前の言うことを信じる。流石に今のお前の言うことは冗談だと流しちまうことはできない。吹雪も、分かったな」
彼女は北上は、おちゃらけた言動は多いもののここぞという時には何時でも俺の信頼に答えてくれた子だ。そんな彼女が、ここまで言うのだ。それを冗談と済ませてしまうことは出来ない。
「司令官がそう言うなら。それで北上さん、敵の規模はどれくらい何ですか? それに今の状況は?」
先ほどまで、冗談だと笑っていた吹雪はすぐの態度を改める。普段の言動から、勘違いしてしまうこともあるが吹雪は非常に優秀な軍人だ。スイッチの切り替えが早い。
「さっきも言ったけど、ほとんどの艦娘は反乱側についていると見て間違いないよ。それに入渠施設や工廠なんかは多分もう占拠されていると思う」
思っていたよりもヤバイ状況だな・・・。この執務室があるA棟はまだ無事のようだが。
だが、考えてみるとおかしい。そもそも何で反乱なんか起こした連中は真っ先にA棟を占拠しなかったんだ。俺を捕らえることが目的じゃあないのか?
「提督の予想は半分は当たって、半分は外れている。向こうの目的はこの鎮守府の占拠引いては提督の身柄の拘束だとは思うよ。だから本来ならばA棟を占拠して提督をさっさと拘束するのが正しいんでしょうけどねぇ」
「でも、それは出来なかった。きっと司令官を拘束することに反対する子も多いと思いますし。だから先に他の施設を押さえて、司令官には自発的に降伏してもらいたいってところなんじゃないですか?」
「俺って、案外慕われていたんだな。まぁ、反乱起こされている時点で何とも言えないけどな」
と、冗談めかして俺は言う。
「それで、提督どうするー? 素直に降伏すればひどい目に会うこともないと思うし、それも一つの手かもしれないよー」
「北上さん、何を言っているんですか! 司令官に反乱するような連中にどうして司令官を差し出すんですか。ここは徹底的に抵抗するべきです。もちろん司令官が矢面に立つ必要はありません。私たちで何とかします」
正直に言うと、北上の言うことにも一理あるとは思う。けれど、それは他のだれでもない吹雪は決して許さないだろう。彼女が俺の安全を考慮していないとかいう訳でもなく、最も俺のことを尊重するが故にだ。
そんなことを考えていると、突如部屋に放送が流れてくる。