『鎮守府の全艦娘及び提督に告げる。既に多くの者は事態を把握しているだろうが、既にこの鎮守府は我らの手で占拠されている。無駄な抵抗はお互いのためにならない、素直に出て来てもらえないだろうか? 無論、こちらも手荒なマネはしないことは約束する』
この声はあいつだな、そこまで嫌われるようなことはしたような記憶はないんだけどなぁ。
「この声は長門さんですね。彼女が今回の反乱の主犯ということでしょうか? まぁ、司令官の敵には違いないでしょうけど。」
吹雪が顔をしかめる。彼女はどうにも、戦艦や空母の艦娘を毛嫌いしている気がある。無論、彼女にもそれ相応の理由はあるのだろうが・・・。
というか、なんとなく吹雪にそのことを問いただすことが藪蛇になりそうなので、気後れしているだけなのだが。
ただ、ここに居る北上にはそんな考えは微塵もないようで、いつも通りニヤニヤと笑いながら吹雪に問いかける。
「相変わらず、吹雪は戦艦には当たりが強いよねー。ちなみに、何でなん? 私も理由は知らないしさー」
「別にそういうつもりはありませんけど。ただ、戦艦や空母の人達は、外見や戦力もあるのでしょうけど、基本的に駆逐艦や軽巡のことをどこか下に見てますからね。兵器に上下関係があるなんておかしいと思いませんか? そういうのは司令官とだけにあればいいんですよ。無論、当人たちにも悪気は無いんでしょうけど」
吹雪の言っていることは分からないでもない。確かに、うちの鎮守府においても戦艦や空母が艦娘の中では主導的な立場にはある。ただ、考えてみれば艦娘には階級なんてものは存在しないのだから、そういう構造自体が歪であるともいえる。
まぁ、個人的には戦艦や空母は、それ相応に上に立つ資質を持っている奴らが多いし、そもそも他の艦娘からは不満が出ている訳でもないのだから、別に問題ないとは思うけどな。
「へー、吹雪ってそんなこと考えてたんだ。こりゃあ、私もあんまり駆逐艦のことウザイなんて言ってると吹雪に嫌われちゃうなー」
「北上さんのことを嫌ったりなんてしませんよ。もう長い付き合いじゃないですかー。それよりも、今はこの状況についてどうするかですよ」
吹雪が、手を振りながら北上の発言を否定する。吹雪もこの話題を避けたいからか、強引に話の軌道を修正する。
「そうねー。ぶっちゃけ提督はどうしたいわけ? 私と吹雪で話しててもしょうがないしさぁ」
俺かぁ。正直、突然のことすぎて、頭が追いついていないんだよなぁ。そもそも、相手の目的も分からないし。とはいえ、何らかの方針は出さないといけないだろう。
「吹雪、北上、悪いけど投降するわけにはいかない。あいつらの目的も分からない以上、下手なことはできないからな。悪いけど、俺に付き合ってくれ」
「「了解!」」
これで、俺たちの方針は決まったわけだが、大きな問題がある。
「そもそも、俺に味方してくれるのって、お前らだけなのか。なんか、俺の人望って全然なかったんだな」
改めて、考えると数百人の部下がいて味方してくれるのが二人っていうのは、どうなんだろうか?
いや、別に味方が二人だけとは決まった訳ではないが。
「そ、そんなことないですよ。司令官は人間的に、とても良い人だと思いますよ」
「吹雪も必死になってフォローしてるけどさぁ、別に提督のことを嫌っている子なんて、そんなにはいなかったとは思うよ 」
そう言われるだけでも、自分の中の沈んだ気持ちが多少はマシにはなる。無論、彼女たちの立場ではそう言わざるを得ないという側面はあるにしてもだ。
結局、俺って単純なんだよなぁ。
「まぁいい。それよりもだ、今からの行動を考えよう。まともに考えればこっちの戦力ではどうしようもないが」
こちらと向こうの戦力比は絶望的だ。この俺の発言には吹雪も北上とウンウンと唸っている。
が、北上が妙案を思い着いたとばかりに両の手を叩き、口を開く。
「それなんだけどさぁ、ぶっちゃけ提督が呼びかければ多少なりとも味方してくれる子はいるんじゃないのー? 別に嫌われてる訳でもないんだからさぁ」
「けど、北上さん。私たちに味方してくれる人がいたとしてもこのA棟には入ってこられないんじゃないですか? 多分、ここ囲まれてますよ。 向こうからしたら、さっさと突入でも何でもして司令官の身柄を拘束できる状態にはしているはずです」
「それもそうだよねー。それじゃあ、こうしようか? 私が長門に直接お願いしてみるよ」
いやいや、こいつは一体何を言っているんだ? そんなこと相手がOKを出すわけないだろうに。
「北上、いくらなんでもそれは無茶だろ」
「そうですよ北上さん。遂におかしくなっちゃったんですか?」
吹雪も俺に追随して北上に発言する。というか、何気にこいつ酷いこと言っているよな
「うげー、二人とも私を信用してないな。まぁ、多分上手く行くと思うよ。もしダメだったとしても他に手段もないわけだしね。それじゃあ、ちょっと行ってくるねー」
そう言うなり、北上はひらひらと手を振りながら部屋を出ていく。
その動きが余りにも自然なものであったため、俺も吹雪も当たり前のことのように見送るしかなかった。
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「と、いうわけで来たんだけど。ていうか、こっちのリーダーは長門でいいの?」
現在、北上は長門と向き合っている。その、長門の傍には陸奥が控えている。
「いや、別に私がリーダーという訳ではないのだが・・・。まぁ、いい。それで私たちがそれを許すとでも思っているのか?
A棟から出てきて当たり前のように自分の前に座っている北上を前に、長門は言いようのない不安を感じる。何故、北上はここまで自然体でいられるのだろうか? 長門自身も実際に反乱を起こす際には焦りや焦燥感を感じたものだ。無論、それは今でも消えていない。
「ん、逆に聞くけどダメなの? 長門たちにとっても敵が明確になっていいじゃん」
それにと、北上は更に発言を続ける。
「これは流石にフェアじゃないでしょ。確かに、戦争に卑怯も何もないけどさぁ。それでも、これは不義理だよ。提督からすれば厄災でしかないじゃん。だったら、少しくらいおまけしてくれもいいじゃん」
口調こそ変わらないものの、その声色には先ほどにはない怒気を孕んでいることは明確であった。だからといって、長門が怯えるということはないのだが。ただ、一つ分かったことは、決して北上も自然体でいたわけではないということだ。
「確かに、北上の言いたいことも分かる。私たちもこれが決して褒められるやり方ではないとは自負している。だからこそ提督の身の安全は保証する。それが私たちのせめてもの筋だ」
「甘いね。そんなのはただの自己満足に過ぎないし、筋だなんで言葉にすり替えて陶酔しているだけだよ」
確かに、北上の言うことが正しいのだろう。長門自身も今回のことで提督に関して負い目を持っていることには間違いはないのだから。
と、発言に困窮する長門を見かねて、それまで口を噤んでいた陸奥が口を開く。
「もう、認めてあげてもいいんじゃないかしら。それに北上の言う通り提督の側につく子たちも把握できるのは利点でもあるわ。重要な施設はこっちが押さえているわけだし」
陸奥からすれば、長門に北上の案を認めさせることで吹っ切れさせようとする魂胆だったのだが、長門がそれをどう受け止めるかは分からない。
一方の北上は、その発言で気をよくしたのか、更なる要求を突き付けてくる。
「それとさぁ、提督もいることだしA棟の近くでは弾薬の使用を禁止して欲しいんだよねぇ。もしものことがあったら怖いからね」
北上の言うことを拒むことは難しい。長門たちにとっても、提督の身は案じなければならない事案であるのだから。
「分かった。北上、お前のいう二つの提案、両方受けよう。その代わり、もうこちらも遠慮はしない。1日だけ待つ、それまでに投降してくれることを期待している」
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「というわけで北上、ただいま戻りましたー」
部屋を出て行った時のような自然体で北上が部屋に戻ってくる。
戻った北上から、報告を受けた俺は吹雪と顔を見合わせる。
「司令官、何とかなるかもしれませんね」
「後は、俺の人望次第だな」
「どうやら、この北上さんはお役に立てたみたいだねー 」