この悲運の主人公に救済を!   作:第22SAS連隊隊員

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父と息子、全てにケリを付けるための戦い。


Last Episode AMAZON「Z」

茜色に染まる世界で、千翼達と仁は向かい合っていた。

互いに相手を見据えたまま決して視線を逸らさず、言葉も交わさぬまま時間だけが過ぎて行く。

剣呑な雰囲気に呑まれ、カズマ達もただただ二人の成り行きを見守るしか無かった。

 

「二度あることは三度ある……それとも三度目の正直か? この場合は。まぁ、どっちでもいいな」

 

仁は独り言を呟くと、手に持つベルトを腰に巻いた。あとはレバーを捻るだけで彼は異形の戦士アマゾンアルファへと姿を変え、実の息子である千翼の命を奪うために襲いかかってくるだろう。

カズマ達が各々の得物を引き抜こうとするが、千翼は腕を横に伸ばしてそれを制止する。

 

「待って」

 

まさかの千翼からの待ったがかかり、カズマ達は戸惑う。

 

「みんなは手を出さないで欲しい」

 

「でも千翼……」

 

「わかってる。でも、お願いだから手を出さないでほしいんだ。以前、父さんと戦ったとき、みんなが加勢してくれたのは嬉しかった。だけど……やっぱりみんなを危険な目に遭わせたくない。それに、これは俺の問題だから、やっぱり自分の手で方を付けたいんだ。こんな時に我が儘言ってゴメン……」

 

「……わかった。手は出さない」

 

カズマは何か言いたげであったが、グッとそれを飲み込むと愛刀に伸ばしていた手を戻す。

仲間達はその様子を見て困惑するが、千翼の一番の理解者である彼がそうするならばと、それに倣って得物を掴んでいた手を解いた。

 

「ありがとう。それと、みんなにもう一つお願いがあるんだ。たとえ結果がどうなろうと、最後まで絶対に手を出さないで。俺にもしものことがあっても、父さんを恨まないでほしい。父さんは自分がやるべき事をやっているだけなんだ」

 

「……ああ」

 

カズマが頷くと、それを見た千翼は微笑んだ。そして、改めて父と向き合う。

 

「千翼!」

 

これから最後の戦いへ赴こうとする友の背中に、カズマは声をかける。

 

「絶対に勝てよ!」

 

「……うん!」

 

千翼は少しだけ振り返り、力強く頷く。

あとは親子二人の問題。アマゾンに関しては部外者でしか無い自分たちは、頼まれた通り手を出すべきでは無い。

ただただ、因縁の決着を見届けるだけだ。

 

「別れの挨拶は済ませたか?」

 

「……いつでもいいよ」

 

一部始終を黙って見ていた仁は、前に進み出てきた息子に問いかける。

背中のリュックからアマゾンズドライバーを取り出しつつ、千翼は短く答えた。

 

「千翼、お前はそこまでして生きたいのか?」

 

「……俺のせいで沢山の人が不幸になった、人生が狂った、犠牲になった……俺が生きている限り、周りの人が不幸になる。それは分かっている……それでも、それでも俺は生きたいんだ。願いを叶えて、人間として生きたい」

 

声量は小さいながらも、千翼はまっすぐに父の目を見ながら言い切った。

強い決意と覚悟を秘めたその顔を見て、仁は小さく笑う。

 

「本当に、お前は七羽さんに似ているな。強情なところがそっくりだ」

 

自分が手にかけてしまった愛する者の顔を思い出しながら、仁はバックルのレバーを握る。それを見て千翼も自分のベルトを巻き、ポケットからインジェクターを取り出す。

 

「今度こそ、ケリをつけようか」

 

「……うん」

 

仁はベルトのレバーを強く握り締め、捻った。バックルの双眸が光る。

 

『ALPHA』

 

「アマゾン」

 

仁が呟くと、体が紅い爆炎に覆われる。

 

『BLOOD・AND・WILD!! W・W・W・WILD!!』

 

爆炎が吹き飛ぶと、人間から異形のアマゾンアルファに姿を変えた仁は、ゆらりと両腕を開き、構える。

戦う準備が出来た父を見て、千翼は短く息を吐いた。

 

――母さん、見てて。

 

首に巻いた母の形見であるストールを巻き直し、千翼はインジェクターを握り締めると、ゆっくりとそれをバックルに装填する。持ち上げるとピストンに手を添え、じわりと押し込んだ。

インジェクターの内容物がバックルに注入され、嚥下音が静かに響く。やがて、それが止んだ。

 

「――」

 

いつも通りに叫ぼうとする千翼であったが、息を吸ったところで呼吸が止まる。

自分はこれから、何のために戦う?

前世のリベンジを果たすため? 違う。

自分の命を狙う父を倒すため? 違う。

因縁に決着を付けるため? 違う。

違う。自分は人間になるために、人間であることを証明するために戦うのだ。

だったら、この叫びは相応しくない。

千翼は吸った息を緩やかに吐き出す。肺の中の空気を全て出し切ると、一拍の間を置いて再び大きく息を吸った。

そして力の限り叫ぶ。

 

「変身!!」

 

決意と覚悟の叫びに応えるように、少年の体が紅い爆炎に包まれる。

炎の衣が爆風と共に剥がされ、そこには青い異形の――青い鎧を纏った戦士が立っていた。

 

「俺はネオ……『仮面ライダーアマゾンネオ』だ!」

 

ネオに姿を変えた千翼は、拳を握って構えを取った。

赤い異形と青い異形。両者は互いに睨み合ったまま対峙し、戦いの始まりを告げる火蓋が切られるのを静かに待つ。

十秒が過ぎ、二十秒が過ぎたところで、二人の真上の空を一羽のカラスが飛び去っていった。

黒いカラスは夕日に向かって飛びながら、去り際に甲高く一声鳴く。

その鳴き声は、暗くなり始めた空に幾重も木霊しながら遠ざかっていき、やがて消えた。

 

「フッ!」

 

「ハァッ!」

 

ネオとアルファは互いに地面を蹴り、突進する。瞬く間に両者の距離は縮まり、赤と青の拳がぶつかり合った。

二人を中心に衝撃波が広がり、木々は揺れ、茜色の空に轟音が木霊する。

そのままお互いの拳を正面からぶつけ合ったままの姿勢で、アマゾンネオとアマゾンアルファは相手を押し破ろうと拳に力を込める。

ギリギリと骨が軋み、血管と筋肉がはち切れんばかりに膨張する。

やがて、このままでは埒が開かないと判断した二人は素早く後ろに飛び退いて距離を取った。

着地と同時にネオはインジェクターのピストンを叩く。

 

『BLADE LOADING』

 

右手首の装甲が微かに持ち上がり、出来た隙間から赤熱した長刀が生えてくる。

熱が収まり、ブレードのグリップを握ると切っ先を父に向ける。

アルファもそれに応えるように、両手首のアームカッターを見せつけるように構えた。

両者は再び相手に向かって突進すると、得物を振りかぶって全力でそれを振るう。銀色の刃と黒い刃がぶつかり合い、火花を散らした。

そこから二人は激しく切り結び合い、刃が交差する度に甲高い音が幾重にも鳴り響く。

 

「頑張れ、千翼……!」

 

離れた場所から戦いを見守っているカズマは、小さな声で友の勝利を願っていた。

今すぐにでも助太刀に行きたい衝動に先程から駆られているが、なんとか理性を働かせて踏み留まっている。

それでも時々足を踏み出してしまうが、その度に仲間達に肩を掴まれては正気に戻り。見守ることに徹していた。

自分のような貧弱な人間が二人の戦いに割って入った所で、何の影響も及ぼさない。それどころか千翼は自分に気を取られて、戦いに集中出来ないだろう。

自分がいま出来ることは、死力を尽くして戦う仲間の勝利を信じて祈ることだけ。

カズマは生まれて初めて、心の底から神という存在に祈りと願いを捧げていた。

 

「「ラァッ!!」」

 

いったいどれだけ刃をぶつけ合っただろう。ネオとアルファの得物は既に刃毀れまみれでボロボロになっていた。

 

「フッ!」

 

「ハッ!」

 

もはや何合目になるか分からない刃同士のぶつかり合い。ここに来てとうとう両者の武器に限界が訪れ、刃が触れあった途端、白銀の剣は中程から真っ二つに折れ、黒い刃は砕け散った。

すかさずアルファは残ったもう片方のカッターを振るうが、ネオは刃の軌道上に残った刀身を差し込む。

再び両者はかち合い、刀身は根元から折れ、カッターは粉々に砕かれる。

 

「アァッ!」

 

両手首の得物が失われると、すかさずアルファは拳を繰り出した。

体重とスピードを乗せた右フックがネオの左頬を捉え、肉を打つ音が鳴る。

 

「ハァッ!」

 

脳を揺さぶる強烈な一撃に意識が飛びそうになるが、ネオはなんとか堪えてカウンターを放つ。

右手を下から上に振るい、ボディブローをアルファの腹に叩き込んだ。赤い異形の口から苦悶の声と共に肺の空気が吐き出される。

アルファは膝をつきそうになるも、歯を食い縛って耐え抜き再び拳を繰り出す。今度はネオの右頬を拳が捉える。

そこからは、ひたすら拳の応酬による殴り合いだった。アルファが一撃を見舞えば、お返しとばかりにネオが返礼の一撃を放つ。

理性ある人間同士の戦いとは到底思えない、お互いが闘争本能を剥き出しにして拳を振るう、まるで獣のような戦いが続く。

殴られる度に口から血を吐き、血に塗れた拳で相手を殴る。泥臭い。などという言葉すら生温い程の壮絶な殴り合いの応酬によって、夕日に染まった世界に肉を打つ音だけがしばし響いた。

やがて限界が訪れ、二人はふらつきながら後退って距離を取る。

 

「ハァ、ハァ、ハァ……!」

 

「フゥ、フゥ、フゥ……!」

 

お互い満身創痍だ。次で決着が――どちらが生き残るのかが決まる。

今にも倒れそうな体と、消えてしまいそうな意識を気力で必死に繋ぎ止め。二人は改めて身構えた。

この一撃を以て相手を倒す――自分の体に残っている全てを拳に込め、握り締めた。

二人は呼吸を落ち着かせるために下手に打って出るような真似はせず。今の状態で出せる最大の一撃を繰り出すために、束の間の休息を取る。

息が整い、微かとは言え体に力が戻ってきた。ネオとアルファは揃って短く息を吸い、細く長く吐き出す。

その時、一陣の風が吹いた。草原に広がる草花が揺れ、葉擦れの音が静かに響く。

やがて――風が止んだ。そして葉擦れの音も止む。

 

「「アアアアアァァァァァ!!!」」

 

それを合図に、青と赤の異形は走り出す。

この一撃でケリを付けるため。

この一撃で因縁に終止符を打つため。

この一撃で全てを終わらせるため。

お互いの間合いに入り、二人揃って左手を突き出し、右腕を引く。両者は揃って右腕を突き出した。

二つの血飛沫が夕焼けの世界に舞う。

 

「がっ……」

 

アマゾンアルファは、胸を貫かれていた。

ネオの手刀の一撃が心臓を貫通し、背中から血塗れの腕が生えている。

 

「ぅぁ……」

 

アマゾンネオは、首を斬り裂かれていた。

アルファの手首に辛うじて残っていた黒い刃が首筋を捉え、大きく開いた傷口から止めどなく血が流れ続ける。

二人は震えながら空いた手で相手に触れると、残り滓のような力を振り絞って押しやった。

仁の背中から腕が引き抜かれ、千翼の首から刃が離れる。

最後に一際大きな血飛沫が舞うと、親子は揃って仰向けに倒れた。

二人の体から強烈な冷気が発せられ、異形が人間の姿に戻る。

 

「は、はは……」

 

空を見上げて、胸に大穴を開け、口から血を流しながら仁は笑い声を漏らす。

その声に、自分が負けた後悔や、過ちを犯した虚しさの色は無かった。

そこにあったのは、純粋な喜びの声色。

 

「千翼……強く……なった……な……」

 

夕焼けから夜に変わりつつ空を眺めながら、仁は大きく息を吸い、ゆっくりと吐き出す。

目に瞼が落ちると、開かれることは二度と無かった。

アマゾンを生み出し、生みの親としてアマゾンを狩り続けた男、鷹山仁。

その死に顔は、とても安らかであった。

 

「千翼!!」

 

目の前で死闘が繰り広げられ、ついにその決着は付いた。だが、今はそんなことはどうでもいい。

四人は大急ぎで千翼の元へ向かうと、カズマは流れる血に躊躇うことなく両手で千翼の首筋を押さえ、一滴でも流れる血を止めようとする。

めぐみんとダクネスは救急箱から千翼の命を救えそうな物を急いで漁り、アクアは回復魔法を唱えていた。

顔面蒼白になって自分を救おうとする四人を見ながら千翼は――笑っていた。

 

「みんなと……会えて……よかっ……た……」

 

「馬鹿野郎! 遺言みたいなこと言ってんじゃねぇ!! 俺達と一緒に魔王を倒して、人間になるって願いを叶えるんだろ!? 勝手に死ぬな!!」

 

消えてしまいそうな千翼の声に、カズマは怒鳴り声を返して彼の命を繋ぎ止めようとする。

少年の指の隙間から赤い液体が溢れ出し、それを少しでも止めようとカズマは更に力込めた。

いつの間にか回復魔法を唱えることを止めていたアクアに気が付くと叫ぶ。

 

「アクア何やってんだ! 早く回復魔法を!」

 

「カズマ……千翼に回復魔法は効かないわ……」

 

全てを諦めた表情で、アクアは力なく首を左右に振った。

これまで傷の回復はもちろん、死者の蘇生といった女神の名に恥じない規格外の力を見せてきた水の女神アクア。

回復に関してはいつも自信に満ち溢れていた彼女が、瀕死の重傷者を前にして悔しそうに目を伏せていた。

 

「なに訳の分かんねぇこと言ってんだ! 早く……」

 

「……千翼の体は人間の細胞じゃないの……だから……回復魔法をかけても効果が無いのよ……」

 

アクアの口から語られた事実に、カズマは思考が停止する。

 

「……ほ、ほら。お前って蘇生魔法も使えるだろ? 万が一のことがあっても、それを使えば――」

 

「……カズマ。蘇生魔法は魂を呼び戻す際に、同時に回復魔法がかかって肉体を元に戻すという手順を踏むの。そうしないと魂が戻っても体の傷はそのままだから、またすぐに死んじゃうのよ。だから……」

 

心のどこかで、アクアが居るなら何が起きても大丈夫。という安心があった。

その頼みの綱が自ら「自分でもどうすることも出来ない」という残酷すぎる現実を突き付けられ、カズマの頭の中は真っ白に染まる。

傍らでダクネスは顔を俯かせ、目の前の光景から目を背けていた。めぐみんは真紅の瞳から大粒の涙を幾つも零れさせながら、口から飛び出しそうになる声を両手で必死に押さえていた。

 

「みんなとの……冒険……すごく……楽しかった……」

 

今にも消えそうな掠れた声で千翼が呟く。

そして目にゆっくりと瞼が降り、少年の体から力が抜けた。

 

「……千翼?」

 

千翼の様子がおかしいことに気が付き、カズマは呼びかける。返事は無かった。

 

「おい……やめろよ……こういう時にそういう冗談は笑えないぞ……」

 

カズマは千翼の胸に手を当て、揺らす。鼓動も何も感じない感触を誤魔化すように揺らし続けた。

 

「千翼……さすがにちょっとしつこいぞ……その冗談面白くないって……」

 

今度は手を握る。冷たくなってきているのは、夜が近いからだと必死に自分に言い聞かせた。

 

「なぁ、いい加減やめろよ千翼! 本当は生きてんだろ!? 脅かすつもりで死んだふりしてるだけだろ!!」

 

目の前の現実を拒絶したくて、触った感触を嘘だと信じたくて、これはきっと何かの間違いだと思いたくて。

カズマはまるで眠っているかのような千翼に呼びかけ続ける。こうすれば目を覚ますはずだ。すぐに起き上がるに違いない。そう信じて声をかけ続けた。

 

「頼むよ……目を……開けてくれよ……」

 

だが、どれだけ呼びかけても千翼は目を開けなかった。まるで全ての苦しみから解放されたかのような、とても穏やかで、安らかな表情で決して覚めることの無い眠りについていた。

ようやく目の前の現実を受け入れたカズマは両目から涙を流し、口から嗚咽を漏らしながら親友の名を叫ぶ。

 

「千翼おおおおおぉぉぉぉぉ!!!」

 

少年の慟哭が空に響き渡る。

千翼は――異世界で生涯二度目の死を迎えた。




これにて本編は最後となります。本作の完結となるエピローグは一週間以内に投稿します。
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