この悲運の主人公に救済を!   作:第22SAS連隊隊員

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二人の少年の旅路と、その行く末は――


エピローグ やがて星がふる ※2025年1月1日 後書きに裏話のURLを追加

「――ろ。――ひろ。――千翼、ちーひーろー!」

 

自分の名前を呼ばれながら乱暴に揺さぶられ、奥底で眠っていた意識が無理矢理引き上げられる。

 

「……ぁ?」

 

「いつまで寝てんだよ、もう時間だぞ。ケンタとタクも表で待ってる。早くいくぞ」

 

口から乾いた声を漏らしながら千翼が頭をもたげると、目の前には友人である長瀬裕樹がやや呆れながら自分を見下ろしていた。

自分がどこにいるのか確かめるために周りを見回すと、バーカウンターにショーを披露するためのステージ。自分が座っている物と同じテーブルと椅子がいくつか置かれている。

寝起き直後なので思うように回らない頭をなんとか回転させ、ここがどこなのか必死に思い出す。

やがて、ここが自分と友人達が溜まり場にしている、地下のクラブであることをようやく思い出した。

 

「ほら、急ぐぞ。予報だともうすぐ始まる」

 

長瀬は自分の後ろにある出入り口の階段を親指で差すと、未だに寝ぼけ眼でぼうっとしている千翼を置いて先に上に出ようとした。

階段の一段目に足をかけたところで、千翼が未だに動こうとしないことを不思議に思い、声をかける。

 

「どした? 具合でも悪いのか?」

 

「なんか……長い夢を見てた気がする……」

 

「夢? どんな?」

 

「……忘れた」

 

長瀬は呆れたように盛大に溜息を吐くと「早くしないと置いてくぞ」と言って、階段を昇っていった。

 

 

◆◆◆

 

 

その後、クラブを出た千翼と長瀬は上で待っていた二人と合流して、バイクに跨がり冬の夜道を走り出した。

しばらく走って目的地に到着すると、駐輪スペースに自分たちのバイクを止め、坂を昇る。

まだ吐く息が白くなるほど寒くはないが、顔に時折吹き付ける冷たい風に身を震わせながら千翼達は坂を昇り切り、街を見下ろせる丘の上に辿り着いた。

四人の眼下には、夜空の下で煌めく照明や街灯に車のライト。光に満ちた街の風景が広がっている。

 

「確かここら辺に……あ、いたいた!」

 

何かを見つけた長瀬が指差す先には、四つの人影がいた。揃って夜空を見上げており、何かを待っている。

 

「星埜さん、こんばんはー」

 

「おお、長瀬君。みんなもこんばんは」

 

手を振りながら近付き、長瀬が挨拶をすると四つの人影で一番背の高い人物。星埜始が挨拶を返す。

それに続いて他の三人、始の家族である妻と二人の娘も挨拶をした。

 

「あら、こんばんは」

 

「みんな、こんばんは」

 

「こんばんは、千翼」

 

母と娘の一人は長瀬達四人に向かって挨拶したが、もう一人の娘であるイユだけは、千翼個人に挨拶をした。

それを聞いて長瀬達はニヤニヤと笑いながら、照れくさそうにしている千翼を肘で小突く。

 

「もうそろそろですかね?」

 

「今日は快晴だからね。始まればすぐに分かるよ」

 

長瀬と始が無数の星が瞬く雲一つ無い夜空を見上げ、何かを探す。

他の面々も空のあちこちに視線を巡らせていると、二つのエンジン音が近付いてきた。

千翼達が坂の方を向くとエンジンの音が止み。少ししてから三人の人物が坂を昇ってくる。

一人は頭髪の一部を金髪に染め、口と顎に髭を生やした壮年の男、もう一人はストールを肩にかけた若い女性。最後の一人は厚手のコートを着た若い男だった。

壮年の男は片手を上げて、若い男と女性は会釈をして始に挨拶をする。

 

「どうも、教授」

 

「こんばんは、星埜教授」

 

「星埜さん、こんばんは」

 

「鷹山くんに水澤くん、それに泉くんもこんばんは。これで全員そろったな」

 

始に親しげに挨拶したのは、千翼の両親である鷹山仁とその妻である七羽。そして水澤悠である。

やってきた自分の両親を見て、千翼は少しだけ驚いた様子を見せた。

 

「父さん、今日は早いね」

 

「こんなイベントそうそうないからな。悠と協力して必死こいて今日の仕事を終わらせてきたんだよ」

 

「本当に大変だったよ。仁さんが『何がなんでも時間までに終わらせるぞ!』って言って、普段の数倍の速さで仕事を片付けるからさ。僕も追い付くのが大変だった」

 

「普段からそれくらいやる気を出して、家でもシャキッとしててほしいんだけどね」

 

「んも~七羽さん、それは言わないでよ~」

 

妻である七羽からの小言に、仁は肩を竦めながらおどけた。

その姿を見て千翼と七羽、悠は思わず笑い出す。

 

「あっ!」

 

その時、空を見ていた誰かが声を上げる。

全員が声につられて空を見上げると、黒い夜空に一筋、また一筋と光が流れていく。

そして、星が降り出した。

 

 

◆◆◆

 

 

「前原、大滝。どうだ?」

 

「こっちの作業は終わりました」

 

「こっちも完了です。志藤さん」

 

「よし、それじゃあ機材を片付けて帰るぞ。今日はおしまいだ。福田と高井と一緒に車に戻ってるぞ」

 

はい、と。二つの返事が同時に返ってくる。

志藤と呼ばれた男は、眼鏡をかけた背の高い男、福田と。髪を後ろで一纏めにした若い女、高井を引き連れて、駐車場に止めてある自分たちのトラックへと向かう。

 

「今日は大仕事だった」

 

「オマケにどれもこれも手間のかかる依頼ばかりだったな」

 

凝りを解すように肩を回しながら、高井が疲れたように息を吐く。その言葉に福田が同意しながら、微かに笑った。

三人は歩きながら明日以降の仕事の事や、週末はどうやって過ごすかなど、他愛も無いことを話しながら駐車場へと歩き続ける。

やがて自分たちが乗ってきた車が見えてくると『野座間ペストンサービス』と荷台に書かれたトラックのそばで、口髭と顎髭を生やした男と、どこか幼さを感じさせる男が揃って空を見上げていた。二人の足下には、害虫駆除に使うであろう様々な機材が置かれている。

それを見た高井は、眉根を寄せると容赦なく二人に詰め寄った。

 

「三崎、マモルも! トラックに機材積み込んどけって言っただろ!」

 

「ご、ごめん。高井くん」

 

「まぁまぁ、のんちゃん。それよりもほら、見てよ」

 

マモルと呼ばれた幼さを感じさせる男は、申し訳なさそうな顔をして謝罪し。三崎と呼ばれた髭を生やした男は、高井を宥めつつ上を指差した。

若干首を傾げつつ、高井は空を見上げる。

黒い夜空を背景に瞬く星々の間を、一筋の光が通り抜け、一瞬で消えた。

そしてまた新たな光が夜空を走っては消え、星空を次々と光の大群が走り抜ける。

 

「流れ星……」

 

「そういえば、今日は流星群が見える日だったな」

 

「……高井、怒るのはそこら辺にしといてやれ。もう少しくらい見ててもいいだろう」

 

五人は空を見上げ、夜空から降り注ぐ流星群を無言で眺めた。

空からは絶え間なく光が流れ、瞬く星々と共に黒い夜空を彩る。

 

「わぁー、綺麗だなー!」

 

瞳に流星群を映しながら、マモルは満面の笑みを浮かべた。

 

 

◆◆◆

 

 

「ふぅ、今日も疲れたなぁ」

 

一日の労働を終え、家路に就きながら青年は背伸びする。

今日の晩御飯は何だろうと、家に帰った後の楽しみを想像しながら青年は夜空を見上げる。

まるで一日を終えた青年を労うかのように、多くの星が瞬いていた。

住んでいるシェアハウスの前に来たところで、視界の端を何かが掠めた。思わず見上げると、そこには黒い夜空を背景に、幾つもの流星が刹那の輝きを見せていた。

疲れも晩御飯のことも忘れてしばし見とれていると、目の前のシェアハウスから食欲を刺激する何とも良い匂いが漂ってくる。

反射的に腹の虫が鳴り、青年は自分の腹をさする。最後にもう一度だけ夜空を見上げて流星の輝きを楽しむと、家の扉を開けた。

 

「ただいま」

 

「あら、お帰りなさい。昇」

 

「お帰り、昇くん」

 

「おう、お帰り。昇」

 

 

◆◆◆

 

 

「あー、やっと終わった」

 

「今日も疲れましたねぇ」

 

巨大なビルから二人の男が出てくる。

一人は気怠げな雰囲気の髭面の男。もう一人は長めの頭髪を頭頂部でまとめた、妙に間延びした喋り方をする、眼鏡をかけた男だった。

髭面の男が首に手を当てながら捻ると、捻る度にコキコキと小気味の良い音がなる。

数回鳴らしたところで、髭面の男は突然立ち止まった。首に手を当て、上を向いたまま動かない。

 

「どうかしましたかぁ?」

 

「……空、見ろよ」

 

髭面の男に言われるまま、眼鏡の男は夜空を見上げる。

夜空に煌めく星たちの間を一筋の流星が通り抜け。それが消えると別の流星がまた通り抜ける。

 

「あぁ、そういえば今日は流星群が振る日でしたねぇ」

 

あまり興味がなさそうな口調で眼鏡の男がそう言うと、視線を髭面の男に移す。

 

「星、好きなんですかぁ?」

 

「……いや、別に」

 

そうですかぁ、と。気の抜けるような返事をして、眼鏡の男は視線を空に戻した。

その場で二人は、しばらくのあいだ夜空を流れる星を眺め続けた。

 

 

◆◆◆

 

 

「――さん。――ズマさん。――カズマさん」

 

誰かが自分の名前を呼んでいる。微睡みから目覚めたカズマは、ゆっくりと頭を持ち上げた。

目の前には紺色のヴェールを被り、同じ色の衣装を着た銀髪の少女が椅子に座っている。

 

「いきなり呼び出してしまって申し訳ありません。どうしてもカズマさんに伝えたいことがあって」

 

「え、エリス様!? 俺に伝えたいことって一体……ん?」

 

ここで意識が完全に覚醒したカズマは、目の前の少女が誰なのか理解すると驚くも、すぐに「女神エリスが自分の目の前にいる」という状況に気が付いた。

過去にカズマは何度かエリスに出会っているのだが、その時は決まって自分の魂が天に召されたとき――即ち、死んだときである。

エリスが目の前にいる。彼女と会えるのは自分が死んだときだけ。つまり自分は――

 

「え!? 俺寝てる間に死んだの!?」

 

「ああ、違います違います! 死んでません! 生きてます! カズマさんはちゃんと生きてますから!」

 

記憶が確かなら、自分は部屋のベッドに潜っていつも通りに寝たはず。

それなのにこうしてエリスと会話していると言うことは、もしかして自分は就寝中に何らかの理由で死んでしまったのではないか。

そう考えたカズマは取り乱すが、慌てふためく彼をなんとか落ち着かせようと、エリスは必死に死んでいないことを伝える。

しばらくしてようやく落ち着きを取り戻し、カズマは椅子に座り直した。

 

「簡単に言うと、今はカズマさんの意識だけを呼び出している状態ですね。体の方は眠っていますよ」

 

「ああ、そうなのか。ビックリした……」

 

エリスは一先ずカズマの今の状態を伝えると、それを聞いて安心したようにカズマは盛大に息を吐いた。

調子を取り戻したカズマは、改めて自分を呼び出した件について尋ねる。

 

「それでエリス様、俺に伝えたいことって何ですか?」

 

「それは……いえ、見てもらった方がいいですね」

 

エリスは片手をかざすと、二人の間の空間が歪んで透明な球体を形作る。

出来上がった球体の内部が渦巻くと、徐々に色が付き始めた。

次第に渦巻きの回転が緩やかになっていき、停止するとカズマは球体に映し出された物を見て声を漏らす。

 

「地球だ……」

 

それは見間違えようのない、生前に自分が住んでいた惑星、地球であった。

すると、映像が動き始め地球を拡大し、大陸のそばに浮かぶ細長い島国にピントが合わせられる。

国の名前は『日本』。カズマと千翼がかつて暮らしていた国である。

驚きで目を見開き、声も出ないカズマをよそに映像は日本の中央付近を徐々に拡大していく。

山の形がわかり、網のように張り巡らされた道路が見え、歩いている人々の姿が目視出来るほどに近付いたところで、映像はとある丘の上を映して停止した。

 

「あ……」

 

十人ほどのグループが映像越しにカズマと目が合う。その中に見知った顔があった。

 

「千翼……」

 

それは、この世界を去った千翼であった。

すぐそばには彼の命を奪った張本人である鷹山仁もいるが、険悪な雰囲気は全く感じられない。

それどころか、千翼の母と思しき人物と楽しげに話し、三人で笑顔を浮かべていた。まるでそれが当たり前のように、家族のように。

 

「確かに、魔王の討伐は果たせませんでした。ですが、そこに至るまでの間にチヒロさんは充分過ぎるほどの人間性を証明してみせました。天界の神々は今回のチヒロさんの活躍について話し合い、彼が人間として生まれ変わるに値する魂の持ち主であるか改めて議論を交わしました」

 

「じゃ、じゃあ千翼は……」

 

エリスは笑みを浮かべながらゆっくりと頷く。

 

「はい、チヒロさんは人間として生まれ変わるに相応しいという結論が出されました。今は戦いとは無縁な、平和で穏やかな世界で、ごく普通の男の子として暮らしていますよ」

 

「……そっか……千翼のやつ……人間になれたんだ……」

 

それを聞いて、カズマは笑みを浮かべつつ両目から静かに涙を流していた。

望んだわけでも無いのに人喰いの化け物として産まれ。実の父からも、周りからも命を狙われ続け、最期は思いを寄せていた少女と共にその生涯に幕を下ろした少年、千翼。

数奇な巡り合わせによって異世界に転生し、そこでカズマ達と出会い、数々の冒険を経て彼はついに悲願であった人間に生まれ変わることが出来たのだ。

自分が今見ている千翼は、カズマの事も、異世界のことも覚えていないだろう。だが、それで構わない。いや、その方が良い。

苦難に満ちた前世とは今度こそ決別し、彼には人間として――人として何の変哲も無い普通の人生を歩んでほしい。

カズマは涙を拭うと、もう一度球体に映る千翼を見る。そこには家族や友人達と笑い合う一人の少年が、どこにでも居そうなごく普通の少年がいた。

 

「私から伝えたいことは以上になります。寝ている所をいきなり呼び出してしまって申し訳ありませんでした」

 

エリスが謝罪と共に頭を下げる。いやいや、とんでもないです。と言ってカズマは恐縮しながら頭を下げた。

 

「それではカズマさん、あなたの意識を体に戻しますね。おやすみなさい」

 

「エリス様も、おやすみなさい」

 

エリスが今度は上に向かって手をかざすと、暗闇で覆われた空に一筋の光りが差し、カズマを照らす。

すると、カズマの体がふわりと浮き上がった。そのまま光源へとゆっくりと上昇していく。

 

「カズマさん、今度はあなたの番ですよ。魔王を倒して、この世界を平和に――」

 

少年が光りの向こう側へ消える直前に、エリスは小さく呟いた。

その呟きは、誰にも聞こえなかった。

 

 

◆◆◆

 

 

開け放たれた窓から暖かい春風が部屋に流れ込み、カズマの頬を撫で、髪を揺らす。

屋敷の広間で、カズマは手に持つ物をじっと見詰めていた。

 

「千翼……人間になれたんだよな……」

 

それは、一枚の冒険者カードだった。名前の欄にはこの世界の文字で『チヒロ』と書かれている。

持ち主がこの世を去り、形見となったカードを裏返す。スキル欄には『変身』という文字が一行だけ書かれていた。

 

「アマゾンじゃなくて、仮面ライダー……正義のヒーローにもなれたんだ……」

 

カードを撫でると千翼と出会った日のこと、様々なクエストをこなした日々、アルカンレティアでの告白、紅魔の里での死闘、王都での大騒ぎ――

思い返せばまさに波瀾万丈で、良く言えば刺激的な、悪く言えば休む暇も無い、まさに冒険とロマンに満ちた思い出ばかりだ。

自分の隣には、肩を並べて共に歩み、戦った少年の姿はもうない。寂しくない、と言えば嘘になるが。悲しいかと聞かれればそれは違うと断言出来る。

親友の死は確かに辛かった。だが、いつまでもそのことを引き摺るわけにはいかない。嘆き続けるような情けない姿を彼に見せたくなかった。

こうしている間にも魔王は世界を支配しようと手を伸ばし続けている。休む時間はもう終わりだ、今日も今日とて魔王討伐に向けて前に進まねば。

 

「カズマー! いつになったら支度ができるのよー!」

 

「ゆんゆんを待たせているんですから、早く来て下さい!」

 

「いい加減に降りてこないと、置いていくぞ!」

 

窓の外から仲間達の急かす声が聞こえてくる。感傷に浸っていたカズマは我に返ると「もう出るよ」と外に向かって言うと、持っていた冒険者カードを静かに戸棚の上に置いた。

足下の道具袋を担ぐと忘れ物がないか確認し、問題ないことを確かめて部屋の外へ向かう。

扉に手をかけたところで、カズマは振り返った。

 

「それじゃ千翼、行ってくる!」

 

戸棚の上に置かれた写真立て――紅魔の里で撮影した集合写真に向かって小さく手を振り、カズマは部屋を出て行った。




これにて本作は完結となります。ここまで読んで頂き、本当にありがとうございました!
2020年から投稿を始め、途中で二回も更新が途切れてしまい、結果的に完結まで4年もかかってしまいました。
ですが、こうして完結させることができたのは、ひとえに本作を読んでくれた読者の方々のお陰です。
改めまして、本作を最後まで読んで頂き本当にありがとうございました!



余談ですが、本作を書くにあたってボツにしたネタや、変更せざるを得なかった展開などが多数ありまして。そちらに関しては活動報告でまとめ、URLを後日この後書きに載せようと思っています。
興味がありましたら、読んで頂けると幸いです。



裏話URL↓
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=321580&uid=230399
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