この悲運の主人公に救済を!   作:第22SAS連隊隊員

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今回は完全なオリジナルエピソードだったので本当に難産でした……。


Episode4 「D」EAR FRIEND

冬の寒空に太陽が真上で輝いていた。アクセルの郊外にある屋敷、その広間では暖炉に火が灯され、住人達が思い思いに過ごしていた。

トレードマークである帽子と眼帯を外した紅魔族の少女めぐみんと。普段は結い上げている髪を下ろし、それを一纏めにした少女アクア。二人はテーブルの上に置かれた様々な駒が乗っている、市松模様のボードを挟んでソファーに座っている。

 

「ウィザードをテレポート」

 

めぐみんが魔道士を象った駒を移動させる。

 

「うっ……まっ――」

 

「待ったは三回まで。アクアはもう使い切りましたよ」

 

「う~……」

 

恨みがましい目つきでめぐみんを睨むと、アクアは頬を膨らませながら、盗賊を象った駒を動かした。

めぐみんの隣にはダクネスが座っており、雑誌を読んでいた。

いつもの鎧姿ではなく、ゆったりとした部屋着姿だ。髪を解いて長い金髪を下ろし、紅茶を啜る姿はさながら貴族の令嬢のようである。

そして三人の後ろ。暖炉の前では、ソファに座ったカズマがテーブルの上に置かれた白い布と瓶に入った糊、緑色の細い棒で内職に勤しんでいた。

棒を一本手に取ると先端に刷毛で糊を塗り、そこに布を互い違い貼り付ける。

最後に角度を変えながら布を開いていくと、あっという間に白い造花が出来上がった。

完成した造花を脇に置いてある箱に放り込むと、また棒を取って同じ作業を繰り返す。

 

「んあー、また負けたー!」

 

「ふっふっふ、これで三連勝ですね。この私に勝とうだなんて百年早いですよ」

 

どうやらボードゲームの決着が付いたらしく、めぐみんが勝利を収めた。

負けたアクアは不貞腐れたように、背もたれに顔を向けて横になる。

勝負が一段落したところで、後ろで内職をしているカズマにめぐみんが声をかける。

 

「カズマ、ちょっといいですか?」

 

「んー?」

 

カズマは造花を作る手は止めず、振り返りもせずに声だけで返事をする。

 

「前から言おうと思っていたんですが……やっぱり変ですよ、千翼」

 

造花を作る手が止まる。しかし、すぐに作業は再開された。

 

「変って、どこが?」

 

棒に糊を塗るが、量が多すぎてテーブルに糊が零れた。

 

「食事はウィズの店で購入した、粉末を溶かしたジュースしか飲みませんし」

 

「体質の問題じゃねーの? ほら、アレルギーで食えない物ってあるだろ」

 

次に布を貼るが。片っ端から貼り付けたため、重なっている部分と貼られていない部分が目立つ。

 

「風呂はどんなに遅くなっても必ず最後に入りますし。しかも、入ったあとは徹底的に掃除をする……」

 

「ここに来た初日に『ゆっくり入りたいから、風呂は最後がいい』って言ってただろ。掃除は単に潔癖症か神経質なだけさ」

 

布を開いていくが、角度も順番も滅茶苦茶だったため、白い布が付いた棒きれが出来上がった。

カズマはそれを目の前の暖炉に投げ捨てると、あっという間に燃え上がって灰になった。

 

「確かに……普段の生活でも何となくだが、避けられているような気がする」

 

「あ、ダクネスもですか? 実を言うと私も同じことを感じていたんですよ。部屋からあんまり出てきませんし、今も部屋に籠もってますよね……」

 

「単に人と話したりするのが苦手なだけさ。変に構ったりすると、余計に避けられるぞ」

 

カズマは深呼吸してから、新しい棒を手に取った。先ほどよりも慎重な手付きで糊を塗る。今回は上手く塗れた。

 

「そういえばこの前の冬将軍の時だって、せっかく治療してあげようとしたのに無視されたわね……」

 

「単にパニックを起こしてたんだろ。人間、冷静さを失うと突拍子も無い行動を取るもんだ」

 

不貞寝していたアクアが起き上がり、思い出したように言った。

カズマは一枚一枚、確かめるように布を貼ってゆく。

しばらく唸っていたアクアはやがて何かに気が付いたか、手の平に拳を打ち付ける。

 

「分かった! あの腐れリッチーの店で買った粉が原因よ! あれは人間をアンデッドにする粉で、それを飲んじゃったから千翼はおかしくなっちゃったのよ。ちょっと浄化してくる!」

 

「そうしたらお前がキッチンに隠している秘蔵の酒を飲み干すからそのつもりで」

 

「な、なんであのお酒のこと知ってるのよ!?」

 

アクアの疑問に答えず、カズマは先ほどよりも慎重な手付きで布を開き、造花を完成させた。

 

「うし、ノルマ達成だ」

 

最後に作り終えた造花を箱に入れると、カズマは両手を挙げて思いっきり伸びをする。首を回すと小気味の良い音が鳴った。

 

「そんじゃ、俺はこれをギルドに納品してくるから」

 

箱を持つと、足早にカズマは部屋を出て行った。三人はその背中を、どこか怪訝な表情で見送る。

 

 

◆◆◆

 

 

「はい、納品を確認しました。それでは今回の報酬です」

 

箱一杯の造花をギルドに納め、カズマは内職の報酬を受け取った。

さて、これからどうしようかと思案していると、後ろから元気な声がかかる。

 

「やっほー、そんな暗い顔してどうかしたの?」

 

「ああ、クリス……って、俺、暗い顔してるか?」

 

話しかけてきたのは、頬に刀傷がある銀髪の少女クリスだった。

彼女はカズマが冒険者になりたての頃、どんなスキルを取ったらいいか迷っているカズマに、窃盗(スティール)を始めとしたいくつかのスキルを教えた人物だ。

以前はダクネスと組んでいたらしく、その縁もあってかカズマ達と関わりを持つようになっている。

 

「してるしてる。何か悩み事? アタシで良かったら相談に乗るよ。お昼がまだなら食べながら聞こうか?」

 

「……それじゃあ、お言葉に甘えて」

 

この後は予定が無かったこともあり。カズマは彼女の誘いを受けることにした。

ギルドの飲食スペースに移動した二人は、向かい合ってテーブルに座り、いくつかの料理と飲料を注文する。

初めは飲み食いを交えながら近況報告やくだらない話をしつつ、適度に場が温まったところでカズマが千翼について話し出した。

 

「……んで、風呂は必ず最後で、上がったら絶対に掃除をする。食事の時も粉を溶かしたジュースしか飲まないんだ」

 

「ふむふむ、それで?」

 

「この前は冬将軍に襲われたとき大怪我をしてたから、少しでも出血を抑えようと手を伸ばしたら拒否されてな。オマケにアクアの治療も受けずに町に一人で帰ったし……」

 

「なるほど」

 

「なんというか……俺たちを避けてるみたいなんだよな」

 

一通り話し終えたカズマは、喉を潤すためにジョッキを傾けた。

胸の内を話すことが出来てスッキリしたのか、酒気混じりの溜息を吐く。

 

「少なくとも、そのチヒロの気に障るようなことはしてないんでしょ?」

 

「……いや、そういえば初めてクエストに行ったとき。あいつの活躍ぶりを褒めたら嫌そうというか、複雑そうな顔されたんだよな」

 

「ええ、褒めただけなのに?」

 

「ああ……」

 

その時のことを思い出したのか、カズマの顔に影が落ちる。

誤魔化すようにジョッキの残りを一気に呷ると、肺の中の空気を一気に吐き出した。

 

「俺さ……初めて千翼に出会ったとき、すっげー嬉しかったんだ」

 

アルコールで顔が赤くなり、ほろ酔い気分のカズマは呟くように語り出す。

 

「一目見て『あ、こいつは強い奴だ』って確信したし、千翼をパーティーに引き込めたときは『これで楽が出来る』って思えた」

 

「それは聞きたくなかったかな……」

 

クリスが呆れ混じりの苦笑を浮かべる。

 

「でも、一番嬉しかったのは……」

 

「嬉しかったのは?」

 

「俺と同い年の、日本人の男と出会えたことが一番嬉しかった」

 

カズマの頬が少しだけ緩んだ。

 

「俺、ここに来る前は引きこもりでさ、親とも碌に会話が無かったんだよ。んで、色々あってなし崩し的にアクアと一緒にこっちに来たんだ」

 

「へぇ、そりゃ大変だったね」

 

「初めはその日を食っていくのもやっとで、毎日余裕が無かった。生活がある程度安定するようになってから、周りの物を見て驚いたり楽しんだりする余裕ができたんだけど……」

 

そこで言葉が途切れる。

クリスは先を促すようなことはせず、黙ってコップを傾けた。

 

「ある日『ここに日本人はいない』ってことに気が付いてさ」

 

「キミみたいな黒髪に黒目、変わった名前の人って、すぐにこの町を出て行っちゃうからね」

 

「それから何というか、急に寂しくなってさ。同じ人種がいないってだけで、こんなにも孤独を感じるもんなんだな……」

 

やや俯いたカズマの顔には、寂しさと自嘲が入り交じった笑みが浮かんでいる。

 

「俺、千翼と仲良くなりたいんだよ……日本にいたころはリア友なんていなかったし……。一緒に冒険したり、バカやって笑い合えるような男友達がずっと欲しかったんだ……」

 

言いたいことを全て言い終えたのか、カズマは一際大きく息を吸い込むとゆっくり、そして盛大に息を吐き出す。

 

「あー……わりぃ……なんか喋り過ぎて愚痴っぽくなっちまった……」

 

「いいよいいよ、気にしないで」

 

喋り続けて乾いた喉を潤すため、コップに入った水をカズマは喉を鳴らして一気飲みする。

一段落したところで、クリスが提案をしてきた。

 

「ね、良かったらその人から、キミたちを避けている理由を聞き出してあげようか?」

 

「え?」

 

「大丈夫、無理に聞き出すようなことは絶対にしないよ。それとなーく聞き出すから」

 

カズマは腕を組み、首を捻ってうなり声を漏らす。

千翼が自分たちを避けている理由を知ることが出来るなら、是非とも知りたい。そして同時に、知ることが怖い。

何か理由があって避けているなら、それを改善すればいいだけの話だ。

しかし、生理的に受け付けない、そもそも他人と居ることが嫌いといった、どうすることも出来ない理由だったら? それを知ってしまうことを、カズマは恐れていた。

考えに考えた挙げ句『いずれ後味の悪い別れ方をするくらいなら、いま別れた方がお互いのためだ』と無理矢理に自分を納得させる。

 

「……わかった、じゃあ頼むよ。でも、無理に聞き出すのだけは本当にやめてくれよ?」

 

「オッケー、任せといて!」

 

クリスはサムズアップで答えた。

 

 

◆◆◆

 

翌日。

今日も借金返済のために仕事を求めて、カズマ達はギルドを訪れていた。

掲示板を眺めていると、五人の後ろから陽気な声が聞こえる。

 

「みんな、おっはよー」

 

「おう、クリス。おはよう」

 

「おはよー」

 

「おはようございます」

 

「おはよう、クリス」

 

「えっと……おはよう」

 

「ねぇねぇ、キミ達って今日の予定はあるの?」

 

朝の挨拶を交わしたクリスは、カズマ達の今日の予定を尋ねた。

カズマはそれに肩をすくめながら答える。

 

「特に無いな、依頼もめぼしい物は特に無かったし」

 

「だったらお願い! 一日だけそこにいる黒髪の人を貸してくれない?」

 

クリスは両手を合わせ、千翼を見ながらそう言った。

 

「俺?」

 

突然、指名された千翼は、戸惑うように自分を指さす。

 

「実は前から狙っているダンジョンがあって、お宝がたくさん手に入りそうなんだ。でも、アタシ一人だと運べる量に限界があるし、いざという時に思うように動けない可能性がある。そこで、荷物持ちと護衛を兼ねてキミに来てほしいんだ」

 

「あーそれなら確かにチヒロが適任ね。カズマだったら貧弱だから大した量を運べないし、護衛なんて論外。いざとなったらお宝を独り占めして逃げ出すでしょうし」

 

カズマが無言でアクアの後頭部を叩いた。

 

「もちろん、お宝は山分け! どう、悪くないと思うけど?」

 

眉間に皺を寄せて千翼は悩む。自分では決められないのか、助けを求めるようにカズマを一瞥した。

その視線に気付いたカズマは、食ってかかるアクアを押さえ付けながら答える。

 

「千翼さえ良ければ俺は構わないぞ。というか、少しでも借金を減らせるなら是非ともお願いしたい」

 

「……じゃあ、一緒に行くよ」

 

「本当!? ありがとう!」

 

クリスは満面の笑みで礼を述べる。

その後、千翼とクリスは準備を終えたらギルドの前で合流、ダンジョンへ向かうことになった。

去り際にクリスは、カズマにだけ見えるようにウィンクをする。それを見たカズマは申し訳なさそうに小さく手を上げた。

 

 

◆◆◆

 

 

「いやー大量大量」

 

やや膨らんだ麻袋を担いだクリスは、歩きながら上機嫌で鼻唄を歌っていた。その後ろを、大きく膨らんだ麻袋を担いだ千翼が追う。。二人がダンジョンに潜ってしばらく立つが、収穫は上々であった。

先ほどから回収している、このダンジョンの『お宝』とは。パイルダーオンな超合金人形であったり、三分だけ戦えそうなカプセルであったり、ファンを回すことで変身できそうなベルトだったりと、千翼がどこかで見たことがあるものばかりであった。

鼻唄を歌っていたクリスはそれを止めると。何気なく千翼に尋ねる。

 

「そういえばさ、キミとカズマ君ってどうやって知り合ったの? よかったら聞かせて欲しいな」

 

「俺がギルドで冒険者登録をしようとしたら、持ち合わせが無くてさ。どうすることも出来なくて困っていたら、カズマが代わりに払ってくれたんだ」

 

「へぇ、意外だなぁ。借金してるからカズマ君ってお金には結構シビアなのに。ちょっと驚いた」

 

打算だろうけど、と。クリスに聞こえないように、千翼は小さく呟く。

 

「カズマ君とは仲良くやってる? もしかして、意地悪とかされてない?」

 

後者の質問に、千翼は首を横に振る。

 

「いや、そんなことは全くない。むしろ、俺のことをいつも気にかけてくれてる」

 

「そうなんだ。カズマ君、パーティーに迷惑ばかりかけられててよくピリピリしてるから、八つ当たりされてないか心配だったんだ」

 

「まぁ、しょっちゅう機嫌が悪いのは確かだな」

 

そうだよねー。と言ってクリスは小さく笑う。

 

「カズマ君はさ、ちょっと容赦の無いところがあるし、卑怯なこともするし、女の子相手でも容赦なく暴力を振るうけど、根はなんだかんだ言って良い人だから」

 

「……それ、フォローになってる?」

 

「まぁまぁ――それに、ああ見えて意外と寂しがり屋だから、これからも仲良くしてあげてね」

 

「……善処する」

 

千翼は少しだけ言い淀んだ。前を歩いているクリスには見えなかったが、俯いた少年の顔はどこか悲しげであった。

それから他愛も無い会話をしつつ、二人はお宝を順調に回収してゆく。やがて、二人は大きな鉄扉に辿り着いた。

 

「ここがダンジョンの最深部だろうね。つまりは一番のお宝が眠っている部屋。準備はいい?」

 

千翼は黙って頷く。その腰には既にアマゾンズドライバーが巻かれていた。

二人が扉の前に立つと、大きな音を立てながら扉が上に上がってゆく。トラップや敵がいないことを確認してから、二人はゆっくりと部屋に足を踏み入れた。

そこは巨大な円形の部屋だった。大人数で催し物が出来そうなほど縦にも横にも広い。

どんな技術を使っているのか、部屋の中央から幾筋もの青い光が放射線状に床、壁、天井へと伸び、部屋を照らしている。

そして光源にはこれ見よがしに、豪華な装飾が施された宝箱が置かれていた。

静寂で満たされた部屋に足音を響かせながら、二人は警戒しつつ宝箱に近付く。

 

「ちょっと待ってて。トラップがあるだろうから、それを解除するね」

 

そう言うと、クリスは宝箱の鍵穴を覗いたり、あちこち叩いて音を確かめたりと、宝箱を徹底的に調べる。

やがて、先端が複雑に曲がった二本の針金をポケットから取り出すと、それを鍵穴に差し込んで慎重に動かし始めた。

箱に耳を押しつけ、僅かな音も聞き逃さないよう息も止めて、クリスは解除に集中する。

それを見ていた千翼も自然と呼吸が小さくなり、彼女の一挙一動を見守る。

カチリ、と。小さな音が鳴った。

 

「ビンゴ!」

 

クリスが指を鳴らして声を上げる。

上機嫌で蓋を開けると、そこに入っていたのは、

 

「おお! これは!!」

 

「……」

 

クリスは喜びに満ちた笑みを、千翼は戸惑いに満ちた表情を浮かべる。

宝箱の中身は、トリコロールカラーが特徴的な、頭にV字のアンテナが付いた機動戦士なプラモデルであった。

 

「げんてーもでる? ってやつで、チヒロみたいな黒髪の変わった名前の人とか、物好きな貴族が結構な高値で買い取ってくれるんだよね。それでは、ありがたく頂戴しまーす」

 

クリスは傷つけないように、両手で慎重にお宝を持ち上げた。宝箱が僅かに沈み込む。

 

「「え?」」

 

二人の後ろで、出入り口に鋼鉄の扉が降りた。部屋の壁が次々と持ち上がり、中から剣や槍、ハンマーを装備した人型のゴーレムが姿を現す。

 

「二重トラップ!? 私としたことが……!」

 

自分の犯したミスを悔やみながらも、クリスは麻袋を投げ捨て、腰のダガーを抜いて身構えた。

 

「アマゾン!」

 

袋を投げ捨てた千翼は、リュックからインジェクターを取り出すと、素早くドライバーにセットしてピストンを叩いた。

赤い炎に包まれ、その中から現れたアマゾンネオは、もう一度ピストンを押してブレードを展開する。

 

「チヒロ! ゴーレムの装甲はすごく硬い、関節周りの隙間を狙って、内部を攻撃して!」

 

「わかった!」

 

二人は迫り来る敵の集団に向かって駆け出した。

アマゾンネオはゴーレムにわざと攻撃させ、それを紙一重で回避する。

攻撃後の硬直を狙って脇に回り込むと、首回りの隙間にブレードを刺し込み、捻りながら素早く引き抜いた。

ゴーレムの目から光が消え、そのままゆっくりと倒れる。

一体目を仕留めたネオは、次の獲物に向かって疾走する。

 

「このっ……」

 

一方、クリスは苦戦していた。

ネオと同じく隙間を狙うが、彼女の得物はダガーなのでどうしても長さが足りず、攻めあぐねていた。

 

「こうなったら一か八か……」

 

バックステップで距離を取ったクリスは、空いている左手を自分を狙うゴーレムに向けてかざした。

 

「スティール!」

 

盗賊のスキルである『窃盗(スティール)』を発動させると彼女の左手が輝く。光が収まった時には、その手に透き通った緑色の石――魔石が握られていた。ゴーレムは斧を振りかぶったまま動きを止める。

 

「へぇ、意外と上手くいくもんだね」

 

クリスはゴーレムの動力源であった魔石を投げ捨てると、次のゴーレムに向かって再び窃盗(スティール)を発動させた。

それからネオは刃を突き立て、時にゴーレムの頭を引き千切りながら。クリスは隙を突いて魔石を奪いながら次々とゴーレム達を沈黙させてゆく。

やがて部屋中が動かなくなったゴーレムで埋め尽くされ、静寂が戻ってきた。

ネオは肩で、クリスは大の字になって床に寝そべりながら、荒く呼吸していた。

 

「まさか……こんなことに……なるなんて……私も……まだまだだね……」

 

そう言ってクリスは額の汗を拭う。

それじゃあ、帰ろうか。とよろめきながら立ち上がり、自分の麻袋を持ち上げようと手を伸ばすが、掴む前に袋が持ち上げられる。

視線を動かすと、ネオ(千翼)が大きく膨らんだ二つの麻袋を背負っていた。

 

「疲れてるだろ。俺が持つよ」

 

「ありがと。キミ、きっと女の子からモテモテだよ」

 

クリスはいたずらっぽく笑う。表情は分からないが、照れ隠しをするようにネオ(千翼)は視線を逸らした。

どこかおぼつかない足取りでクリスは出入り口へと向かい、その後ろをネオがついて行く。部屋の出口まであと一歩のところで、クリスが踏んだ床が沈み込んだ。

天井から音が聞こえ、釣られるようにクリスが見上げると、大岩が降ってきた。

突然のことに声を出すことも、動くことも忘れたクリスは、迫ってくる岩を呆然と見つめ――

 

『AMAZON BREAK』

 

銀色の刃が閃いた。

大岩に十字の線が走ると、それに沿って岩が四つに割れる。轟音を立てながらクリスの周りに落下し、土煙を上げながら砕け散った。

 

「怪我はない?」

 

思考を停止していた脳が、その声で再び動き出す。

声のする方を向くと、そこには血払いをするようにブレードを振るう青い戦士がいた。

 

「あはは、最後の最後に助けられちゃったね」

 

照れ隠しのようにクリスは頬の傷を掻いた。

 

 

◆◆◆

 

 

「今日は本当にありがとね。それじゃ、また何かあったらよろしく!」

 

「俺で良かったら力になるよ」

 

お宝を山分けした二人はアクセルの町に戻り、夕暮れの通りで別れの挨拶を交わす。

元気よく手を振った銀髪の少女は、麻袋を揺らしながら上機嫌で町中へ向かう。

お宝が入った袋を担ぎ直すと、千翼は屋敷のある郊外へ向かって歩き始めた。

 

「大丈夫」

 

歩いていたクリスは突然立ち止まって振り返り。人混みに紛れて消えつつある千翼の背中に向けて呟いた。

 

「キミは、人間だ」

 

そう呟いたクリスの姿は、雑踏の中に消えた。




実は当初のサブタイは「DIE SET DOWN」にして戦闘がメインの話にする予定でしたが、書いている内に「これは違うな」と思い。今回のタイトルに変更となりました。
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