この悲運の主人公に救済を!   作:第22SAS連隊隊員

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今回の話で、一話で書いた容量の記録を大きく更新しました。
序盤の山場、デストロイヤー戦開幕。


Episode7 「G」IANT SPIDER

アクセルの町は大混乱に陥っていた。

家財道具を荷車に乗せて町の外へ向かう者、装備を整え仲間と共にギルドへ向かう者、家を捨てるか否か口論する者、はぐれた家族を探す者。まさしく混沌の坩堝であった。

何人もの住民とすれ違いながら、千翼とウィズは急いで冒険者ギルドへと向かっていた。

 

「ウィズさん、警報で言ってたデストロイヤーってなんですか?」

 

「とある国が作った巨大兵器です。詳しいことはギルドで説明があるかと」

 

更に足を速め、二人はギルドに到着した。扉を開けると、中は既に大勢の冒険者でひしめき合っていた。あちこちから不安げな声や諦めの声が聞こえてくる。

 

「千翼、こっちこっち!」

 

名前を呼ばれて声が聞こえた方を向くと、見知った顔が人垣の向こうから自分に向かって手を振っている。

狭い隙間を縫うようにしてその人物――カズマの元へとようやく千翼は辿り着いた。アクア、めぐみん、ダクネスの三人も居る。

 

「遅れてごめん」

 

「気にすんな、俺達もさっき到着したばっかだ。それよりも具合は大丈夫か? いきなり熱を出して倒れたって聞いたぞ」

 

「……大丈夫、心配かけてごめん」

 

嘘をついたことに、千翼の心が微かに痛む。返事をするまで僅かな間があったことにカズマは訝しがるが、そんなことはお構いなしに彼を押し退けてアクアが尋ねる。

 

「ねぇ、本当にただの熱だったの? もしかしてあのリッ……あいつに変な薬とか盛られてない?」

 

「あ、アクア様、私は千翼さんを看病しただけで、それ以外は本当に何もしていません。信じてください……」

 

ウィズの言葉を聞いたか聞いていないのか、アクアは疑いの眼差しを彼女に向ける。小さな悲鳴を上げて、ウィズは千翼の後ろに隠れた。

 

「冒険者の皆様、お集まり頂きありがとうございます! まずは中央のテーブルにご注目ください」

 

よく通る声が冒険者達のざわめきを静めた。声の主であるギルドの受付嬢ルナは、飲食スペースの中央にあるテーブルを指さす。そこにはアクセル近辺が描かれた大きな地図が置かれていた。

 

「先ほど近隣の町から、デストロイヤーがこの町に向かっているとの連絡がありました。接触はおよそ六時間後。現在のデストロイヤーの位置は、地図上だと恐らくこの辺りになると思われます」

 

そう言って、ルナはテーブルの下から蜘蛛――正確には蜘蛛の形をした兵器の模型を取り出し、それを地図の端に置いた。

 

「それまでにデストロイヤーを迎え撃つのか、町を捨てて避難するかを皆様に決めていただきます。その前に、デストロイヤーについて説明が必要な方はいらっしゃいますか?」

 

千翼、カズマを始めとした数名の手が上がる。他の殆どの人間は「何を今更」と言わんばかりの顔をしていた。

 

「わかりました。それでは説明します」

 

機動要塞デストロイヤー。この世界随一の技術力を持つ大国ノイズが、巨額の国家予算を投じて建造した対魔王軍用兵器。

完成と同時に開発者が兵器を乗っ取り、手始めにノイズを滅ぼした。以降は世界中を気まぐれに彷徨いながら、道中にある町や国をいくつも滅ぼしてきたという、まさに歩く天災とも言うべき存在である。

素材に魔法金属が使われており、物理的、魔力的な防御力はもちろん。対空兵器としてバリスタが、直接乗り込まれた際の対人兵器としてゴーレムも完備しているという、文字通り隙の無い兵器であった。

始めは興味深そうに聞いていた千翼とカズマだったが、説明を聞く内に徐々に顔が曇ってゆく。ルナが説明を終えた頃には、千翼は口を固く結んで眉間に皺を寄せ、カズマは絶望と諦めに満ちた表情となっていた。

 

「以上がデストロイヤーの説明となります。改めてお聞きしますが迎撃するか、避難するか。どうなさいますか?」

 

「とりあえず迎撃する方向で話を進めようぜ。良い案が無かったら、それから避難に話を切り替えても遅くはないはずだ」

 

「それもそうだな」

 

「賛成!」

 

赤いジャケットを着た金髪の男、カズマの友人、もとい知り合いであるダストの提案に別の誰かが賛同する。一先ずは迎撃する方向で議題が決まり、冒険者達が各々の考えを提示する。

 

「大きな落とし穴を掘って、そこに落とした後に埋めるのはどうだ?」

 

「それはダメだ。以前にも同じ方法を使った国があったが、ジャンプして穴を跳び越えたそうだぞ」

 

「あいつ、跳ぶのかよ……」

 

誰かが驚きと呆れの混じった声を漏らす。

 

「じゃあ、壁を作ってデストロイヤーの進路を変えるのはどうかしら?」

 

「それも無理だ。わざわざ迂回してから町を踏み潰したらしい」

 

嘘でしょ。と別の誰かが絶句する。

 

「無理だ……何をどう考えても絶対に無理だ……そんなの倒せるわけないだろ……」

 

やり取りを聞いていたカズマは顔を真っ青に染め、頭を抱えてしゃがみ込んだ。

――ああ、ちくしょう。サキュバス店のサービスをまだ一回も受けていないのに。それはそれは凄い夢を見せてくれるんだろうなぁ

実を言うと、カズマがここまで絶望しているのはこれが理由であった。

プライバシーの欠片もない馬小屋生活を抜けだし、念願のマイホームを、しかも十分すぎるほどの広さで、『音』を気にする必要がない。この上ないほど最高の物件を手に入れた矢先にこれだ。

男して産まれた以上はどうしても避けることができない、避けようのない『問題』をようやく解決することが出来たと思ったのに。

この町のサキュバス達が再びアクセルで店を開いてくれる保証などない。いや、そもそも復興を待っている暇があったら、さっさと別の町に移住した方がどう考えても効率が良い。

――くそっ、俺のロマンが、男のロマンが。

カズマは歯を食いしばり、人知れず涙を呑んだ。

 

「うーん、私ならやれるかしら……」

 

頭を抱えていたカズマの耳に、デストロイヤーの模型を見ていたアクアの呟きが聞こえた。ピクリと肩が震え、カズマがゆっくりと彼女に顔を向ける。

 

「アクア、お前いま『私ならやれる』って言ったよな。何がやれるんだ?」

 

「ん? ああ、デストロイヤーの魔力障壁よ。私くらいの実力なら、多分だけど破ることが……」

 

「本当か!?」

 

カズマは思わずアクアの両肩を掴み、顔を寄せる。

 

「本当か!? 本当に破れるかもしれないのか!?」

 

「ちょ、ちょっと顔が近い! わ、わからないわよ。もしかして、ひょっとしたら出来るかもって意味であって……カズマさん、顔が怖い!」

 

「出来る出来ないの問題じゃ無くてやるんだよ! もしかしたら何とかなるかもしれない!」

 

「わ、わかったわよ! やるわよ! やればいいんでしょ!?」

 

その言葉を聞いてようやくアクアは解放された。掴まれた箇所をさすりつつ、非難混じりの視線をカズマへと送る。そんなことは露知らず、当の本人はいやに興奮していた。

 

「でもよカズマ。仮に障壁をなんとか出来ても、デストロイヤー本体はどうすんだ?」

 

「それは……」

 

ダストの疑問に先ほどまでの勢いはあっという間に萎み、カズマは口ごもる。

 

「デストロイヤーにダメージを与えるには、大砲を何百発も一斉に撃ち込みでもしないと無理だって聞いたな」

 

「それか爆裂魔法みたいな、余程の火力がない……と……」

 

その冒険者の言葉は最後まで続かなかった。彼の視線はギルド内のとある少女――まるでカッコいい玩具を見ているかのような、キラキラとした眼差しをデストロイヤーの模型へ送っているめぐみんに向けられていた。

視線に連れられて、ギルド内の人間全ての視線が一人の紅魔族の少女へと集まる。

 

「え……な、何故みんな私を見ているんですか?」

 

多数の目が向けられていることにようやく気が付いためぐみんは、杖を抱きしめながら後退る。

 

「そうだ! 頭のおかしい嬢ちゃんは爆裂魔法の使い手だ!」

 

「頭のおかしい嬢ちゃんの爆裂魔法はよく知ってる。あれだけの威力ならきっとデストロイヤーにも!」

 

「まさかこんな頭のおかしい嬢ちゃんが切り札になるなんて!」

 

「おい、いま頭がおかしいと言ったやつ。顔は覚えたからな、覚悟しろよ」

 

とても少女が出しているとは思えないような、ドスの効いた声でめぐみんはそう告げた。

 

「めぐみん頼む! この中で一番火力があるのは間違いなくお前だ! お前しか、お前の爆裂魔法しかないんだ!! 頼む!!」

 

「し、仕方ありませんね。そこまで頼まれたら断れませんよ」

 

カズマの余りの必死ぶりに、若干引きつつもめぐみんは頼みを引き受けた。カズマが飛び上がり、奇声を上げながら狂喜する。

 

「ちょっと待った! それならウィズさんにも協力してもらった方がいいんじゃない? ウィズさんは昔、それは腕の立つアークウィザードだったって聞いたわよ!」

 

「え、ええ!? ちょ、ちょっとリーンさん!」

 

茶髪をポニーテールでまとめた少女、ダストの仲間であるウィザードの『リーン』は、勢いよくウィズを指さした。突如として指名されたウィズは狼狽える。

 

「俺も聞いたことがあるぞ。襲い来るモンスターをちぎっては投げちぎっては投げ、魔王軍からも恐れられるくらい強かったって話だ」

 

「巨大なドラゴンを魔法の一撃で木っ端微塵にしたらしいわ」

 

「山一つを素手で真っ二つに割ったとか……」

 

「誰ですかそんな噂を流したのは! そんなことしたことないですし、出来ません!」

 

余りに突拍子もない数々の武勇伝、もとい噂話に流石のウィズも声を上げて訂正を入れた。

 

「ウィズ、昔はアークウィザードだったって本当か? もしかして爆裂魔法も使えたりするのか!?」

 

「え、ええと。はい、爆裂魔法も使えます。と言っても昔の話ですから、今は流石にあの時ほどは……」

 

「いや、大助かりだ! 今はとにかく火力が欲しい!!」

 

「わ、わかりました。さすがに状況が状況ですからね。私もお手伝いします」

 

彼女が迎撃に加わることを告げると、ギルド内が一気に沸き立つ。ひょっとして、もしかしたら。と、あちこちから期待の声が歓声に混じっていた。

 

「ウィズさん、前は冒険者だったんですか」

 

「はい、昔は仲間と一緒にいろんな場所に行きました。楽しいことも、辛いこともたくさんありましたね……」

 

昔を思い出したのか、ウィズは小さく笑う。しかし、その笑みにはどこか寂しさが混じっていた。彼女の訳有り気な笑みに、千翼はそれ以上話題を広げるのを止めた。

 

「よし、障壁と火力の問題はクリア。あとは操縦している野郎をどうするかだ!」

 

それ以降、カズマが作戦を立案し、その内容に不備や疑問点があれば誰かが指摘。すぐにそれを解決するアイディアを別の誰かが提案するという形で、トントン拍子に対デストロイヤーの作戦は組み立てられていった。

大まかな作戦内容は決まり、続いて内容の精査と確認が行われる。ギルド内は対デストロイヤーの作戦会議でヒートアップし、冬であるにも関わらず蒸し暑いほどの熱気が籠もる。

数え切れないほどの改善案やアイディアが飛び交い、その度にカズマは計画書に修正を書き込んだ。

 

「いける……いけるぞ!!」

 

ついに完成した修正と書き足しだらけの計画書を見て、カズマは歓喜の声を上げる。もはやギルド内に諦めの空気は無く、来たる決戦に向けて誰もが決意を固めていた。

 

「よし、みんな。こうしちゃいられない。すぐに準備に取りかかるぞ!」

 

『おー!』

 

冒険者達は拳を突き上げて応えた。

 

 

 

 

 

それから数時間後、アクセルの冒険者達は正門の前に集結していた。嵐の前の静けさか、辺りは不気味なほどに静まりかえっている。既に住民の避難は完了しており、迎撃のために残った冒険者達は、未だ見えぬ敵へ静かに闘志を燃やしている。

町を囲う防壁の上から、カズマはじっと地平線を睨んでいた。薄く風が吹いて、少年の黒髪を揺らす。

 

「いよいよか……」

 

対デストロイヤー戦の作戦は全部で三段階。

第一段階は、アクアがデストロイヤーの魔力障壁を破壊。そこにめぐみんとウィズが爆裂魔法で脚部を破壊し、動きを止める。

続く第二段階は、各々がデストロイヤーへの足掛かりを作り、そのまま乗り込んでゴーレムを倒し、安全を確保する。

そして最終段階では、要塞内部に入ってデストロイヤーを操縦しているであろう開発者の確保。もしいずれかの段階で作戦が失敗したら、即座に撤退すること。しかし、それは町の放棄を意味する。

一人の『男』として、今回の作戦を何が何でも成功させねばと。カズマは静かに、そして強く決意していた。

 

「なぁ、カズマ。今回の目的は町を守ることだから、デストロイヤーに乗り込む必要は無いと思うのだが?」

 

腕組みしながら、カズマの隣で同じく地平線を睨むダクネスが問いかける。視線を固定したままカズマはその疑問に答えた。

 

「ダクネス。今まで俺たちが『よーし、これで完了だ。さぁ、お家に帰るぞー』で、そのまま終わったことが一度でもあったか?」

 

「……確かに」

 

「予感……というより確信だな。今回の作戦はデストロイヤーを止めただけじゃ絶対に終わらない。俺の勘がそう言っている」

 

カズマの言葉に、ダクネスは納得したように深く頷いた。

苦労してきたんだなぁ。と言いたげな視線を二人の後ろに立つ、ベルトを巻いた千翼は向ける。

 

「それでは、私は町の防衛に戻る」

 

「おう、もしもの時は頼んだぞ!」

 

カズマが親指を立ててダクネスにエールを送ると、彼女は右手を挙げてそれに応え、町へと向かっていった。

 

「なぁ、カズマ。今は少しでも戦力が欲しいから、ダクネスも前線に加えるべきじゃないのか?」

 

離れてゆく聖騎士(クルセイダー)の背中を見ながら、千翼が疑問を投げかける。それに対しカズマは、どこか遠い目でダクネスの背中を見ながら千翼の疑問に答えた。

 

「千翼、ダクネスはとんでもないノーコン。つまり攻撃が全く当たらないんだ」

 

「……命中率が悪いとかじゃなくて?」

 

「ああ、本当にこれっぽっちも当たらない。どれくらい当たらないかっていったら、全く動かない敵に対して一発も当てられないくせに、周囲の岩は一つ残らず切り裂いた程だ。念のために言っておくけど、冗談や誇張じゃなくてマジだ」

 

「……」

 

「だからあいつには『万が一に備えて町の防衛に回ってくれ。戦えない人々を、みんなの帰る場所を守るのが聖騎士(クルセイダー)の役目だろ? お前が最後の砦だ』って言って後ろに控えてもらった。」

 

「本音は?」

 

「ダクネスには大変申し訳ないが、ぶっちゃけ攻撃が当たらないからいるだけ邪魔。それに俺が作戦の指揮を執らないといけないから、あんなドMの面倒見ている暇なんてないっつーの。それに、今回は聖騎士(クルセイダー)なら他にも居るからな」

 

「カズマ……」

 

遠慮容赦ないカズマの本音を聞き、千翼は顔を引き攣らせていた。

 

「あいつ、俺が説得するまで『皆の盾となるのが私の務め』とか言って最前線から動こうとしなかったんだよ。本当はデストロイヤーに蹂躙されたいだけのくせに。だから適当にそれっぽいこと言って、お引き取り願った」

 

もはや千翼はカズマの方を向いておらず、遠い目で天を仰ぎ、青空に流れる雲を眺めていた。

 

『遠方にデストロイヤーを確認! 繰り返す、遠方にデストロイヤーを確認! まもなく目視可能!!』

 

町の警報器から響く声が静けさを破る。その場にいる全員が真剣な顔付きになり、各々の得物を握り締めた。

よし。とカズマは呟くと、大きく息を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。足下にある拡声器のような魔道具を手に取り、口の前で構えた。

 

『みんな、聞いてくれ!!』

 

防壁の上から響く、魔道具越しのカズマの良く通る声に、冒険者達がカズマを注視する。

 

『俺はみんなにとても感謝している。町を守るために残ってくれたことを、こんな危険極まりない作戦に協力してくれたことを』

 

彼の一言一句を聞き逃すまいと、誰もが静かに一人の少年を見つめていた。

 

『俺はこの町が好きだ。旨い飯、一緒に酒を飲める気の置けない奴ら、穏やかな日常。それら全部がこの町にある』

 

賛同するように冒険者達が頷く。

 

『だが、俺が、皆が愛する町を破壊しようとする奴が迫っている。俺はそいつを許せない。勝手にやってきて全てをぶち壊して踏み潰しといて、勝手に立ち去ってゆく……そんな奴を許せるか!?』

 

『許せない!』

 

『そんな奴を止めたいか!?』

 

『止めたい!!』

 

『そんな奴を殴りたいか!?』

 

『殴りたい!!!』

 

『みんな、そんなふざけた野郎に一発ぶちかましてやろうぜ!!』

 

『おおおぉぉぉーーー!!!』

 

カズマの叫びに呼応して、冒険者達も勇ましく雄叫びを上げる。士気は最高潮に高まっていた。

 

『デストロイヤーを目視! まもなく姿が見えます!!』

 

地平線の向こうに巨影が現れる。太陽の光を照り返し、大地を蹂躙するかの如く踏み砕きながら真っ直ぐ向かってくるそれは、巨大な鋼鉄の蜘蛛であった。大地を揺らしながら地響きと共に『機動要塞デストロイヤー』がついにその姿を現した。

その巨体を見た何人かが僅かに後退るが、自分を奮い立たせると迫り来る大蜘蛛を睨む。防壁の上でカズマは不敵に笑った。

 

『来たな。アクア、まずはお前の出番だ! 宴会の神の実力を見せてやれ!』

 

「だから私は水の女神! 何度も言ってるでしょ!」

 

冒険者達の一番前に立つアクアは、文句を言いつつも杖を掲げ、魔法の詠唱を始める。彼女が言葉を紡ぐ度に光の粒子が杖に集まる。

 

「セイクリッド・ブレイクスペル!」

 

アクアの前に魔法陣が浮かび上がり、そこからレーザーのような光が撃ち出された。

光はデストロイヤーに触れる直前に見えない壁に阻まれ、当たった部分から霧散してゆく。

 

『アクア! お前の力はその程度か! もっと本気を出せ!』

 

「こんの……さっきから好き放題言って……どおおおぉぉぉりゃあああぁぁぁ!!」

 

アクアの雄叫びと共に光の勢いが増す。魔法陣の中央から放たれていた奔流は、今や魔法陣を覆い隠すほどに大きくなっていた。

ピシリ、と。ヒビ割れる音が聞こえた、見えない壁に僅かに亀裂が走る。そこからあっという間に亀裂が広がり、何かが砕け散る音が響き渡った。

 

「ふふーん、どんなもんよ!」

 

『よくやったぞアクア! めぐみん、ウィズ。頼む!!』

 

「わ、わわ。わかりましひゃ!」

 

「任せてください! めぐみんさん大丈夫です、いつも通り、いつも通りに撃てば良いんですよ!!」

 

カズマは少し離れた場所にいる二人。同じく防壁の上に立つめぐみんとウィズに向かって叫んだ。

続く作戦の第二段階。デストロイヤーの脚部を破壊して、その動きを止めるという大役を任されためぐみんは、杖を握り締め、歯をガチガチと鳴らしながら緊張で震えていた。

爆裂魔法を詠唱をしようとするが何度も噛んでしまい。ついには心が折れたのか、その場にへたり込んで震えていた。それを見たカズマは拡声器を千翼に押しつけ、大急ぎで彼女の元へと向かう。

 

「めぐみん、よく考えてみろ。あんなデカくて硬くて黒光りする、お前を満足させてくれる物なんてそうそうないぞ?」

 

「言い方が卑猥です!」

 

「今、この瞬間を逃していいのか? もしかしたらこの爆裂魔法が、お前にとっての生涯最高となる一撃になるかもしれないんだぞ?」

 

「生涯……最高……」

 

めぐみんは唾を大きく飲み込んだ。

 

「ああ、そうだ。今撃たないでどうするんだ。やらぬ後悔よりやる後悔って言うだろ? 断言する。ここで撃たなかったら、お前はそのことを一生後悔する!!」

 

「そうですね……あんな物に爆裂魔法を撃てる機会なんてそうそう……いや、この一度だけしかありませんね!」

 

既に震えは収まっていた。めぐみんはマントを翻すと杖を天高く掲げ、歌うように爆裂魔法の詠唱を始める。それを見たウィズも両手を空に向かって伸ばし、同じく詠唱を開始した。

時間と共に杖と両手に赤い光が集まり、その輝きを増してゆく。デストロイヤーは目前にまで迫っていた。

 

「「エクスプロージョン!!」」

 

二人が同時に叫び、杖と両手が大蜘蛛に向けられる。その先から赤い魔力の濁流が迸り、蜘蛛の左右の足に直撃した。天を衝き、大地を揺るがす大爆発が巻き起こる。石や砂が吹き飛ばされ、辺り一面が砂嵐で覆われた。

冒険者達は吹き飛ばされないよう地面にしがみ付き、異物が目に入らぬよう目を固く閉じる。防壁の上にいるカズマ達も地面に伏せ、両手で頭を押さえて砂嵐が止むのをじっと耐える。

耳鳴りが収まり、砂が当たらなくなってからカズマはゆっくりと頭を上げる。体に異常が無いことを確かめ、慎重に立ち上がった。

そして彼の瞳に、両足をもがれ地面に力なく横たわる大蜘蛛の姿が映る。

 

「千翼!!」

 

素早く立ち上がり、千翼は押しつけられた拡声器を構えた。大きく息を吸って叫びと共に吐き出す。

 

『突撃ー!!』

 

『うおおおぉぉぉーーー!!!』

 

雄叫びと共に冒険者達が地に伏したデストロイヤーへと殺到する。その光景はさながら、瀕死の蜘蛛に群がるアリの大群であった。

アーチャーがロープを取り付けた矢を放ち、ある者は鉤爪が付いたロープを投げ、またある者は長い梯子を立て掛けてデストロイヤーに乗り込む。

 

「アマゾン!」

 

ここからはいよいよ総力戦である。千翼はインジェクターのピストンを押してアマゾンネオへとその姿を変えた。

 

『CLAW LOADING』

 

更にピストンを叩いて右手に鉤爪を形成する。それをデストロイヤーに向けて勢いよく撃ち出す。発射された鉤爪がデストロイヤーの縁に引っかかると、アマゾンネオは防壁から跳び出した。同時に鉤爪を巻き取ると、猛烈な速さでデストロイヤー向けてネオが滑空する。

既にデストロイヤー機上には対人用のゴーレムの集団が、迫り来る冒険者達を迎え撃つために集結していた。ネオはその内の一体に狙いを定めると、腕を振って鉤爪を外す。

空中で体勢を変えて右足を突き出し、滑空の勢いはそのままに狙ったゴーレムの胴体目掛けて蹴りを見舞った。

勢いと体重が乗せられたキックは、ゴーレムをまるでボールのように蹴り飛ばした。その先に居た他のゴーレムを巻き添えにしながら大きく吹き飛ぶ。

着地の体勢から立ち上がったネオは、ピストンを押して右手にブレードを展開する。ちょうどそのとき、冒険者の先頭集団がデストロイヤーを登り切った。

 

「よし、いくぞ野郎ども!!」

 

得物を構え、冒険者達は一斉にゴーレムの集団に襲いかかった。いよいよ最後の戦いが始まる。

 

 

 

 

 

「そらっ!」

 

ダストの仲間であるアーチャーの『キース』が放った矢は、ゴーレムの頭部に付いたレンズを正確に射貫いた。視覚を失ったゴーレムは一瞬だが動きを止める。

 

「どおりゃぁぁ!!」

 

その隙を逃さず、キースの背中を踏み台にしてダストがゴーレムに向かって跳躍する。そして、すれ違いざまに剣を振った。

ダストが着地してから一拍の間を置いて、機械人形の丸い頭部が地面に転がる。次いでゴーレムの巨体がゆっくりと倒れた。

 

「「よし、次!!」」

 

ハイタッチして、二人の男は次の獲物に襲いかかる。

 

「シッ!」

 

リーンはゴーレムに向けてナイフを投げた。短剣は腕の関節に刺さる。

 

「サンダーボルト!」

 

リーンは右手を突き出すとそこから雷撃が放たれる。放たれた雷はまるで意志を持つかのように、ゴーレムの腕に刺さったナイフ目掛けて飛びかかった。

雷の蛇がナイフに食らいつくと、そこからゴーレムの全身に電流が走りあちこちから火花が散る。感電が収まると黒焦げの機械人形は、全身の隙間から黒煙を噴き出しながら倒れた。

 

「楽勝楽勝!」

 

勝利の余韻に浸った微かな時間、彼女の後ろには別のゴーレムが腕を振り上げていた。腕の先端には大金槌が付いている。

人間を容易く肉塊に変えることが出来る凶器が振り下ろされる――ことはなかった。

ゴーレムの首に横一閃の光が走り、首が落ちる。連れて胴体も倒れた。驚いたリーンが振り返ると、そこには剣を構えた一人の青年、アクセルの町で魔剣の勇者と呼ばれるほどの実力者『ミツルギキョウヤ』が立っていた。

 

「ありがとう、ミツルギさん」

 

「だから僕の名前は……! って、合ってますね。失礼しました」

 

キチンと名前を呼んだのに、何故か訂正しようとしたミツルギにリーンは首を傾げる。「お怪我はありませんか?」と言ってさも当然のように触れようとするミツルギから若干距離を取り、リーンは両手を振って無事であることをアピールする。

 

「それにしても……」

 

ミツルギはリーンから視線を外して別の方向を見た。彼女もそれに合わせて同じ方を向く。その先ではダストとキースが前後からの挟撃でゴーレムを撃破していた。

 

「頼もしいお仲間ですね」

 

「……あいつら、あんなに強かったっけ?」

 

「きっと彼らも町を守るために奮起しているんですよ。それだけこの町を愛しているってことです」

 

「そうかなぁ……」

 

リーンは頭上に疑問符を浮かべる。彼女は――いや、アクセルの町の全ての女性は知らないだろう。この町には男達にとって絶対に、何があっても失ってはいけない物(サキュバス店)があることを。彼らはそれを守るために、それこそ死ぬ気で戦っていた。

あれがあるから、例えどれだけレベルが上がってもこの町から離れない。離れられないという男の冒険者もいる程だ。男達はいま正に、ある種の尊厳を守るために全力で戦っているのだ。

 

「さて、僕も負けてられない!」

 

マントを翻し、剣を構えてミツルギは近くのゴーレムに斬り掛かる。リーンもその後に続いた。

 

 

 

 

 

「扉が開いたぞー!!」

 

金属と金属がぶつかり合う音があちこちから響く戦場を、男の叫び声が通り過ぎる。援護に徹していたカズマはそちらを向くと、ハンマーを持った男達のそばに、叩き壊されて無理矢理開けられた扉があった。

 

「千翼、アクア、ウィズ。そことそこのパーティは俺についてこい! 中に入って動かしてる奴を捕まえるぞ! 残りはゴーレムを頼む。制圧が終わったら後に続いてくれ!」

 

任せろ! と威勢の返事が返ってくると、制圧を頼まれたパーティーは近付いてくるゴーレムに容赦なく殴りかかった。その隙にカズマ達は内部に侵入する。

目につく扉を片っ端からこじ開け、中に人が居なければ即座に次の扉をこじ開ける。猛烈な勢いでカズマ率いるパーティーはデストロイヤーの深部へと突き進んだ。

恐らくこれが最後の扉だろう。両開きの大きなスライドドアを無理矢理開け、雄叫びを上げながら中に突入する。

 

「おらぁ!! 責任者でてこい……や?」

 

剣を振り回しながら先陣を切ったカズマは、デストロイヤーの開発者であろう椅子に座る白衣を着た――白骨死体を見て剣を下ろした。後ろに続く千翼や他の冒険者達も、物言わぬ開発者の亡骸に戸惑う。

 

「ど、どういうことだ?」

 

「もしかしてデストロイヤーって、今まで自動操縦で動いていたのか?」

 

最終目標である、デストロイヤーを動かしているであろう開発者の確保。これで全てに決着が付くと思われたが、その結末は余りにも拍子抜けする物であった。

 

「ねぇ、見てみて! これ開発者の日記みたい!」

 

これからどうしたらいいのか分からず困惑するカズマ達に、アクアが呼びかける。

空になった酒瓶や、食品の包装が山積みにされているテーブルに置いてあった本を手に取り、その場の全員に見えるようにアクアは本を掲げていた。表紙には『日記帳』と書かれている。

 

「アクア、なんて書いてある? もしかしたらここで何があったか分かるかもしれない」

 

それじゃあ読むわね。と言ってアクアは本を開き、そこに書かれている開発者の手記を読み上げ始めた。

 

 

 

 

 

○月×日

国のお偉いさん方から対魔王軍用の兵器を作れと言われた。ふざけんな、こんな低予算で魔王軍相手に戦える兵器なんて作れる分けねぇだろ。

頭にきたからクルクルパーになったふりをしてバカなことをしてやった。さっさと取りかかれと怒られた。ちくしょう。

 

○月×日

設計図の提出はまだかとせっつかれる。だからあんな低予算で作れるわけねぇつってんだろ!

イライラしていたら、設計図の上に大嫌いな蜘蛛がいたので叩き潰してやった。

丁度良いからお偉方への腹いせに、蜘蛛の染みが付いた設計図を「これが完成図です」と言って出してやったぜ。ざまぁ。

 

○月×日

え、なんであの設計図が通ったの? しかも「蜘蛛か、その発想はなかった!」とか「なんて斬新なアイディアなんだ!」とか大絶賛だった。この国大丈夫か?

ともかく建造が始まってしまった。俺しーらね。

 

○月×日

なんか動力源がどうたらこうたら。要するにこんだけの巨体を動かせるだけのエネルギーが足りないらしい。

あたりめーだろ、だから無理だって言ったんだ。だったら永遠に燃え続ける性質を持つ、超激レア鉱石のコロナタイトの塊でも持って来いやと言ってやった。

まぁ、どう考えても見つかるわけない。そんなもんがホイホイ見つかったら苦労しないっつーの。

 

○月×日

おい……空気読めよ……マジで持ってくる奴があるかよ……。そんなこんなでとうとう完成してしまった。

「設計者である貴方に是非」と言われて名前を付けることになった。ぶっちゃけこの兵器には愛着もクソもないので、俺が中学生の頃に考えた最強の兵器にちなんで「機動要塞デストロイヤー」と名付けた。うわ、思い返すと恥っず!もうちょっと考えて付ければよかった。

 

○月×日

明日はいよいよ兵器の起動実験をやるらしい。今、デストロイヤー内部には俺以外に誰も居ない。

丁度良い。ここまで色々とあってメッチャ疲れたし、兵器も完成したから酒飲んでもええやろ!

よーし、誰もいないから隠し芸の火吹きやっちゃうぞー! 燃える物もないから思いっきりファイヤーしてやるぜ!

 

 

○月×日

目が覚めたら地面が揺れてる。地震かと思って慌てて外に出たら国が滅んでた。

きっとこれは夢だ、飲み過ぎてこんな夢を見ているんだろう。そう思って中に戻ったらコロナタイトがまぁ燃えてる燃えてる。

え、もしかして昨日の火吹きで点火しちゃったの? 嘘でしょ……。

 

○月×日

もう手遅れだし、開き直って余生をこの中で過ごすことにした。そもそも降りることが出来ないしね!

食料庫に行ってありったけの酒と肴を持ってきて一人で宴会を始めた。無礼講じゃー!

 

○月×日

さけ

うま

 

 

 

 

 

読み終えたアクアは静かに日記を閉じた。彼女の朗読を聞いていたカズマ達は、怒っているとも呆れているとも言えない、何とも形容しがたい複雑な面持ちで白骨死体を見ていた。

 

「はぁ~何なのこれ? 怒る気にもならないんですけど」

 

余りにもふざけたデストロイヤーとその開発者の真相に、呆れ果てたアクアは持っていた日記を後ろへと放り投げた。緩やかに回転しながら投げられた日記は弧を描き、落下地点のコンソールにぶつかってから床に落ちた。ぶつかった箇所のパネルが赤く光る。

 

『自爆装置が起動しました。当機はただいまより動力炉をオーバーロードさせます。総員は直ちに脱出してください。繰り返します。自爆装置が起動しました。当機はただいまより――』

 

けたたましい警報と共に脱出を促すアナウンスが流れる。その場にいる全員が、物言わぬ亡骸からアクアに視線を移した。

 

「え、えーと……」

 

「なんでお前は一々トラブルを起こすんだーーー!!!」

 

カズマの叫びで白骨死体の頭がカクンと傾く。

 

 

 

 

 

「ねぇ~カズマさん。私たちも早く脱出しましょうよ~」

 

「これを何とかしてからな」

 

カズマ、千翼、アクア、ウィズはデストロイヤーの動力源が設置されている中枢にいた。共に突入した冒険者達には、外の人間に一刻も早く緊急事態を伝えるよう命令し撤退させた。

四人の目の前では鉄格子に囲まれた、真っ赤に光り輝く鉱石の塊『コロナタイト』が置かれている。

 

「これがコロナタイト……」

 

「で……これどうやって取り出すのよ?」

 

ともかくコロナタイトをどうにかしなければならないのだが、肝心の目標は鉄格子で囲まれているため手が出せない。

 

「そうだ! 俺がスティールで」

 

「持った瞬間手が黒焦げになるけど?」

 

「……そうですね」

 

会心の名案を思いついたカズマであったが、アクアから結果がどうなるかを告げられ。それ以上は言うのを止めた。

ああ、もう。どうしたらいいんだよ! 打つ手がなくなったカズマは頭を掻きむしって叫ぶ。すると黙っていたネオ(千翼)が前に進み出た。右手のブレードを構えて三人に振り返る。

 

「みんな、離れてて」

 

その言葉に従って三人は後ろへと下がる。十分に距離を取ったことを確認し、ネオは再び目の前のコロナタイトを見据えた。

 

「フッ!」

 

ネオが剣を数回振るうと鉄格子に線が走り、それに沿って崩れ落ちる。手出しできなかったコロナタイトがむき出しとなった。

剣を戻すとネオはコロナタイトに両手を伸ばし、深呼吸してから鉱石の塊を掴み、一気に持ち上げる。

 

「がっ……ぐぅぅ……!」

 

「千翼無茶だ!」

 

「チヒロ!」

 

「チヒロさん!」

 

肉が焼ける音と臭いが一気に広がる。後ろからの制止を無視してはネオ(千翼)鉱石を炉心から取り外し、床に慎重に置いた。手を離したところで慌てて三人が駆けつける。

 

「大丈夫か!?」

 

「チヒロ、早く手を出しなさい。回復するから!」

 

「いや、それよりもこいつを早くなんとかしないと……」

 

コロナタイトはとうとう臨界を迎えたのか、赤から白にその色を変えた。それに伴って先ほどよりも膨大な熱が発生し、四人を熱風が襲う。

 

「ちくしょう、あとはこいつを何とか出来れば……」

 

熱で焼かれないよう腕で顔を隠すカズマは悔しげに呟く。動力源が取り外されたことによって、自爆を告げるアナウンスは既に止まっていた。これでデストロイヤーの自爆は阻止できたが、今度は目の前のコロナタイトをどうにかしなければ結末は変わらない。

 

「あ、あの! 私に考えがあります!」

 

八方塞がりとなって苦悩するカズマに、ウィズが挙手をしながらそう言った。

 

「コロナタイトをランダムテレポートでどこか別の場所に転送するのはどうでしょうか? コロナタイトそのものをどうすることも出来ない以上、これが一番だと思います!」

 

「それだ!」

 

「でも、問題が……」

 

「ああもう! こんな風にウジウジして湿っぽいからリッチーは嫌いなのよ! いいから言いなさい!!」

 

アクアの怒声にウィズは縮み上がるが、それでも何とか続きを話す。

 

「ランダムテレポートは対象を世界のどこかへと飛ばす魔法です。ですが、文字通りランダムなのでどこへ飛ぶのか……最悪の場合、人が密集している場所に……」

 

その『最悪の結末』を想像したのか、ウィズが涙ぐむ。

 

「構わないやってくれ! 大丈夫、世界は広いんだ。人が集まっている場所なんて惑星規模で見たら、それこそ高が知れてる。何かあったら俺が責任を取る。俺を、俺の運の良さを信じろ!!」 

 

迷いも躊躇いも無くそう断言したカズマに、一瞬だけ考えるような素振りをするウィズ。しかし、覚悟を決めたのか大きく頷くと、両手を白く輝くコロナタイトにかざした。

 

「では、いきます!」

 

カズマ、千翼、アクアの三人は力強く頷く。

 

「ランダムテレポート!!」

 

白く輝く鉱石は、四人の目の前から一瞬で姿を消した。

 

 

 

 

 

それからデストロイヤーを脱出した四人は、意気揚々と町へ帰還しようとしたが、デストロイヤー内部に残っていた行き場を無くした熱が暴走。熱による爆発の危険に見舞われる。

本日三度目の絶体絶命の危機に今度こそ死を覚悟したカズマであったが、爆裂魔法で爆発を相殺出来るかも知れない。というウィズの言葉に微かな希望を見出す。

早速、無限に等しいアクアの魔力をカズマはドレインタッチでウィズに送ろうとしたが、神聖なアクアの魔力とリッチーであるウィズは相性が最悪であり、下手をすれば彼女が浄化されてしまうというのだ。

だが、ここで思わぬ救世主が現れる。魔力を使い果たしためぐみんが「ならば自分の出番だ」と名乗り出る。

カズマはアクアから魔力を吸収し、それをめぐみんへと送る。彼女の魔力は余程凄まじかったのか、めぐみん曰く「今までに無いくらい絶好調」の状態で本日二度目の爆裂魔法を放った。

結果、デストロイヤーは跡形もなく消し飛ばされ、今度こそ町を守るための戦いは終わりを告げた。

 

 

◆◆◆

 

 

それから数週間後、アクセルのギルドには町中の冒険者達が集まっていた。誰もがとある一人の少年に尊敬と感謝の眼差しを向けている。

 

「カズマさん。改めて冒険者ギルドを、この町を代表してお礼を言います。貴方の数々の活躍によってアクセルの町は崩壊の危機を免れました。本当にありがとうございます!」

 

ルナが感謝の言葉を述べ、惜しみない拍手を今回の立役者であるカズマに送る。それを皮切りにギルド内の全ての人間が、一人の英雄へと万雷の拍手を鳴らした。

 

「いやぁ、俺は当然のことをしたまでだよ」

 

「おう、それは嫌みか? ヒーローさんよ!」

 

「謙遜も過ぎるとムカつくぞー!」

 

飛んでくる野次にカズマは手を振って応える。

 

「おめでとう」

 

「すごいじゃないカズマ!」

 

「これは後世に語り継がれる偉業ですよ!」

 

「これは表彰ものだぞ、カズマ!」

 

「カズマさん、おめでとうございます!」

 

千翼を始めとしたカズマのパーティーメンバーも、賞賛の言葉を口にしながら拍手を送る。誰も彼もが英雄(カズマ)を讃えていた。

しかし、それは唐突に終わりを迎える。

何かに気付いた一人が拍手を止めると、それに気が付いた別の誰かも拍手を止める。その波は次々とギルド内に広がり、とうとう手を打ち鳴らす音は完全に消え失せた。

今、冒険者達はカズマから別の人物――ギルドの出入り口に立つ、二人の騎士を従えた制服姿の女性を見ていた。

 

「この中に、サトウカズマはいるか?」

 

眼鏡を煌めかせながら女性が厳かに言い放つ。彼女が口にした名前を聞いて、ギルド内がざわめき始めた。

 

「おいおい、まさか国から直々のスカウトか?」

 

「だったらこれからカズマさん……いや、カズマ様って呼ばなきゃな!」

 

冒険者達が囃し立てながら人垣を割り、カズマと女性との間に道を作る。

 

「やれやれ、俺は目立ちたくないんだがな」

 

わざとらしく髪をかき上げ、芝居がかった調子でそう言うと、カズマは堂々とした足取りで女性の元へ向かう。

 

「貴様が、サトウカズマだな?」

 

「ええ、俺が、サトウカズマです」

 

カズマは胸に手を当て、妙に気取った口調で自分が女性の尋ね人であることを告げる。

 

「私は王国検察官のセナだ。本日は貴様に要件があって訪ねた」

 

女性――セナの役職を聞いて、ざわめきが更に大きくなる。

 

「サトウカズマ」

 

「はい」

 

「貴様には現在、国家転覆罪の容疑がかけられている。私と一緒に来てもらおうか」

 

「はい?」

 

印が押された令状を突き付ながら、セナは冷たく言い放った。




というわけでデストロイヤー戦でした!
こういう大規模な乱戦って書いていて凄く楽しいです。



2021年3月14日 誤字を修正しました。
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