セイは神代魔法が欲しくなったようだ・・・。
多くの人が様々な感情を胸に動き出す週の初め月曜日。僕は窓際の席に座りながら学生が登校してくる様子をなんとなしに眺めている。
どうも、セイです。
今の僕は高校生として生活している。理由は休息と言えばいいのかな?この世界は魔力が少なく認知されていない。微かに異能という形で知られているようだがオカルトとの区別がつけにくいぐらいにはショボいもので何とも言えない環境だ。SAN値は別世界だから他の話だ。
強さを求める僕にとっては長居する理由のない世界だったのだが、このところ連続で殺伐とした世界が続いていたので息抜きをすることになった。肉体的には万全でも精神的には疲弊していたようで今は心地よいほのぼのとした時間を過ごしている。
此方に転移してきたのは六年ほど前。生活環境を整えるのに初めは時間がかかったがリアナと協力しマンションの一室を確保する。お金に関してはちょちょいと弄って犯罪すれすれで解決した。リアナが具体的に何をしたのかを僕は知らない。
中学一年生から学生生活を初め、早いもので今では高校三年生だ。休日はゲームや漫画など娯楽を楽しみ平日は学校生活を満喫する。ボーっとしていることが多いからか周りからは不思議ちゃんの様に見られている気がする。見た目が全く変化してないし直観のようなもので遠巻きにしているのかもしれない。
「リアナ この世界にはどれくらい居ようか?」
『・・・セイの気の済むまで 時間はあるから好きなように?』
「んー、気になる作品も完結してないしまだ居ようかな~」
リアナは霊体化して僕の中にいる。見た目年齢的に同学年というのは無理があったので戸籍には僕の保護者として登録されている。リアナは何があっても僕と離れたくないことはこれまでの時の中で理解しているのでこのような形になった。・・・もしかして、突然独り言を話すから気味悪がられている?
ちなみにビーちゃんはストラップの様にカバンについている。
ガラガラっと教室の扉が開いた。入って来た人物に注目が集まり、その視線があまりいい感情のものでなくなる。
入って来た人物の名前は南雲ハジメ。ごく普通の男子生徒だ。日本人らしい見た目であり特段イケメンでもなければ不細工でもない普通の生徒。だが、この少年にとってこのクラスの環境はあまりいいものでないだろう。
「よぉ、キモオタ! また、徹夜でゲームか? どうせエロゲでもしてたんだろ?」
「うわっ、キモ~。エロゲで徹夜とかマジキモイじゃん~」
変な絡み方をする男子生徒が四人。何が面白いのかゲラゲラ笑っている。
南雲はオタクと呼べるほどゲームや漫画、ラノベなどの知識を持っていることは確かだ。南雲と話すのは楽しいし南雲に進められて始めたものは結構ある。でも、キモオタではない。社交性は普通にあるし陰気臭くもないし普通の男子生徒だ。
まぁ、このやっかみはただの嫉妬だ。
「南雲くん、おはよう! 今日もギリギリだね。もっと早く来ようよ」
この女性が南雲に好意的に積極的に話すせいで今の環境になってしまっている。
彼女の名前は白崎香織。この学校では一位二位を争う美少女だ。美少女なだけはあって彼女に好意的な男性は多い。性格も悪くなく天然な面が目立つがそれも容姿と合わさり、かわいいに変換される。
高嶺の花である彼女が南雲に恋愛感情を持っているものだから周りの男性陣からしたら面白くないのだろ。
「あ、ああ、おはよう白崎さん」
南雲が挨拶すると殺気が溢れる。あぁ、嫉妬って怖い。大罪に数えられるわけだよ。
南雲の挨拶に白崎さんは満面の笑みを浮かべるものだから殺気が止まらない止まらない。
南雲からこちらに視線が来た。何々?『Help!助けて!何とかして!』と言う事らしいがモテるのが悪い。有名税みたいなものだ。僕は大きくサムズアップをして拒否した。
なんか青筋が立ち始めているが努めて無視をしていると三人組が南雲と白崎の会話に参加する。
「南雲君。おはよう。毎日大変ね」
「香織、また彼の世話を焼いているのか? 全く、本当に香織は優しいな」
「全くだぜ、そんなやる気ないヤツにゃあ何を言っても無駄と思うけどなぁ」
上から八重樫雫、天之河光輝、坂上龍太郎。
簡単に説明すると御姉様!イケメン!筋肉!となる。だんだん紹介するのがめんどくさくなってきたわ。
このクラスのいつも通りのコントが始まったので僕は窓の外を眺める作業に戻る。
心の中で天然少女とお馬鹿イケメンと鈍感オタクの子守を頑張れと八重樫へエールを送っておく。
しばらくするとチャイムが鳴り教師が教室に入って来た。ホームルームが始まり変わらない日常が流れる。
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時間が進むのは早いものであっという間に昼の休み時間だ。
南雲はずっと居眠りを決め込んでいたな。それなのに成績は悪くないのだから不思議でしょうがない。
珍しく南雲が教室を出ないな~とみていると案の定天使の悪魔に捕まってしまっている。
「南雲くん。珍しいね、教室にいるの。お弁当? よかったら一緒にどうかな?」
「あ~、誘ってくれてありがとう、白崎さん。でも、もう食べ終わったから天之河君達と食べたらどうかな?」
あー、南雲が無駄な抵抗をしている。栄養ゼリーを飲んだ程度で切り抜けられるはずもない。この後の予想が出来てしまったので僕は僕で昼食を取るとしよう。
恒例となったコントをBGMに弁当を食べていると突然魔力があふれ出す。発生源は天之河光輝の足元だ。
これは転移系か?と判断したところで魔法陣は教室を覆いつくし発動してしまった。
愛子先生が咄嗟に「皆! 教室から出て!」と言っているがこれは無理だろう。コンマ数秒の時間でビーちゃんを掴み、リアナが僕の中にいることを確認する。それしか対応する暇がなかった。
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光が止むと周りには人の気配。召喚されたクラスメイトに教師。儀式を行うように僕たちがいる台座の周りに信者と一目でわかる者たちが祈りを捧げている。
場所は大聖堂か?白で染められた広い空間はいかにも宗教に傾倒していますと表現している造りだ。この状況での異世界召喚は問題がありそうだなぁ~と他人事のように考えている。
「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ。私は、聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願い致しますぞ」
そう話した一際豪華な装いの老人の案内に従い広間を出ることになる。
これまた豪華な大広間へと通され席に着くことになる。メイドから飲み物を受け取りイシュタルの話が始まった。
「さて、あなた方においてはさぞ混乱していることでしょう。一から説明させて頂きますのでな、まずは私の話を最後までお聞き下され」
そういって話された内容はどうしようもない。
魔人族と人間族は長年戦争を続けている。魔人族は質、人間族は数で戦争を膠着状態としていたのだが魔人族が魔物を使役するようになった為、人間族は劣勢に立たされているのだそうだ。
そこでエヒトとか言う神が僕たち上位世界の住人を召喚し戦力として補充したのだそうだ。
う~ん、理由が腐っているのだが・・・そこのところどう思っているのだろう?とイシュタルを見るがこれはダメだ。狂信者というやつだ。話にならない。
僕は特に発言せずに聞くに徹する。
「ふざけないで下さい! 結局、この子達に戦争させようってことでしょ! そんなの許しません! ええ、先生は絶対に許しませんよ! 私達を早く帰して下さい! きっと、ご家族も心配しているはずです! あなた達のしていることはただの誘拐ですよ!」
言ったれ愛ちゃん!
「お気持ちはお察しします。しかし……あなた方の帰還は現状では不可能です」
撃沈!
「ふ、不可能って……ど、どういうことですか!? 喚べたのなら帰せるでしょう!?」
「先ほど言ったように、あなた方を召喚したのはエヒト様です。我々人間に異世界に干渉するような魔法は使えませんのでな、あなた方が帰還できるかどうかもエヒト様の御意思次第ということですな」
「そ、そんな……」
その後も話は続いていき、天之河光輝が謎のカリスマを発揮して戦争に参加する方向で話がまとまった。
僕たちのことは勇者として扱うようで最悪の状況は回避された。戦争奴隷とかになったらクッソだるい状況になるからな。
クラスメイト達の話が進んでいく中、僕は恒例の確認作業を済ませている。ステータスは使えるし忘れ物はマンションに置いてきた家具程度。ビーちゃんもいる。リアナも問題なしだ。
話がまとまってからは大聖堂をでて、神山を魔法的なリフトで下り、ハイリヒ王国の国王との謁見となった。聖教協会が深く根付いているようで実質聖教協会の国家だった。
その日は食事を取り、就寝となる。
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翌日から訓練が始まることになったのだが・・・。
「さて、どうやって脱け出そうかね~」
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セイ・ヴォフク 17歳 男 レベル:1
天職:武闘家
筋力:30
体力:30
耐性:30
敏捷:30
魔力:30
魔耐:30
技能:器用・脚技・言語理解
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さっきステータスプレートを受け取り表示した能力値が上だ。とりあえずこれでその場を凌いだが実際のステータスは下となる。
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セイ・ヴォフク ??歳 男 レベル:100
天職:遊び人
筋力:300
体力:300
耐性:300
敏捷:300
魔力:3500
魔耐:300
技能:
・器用[+体術][+生活魔法][+悪食][+転移][+能力制限]
・脚技[+神足通][+神速][+瞬脚][+斬撃][+打撃][+浸透]
・言語理解
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理由は騎士団長が説明してくれた。
「全員見れたか? 説明するぞ? まず、最初に〝レベル〟があるだろう? それは各ステータスの上昇と共に上がる。上限は100でそれがその人間の限界を示す。つまりレベルは、その人間が到達できる領域の現在値を示していると思ってくれ。レベル100ということは、人間としての潜在能力を全て発揮した極地ということだからな。そんな奴はそうそういない」
僕のステータスがレベル100であることから潜在能力を既に引き出し切っているということだ。他のステータスを制限してこの状態だ。この世界での僕の身体能力は成長しないことになる。
「ステータスは日々の鍛錬で当然上昇するし、魔法や魔法具で上昇させることもできる。また、魔力の高い者は自然と他のステータスも高くなる。詳しいことはわかっていないが、魔力が身体のスペックを無意識に補助しているのではないかと考えられている。それと、後でお前等用に装備を選んでもらうから楽しみにしておけ。なにせ救国の勇者御一行だからな。国の宝物庫大開放だぞ!」
魔力の扱いはエキスパートと自負していいほどのものだと思う。魔力を活用した身体能力の上昇はお手の物だ。
「次に〝天職〟ってのがあるだろう? それは言うなれば〝才能〟だ。末尾にある〝技能〟と連動していて、その天職の領分においては無類の才能を発揮する。天職持ちは少ない。戦闘系天職と非戦系天職に分類されるんだが、戦闘系は千人に一人、ものによっちゃあ万人に一人の割合だ。非戦系も少ないと言えば少ないが……百人に一人はいるな。十人に一人という珍しくないものも結構ある。生産職は持っている奴が多いな」
これは僕の魂に刻み込んだ職業だから現れたのだろう。僕の原点だから変わりようがない。
「後は……各ステータスは見たままだ。大体レベル1の平均は10くらいだな。まぁ、お前達ならその数倍から数十倍は高いだろうがな! 全く羨ましい限りだ! あ、ステータスプレートの内容は報告してくれ。訓練内容の参考にしなきゃならんからな」
これを聞いて偽装ようの数値を調節した。南雲は天職が錬成師かつオール10のステータスだったらしく遠い目をしていたことが印象的だった。
『・・・ん、確保した』
「了解、リアナもステータスプレートを手に入れたな」
リアナには僕が訓練に参加している間にステータスプレートを取りに行ってもらった。一般的に出回っているアーティファクトなので簡単に手に入れられたようだ。
訓練を続けながらリアナと念話を続ける。
「僕の目的がほぼなくなった訳だがどうしようか・・・」
『・・・少し調べてみた 七大迷宮が有名』
「七大迷宮ねぇ~」
七大迷宮か、少し調べただけで出てくる情報ってことはそれだけ有名な場所なのだろう。
『でも、場所が分からない 【グリューエン火山】【オルクス大迷宮】【ハルツェナ樹海】【ライセン大渓谷】【氷雪洞窟】あと二つが不明』
七大迷宮があることは有名なのに場所が判明していないものが二つか。
「一番近い場所はどこ?」
『・・・【オルクス大迷宮】 行く?』
「ああ、行こう まずはそこから挑戦してみよう」
今後の方針は決定した。愛ちゃんには悪いが僕は別行動をさせてもらおう。ここにいても流れで戦争に巻き込まれるだけで何もいいことがない。南雲は・・・がんばれ、強く生きてくれ。錬成師という生産職ということだし危険な場所には連れていかれないはずだ。
それから、この日一日はクラスメイトと行動を共にし夜遅く城を脱け出し【オルクス大迷宮】へ向けて移動した。
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【オルクス大迷宮】
表100階層、裏100階層からなる高難度の大迷宮だ。宿場町ホルアドで入手できた情報は少ない。七大迷宮の一つとして考えられていることと階層により出現する魔物の脅威度が計りやすいということだけだった。
攻略はあまり進んでおらず、表の100階層を踏破したものはいないようだった。
実際に戦闘を進めて感じたことは人為的な意図がある様に思った。階層を下るごとに徐々に難易度が上がっていく仕組みは鍛錬を目的に作られたように感じる。魔物は一つの階層から出ることがなく総数が減る様子もない。攻略を進めていくうちにその意図を感じることが多くなる。
僕たちはステータスマップを活用して最短ルートで下へと降りていく。
上層の冒険者の多い階層は隠密をフルで使い精霊の靴に吸収させる素材以外は無視して進んでいく。中層からは冒険者を見ることもなくなったので攻略速度を上げて進んでいった。
表100階層の魔物はどれも弱いこともあり一日と経たない内に攻略が完了する。
情報ではここで終わりと思っていたがマップには谷底の水中に別のルートが存在した。僕たちは迷うことなく飛び込み裏の階層へと進んだ。
裏の階層は表と比べて難易度が跳ね上がる。単純に魔物の脅威度が今までとは桁違いに高い。この世界のステータスだけでは一撃で倒せないことも多くなる攻略速度は落ちることになる。
それでも一撃で倒せないだけで戦闘時間としてはあまりかからなかった。魔物を蹴散らし素材を解体し精霊の靴へ吸収させる。聖武器としての性能が発揮されるのでこの階層から得られる靴の性能はとても強力だ。一階層ごとに出現する魔物が決まっていることもあり全ての魔物を吸収させようと討伐していく。
十層、二十層、三十層と最短距離を進んでいく。
途中、この裏の階層で人の気配を一瞬感じるなんてありえないことが起こったが何だったのだろうか?少し気になったが分からないものは仕方がないので攻略を進めた。
約二週間ほどかけて裏100階層の攻略完了となる。
最下層のヒュドラのような魔物はその・・・瞬殺してしまった。見た目からして同時に首を落とさないとめんどくさそうな魔物だったし時間をかける気もなかったので体感速度上げる異世界のステータスを一つ解放し瞬殺となった。
ヒュドラさんの奥の部屋は居住区となっていた。とても清潔だが誰かが住んでいる様子はない。しばらく探索すると骸骨と魔法陣のある部屋にたどり着く。
魔法陣を調べてみたが危険な物ではないと判断し魔法陣を作動させる。
迷宮での記憶が読まれ、『生成魔法』の知識を植え付けられる。少し不快に感じながらも生成魔法はとても強力なものであることも理解したので我慢した。
その後に再生されたホログラム、オスカー・オルクスから語られたのは過去の歴史。
神が遊戯感覚で無茶苦茶にする世界。解放者として立ち上がった事。敗北してしまったこと。それでも諦めず過去に託してこの迷宮を作り上げたこと。
オスカーの話を聞いたことでこの世界が想定していた以上にどうしようもない状況だと理解する。だが、僕たちが何かしなければならないわけでもない。この世界で生きる者の問題だ。僕たち自身に害が及ぶまでは無視することでリアナと意見が一致した。
同時にこの世界でやることが決まった。全ての神代魔法の獲得。これを目標に行動しようと思う。
居住区閣で一泊しショートカットの魔法陣で地上へと脱出した。
獲得:『生成魔法』『オルクス大迷宮攻略の証』
【ライセン大渓谷】
魔力が霧散する大渓谷に迷宮への入り口があった。
〝おいでませ! ミレディ・ライセンのドキワク大迷宮へ♪〟
ちょっと怪しかったが解放者の名前が一致するのでここが入り口であることは確かなようだ。
オルクス大迷宮から転移で移動した先はライセン大渓谷だった。僕たちは好都合と谷底の魔物を蹴散らしながら進んでいく。索敵能力を最大にして一週間ほど進んでいくと怪しい入り口を見つけることになった。
迷宮内は何とも迷宮らしい罠満載の構造だった。ちょいちょい出てくる子馬鹿にするような看板もイラっと来る。というかイラっときたので最短距離を全て粉砕して進んだ。
魔力が分解される環境だが、僕にはあまり意味がない。体内の魔力を分解させる効果はないようなので身体能力の強化が衰えることはない。リアナは召喚魔法が使えなくて少し困ったようだが僕と同じように身体能力の強化のみでも問題なく攻略を進めることが出来た。
罠を粉砕し通路を粉砕し壁を粉砕して最短ルートで最奥へと進んでいく。
逆さに走るゴーレム、浮遊する立方体、全てが重力を無視して動いている。しばらく襲ってくるゴーレムや罠を粉砕していると・・・。
「やほ~、はじめまして~、みんな大好きミレディ・ライセンだよぉ~」
なんて聞こえてきたのでボスと判断し一時的にステータスを解放してゴーレムのコアを抜き取った。イラっと来たのでついやってしまった。
僕の手の中には輝くゴーレムのコアが握られている。
「あー、やっちまったか?」
「・・・やっちゃった 喋るゴーレムから話を聞けたかもしれない」
「だよなぁ~ ミレディ・ライセンとか言ってたし本人だったかもなぁ~」
やってしまったものは仕方ないので機能停止したゴーレムを精霊の靴へ吸収し奥へと進む。
「ちょっと待って 瞬殺て何!? 今なにしたの!」
扉を潜り抜けた先には喋る小さなゴーレムがいた。
「よかった~ まだいたよ さっきのはチャラだな、チャラ」
「・・・ん、よかった 失敗はナシ」
「よし、とりあえず魔法を貰おう」
「ん、そうする」
「まって、だから待って 話を聞けー!!」
僕たちはサクッと無視して『重力魔法』を貰う。それから、若干泣きが入っているミレディ・ライセンと話を進めた。
このゴーレムはミレディ・ライセン本人と主張。根拠がないので適当に頷いておく。号泣寸前だが知ったことではない。僕たちに神殺しをする気がないことを話したり神代魔法を集める理由を話したりなど情報交換をする。
他の迷宮の場所を聞くことが出来たことが大きな収穫だった。
これ以上の用も特にないので迷宮からの脱出となった。後ろから「ミレディちゃんの扱いが酷いんだぞ~~!」なんて聞こえるが関わるとイラっと来るので無視だ。
獲得:『重力魔法』『ライセン大渓谷攻略の証』
【神山】
僕たちが次に向かった場所は神山。僕たちクラスメイトが召喚された聖教協会の総本山だ。
最初の時にこっそり転移先に登録していたのでハイリヒ王国へと戻ることにした。
クラスメイトや王国の関係者に見つかると厄介なので隠密スキルをフルで活用し神山へと侵入。迷宮への入り口はどこかと探していると白い法衣のようなものを着た禿頭の男(半透明)に遭遇することになる。
僕たちは隠密スキルを発揮したままだ。近くを通り過ぎる信者には気づかれた様子はない。しばらく凝視してくるその男を他所にリアナと相談したがこれが迷宮に関係する者だと判断する。
男について行くとあっさりと神代魔法を習得できる魔法陣へと辿り着いた。
記憶を読まれ、『魂魄魔法』も覚えることが出来た。
この迷宮の試練は二つ以上の迷宮を攻略する事、信仰心を持っていないor神の影響に打ち勝った事だったようだ。
オルクス迷宮とライセン迷宮を攻略していたことで一つ目の条件を達成。信仰心はもともと持っていないので二つ目の条件も達成となったようだ。
余りにも簡単に終わっていしまって拍子抜けだが気を取り直し次の迷宮へ向けて行動する。一日宿泊し翌日ハイリヒ王国を発った。
獲得:『魂魄魔法』『神山攻略の証』
【グリューエン大火山】
ハイリヒ王国からアンカジ公国へ向けてグリューエン大砂漠を移動する。常に変動する砂丘の中をステータスマップを頼りに二週間ほどかけてアンカジ公国へと到着した。公国で三日ほど休息しグリューエン大火山へと旅立つ。
迷宮への入り口である火口には一週間ほどかけて到達する。
天然のマグマトラップの迷宮。空中にまでマグマの通り道が駆け巡り火山の暑さはうっとおしい。下手に火山を壊すこともできないのでステータスマップを頼りに進んでいく。
魔物を蹴散らしながら入り組んだマグマの迷宮を二週間ほどかけて最奥へと到達した。
ボスにはそこまで苦労することはなかった。マグマ蛇を百体討伐するだけだ。
漆黒の建造物へと入り魔法陣の上に立つ。
記憶を読まれ、『空間魔法』を獲得する。
単純な構造の迷宮だったがこれまでで一番時間がかかることになった。砂漠や火山の移動時間が問題だ。車のような乗り物があれば短縮できそうだが生憎とこの世界の魔物に破壊されない様な乗り物を持っていない。
次に向かう場所はメルジーネ海底遺跡、最寄りの都市である海上の町エリセンにたどり着くまで相当の時間がかかりそうだ。
登録したアンカジ公国へと転移で帰還しエリセンへ向けて港を目指す。
獲得:『空間魔法』『グリューエン大火山攻略の証』
【メルジーネ海底遺跡】
アンカジ公国からグリューエン砂漠を越え港町に着くまで二週間。そこからエリセンへ向けての船を獲得するために港町を拠点に資金集めや素材集めをすることになる。
運航している商船に乗船することも考えたがメルジーネ海底遺跡に向かうには船を個人で所有していることが必要と判断した。
エリセンの街中で誘拐事件が会ったらしく海人族は他種族に最大限警戒しているといった情報を手に入れたことも船を作る判断に後押ししている。今の状況ではエリセンの町で船を貸してくれるような事は難しいだろう。
エリセン行の商船を一つ確保し出港するまでの約一ヶ月の間に箱庭内で小型船を作ることになった。
造船は二週間ほどで完了。残り二週間と少しの間は資金集めをしていた。冒険者としてはホルアドで登録しているのですぐに終わりそうな依頼をいくつかこなす。グリューエン大火山の素材は高く買い取ってもらうことが出来たので懐は温まることになる。
約束の一か月後、一週間の船旅の末、商船に同乗し海上の町エリセンへ到着する。
エリセンの町は情報通りピリピリとしていた。誘拐された子供は街の中でも有名だったようで状況が悪化しているようだ。
海鮮料理に名残惜しくも状況が状況なので長居することなくメルジーネ海底遺跡に向けて出港となる。
船の構造はヨットだ。単純な構造で風魔法で操船を行う設計になっている。メルジーネ海底遺跡までの片道でしか使う予定がないので造りは雑だ。神代魔法を全て取得してから落ち着いた時間にでも作り直そうと考えている。
メルジーネ海底遺跡は一週間ほどかけて月とグリューエンの証に導かれることで見つけることが出来た。
入り口は海底にあった。船を箱庭へしまい箱庭で綿密な結界魔法を構築した後突入した。
水流に流される中結界の維持を僕が担当し迎撃をリアナに任せる。あまり時間をかけずに水流のギミックを解き迷宮の奥へと進んだ。
スライムのような液体生物が面倒だったが一点突破し次のエリアへと進む。
進んだ先にあったのは沈没船や廃都市。再現されるのは過去の惨劇。狂信者の狂気の歴史。どの場面にも存在する人形のようなに表情のない人物。
人間の狂気を再現した迷宮を進んでいく。ゴースト系の魔物を撃退しながら進んでいくと最奥へと到達する。
海水で囲われた空間。天井は揺らぐ水面に合わせて光が交差している。その空間にあるのは神殿のような建造物だった。吹き抜けの建造物の中央には魔法陣が描かれている。
難易度自体は簡単だったと少子抜けな思いをしながら魔法陣の上に立ち『再生魔法』を獲得する。
オルクス大迷宮と同じようにホログラム、メイル・メルジーネの語りが始まる。
「……どうか、神に縋らないで。頼らないで。与えられる事に慣れないで。掴み取る為に足掻いて。己の意志で決めて、己の足で前へ進んで。どんな難題でも、答えは常に貴方の中にある。貴方の中にしかない。神が魅せる甘い答えに惑わされないで。自由な意志のもとにこそ、幸福はある。貴方に、幸福の雨が降り注ぐことを祈っています」
そう締めくくるとホログラムは霧散し攻略の証を手に入れた。
攻略の証であるコインをしばらく眺めていると神殿が振動を始める。索敵でパッと調べると僕たちを水流で押し流そうとしているようだ。ずぶ濡れになるのは面倒なので攻略の証を『チェンジ』にしまいエリセンへ転移する。
帰って来たエリセンは相変わらずピリピリとしていた。この調子だとまだ状況は改善されなさそうだ。
メルジーネ海底遺跡は肉体的には問題ないが精神的に疲れを実感する迷宮だった。この世界の過去の歴史、神の戯れによって引き起こされた悲劇の連続、それでいて混乱のさせ方が酷く人間的で気味の悪さに拍車をかけている。
何はともあれこれで五つ目の迷宮の攻略完了だ。次に向かう場所はハルツェナ樹海。ハイリヒ王国へ転移でショートカットし樹形へと向かいたいと思う。
エリセンで三日ほど休息を行い。転移でハイリヒ王国へと向かった。
獲得:『再生魔法』『メルジーネ海底遺跡攻略の証』
オルクス 二週間と少し
ライセン 一週間と少し
神山 二日
グリューエン 五週間と少し
メルジーネ 八週間と少し
召喚されてから約四か月と半月ほど経過した。
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エリセンで休息後、ハイリヒ王国近郊の森の中に転移する。それから軽く変装し中立商業都市フュ―レンへ向けて街道を進んでいく。
幾つかの町や村を中継し三週間ほどでフュ―レンに到着。
フュ―レンは裏組織の一つが一夜にして消滅したらしく慌ただしくなっていた。何処を見ても保安局や依頼を受けた冒険者が動き回っている。一応僕たちも冒険者の一員ではあるので一週間ほど資金集めも兼ねて依頼をこなした。
懐がさらに温まり、いくつか難易度の高い依頼もこなしたので冒険者ランクは紫まで上がっている。
滞在した宿を引き払い、ハルツェナ樹海に近い帝国へ向けて旅を続ける。
一週間ほどで帝国領に入り、さらに進むこと二週間、ヘルシャー帝国の首都へと到着した。
「さて、帝国まで来れたわけだが・・・」
「・・・ん、樹海が問題」
僕たちは明日向かう樹海について宿屋の一室で話しているところだ。
「樹海の霧は獣人族以外の感覚を狂わすんだよね?」
「そう、獣人の案内人がいないと樹海を動けない」
ハルツェナ樹海を後回しにしていた理由だ。樹海に住む獣人種の案内がなければ樹海を満足に進むことが出来ない。方法がないわけではないがどれも労力がかかり面倒だ。森を切り開きながら進むとか森を焼き払いながら進むとか実力行使で突き進むとか碌でもない手段が大半だ。
「獣人・・・こっちだと亜人だったか? 亜人の奴隷をここで買うのが早いかな?」
「・・・それなら早いけど、用が済んだ後の扱いが面倒 樹海の住人とも友好的にはできない」
「そうなんだよなぁ~ 樹海の住人と敵対する気はないからそこら辺をどうにかできないものか・・・」
奴隷なんて連れて樹海に入っては敵対まっしぐらだ。状況的には森を焼き払ったりとあまり変わらなくなる。ましてや目的地は樹海のどこかにある迷宮だ。樹海の集落から情報を仕入れる必要があるのだから敵対は問題外だろう。迷宮自体を焼き払ってしまっては意味がない。
「とりあえず、樹海の近くに行ってみるか? どんな原理で惑わされるのかもわからないしそれを確かめてからでもいいと思う」
「・・・ん、そうする 無理なら戻ればいい」
樹海がどのような場所か確認し亜人がいなければならないのであれば奴隷を購入しようということで話がまとまった。
その日は就寝・・・まぁ、就寝だ。就寝をし英気を養い?翌日、ハルツェナ樹海へ向けて出発した。
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数日後、樹海が目前の場所まで移動したのだが・・・。
「あれは・・・戦争中か?」
僕たちの目の前では万の魔物の群れが樹海へと入っていく光景が広がっている。
「ん、調べてくる」
リアナは一言話すと一瞬にしていなくなった。
僕は岩陰に隠れて観察する。多種多様な魔物が争うことなく進んでいく。後方には尖った耳に浅黒い肌の男性がいる。特徴からして魔人族だと推察する。するとこれは亜人族と魔人族の戦争と言うことか?
それからも状況に何か変化がないかと観察を続けているとリアナが戻ってくる。
「お疲れ、リアナ どうだった?」
「ん、戦争というより魔人族の襲撃 戦力さが圧倒的で亜人種が蹂躙されてる」
「蹂躙? 戦いになってないの?」
「ん、なってない 方向感覚を狂わせる森に頼り切りだったみたい 惑わされない魔物に為す術なし」
亜人種側はだいぶ劣勢なようだ。これはひょっとしてチャンスか?
「ここで亜人種側に加勢したら樹海の案内をしてもらえるかな?」
「・・・可能性はあるかも 戦力さが圧倒的 馬鹿でなければ待遇はよくなるはず」
リアナも確信があるわけではないが可能性は無きにしも非ずってところかな。
「よし、亜人側に加勢する」
「ん、わかった」
僕たちは関係の切っ掛けになればと亜人族側に加勢した。
魔物の群れの側面から食い破る様に暴れまわる。亜人族に敵でないと目立つように暴れまわった。
始まりは奇襲から。大胆に間合いへと踏み込みハルバードを一閃。密集していたこともあり紙屑か何かの様に魔物の肉片が飛び散る。そこから続く乱戦は手を変え品を変え戦闘を続けていく。
ハルバードを振り回し、間合いが近ければ短剣や剣に『チェンジ』、間合いが離れれば弓や銃を、常に魔法陣を展開し絶えず氷の槍が軍勢に襲いかかる。数分もしない内に樹海の緑が赤く染めあがる。
リアナも魔法を主体に暴れまわった。リアナは僕よりも出来ることが多様だ。分身し召喚し陣形を整え魔物の軍勢へぶつける。個人戦の間にも僕へのフォローを欠かさないのは流石としかいいようのない。
蹴散らし殲滅し魔人族も例外なく赤に染まった。
樹海入り口付近から奇襲を受けるとは思っていなかったらしく対応が遅れている。僕たちが奇襲すると同時に樹海側からも攻勢が始まったようで動揺が激しくなる。
魔物を殺しつくす勢いで樹海の中を進んでいく。血祭りに上げては次の魔物の群れを探し樹海を進む。
また一つハルバードで叩き潰した。
「ッシ、これで全部かな?」
「ん、索敵にも魔物の反応はない」
セイとリアナの周りは魔物の死骸がこれまでの道程を表すように血河を築いている。
「さてと・・・ 僕たちは魔人勢力の者ではない! 冒険者だ! 亜人種に加勢させてもらった!」
誰もいない樹海の中で声を上げる。
するとどこからともなく一人の兎人族の男性が現れる。
「確認したい ステータスカードを渡してもらおうか」
現れた種族が温厚なことで有名な兎人族であることに驚きつつも僕とリアナの二枚のステータスカードを渡す。
「・・・確かに冒険者のようだ 獅子奮迅の活躍感謝する しかし、この樹海に来た目的は?」
んー、怪しまれるのは仕方がないか。リアナとアイコンタクトで本当のことを話すか確認する。
「・・・目的はハルツェナ樹海にあるとされる七大迷宮だ 樹海の様子を見に来たところこの状況に出くわすことになった」
僕が迷宮が目的であると話すと兎人族の眼光が鋭くなる。
「・・・そうか、わかった 私に同行してもらいたい 話はそれからだ」
僕とリアナは包囲されていることに気づかない振りをしつつ案内について行く。
連れていかれた場所は樹海のどこかの集落。住人の全てに特徴的なウサミミがあることから兎人族の集落なのだろう。
そして案内された先にいた人物は・・・。
「私はここハウリア族の族長、深淵蠢動の闇狩鬼、カームバンティス・エルファライト・ローデリア・ハウリアだ 此度の助太刀実に感謝する」
なんだか香ばしいポーズを決めた兎人族から自己紹介を受けることになった。
「・・・・・セイ・ヴォフクだ」
「・・・・・アドリアナ・ヴォフク」
これは本名?それとも偽名?突然のことに混乱しつつも自己紹介をした。
それからは僕たちが樹海に来た目的を改めて話したが魔人族側の目的も樹海の迷宮だったらしく状況が状況の為、迷宮へと案内することはできないと言われてしまう。
魔人族と関りがない証拠は敵対していたという事しかないし僕たちが間者である可能性を捨てきれない。しかし、今回の撃退戦で多大な成果を上げていることも確かな為、監視の意味も込めてハウリアの集落の一室に滞在することになった。
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ハウリアに滞在して数日、集落の様子が慌ただしく動き出す。
僕たちは疑いが晴れるまで大人しく過ごしていた。
「外が騒がしいみたいだけど何かあったのかな?」
「・・・何かあったのかも? はい、あ~ん」
「あ~ん、ぅむ」
大人しくというかイチャイチャと過ごしているが正しいと思う。
朝から晩まで適度な運動以外にやることがないこともこのイチャイチャが加速しているのだと思う。この世界に来てから移動に次ぐ移動であまり時間を空けることがなかったことも理由の一つだろう。
僕たちは疑われないように何かがなければ動かない事にした。下手に動いて間者と間違われては平和的に樹海の迷宮に挑むことが出来なくなってしまうからだ。
それからさらに数日後、ハウリアの集落の人数が大きく減る。どこかに出発したらしくここを発ったようなのだ。
「んー、僕たちも何か手伝うべきかな?」
「・・・疑いが晴れない中で協力は難しい 待つべきだと思う」
「・・・うん、そうだね そうするよ」
さらに数日後、状況が動く。
コンコン、とノックの後に一人の兎人族の少年が入ってくる。
「お客人、すまないがついて来てほしい ボスに合わせることになった」
ボス?あの族長の事ではないのか?と疑問を持ちつつも逆らう気はないので少年について行くことになる。
少年の案内のもと樹海を進み、フェアベルゲンに辿り着く。
門が破壊されており瓦礫がそのままになっているなど戦後の傷が激しく酷い有様だった。
僕たちが他種族ということもあり警戒の目を向けられる中、一つの屋敷へと到着した。
「ボス、失礼します 客人をお連れしました」
「ご苦労 入ってくれ」
どこか聞き覚えのある声が聞こえ頭に疑問符が浮かぶ中、部屋へ入室する。
「「・・・・・」」
お互いに対面し無言の時間が続くことになった。
白髪、眼帯、義手と厨二病な人物。その周りには知らない美女、美少女に加え天之河、坂上、八重樫、谷口がいる。
「・・・え? 南雲? 南雲ハジメ?」
「・・・セイ 女装なんかして何でこんな所にいやがる」
「へ?」
今の僕の服装を改めて見直す。サイドテールに結んだ髪型にふりっふりなゴスロリ衣装。リアナのリクエストに合わせて肉体的にも少し弄っているので傍から見ると美少女のような姿だ。
「「・・・・・」」
無言でその場で一回転。『チェンジ』で衣装を制服に、気持ち膨らんでいた胸部を元の大きさに、サイドテールの髪型は短髪に戻した。その場でターンを決める間に一瞬にして姿が変わる様子は魔法少女の変身シーンさながらで・・・。
「イエイ(キラッ☆)」
ブイサインを決め、決めポーズとする。
「「「「「「「・・・・・・・・・・」」」」」」」
何とも言えない沈黙の時間が続くことになった。
それからは怒涛の質問攻めをくらい、僕からも質問を繰り返し情報の擦り合わせを行った。
ハジメはオルクス大迷宮で奈落に落ち、自力で這い上がり、元の世界に帰る為に神代魔法を集めていたのだそうだ。道中で何やかんやあり仲間となったのがユエ、シア、ティオ、香織だ。
天之河、坂上、八重樫、谷口は今回の迷宮にハジメ達に同行する形で一緒にいるのだとか。
なんで生産職なのに迷宮に行ったのだとか、なんでハーレムパーティーになっているんだだとか、勇者(笑)どうしようもねぇなぁだとか、香織はもはや別人じゃねえかだとか、言いたいことは山ほどあるわけだがこれだけは言わせてもらおう。
「厨二病 乙」
ドパンッ!
キンッ!
「いきなりなんやねん!?」
「ッチ」
少し揶揄ったら冗談じゃない威力のゴム弾を撃たれたのだが!?短剣で弾いたから何ともないけどさ。
『ハジメさんの弾丸を弾くなんて・・・』とか何とか聞こえるが努めて無視を決め込む。
「それよりも僕たちがここに呼ばれたのはなんでなの?」
「あぁ それは・・・」
衝撃から立ち直りやっと説明してくれるようになった。
樹海の亜人族は魔人族の襲撃の後、今度は帝国から襲撃を受けたようだ。
魔人族は樹海への侵攻と同時に帝国へも侵攻していた。帝国は魔人族との戦争で多くの奴隷を失うことになる。失った労働力である奴隷を補充するために帝国は樹海へと侵攻。先の戦いで大打撃を受けていた樹海側は隙をつかれる形で多くの亜人住人を攫われてしまった。
ハウリア族は攫われた同胞を取り戻すために帝国へと少数で向かったのだそうだ。
先行部隊が帝国に着いた頃、連絡が途絶える。後詰の部隊が帝国に向かう途中、護送車両を襲撃していた所、南雲たちと会ったのだそうだ。
「で、連絡の途絶えたハウリア族を救出に向かうところなのか? えーと、僕たち何で呼ばれたの?」
「ハウリア族の戦闘員を連れて行こうとしたんだが、監視対象の客人がいるって話になってな 全員連れてけば問題なしだろ」
「僕たちの意見は鼻から無視なのね ついて行くけどさぁ」
準備は整っていたようですぐに出発となった。飛空艇で・・・。
「・・・南雲、これ何?」
「ぁあ? どっからどう見ても飛空艇だろうが」
「うん、飛空艇だよね~ めっちゃ早いな~ 今までの旅路は何だったのだろうか・・・」
「・・・セイ、後で一緒に作る」
リアナがなでなでと慰めてくれるのをされるがままに流れゆく景色を眺めていた。
「帝都へはそう時間がかからずに着くはずだ」
南雲はユエを横抱きにイチャイチャとしながら話す。
「うん」
僕はリアナの膝の上で抱かれ、されるがままになっている。
「・・・セイ お前、何者だ? ステータスプレートの数値と実際の雰囲気が違いすぎるぞ」
「あー、そっか、化け物になっちゃった南雲なら気づくよね~」
僕は立ち上がり、徐にガラスの剣を『チェンジ』で出す。南雲たちが突然の行動に警戒する中、僕は首を切り落とした。
「・・・は?」
これは誰が言った言葉か、突然の流血沙汰に誰もが動きを止めている。
僕は首を元の位置に戻し、一瞬で傷口が無くなった。
「改めて自己紹介を ・・・僕の名前はセイ・ヴォフク、不死者だ」
「・・・私はアドリアナ・ヴォフク セイの奥さん」
それから僕が何者であるのか、何を目的に動いているのか説明することになった。
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僕の告白により距離が開いてしまったようにも感じたが特に問題が起こることなく同行する。
帝都へ入り、絡んでくる連中は南雲が問答無用で蹴散らし堂々と歩いて行く。
「おい、おまえ『ドガッ!!』ぐぺっ!?」
また一人、南雲によって華麗なトリプルアクセルの後大地と熱いキスをすることになる。
僕とリアナ以外は初めて訪れたようで帝都の空気について話していた。
僕は聞き手に回っている。
どうやら、南雲は金の冒険者らしく情報を聞くために冒険者ギルドへ向かているようだ。
南雲は気落ちしているシアのほっぺたをムニムニしながら話す。
「捕まっているなら取り返せばいいだけだ。安心しろよ、シア。いざとなれば、俺達が帝都を灰燼にしてでも取り戻してやる」
「ん……任せて、シア」
「ハジメさん、ユエさん……」
「いやいやいや、灰燼にしちゃダメでしょう? 目が笑っていないのだけど、冗談よね? そうなのよね?」
「雫ちゃん、帝都はもう……」
「諦めてる!? 既に諦めてるの、香織!?」
冗談のようで冗談でない。顔がマジなのだから帝都は一歩間違えれば地図から消えることになるのだろうか。
「南雲・・・ 前の面影がほとんど残っていない・・・」
何が南雲をここまで豹変させてしまったのだろうか?もう、大人になり過ぎで僕は驚いてるよ。
あと、なんか天之河が気持ち悪くなっている。あまり関わらないようにしよう。
冒険者ギルドで情報通のマスターとのやり取りの後、情報源を手に入れる。
南雲とユエが夜に城に潜入することになった。女性陣が二人っきりという部分だけに反応し姦しくなるなんてこともあったが問題なく進む。
南雲のパーティーはとても賑やかだ。世の男が血涙を流して羨むくらい賑やかだ。
「・・・セイもハーレム作りたい?」
「いや、僕はいいや リアナさえいればそれでいい」
南雲たちの雰囲気に釣られてかリアナと手をにぎにぎしたり抱き着かれたりなどスキンシップが多くなったように思う。
周りから何とも言えない視線を感じるが気にしない。対抗してか南雲たちも桃色一色になっているが気にしない。
それから、勇者と脳筋、通行人を歩きにくくさせるなどのハプニング?や艶々なユエとやつれた南雲が帰ってくるといたこともありながら情報が集まることになる。
天之河を囮(必要ない)に夜、救出となった。僕とリアナはやることもないので待機だ。
無事救出に成功し仮面ピンクが都市伝説となった。
捕まっていたハウリアの族長、カームバンティス・エル………カムさんの話によると彼らは帝国の皇帝に目を付けられてしまったようだ。
本来、温厚であるはずの兎人族に帝国はいい様に翻弄された。その隠密能力と奇襲能力、それらを支える強力なアーティファクトは実力主義の帝国において興味の対象だ。
必然、残された道は帝国から生存権を獲得するか帝国に搾取されるかの二択という状況になる。
カムたちハウリア一族は搾取されることを否定する。生き残る為に帝国に一族のみで戦争を仕掛けようというのだ。
南雲はシアの為に無謀な戦争を起こそうとするハウリア一族に援助することになった。愛人?嫁?のために南雲は一肌脱ぐということだ。
一夜にして準備を整え作戦が開始される。
僕は特に何かをすることもなく南雲たちについて行く。帝国の城へ入場し確かハイリヒ王国の姫様から小言を貰う。皇帝に謁見し勇者(笑)がスルーされる中、南雲はマイペースにことを進めていく。
その夜、パーティーが開かれ僕たちは参加することになった。
この間、僕とリアナは何一つ関与していない。南雲にも手を出すなと言われているので気ままに同行している。姫さん不憫だな~とか皇帝の覇気あるな~とか料理が中々美味しいなぁ~とか偶にはダンスも悪くないなぁ~とか、マイペースに邪魔にならないように同行した。
姫さんがレイプされそうになり南雲が偶々救ってダンス中に陥落させる様子をみて、今までもこんな感じで女子を口説き落としていたんだなぁ~と思った。ハーレム状態なのも納得といったところだ。だから、僕が少し揶揄うような雰囲気を出しただけで角砂糖を飛ばさないでほしい。
リアナのリクエストにより女装したりして楽しんでいるとメインパーティーが始まった。
明かりが消え、襲撃者が現れる。瞬く間にパーティー会場が制圧され皇帝との戦闘になった。流石実力主義の帝国の頂点と言うべきか実力も飛びぬけておりこの不利な状況の中粘る。だが、それも長く続かず他の参加客と同様に床に押さえつけられることになった。
ハウリア族と皇帝の交渉が始まった。城の警備網も全て沈黙しハウリア族に圧倒的に有利な状況では帝国側は条件を飲むことしかできない。
僕たちは一切動かず、状況が完結するまで見送ることになる。南雲の表情は変わらず、勇者一行は真っ赤な状況に顔を青ざめさせていた。僕とリアナは我関せずだ。
この日、帝国は亜人奴隷を解放し奴隷を禁止することになった。
その後、解放された奴隷を飛空艇でフェアベルゲンまで送ることになる。
解放された亜人達が家族との再会を喜び合う。そんな姿を眺める南雲の横顔は愁いを帯びるような、定めた決意に心を燃やすような、最愛がいることを喜ぶような、そんな複雑な感情が垣間見えた。
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【ハルツェナ樹海】
飛空艇でのいざこざ、フェアベルゲンに着いてからのあれこれが終了しいよいよ迷宮攻略となる。
迷宮の入り口である大樹までの道中は勇者一行が戦闘を行うことになる。迷宮初挑戦らしくウォーミングアップもかねて任せることになった。僕とリアナも戦闘に参加していない。
ハルツェナ樹海の迷宮は四つの試練からなっていた。
一つ、パーティーの分断から偽物が混入する。逸れたパーティーメンバーは魔物に姿を変えていたのでそれを見破り合流することになった。
二つ、理想郷を見せられる。転移中に記憶情報を読み取られその者にとっての最良の世界を見せられることになる。
三つ、快楽に溺れさせられる。戦闘力の無い白濁のスライムの飛沫を浴びると理性が押しつぶされるほどに感情が高ぶることになる。超強力な媚薬に打ち勝つか対応することが求められた。
四つ、感情の反転。愛情が憎悪に、嫌悪が親愛に、感情が反転する中でも仲間との信頼が失われないことを問われる。Gの群れを殲滅したことで試練の達成となった。
一つ目の試練はそれほど苦労することがなかった。迷宮への転移時、何やら体を作り替えるような干渉を受けたが僕には意味がない。僕の種族は人間に固定されている。これは祝福のような呪いであり変わることの出来ない事象だ。僕が不死者である理由の一つでもあるのでいくら神代魔法でも干渉は不可能だったようだ。
パティーメンバーと分断されたがそう時間がかからずに合流することになる。混入した偽物については南雲が倒してくれていた。合流したときは敵の狡猾さにキレていたようで森が瞬く間に燃焼していく光景はすごかった。
魔物に変えられた他のメンバーとも合流し次の試練へと転移する。
二つ目の試練もそれほど苦労しない。僕の膨大な記憶から再現された理想郷は矛盾だらけでありすぐに幻とわかってしまったからだ。様々な世界で関りを持った人物が現れては違和感しかない。必然、数秒と経たず偽物と判断し拒絶したことで脱け出すことになる。
リアナも早々に試練の達成となり、次いで棺桶の様に拘束していた琥珀を粉砕するように南雲が目を覚ました。それからあまり時間がかからずにユエ、シア、ティオ、白崎と順に目を覚ます。
南雲がキレて力技で脱出したので魔力が回復するまで休憩となる。南雲のアーティファクトに御厄介になりのびのびと寛ぐ。
そろそろ、起こそうという時に八重樫が目を覚ました。他は起きそうにないので琥珀を溶かし次の試練へと転移する。
三つ目は絵面的に凄いことになったが突破する。詳細は話さないがリアナが少し暴走した。快楽を克服しているのに陥っているフリをして迫って来たので対処に困ったぐらいで他はうん、話さないでおく。
八重樫の精神性とティオの変態性は天元突破していた。
四つ目は、・・・うん、みんながみんなキレてたなぁ~。一瞬、リアナや周囲に対して悪感情が湧いてきたが抑えることが出来たので問題はなかった。なかったのだが、その、リアナが一瞬でも僕に憎悪を向けたことが許せなかったらしく南雲、ユエのペアに混ざってGを殲滅していた。本能的な嫌悪の対象のGだがこの時ばかりはほんの少し同情してしまった。
南雲たちがイチャイチャを続ける中最後の転移移動をする。
僕はリアナに後ろから包まれながら辿り着いた場所は大樹の天辺付近。道を進むと水路で囲まれた円形の小さな島。可愛らしいアーチを潜ると水路自体が魔法陣だったらしく蛍のような光が輝く。
記憶が読み取られ、六つ目の神代魔法『昇華魔法』を覚える。
樹木を媒体にした記録、解放者リューティリス・ハルツィナの話が始まる。
説明された内容は概念魔法について。全ての神代魔法を集めることで辿り着くことの出来る場所。
南雲たちは元の世界へ帰る確かな手がかりを手に入れた。
僕に詳しい説明を聞かないのは薄々わかっているのかもしれない。僕の世界間の移動は完全ランダムだ。向かいたい場所を探し出し、向かう場所を指定してはいくら数々のステータスによって強化された僕でも限界がある。数ヶ月越しに魔力を蓄積しなければ成功はしない。一応、魔力蓄積は進めているのであと半年ほど貯めれば比較的安全に元の世界へ連れていくことはできるだろう。
概念魔法習得まであと一歩となり迷宮から帰還となる。
獲得:『昇華魔法』
【シュネー雪原】
フェアベルゲンへと戻り南雲に心境の変化が会ったらしく今まで以上にイチャイチャとした桃色空間が展開された数日後、最後の迷宮であるシュネー雪原の氷雪洞窟へ向けて移動する。
勇者一行も次の迷宮へ同行することになった。僕たちも便乗して最後の迷宮探索へと向かう。
魔人族の領土である南大陸という海を越えた先にもかかわらず飛空艇での移動は数日程度で目的地へと到着した。僕は南雲の余りにもぶっ飛んだアーティファクトの数々にただただ呆れるしかない。
それと同時に便利な道具の重要性を再確認させられる。今までは自身の能力頼りな面が拭えなかったので、今後は生成魔法という便利な能力を手に入れたのだから様々な物を作りたい。
そうは言っても僕に適性のあった神代魔法は再生魔法だ。おそらく得意魔法である『クリーン』が影響しているものと思われる。あまり適性のない生成魔法を習熟するにはそれなりの時間が必要になるだろう。
不幸中の幸いは適正皆無の神代魔法がなかったことか。大なり小なり扱うことは出来そうなのが救いである。
と、いうことで勇者一行に便乗して南雲にアーティファクトを作ってもらった。僕が作ってもらったのは靴と銃だ。
靴は僕の最大の武器であるので力を入れてもらった。風の斬撃を飛ばす風刃や金剛、空力、重量の増減など盛り込んでもらった。特に使い勝手がいいのが重量の増減。空を歩くことや遠距離攻撃は自前の能力で出来るので利便性が上がった程度だ。それに比べ靴というピンポイントに装備の重量を操作する能力は便利と言える。重力魔法は全くと言っていいほど扱いきれていないので嬉しい能力だ。
聖武器の靴に表記されたステータスは思わず顔を引きつらせたくなるほど高性能だったことをここに示す。
銃は今まで愛用していたハンドガンを改良してもらう形で強化してもらった。南雲のドンナーのような武骨な見た目になり威力が跳ね上がった。纏雷の能力も銃身に組み込んでもらったので魔力を消費すればさらに威力が跳ね上がることになる。
南雲も僕が見せた異世界の鉱石に触れたことで何か得るものがあったようだ。要求されるままにいくつもの武器を見せた。渡り歩いた中で便利だった鉱石はリアナの箱庭で取り扱っている物もあるので何種類か渡している。
そんな南雲により超強化された中、最後の迷宮攻略が始まった。
シュネー雪原から氷雪洞窟のある場所まで紐無しバンジー。シアがマヌケに落ちたり、フリーフォールに鈴が泣いたり何ともしまらない感じで攻略を進める。シンクロ率の高いビックフットのような魔物を倒し氷雪洞窟へと侵入する。
氷雪洞窟はミラーハウスのような氷の通路だった。通路内は常に吹雪いているため凍傷の危険が伴う。南雲のアーティファクトにより気温や吹雪が障害とならず迷宮を進む。
襲ってきたフロスト系のゾンビやワイバーンを蹴散らし勇者一行がフロストタートルを撃破したことで次の階層へと進む。
次に現れたのは氷の迷宮。ズル防止もされていたので迷宮内を進むことになる。道中は罠や襲撃を撃退しながら進む。それに加え、囁き声が聞こえるようになり自身の悪感情を刺激されることになる。自分の声音で自身が自覚していない感情を指摘されるのは不快なことではあったが難易度としてはそこまでではなかった。
一つ目のエリアは迷宮内を動き回るのがめんどくさいと南雲が扉の鍵となる宝玉をクロスビットで回収した。次のエリアから囁き声が始まり精神的に追い詰めようとする。囁かれる声にムッとしつつも休憩を挟むことで進んだ。
迷路の最後は意識誘導とレーザーの嵐が続く中フロストゴーレムのソロ討伐。人数分出現したフロストゴーレムを意識誘導され味方に攻撃がする者が現れる中でかつ、レーザーの嵐を搔い潜り霧の中ソロ討伐をするというもの。条件が多すぎて説明がめんどくさいが要するに全部避けてゴーレムをソロで倒すことでクリアとなった。
次に転移した先がこの迷宮の最後の試練、自分自身との戦闘だ。
自分自身の感情に折り合いをつけ受け入れるなり改善するなり見直すなりすることでコピーの敵が弱体化する。逆に否定して現実逃避を続けると敵は強化されるという試練だった。
僕も自身のコピーと相対したのだが、・・・弱かった。この迷宮が再現できた戦闘能力はこの世界のステータスで表記される数値までだったらしい。その為、いざ戦闘をとなった時圧倒的に身体の力に違いが出来てしまい一撃で終了してしまった。分身体の『ありえない』という表情が印象的だった。
何とも言えない戦闘後、新しくできた通路を進み同じような表情のリアナと合流。次に坂上、谷口と合流しさらに進むとティオの部屋へと辿り着く。
やっぱり、ティオは変態であるが故か精神力の化け物だった。自身の感情を全てコントロールするとか意味が分からない。何処の世界でも変態は最強なのかもしれない。
次の部屋ではユエと白崎がキャットファイトをしていた。七大迷宮という高難度の迷宮内なのに緊張感ないな~と思いながら次の部屋へと向かう。
最後の部屋では、なんか天之川が壊れてた。南雲に軽くあしらわれている。どうやら天之川は現実を見ることなく試練の甘言に飲まれたらしい。あ~あと思いながら見ていると気絶させられ決着となった。勇者(笑)はほんとどうしようもない。
八重樫が陥落している様子に早かったなぁ~と思った。女性陣の関係に南雲が口出しできない様子に笑っているとドパンッ!キンッ!を繰り返しながら先へと進む。
転移するとそこにあったのは綺麗な氷の神殿。湖の湖面に浮かぶ氷の神殿。自身を越える試練の先にある何ともロマンチストな光景。
見た目は神殿だったが内装は居住空間となっていた。そして、南雲の先導の元、一階の奥の部屋へと入る。そこにあるのは魔法陣だ。
早速、その魔法陣に入るメンバー。いつもの如く、脳内を精査されて、攻略が認められた者の頭に、直接、神代の魔法が刻まれた。
最後の神代魔法『変成魔法』を習得する。
「ぐぅ!? がぁああっ!!」
「……っ、うぅううううっ!!」
悲鳴が上がった。南雲とユエからだ。原因はまぁ僕にも起こっている現象だろう。蓄積される概念魔法の知識、脳への余りの負荷に耐えられず、苦悶の声を上げることになったのだろう。
僕も中々の負荷に思わずステータスを全開放してしまった。威圧感こそ上がらないが雰囲気の変化に気づいたらしくシアとティオが驚愕の表情を浮かべている。
時間にして数秒。インストールが終了しステータスを元に戻す。
「どうしたの、二人共!!」
雫の声にシアとティオはハッとした表情になる。
「落ち着け」
慌てて動き出そうとする面々に諭すように落ち着いた声音で話す。
「二人は概念魔法の情報量に耐え切れず気絶しただけだ 安静にしていれば時期に目を覚ます 焦らず、二人を寝室へと運ぼう」
一応の納得を得たのかシアとティオが二人を運び出し騒然とした状況は収まった。白崎は診察をするためか二人について行く。
僕もリアナも少ないとはいえ消耗したのでリビングのソファーへと座り瞳を閉じた。
ソファーに沈み込みながら心配そうなメンバーに受け答え押しているうちに南雲とユエが目を覚ましたようだ。
いち早く気づいたシアが向かい続いて白崎、八重樫が向かう。
「アホですかぁーー!!」
「ダメに決まってるでしょおおおおお!!」
「……」
少しすると途端に姦しくなったので問題はなかったようだ。
シアと白崎に引きずられてくる南雲とユエ。乱れた衣服であることからだいたいの予想が出来る。その直後、高速で飛来する物体。
「あべっ!?」
僕は避けれたが坂上は被弾したようだ。あまりの痛さに床をのたうち回っている。
「ッチ 一つ外したか……」
うん、理不尽。
それから、反省しているようでしていない会話が続き、二人が何もなかったことに一同安心することになる。そこにティオも合流し話が進められた。
「なにがあったかと言うとオーバーヒートな訳だが…… セイ、お前あれを耐え抜いたのか?」
「いや、普通に激痛が走ってたよ 耐えられる身体能力までスッペクを上げたから気絶まではいかなかったってところかな」
「お前の方が化け物じゃねぇか」
何とも呆れたような空気になっているが南雲から何があったのかの説明が始まる。
神代魔法と概念魔法の関係性と違い。概念魔法とはどういったものかが説明される。僕も同じ知識を受け継いでいるので整理しよう。
≪神代魔法≫
『生成魔法』:無機的な物質に干渉する魔法
『重力魔法』:星のエネルギーに干渉する魔法
『空間魔法』:境界に干渉する魔法
『再生魔法』:時に干渉する魔法
『魂魄魔法』:生物の持つ非物質に干渉する魔法
『昇華魔法』:存在するものの情報に干渉する魔法
『変成魔法』:有機的な物質に対する干渉魔法
≪概念魔法≫
魂魄魔法と昇華魔法で〝望み〟を概念レベルまで昇華させ、それに魔力を付与して無理矢理事象化させる。さらに安定させるために物質に留める方法が必要になる。
全ての理に干渉する技量と知識がなければ成立しない魔法。
極限の思いが必要。
神代魔法は概念魔法を習得する上での前提知識。理に干渉する神代魔法を全て理解していなければ概念魔法の習得は出来ない。
予想よりも規格外な能力を手に入れてしまった。僕が個人で概念魔法を作れるようになるにはそれぞれの神代魔法の習熟が必要になる。制限された知識の神代魔法すら満足に扱うことが出来なかったのに全てを習熟するとかいったいいつになることやら。
唯一扱いきれているのは適性のあった再生魔法のみだ。自己再生や思考加速は負担も少なく行使できる。過去や未来に飛ぶことはまだできないがいずれ出来そうな気配ではある。今は時間の短縮や延長に干渉できるようになりたいと思う。
リアナの適性にあった神代魔法は空間魔法だ。他の神代魔法もある程度扱いきれているのですごいとしか言いようがない。概念魔法が使えるようになるのはリアナの方が早いだろう。
南雲とユエは早速概念魔法を試すようだ。南雲の錬成技術にユエの魔法技術を息を合わせて行えば不可能ではないと確信したらしい。南雲のその瞳には強烈な意思が宿っている。
「セイたちはどうする? 概念魔法を試すのか?」
「いや、僕には南雲のような才能がない 地道に得たものを極めていつか使えるようになるってところだろう」
今までのステータスを総動員したら可能性はあるかもしれないが無理に試すような事でもないからな。
その後、南雲とユエ以外はしばらく休息、南雲は天之川が邪魔をしないように注意を促し魔法陣のあった部屋へと移動した。
二人が移動した後の氷のリビングでは今後のことが話し合われる。取り留めのない話を続けていると天之川が起きてきた。
勇者(笑)は酷く落ち込んでいる。僕から特に口出しすることはない度で成り行きを見守る。
試練に翻弄され唆され自身の悪感情を理解したはずだが未だに認めきれないようだ。言ってはいけないことを言ってしまい白崎に叩かれてしまう。
その直後ぐらいだろうか、南雲とユエの魔力のうねりが伝わる。暴風のような衝撃、魂を揺さぶられるような錯覚を起こす魔力の大瀑布。
今まで錬成作業でこのような状況になったことはないらしくシアが慌てて飛び出した。リビングにいたメンバーもそれに続く。
「シ、シア、これどうなって……」
「わかりません。でも、取り敢えず、二人に何かあったわけじゃないみたいです」
どうやら問題はなかったらしい。
概念魔法を使うにはこれほどの魔力が必要になるのか。よく観察すると初めて行使する魔法と言うこともありまだ無駄が多いようだ。漏れ出た余剰魔力が先ほどの魔力だったのだろう。
問題がないことを確認しその場を離れようとしたがオーロラの様に空中に映像が流れ始める。
それは誰かの視点映像。感情が電波し映像をよりリアルに感じさせる。
南雲の記憶映像。奈落で何があったのかそれが映し出される。
蹴り兎に嬲られる。何もできず抵抗できずされるがままに嬲られ傷つき左腕を粉砕された。
死を覚悟し目を閉じ、何もないことに目を開けると次に映るのは白い体毛の熊。
目の前で蹴り兎が両断され捕食される。次の標的は南雲だ。
まともに動けず追い詰められ、左腕を失い、目の前で落ちた自身の腕を咀嚼される。
決壊した恐怖と苦痛に突き動かされ、錬成を何度も使い、死に物狂いで穴倉へと逃げ込む。
消えゆく命を表すように視界が暗転するが目を覚ます。口に残るのは液体の乾いた感触。
液体を辿り掘り進めた先にあったのは神結晶と神水。
一命を取り留めたが砕けた心では何もできず助けを求めるのみ。
だが、助けは来ない、幻肢痛は続く、恐怖は薄れない、死、憎しみ、憎悪、理不尽、恨み。
幾日も時間が過ぎ、感情が飽和し、飢餓感だけが残る。
黒く黒く塗りつぶされた感情は生への渇望を元に外敵への殺意に帰結する。
殺意を動力源に魔物を狩り捕食。
肉体の破壊と再生を繰り返し想像もできない苦痛の果てに今の化け物の姿へと生まれ変わった。
血と神水の混ざった水面に映る姿は今の南雲ハジメの姿。
錬成による気の遠くなるような試行錯誤の末、兵器を作り上げる。
因縁の敵を打ち倒し、思うことはただ一つ。
――帰りたい
――故郷に帰りたいんだ
その思いに答えるように魔力が脈動した。二人を中心に魔力が渦巻き収束する。
映像の中の南雲は、一度、天を仰いだ後、静かに瞑目した。自分の中で、想いと覚悟を確かなものとするように。そして、瞳をスッと開くと、迷宮の深部へ向けて通路の奥の深淵へと躊躇うことなく向かって行った。
魔力の収束に合わせて映像も吸い込まれる。
この場でその映像を、南雲の思いを知った者たちは呆然とするしかなかった。
シア、ティオ、白崎、八重樫は微笑みを。谷口、坂上は納得を。
南雲の過去とこれまでの行動にそれぞれの納得と理解をし受け止めているように僕には見えた。
(天之川は・・・あの様子だとまだ受け入れきれないようだな)
(・・・あの不安定な状態は危険 何か対策する?)
(いや、僕たちが口出ししてどうにかなるものでもないだろう 味方はいるのだし静観だな)
リアナと念話で意見を交換した。天之川の表情を見る限り子供の癇癪と言えばそれで終わりだがそれは子供だから成り立つ理屈だ。力のある、チートな能力を持つ勇者の癇癪はシャレにならない。部外者である僕たちは口出しすることは出来でない。でも、少しは目を光らせておくべきか?
どうするか考えていると変化が現れる。南雲とユエの魔力が並べられた鉱石類を包みこみ徐々にその形を変え、融合し鍵の形を作り上げる。
水晶で出来たアンティーク基調の鍵。持ち手の部分は正十二面体の結晶、先端の平面部分は精巧で複雑に魔法陣が描かれている。
完全に形が作られる直前、二人は眼を開いた。その視線はどこにも定まらず、どこか神秘的な雰囲気を醸し出している。そして、言葉が紡がれた。
「「――〝望んだ場所への扉を開く〟」」
輝きの奔流が弾け、部屋にいた者の視界も思考も白で埋め尽くした。
一拍の空白の後、元の部屋へと戻る。全ての光を吸収したかのように紅と金の煌きを、余すことなく内包した半透明の鍵。その横ではどうやら魔力切れを起こしたらしく手を繋いだまま倒れている南雲とユエの姿があった。
慌てて駆け寄った白崎により魔力が回復され起き上がる二人。
どうやら完成したアーティファクトは会心の出来だったらしい。ハルツェナ樹海の迷宮で手に入れた導越の羅針盤と同じ概念魔法を内包したアーティファクト。
試しに使ってみた所、問題なく使えたが繋げた先に問題があり何とも言えない空気になってしまったが些細なことだ。シアには元気を出してほしい。
最後は締まらない感じになってしまったが南雲たちは元の世界へと還る手段を獲得した。
その後は南雲たちは魔力が枯渇してしまったため回復するまで休憩。勇者一行と白崎は魔物を捕まえにハルツェナ樹海へと向かった。僕とリアナは特に急ぎでやることもないので南雲たちと一緒に待つことにする。
魔力の補充作業を手伝い、南雲と駄龍のコントに『南雲にはご主人様の素質もあるんだなぁ~』と思いながら時間が過ぎて行く。
勇者一行が戻り、ある程度魔物を強化し、魔力も全回復したところで氷雪洞窟から出発となる。
氷の竜に運ばれシュネー雪原の氷雪洞窟を後にする。
獲得:『変成魔法』『神代魔法の理』『概念魔法』
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
氷の竜はシュネー雪原の境界手前で着陸する。南雲が竜を労い、雪原の外へと移動した。
そこで待っていたのは・・・。
「やはりここに出て来たか。私のときと同じだな。……それで、全員攻略したのか? 白髪の少年よ」
「ふふ、光輝くん、久しぶり~。元気だった?」
灰色の竜と数多の魔物、数百体の白崎と同じ顔をした銀翼を生やした女性たち。中村恵里は分かるが・・・もう一人は誰だ?
敵対されているのは分かるが状況が読めない。誰かさんと南雲が話始める。
「逸るな。今は、貴様等と殺し合いに耽るつもりはない。地に這い蹲らせ、許しを乞わせたいのは山々だがな」
「へぇ、じゃあ、何をしに来たんだ? 駄々を捏ねるしか能のない神に絶望でもして、自殺しに来たのかと思ったんだが?」
「……挑発には乗らん。これも全ては我が主が私にお与え下さった命。私はただ、それを遂行するのみだ」
「そうかい。で? 忠犬フリードは、どんなご褒美を貰ったんだ?」
「……寛容なる我が主は、貴様等の厚顔無恥な言動にも目を瞑り、居城へと招いて下さっている。我等は、その迎えだ。あの御方に拝謁できるなど有り得ない幸運。感動に打ち震えるがいい」
「はぁ?」
彼はフリードと言うらしい。
その後も話は続くが・・・何だろう?この痛い人たちといった印象。中村とは会話が成立しないしフリードが崇める神は魔王城にいるらしい。
南雲たちは戦闘を始めるようなので僕も切り替えようとしたところフリードが魔法を発動する。攻撃性のある魔法ではなかったので様子を見ていると空間が揺らぎ何かを映し出した。
魔王城の謁見の間なのだろう。映像が動き見え始めたのは捉えられたクラスメイト達の姿だった。不憫な王女様も囚われている。
南雲が咄嗟に導越の羅針盤で調べたところどうやら本当の映像らしい。
人質を取られるという状況に天之川と中村が言い合っていると。
ドパンッ! ドパンッ!
銃声が鳴り響く。
「ダ、ダメ! 待って! お願い、待って、南雲君っ」
谷口が慌てて止める。
「……この狂人が。仲間の命が惜しくないのか」
「はっ、前に同じ状況でご自慢の仲間が吹き飛んだのを忘れたのか? 大人しくついて行ったところで、全員まとめて殺されるのがオチだろうが。なにせ、自称神とやらは、俺の苦しみながら死ぬ姿をご所望らしいからな」
「それなら、仲間を見捨てても己だけは生き残ると?」
「何度も言わせるな。あいつらは仲間でもなんでもない。それに…… お前等を皆殺しにしてから招かれても、問題はないだろう?」
「威勢のいいことだ。これだけの使徒様を前にして正気とは思えんが……ここは、もう一枚、カードを切らせてもらおうか」
「あぁ?」
そうして、動かされた映像・・・。
南雲の殺意が充満する。
えっと、南雲がキレた。あまりの殺意に魔物の集団は気絶している。味方にまで影響が出ているのだが。使徒のサンプルをこっそり集めていたら突然のガチギレ。危うく僕とリアナの作業がバレそうになったよ。
僕とリアナはシュネー雪原の境界を出たあたりから隠密行動をしている。敵と味方の両方に気づかれている様子はない。回収した数はフリードの魔物が数十体、使徒と呼ばれた女性・・・ほぼ人形が三十数体だ。フリードの魔物が大量に気絶したので幻影と入れ替えて半分ほどリアナの箱庭に回収を進める。箱庭の方ではリアナの分身が止めを刺す作業を行っている。
(やばいやばい、南雲がキレてる 回収作業やめた方がよさそうか?)
(・・・魔物はもう必要ない 使徒がとても便利だから大量に欲しい)
(銀翼の女性か・・・ 何かに使えるの?)
(使徒はほぼ人形 弄ればとても扱いやすい 人手が足りない時に便利)
(なるほど、使徒だけもう少し集めるか)
その後も回収作業を進める中、南雲たちの会話は進む。
どうやら、招待を受けることになったらしい。フリードが武装解除を要求していたがこれを南雲は拒否。ちょっと驚いたが、まぁ敵地に招待されているのに武器は手放せないわな。丸腰で謁見ってのは対等な関係でないと成り立たないものだ。人質を取ったとはいえ、その人質が殺されれば枷は無くなる。武装解除に従う理由もないと言われればないのか。
化け物に対する人質は逆鱗に触れる以外の何者でもないのだろう。だって、人質が死なない保証がないのだから。
フリードの先導に従い南雲たちがゲートを潜る。僕たちも後を追いゲートを潜った。
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ゲートで繋がれた先は巨大なテラス。フリードの先導のもと移動する。僕とリアナは未だに気づかれていない。ん、雫がキョロキョロしているから気づいたのかもしれない。
移動中、中村は天之川にべったりと張り付いていた。時折、魔力を感じたが攻撃性がなかったので様子見で放っておく。
謁見の間は映像通りにクラスメイトと王女、海人族の親子が囚われていた。南雲とのやり取りを見る限りミュウとレミアとはとても親しいようだ。
魔王兼神を名乗るアルヴが現れたがどうやらユエの叔父らしい。
叔父と名乗る者は次の瞬間、金色の魔力光が爆ぜ、一瞬、光で全てを塗り潰した。その光が、逆再生でもしているかのように叔父の手に吸い込まれて消えた後には、まるで電源が切れた機械のように崩れ落ちている使徒達の姿があった。更には、ついでとばかりに、フリードや中村も倒れ伏している。
(やば、入れ替えられた 南雲は気づいているか?)
(・・・気づいてない 結界で閉じ込められてる セイ、どうする?)
叔父の一人語りが始まっている。結界を見る限り盗聴防止ではなく、儀式の前準備の様に感じる。座標の固定、魔力の充填、別空間との接続、僕が調べて分かるのはその程度だ。
(・・・外との接続も切れてる 何かをしようとしているのは確か)
(まずいな 何とかして南雲に状況を知らせるべきなんだが・・・)
パチンッといった音の後、人質を囲っていた檻の効力を切ったようだ。同時に人質を解放するように扉が開く。
(味方だと示したいみたいだけど・・・話の内容が矛盾だらけだよな?)
(ん、味方なら幽閉し続ける意味が分からない)
(だよな ユエの動揺を誘うのが狙いか?)
いよいよ、叔父と名乗る人物が近づこうとするとき・・・。
ドパンッ!!
最近、聞きなれた銃声。
「ドカスが。挽き肉にしてやろうか」
(あー、リアナは隠密のままクラスメイトの保護を優先して 僕は隠密を解くよ)
(ん、了解)
追撃と言わんばかりに叔父の四肢を撃ち向く。更にミサイルポッド、オルカンの発砲音が続き、機能停止をしている使徒を木っ端微塵にした。
「ハハハハハハ、ハジメさん!? なにをしているんですかっ! ユエさんの叔父さんですよ!?」
「そ、そうだよ! 脈絡がなさすぎるよ! ああ、頭を撃たれちゃってるぅ。は、早く再生魔法で……」
「か、香織ぃ、急いでぇ! 超急いでぇ! どう見ても即死級だけど、貴女ならなんとか出来るかもしれないわ!」
「な、南雲。お前は、いつかやらかすと思ってたぜ……」
「……ハジ、メ?」
それぞれがそれぞれに動揺を表している。僕は状況が深刻そうなので南雲と話したかったのだが話す暇がない。
状況は動いてないので一先ず南雲の説明が終わるまで待つ。南雲が矛盾点を指摘し最後に本音を話したわけだが・・・。
「なにが〝私の可愛いアレーティア〟だぁ、ボケェ! こいつは〝俺の可愛いユエ〟だ! 大体、アレーティア、アレーティア連呼してんじゃねぇよ、クソが。〝共に行こう〟だの抱き締めようだの、誰の許可得てんだ? ア゛ァ゛? 勝手に連れて行かせるわけねぇだろうが。四肢切り取って肥溜めに沈めんぞ、ゴラァ!!」
「「「ただの嫉妬じゃない(ですかっ)!」」」
うん、九割方、嫉妬である。だから、大罪に数えられるんだよ、はぁ。
「……ハジメが嫉妬。私に嫉妬……ん。嬉しい」
そして、流れるように桃色空間の形成。
「あー、南雲? ちっとばかし状況がマズイ」
僕が話したことに皆が驚く。八重樫を中心に僕がいなくなっていたことに気づいていたメンツは酷く驚いている。クラスメイト達は幽霊にでも遭遇したかの反応だ。
「どういうことだ?」
僕が南雲に説明しようとするとパチパチと拍手が響く。
「いや、全く、多少の不自然さがあっても、溺愛する恋人の父親も同然の相手となれば、少しは鈍ると思っていたのだがね。まさか、そんな理由でいきなり攻撃するとは……人間の矮小さというものを読み違えていたようだ」
そう話したのは南雲に撃たれた叔父、ディンリードだ。いや、その体を乗っ取ったアルヴと言うべきか。
(ッチ 待たずに話せばよかった)
体感速度を上げるステータスを解放する。聞こえてくる声が間延びする中、リアナの所在を把握。既にクラスメイトを守れる位置に移動している。あとは海人族の親子、ミュウとレミアなのだがこちらは遠隔で白騎士、黒騎士を召喚して置く。
僕が突然動き出したことに味方にまで動揺が走る中、敵の攻撃が始まった。
「うぉおおおおおっ!!」
――アルヴと対峙する南雲達の後方で、中村の傍らにいた天之川が、雄叫びを上げながら南雲に斬りかかった。
「っ」
――天から白銀の光が降り注いだ。天井を透過した綺麗な四角柱の光は、頭上から真っ直ぐユエへと落ちて来る。
「――〝堕識ぃ〟」
――そのユエに向かって、倒れたままの中村の体とは、全く別の方向から、中村の闇系魔法が放たれた。なにもない空間からにじみ出て来るところだった。明滅する闇黒色の球体がユエの眼前へと出現する。
「――〝震天〟!」
――中村と同じく、やはり粉砕された肉体とは別の場所から、フリードが空間を割って出現し、既に詠唱を完了した空間爆砕魔法を、ミュウとレミアに向けて放った。
「お返しだ。イレギュラー」
――アルヴのフィンガースナップと同時に、南雲達に向けて特大の魔弾が飛んだ。
「駆逐します」
――なにもない空間が波打ち、にじみ出るように現れた数十体の使徒達が、南雲達へと一斉に襲いかかった。
これらの奇襲攻撃が全て同時に起こった。タイミングを計っていたことは明白だ。入れ替わっていたフリードと中村の擬態はさらさらと砂のように消える。
召喚した白騎士が防御態勢に入る。リアナがクラスメイトのすぐ側に現れ結界を展開。南雲は状況を理解したらしくユエの救出に対応するようだ。
南雲は義手の肘からショットガンを放ち天之川を吹き飛ばす。同時にドンナーで発砲。闇魔法の核を正確に打ち抜き霧散させた。
灰色の魔弾が南雲とユエをすり抜け後方の僕たちに殺到する。
「っ〝引天〟!」
一早く動揺から抜けた八重樫が魔弾の全てを引き寄せた。
僕は黒刀と魔弾が激突する間にビーちゃんを投げ入れる。ビーちゃんは吸収を発動し魔弾の全てを吸収した。
魔弾の対処に一手で済んだ僕は空いた手数で再び襲いかかってきていた天之川の攻撃を剣で受け止め、同時に中村の闇魔法を視界に入れ吸収する。
八重樫に遅れて他のメンバーが動き出しリアナが結界で防いでいる使徒に襲いかかった。
白騎士は問題なく防ぎ切った。使徒の攻撃は結界に弾かれ、シアたちが迎撃に向かっている。魔弾はビーちゃんが美味しく吸収、口元に召喚を発動しビーちゃんを銜える。
「ッッ ユエっ!!」
(ッチ、あの光は演出かよ! ユエは既に囚われていたってことか)
どうやら、南雲はユエを移動させようとしたが出来なかったようだ。光の柱が着弾する前から既に結界に囚われており脱け出すことが出来なかった。
南雲がユエを救出しようと大型の武器を取り出しているが効果がない。南雲が三度目の攻撃を加えると今度はあっさりと光の檻が砕け散った。
その間も戦闘は続いている。僕は天之川を気絶させ無力化させる。同時に中村の魔力を全て吸収したことで戦闘不能にさせた。どちらも支離滅裂な内容を喚いていたが無視だ。
フリードには黒騎士が切り込んでいる。フリードは予想外の戦力に後手に回っており対応が間に合っていない。フリード配下の灰竜は主人と敵が近すぎることもあり参戦できず躊躇しているようだ。
その他、使徒にはシアやティオ、白崎が対応中。リアナは人質に被害が無い様に結界の維持に徹している。ミュウとレミアには白騎士が防衛している。
「ユエっ! ユエっ!」
南雲は苦痛に歪むユエに焦燥に駆られながらも声をかけている。
アルヴが南雲とユエに向けて手を掲げた。僕は何かされる前に切り込む。
「ッ! お前は誰だ!!」
誰何の声が聞こえるが無視。
「南雲!! 神水は効果がない! 魂魄魔法は使えないのか!?」
「アァ!?」
(憑依は完全じゃないがほぼ完了してしまっている 苦し紛れだがユエの魂を補強できるか?)
ユエを視界に収め今にも乗っ取ろうとしている寄生虫の魂魄から魔力を吸い取る。刹那の時間だったが僅かに弱体化した。その隙にユエの本体に魔力を譲渡する。
(抵抗力が上がったようだが焼け石に水か・・・)
「誰だと聞いている!!」
アルヴの圧力が上昇する。僕は対応するために意識をアルヴへ向けざる負えなかった。
「ガハッ……てめぇ……」
南雲の苦悶の声。振り向くと南雲の身体をユエの細腕が貫いていた。
「エヒトの名において命ずる――〝動くな〝」
「ッ!?」
抵抗しようとした南雲動きが強制的に止まる。南雲の元へ駆け付けたいがそうもいかない。
「行かせるわけがないだろう!」
アルヴが邪魔をしてくる。魔弾を吸収し攻撃を紙一重で避け懐へ踏み込む。
「ッシ」
右手に持つはエーテルが漏れ出すカランビットナイフ。アルヴの胸部を横一文字に切り裂いた。
「ッッ!?!」
アルヴは声にならない悲鳴を上げ動きを止める。斬りつけられた傷口は治る様子を見せず、寧ろ、エーテルが纏わりつき崩壊を始めている。
生きたナイフ。セイが愛用していたことで長年強化を続けたこのナイフは肉体を傷つけ、精神体を食い千切る。エーテルに耐性がなければ浸食され変質をもたらすだろう。
アルヴを捨て置きユエの対応に向かう。
「エヒトの名において命ずる――〝平伏せ〟」
「あうっ」
「きゃあっ」
「ぬぉ!?」
シア達は身動きが取れなくなった。
「エヒトの名において命ずる――〝機能を停止せよ〟」
「ぁ――」
白崎が糸の切れた人形の様に崩れ落ちる。
「――〝捕える悪夢の顕現〟」
「っ、あ」
「ひっ」
「う、あ」
八重樫達は顔面蒼白となり転倒する。
(リアナ、保護を任せた)
(ん、わかった)
「エヒトの名において命ずる――〝止まれ〟」
レジスト
「!? エヒトルジュエの名において命ずる――〝平伏せ〟」
レジストする。
ナイフは使えない。指定して精神体を削り取るようなことは出来ない。僕が鍛えてきたのは身体能力を中心とした体術だ。魂に干渉するような魔法はこの世界で初めて入手したばかりで扱いきれていな。
(ユエが主導権を握るまで戦闘を継続させる)
攻撃魔法は視界に収めると同時に魔力を吸収する。キャパオーバーな魔力量はビーちゃんに譲渡し対応してもらう。
言霊のような魔法は効かない。南雲が起き上がり、迫ろうとしたように身体能力で対応できる。
エーテルのナイフは見せ武器。僕の本当の武器は……足だ。
シュッ!
右手のナイフに警戒していたエヒトは死角から放たれた攻撃に対応できなかった。左回し蹴りがエヒトの横面に直撃する。されど、吹き飛ばされることなくエヒトは片膝をつくことになる。
脚技 発生技能 『浸透』。衝撃を余すことなく敵の内部に響かせる。
「ユエぇを返しやがれ!!」
南雲がゾンビの様に起き上がった。起き上がった!?ちょと、まて、重症、体ボロボロ、穴だらけ、動けるのおかしい。
「南雲!? 重症だろ無理に動くなよ」
「アァ!? 知るか、んなもん後だ! ユエを取り返す!」
無茶苦茶だ!動けるはずがないのに気力で動いてやがる!
南雲の余りの剣幕に気が逸れた一瞬の隙にエヒトの姿が消えていた。
「……アルヴヘイト。我は一度、【神域】へ戻る。イレギュラーが二人いることもそうだが、この魂は我を相手に抵抗している。完全に力を扱えるまで調整が必要だ」
遥か上空から声が聞こえる。空間の揺らぎからして転移したらしい。
「アルヴヘイト。この場を任せる。殿を務めよ」
「ヴッ、ハ ハッ!!」
フリードに中村と天之川を回収させ逃走しようとしている。
僕は阻止する為に接近を試みたがアルヴにまたも邪魔される。死力を尽くした妨害はすぐに剝がせるものではなかった。
南雲は使徒どもに取り押さえられ床に縫い付けられてしまった。肉体の限界を超えて動かしていたのだから無理もない。それでも満身創痍の状態で三体もの使徒を仕留めているのだから驚愕だ。
「イレギュラー諸君。我は、ここで失礼させてもらおう。可愛らしい抵抗をしている魂に、身の程というものを分からせてやらねばならんのでね。それと、三日後にはこの世界に花を咲かせようと思う。人で作る真っ赤な花で世界を埋め尽くす。最後の遊戯だ。その後は、是非、異世界で遊んでみようと思っている。もっとも、この場で死ぬお前達には関係のないことだがね」
余裕ぶって話しているが逃走するように距離を離し、震えている言動はその内心が透けて見える。
「ま、てっ、ユエを、返せ……」
南雲の無力な姿にどこか安心したのか口元を緩めようとしたがアルヴを撃墜させている僕が視界に入り表情を引き攣らせる。
ゲートへとさっさと侵入しエヒトはゲートを閉じようとする。魔人族は慌てて閉じ始めたゲートへと入っていく。残った魔物や使徒は僕を近づけさせないために襲いかかってきた。
南雲の慟哭が響く中、僕は敵の撃退を続ける。シアとティオは自力でエヒトの拘束を脱け出し南雲を救出しようと動く。八重樫も起き上がり白崎を起こすために動き出す。
南雲を拘束していた使徒は止めを刺そうと動いた。僕が魔力を問答無用で枯渇させたことで崩れ落ちた。いや、端から分解された。
「――〝全ての存在を否定する(何もかも、消えちまえ)〟」
南雲が暴走した。
紅い螺旋が渦巻き、敵の全てが分解されて行く。アルヴが逃げる間もなく分解される。襲いかかる使徒は近ずくことも出来ず分解される。魔物や不用意に近づいた魔人族も例外ではなかった。
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その後は、ミュウが魔人族の子供まで消そうとする南雲を体を張って止め、白崎たちが物理的に殴って止めた。覇崩を解き、瀕死の南雲にミュウが止めを刺し死にそうになるなんてハプニングもあったが状況は落ち着くことになる。
南雲が目覚めた後もほぼいつも通りの空間が作り上げられ少し前の戦闘なんてなかったかのような錯覚を起こさせた。
生き残りの魔人族に尋問?脅迫?をして情報を強請るがあまり意味はなく放置。
状況を共有し何をするべきであるかを確認する。
・エヒトは肉体を掌握するのに三日かかる。
・三日後に大侵攻が起る。
・エヒトと討伐しなければ次の標的は地球。
う~ん、人類存亡掛けたみたいな話になってしまった。ユエを無視すれば、あの場でエヒトを殺すことは出来た。だが、ユエを犠牲にする選択肢は僕になかった。知り合いを殺したくなかったというのもあるが、南雲とユエの関係が遠からず僕とリアナの関係に似ているように感じたからだ。
「セイ、ユエを殺さずにエヒトを殺す手段はあるか?」
「・・・今の僕には無い。魂魄魔法を自在に扱えるようになれば出来る確信があるけど…今、直ぐには無理だ。僕は南雲たちの様に才能豊かではないからね。長い年月を掛けて地道に習得する道しかない」
「そうか・・・」
南雲は少し当てが外れたような表情だが予想外ではなかったのだろう。
その後も話し合いは続く。
神域に乗り込むメンツは南雲にシア、ティオ、八重樫、坂上、谷口の六人。僕やリアナ、白崎は地上の防衛。南雲はエヒトの全てを粉砕してユエを取り戻すつもりだ。
エヒトに対応できていた僕が乗り込むことも考えられたがそれは却下となる。南雲は自身の手でユエを取り返したい。僕にはユエを取り返す方法がない。これ以上明確な理由はいらなかった。
クリスタルキーがあれば神域に入ることが出来る。扇動してやれば人員は集まる。南雲がアーティファクトを解放すれば武力が集まる。
「……はぁ。まとめるぞ」
この話し合いで愛ちゃん先生とリリアーナ姫が陥落していることが周知の事実となったが気を取り直して南雲が話す。
「今から三日後までの予定を伝える。まず、俺だが、俺はオルクスの深奥に向かうつもりだ。アーティファクトの大量生産をするのに、オルクスの環境は最適だからな。これには、助手として香織とミュウ、レミアについて来て貰いたい」
「うん、わかったよ、ハジメくん」
「はいなの! お手伝いするの!」
「私に出来ることは何でも言って下さい」
香織、ミュウ、レミアは三日間、南雲による大量生産の助手。
「シア、お前はライセン大迷宮に行ってくれ」
「……なるほど。ミレディの協力を仰ぐんですね?」
「そうだ。少しでもエヒトや【神域】の情報があれば儲け物だしな。あのときは強制排除されたからショートカットの方法が分からない。一応、攻略の証は渡しておくが、ブルック近郊の泉で反応しなければ、また中を通らなきゃならないからな」
「多分、それでも通してくれると思いますが……ダメでも、今度は半日でクリアして見せますよ。今の私なら、あの大迷宮は遊技場と変わりません」
「俺もそう思う。頼んだ」
「はいです!」
シアはミレディに協力を仰ぎに。
「ティオ」
「うむ。心得ておる。里帰りせよと言うのじゃろ?」
「流石だ。世界の危機とあれば、竜人族の掟もないだろう。ティオほどではないにしろ、竜人の力に俺のアーティファクトもあれば、使徒とだって戦えるはずだ」
「そうじゃな。流石に、竜人族もこの事態で動かんという選択はない。その強さも保証しようぞ。ただのぅ、隠れ里は……それなりに遠い。とても三日以内でとはいかんのじゃが……」
「その辺りはアーティファクトでどうにかしよう」
ティオは竜人族の援軍を迎えに。
「八重樫は帝国に行ってくれ。ハイリヒ王国と同じで、ゲートで行けるし、王国へのゲートキーも複製して渡しておくから、ガハルドを説得して戦力を王国へ送ってくれ」
「それは……いいけれど、どうして私なの?」
「八重樫はガハルドのお気に入りだからな。念の為、話がスムーズに進むことを考慮して、だ。あちらさんは、制約の首飾りの件で恨んでいる奴もいそうだしな。交渉力と戦闘力を考えれば、他に任せられる奴はいない」
「む。一応、納得だけれど……私の気持ちを知っていて、言い寄る男の元に送られるのは少しショックだわ。まぁ、そんなこと言っている場合じゃないのは分かるからいいのだけれど」
「……悪いな。ガハルドがふざけやがったら俺の名前を出せ。八重樫雫に言い寄ったら、南雲ハジメが黙っていないってな」
「っ……ふ、不意打ちは卑怯だわ」
八重樫は帝国へ。
「先生とリリアーナは王都だ。戦力を集めて、演説で士気を高めてくれ。使徒相手にも容赦なく戦えるように上手く扇動するんだ。それと、戦う場所は王都前の草原地帯になるだろう。まさか、【神山】という背後から襲ってくることが分かっていて、王都内で戦うわけにはいかないからな」
「そうなると、王都の住民は避難させる必要がありますね。ゲートが使えるとはいえ、三日で全住民の避難……急ぐ必要がありそうです」
「帝国から戦力を引き抜く代わりに一般市民は帝都に送ってしまえばいいだろう」
「でも、南雲くん。空を飛ぶ使徒相手に平原での戦いは不利なのでは……」
「対空兵器と重火器、他にも手立ては講ずるつもりだ。それと、野村っ!」
リリアーナと愛子先生は扇動を。突然呼びかけられたことに「ぉお!?」と奇声で返事。
「お前、土術師だったよな?」
「え? あ、ああ。そうだけど……」
「なら、王都の職人と土系魔法に適性がある奴等を纏めて、平原に簡易でいいから要塞を作れ」
「よ、要塞?」
「遮蔽物はあった方がいいだろう? 詳しいことは王都の専門家に聞け。後でお前専用のアーティファクトも送ってやるから、平原に戦いやすい場を作るんだ」
「わ、わかった。やってみる」
その後もクラスメイトそれぞれに役割を割り振る。量産される重火器の取り扱い方のレクチャーはクラスメイトに任された。
「谷口、坂上、お前等は樹海に行け。ハウリアとフェアベルゲンの連中に話を通して、戦える連中は王都に送るんだ。それが終わったら連絡してこい。オルクスに迎えてやる。タイムリミットまで奈落の魔物を従えて強化することに費やすといい。せっかくの変成魔法だからな」
「了解だよ!」
「応よ!」
谷口と坂上は樹海へと向かいその後、オルクスで戦力を集める。
「セイ、鉱石類をよこせ。装備の強化に使いたい。二人が具体的に何ができるのかわからない。何ができるんだ?」
「僕はほぼ身一つの戦力だね。リアナはある程度戦力を揃えることが出来るよ。谷口たちと同じように魔物戦力の増強に力を入れたい。あとはそれぞれのフォローに回ればいいかな?」
「わかった。二人はそれで頼む」
それからもう少し細かいことを話して、人生で一番濃密となるであろう三日間を前に不敵な笑みを浮かべながら、南雲は再度、全員に視線を巡らせた。
そして、一拍の後、その口をゆっくりと開いた。
「敵は神を名乗り、それに見合う強大さを誇る。軍勢は全てが一騎当千。常識外の魔物や死を恐れず強化された傀儡兵までいる」
静かな声音。されど、やけに明瞭に響く。
「だが、それだけだ。奴等は無敵なんかじゃない。俺がそうしたように、神も使徒も殺せるんだ。人は、超常の存在を討てるんだよ」
語る南雲の姿は、隻腕隻眼で命でも吸い取られたかのような白髪だ。それは、無能と言われた男が歩いてきた軌跡を示すもの。数多の化け物共を屠り、己の糧として這い上がって来た、その証。そして、実際に、ここにいる者達全員の前で証明して見せた。人は神にだって勝てるということを。
だから、自然と、納得できてしまう。たとえ一度は敗北し、大切なものを奪われたのだとしても、その事実すら糧にして目の前の傷だらけの少年は、どんな不可能事だって可能にしてしまうのだと。
否応なく、心震わせる言葉が続く。
「顔も知らない誰かのためとか、まして世界のためなんて思う必要はない。そんなもの、背負う必要なんてない。俺が、俺の最愛を取り戻すために戦うように、ここにいる者全員がそれぞれの理由で戦えばいい。その理由に大小なんてない。重さなんてない。家に帰りたいから。家族に会いたいから、友人のため、恋人のため、ただ生きるため、ただ気に食わないから……なんでもいいんだ」
一拍。南雲の言葉が途切れる。だが、この場の全員が、己の望みを自覚する。胸に湧き上がる衝動そのままに。
それを待っていたかのように、南雲が言葉を放った。炎のように熱く、されど水のように浸透し、大地のように力強く、けれど風のように包み込む、そんな言葉を。
「一生に一度、奮い立つべきときがあるとするのなら、それは今、このときこそがそうだっ。今、このとき、魂を燃やせ! 望みのために一歩を踏み込め! そして、全員で生き残れ! それが出来たなら、ご褒美に故郷へのキップをプレゼントしてやる!」
息を呑む音が響く。早鐘を打つ鼓動が聞こえる。握り締めた拳が、踏み締めた足元が、食いしばった奥歯が、軋みを上げて唸る。まるで、意志が自然と上げさせた雄叫びの如く。
熱に浮かされたような者達の中で、南雲は野生の狼の如き眼光と牙を魅せつける。
そして一言。
「勝つぞ」
返って来たのは当然、無数の咆哮だった。
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三日間、それぞれがそれぞれに、迫る決戦に向けて活動した。
僕とリアナはオルクス迷宮に籠り変成魔法を活用した魔物の戦力を集めた。裏上層の兎の魔物を集めた。三日という短期間の間に集められる戦力の質は高が知れている。例えオルクスの裏下層の魔物を中心に集めても地上戦力としてはいいかもしれないが、空を飛ぶ使徒が相手では戦力となり難い。
そこで集める魔物には機動力が求められる。地上だけでなく空中もかけることの出来る戦力が必要だ。加えて小柄なのが望ましい。図体がデカくても分解という協力な攻撃手段を持つ使徒には只の的だ。回避を主体とした技能が必要になる。
これらを考慮して厳選した魔物が上層の飛び兎だ。空力で空を駆けることが出来、兎の魔物と言うこともあり小柄だ。
この飛び兎を強化する。リアナの変成魔法で眷属に、聖武器と眷属器でレベルダウンによる素質強化を施し、僕が下層に連れ歩いて再度レベルを上げる。これを繰り返して機動力に特化した黒兎部隊を創り出した。総数は千弱。変成魔法による強化と異世界の勇者補正が加わり別物の魔物になっている。
残りの時間は他の場所の援助をしていると決戦当日となる。
夜明け前の前夜、会議に呼び出され当日の最終確認がされた。南雲に黒兎の機動力と作戦を伝える。僕とリアナは遊撃と動くことに決まった。黒兎の動きは南雲達でも油断できないものだったらしい。これならば使徒相手でも十分な働きが期待できるというものだ。
会議終盤、ティオが竜人族を連れ帰還する。ティオと南雲のアブノーマルな自然な関係に空気が死ぬ中、族長との挨拶、南雲の魔王宣言、南雲たちのやり取りにその場の空気が振り回される。その後は決戦の時までそれぞれに時間を過ごすことになった。
日の出。夜明けと共に太陽が昇り始めた時、世界が赤黒く染まり、鳴動する。神山上空に亀裂が奔った。
空に亀裂が奔り、ガラスでも割れるように砕け散る。
皇帝の怒声により兵士たちの呪縛が解け動き出す。
豊穣の女神、畑山愛子先生の演説が広まり、次いで指示を出す。
「悪しき神の下僕など恐れるに足りません! 〝我が剣〟よ! その証を見せてやるのです!」
「仰せの通りに、我が女神」
南雲が前に出てそれから起こったことは・・・エベレスト級の山である神山が崩れる姿だった。
(うわぁ~、容赦ねぇ 魔物が塵か埃の様に飛び散ってる)
(・・・金属塊の自由落下 太陽光集束レーザー 小型機によるレーザーの分散 えぐい)
魔物が消し飛び、使徒が消失し、飛ぶことの出来た使徒は光の檻に囚われ焼け落ちる。最後に七つの太陽が咲いた。押し寄せた粉塵は展開された結界が防いでくれている。
(えー、あれも太陽光か?)
(ん、宝物庫に太陽光を貯めて自戒させたんだと思う ありえない熱エネルギーの爆弾 とても星に優しい?)
(いや、優しくないよ 星は泣いていい)
神山は消し飛び、その上に現れた魔物や使徒も文字どうり消し飛んだ。
「こ、これが、我が剣の力! 勝利は我等と共にあり!」
「「「「「「「「「「勝利! 勝利! 勝利!」」」」」」」」」」
愛ちゃんは頑張った。うん。
裂け目からはまだまだ使徒達が溢れ出る。開幕で数百体が消し飛んだはずだが勢いがなくなる様子がない。もしかしたら無尽蔵なのかもしれない。
(使徒が無尽蔵なのはこちらとしてはありがたいか?)
(ん、使徒は便利 サンプルはあればあるほどいい 解析して量産できるようにしたい)
リアナは使徒の性能を甚く気に入っている。ロボットの様に命令には忠実、だが意思があるので臨機応変に行動ができる。実力も申し分ない。不満があれば神代魔法で変化させればいい。欠点のほぼない忠実な配下を量産できる。
この戦いでの僕とリアナの目的は防衛に加え、可能な限り使徒の回収だ。
六色の魔力光が尾を引き飛び立って行く。その光景に連合軍からは喉が張り裂けんばかりの歓声が上がった。
(行ったな 何の気負いもなしに行っちまって 本当に南雲は変わっちまった)
(ん、自然と信じることが出来る不思議 主人公?)
(だな、あれが主人公何だろうなぁ さて、俺は南雲の援護をするよ リアナは?)
(私は黒兎を配置する 箱庭の準備はばっちし)
(分かった それじゃぁ、動こう 完全隠密だ)
僕は改造してもらったスナイパーライフルで南雲を援護する。奇襲となる一撃目は頭を打ち抜いたが二撃目以降は撃墜まで行かない。分解能力を防御に回されては銃弾でのダメージは難しかった。
(難しいはずなんだがなぁ)
砦の屋上の一角から針の穴を通すような的確な援護射撃を繰り返す兎耳の少年。こっちにやるなぁ~的な視線を向けてくる。
(射線からの逆算だろうけど、簡単に位置を割り出してくるとわなぁ 自信なくすよ うん)
その後も援護射撃を繰り返し南雲たちが神域へ突入するまでを見送った。
南雲たちが行った後は此方からの攻勢だ。
一斉射撃が始まり空中を赤い弾幕が彩る。
(南雲のアーティファクトを軍が使うとこうなるのね)
イレギュラーがいなくなったことで油断していたのか弾幕の嵐、ミサイル群は使徒の群れに命中し第一陣を殺し尽くす。だが、高性能な使徒だ。すぐさま対応し嵐の中を分解の力をもって強引に突破する。
(ここで狙撃だなッと)
ヘッドショット。弾幕の嵐を突破した使徒たちは絶妙なタイミングで放たれる狙撃によってその命を散らす。スコープ越しに見える景色は少し未来の光景だ。幻影に合わせるように引き金を引けば下手でも銃弾は命中する。
砦屋上からはゴーレムの追撃が決まり使徒は為す術なくその身を散らした。
使徒は接近が難しいと見るや銀の翼による攻撃に切り替えた。銀翼のスコール。その致死の雨は大結界によって防がれた。強化された結界は確実に時間を稼ぐ。
聖歌隊による歌が響き渡り使徒の能力を制限する。銀色の光が霧散し紅色の光が使徒に纏わりつく。
状況の不利に焦ってか使徒は大規模の砲撃体制に入った。
(これはいい的だな)
確実にヘッドショット決めていき即死させる。本部からも指示が飛び集中的に狙撃が開始された。
それでも全ての使途を撃墜させることは出来なかった。銀の砲撃が結界と激突する。
虹色の波紋が火花を散らし拮抗するが銀の砲撃を防ぎ切った大結界は砕け散った。雪崩れ込む使徒達。標的は能力を六割も制限してくる聖歌隊だ。大結界よりも縮小し多重に展開された結界が使徒の侵攻を阻む。
(防衛は任せたぞ 黒騎士、白騎士)
聖歌隊の結界外では神殿騎士と混ざり防衛する白騎士と黒騎士の姿があった。
この二人の騎士はとある世界で強化し続けた魔物だ。ダンジョンを攻略し獲得する攻略ポイントでガチャを引くことで強力な武具やスキル、召喚魔物を獲得できる世界。白の騎士と黒の騎士はどちらもノーマルレアのリビングアーマー。性能は最低レアリティらしく弱い。純鈍で錆びた鎧は防御もなく雑魚と言われる魔物だった。
だが、僕はこの魔物を獲得した時、一つのロマンを求めた。
騎士団を作りたい。
最強の騎士団を作りたい。一人軍隊を実現したい。そのロマンを求めてダンジョンに潜り続けガチャを引き続けた。
結果は、達成できなかった。何処まで強化をしても同時に召喚できるのはそれぞれ一体ずつ。最高レアリティの魔物や武具、スキルを強化に使っても召喚の制限が外されることはなかった。
その世界で強化の果てに出来上がったのがこの二体だ。
防御特化の白の騎士。使徒の分解によってその鎧と大楯が傷つくことはない。上空からの上段攻撃。落下の勢い、人外の使途の膂力、分解の力、その全てを殺し防ぎきる。灰に濁る白の鎧を纏う騎士は微動だにすることなく受け止めた。
攻撃特化の黒の騎士。赤黒い全身鎧、漆黒の刀身は分解の能力では破壊されない。使徒と切り結び技量をもって使徒を凌駕する。使徒の攻撃は当たらず、受けに回った使徒は武器ごと粉砕されることになった。黒の騎士の一撃は正しく必殺。技量で上回らなければ生き延びることは出来ない。
聖歌隊前で一騎当千の活躍をする両騎士。その周りでも戦闘は繰り広げられているわけではあるのだが・・・。
(ハウリアぇ 強いけど、心強いけども! 一族で厨二とか何があったし)
十中八九、あの白髪で眼帯で義手の厨二病のせいだろう。まず、間違いない。
(妙に強い七体のゴーレムも南雲のせいだよなぁ)
戦隊ものよろしく背後を色とりどりの爆炎で彩り登場したゴーレムたち。神代魔法の粋をつめ込んだのか普通に強い。文句なしに強い。
一部空気が死ぬ現象が起きながらも次の局面へと移行する。
上空五百メートルあたりで重力が捻じ曲がり使徒が墜落する。下で待ち受ける決死の戦士たちによる地上戦が始まった。そして、全ての戦士から響き渡る『限界突破』の声。
(連合軍のステータス全て五倍とか無茶苦茶だな)
僕は遊撃として落ちてきた使徒を連合軍に混じりながら狩りをする。
聖歌による能力の六割減、重力による行動の阻害、連合軍の全てが神代のアーティファクトで身を包み、終いには全戦士が二段階に及ぶ『限界突破』をして尚、使徒が優勢。一般兵士からしたら使徒は化け物だと理解させられる。
(だから、南雲は何を考えてあんな化け物を量産したんだ?)
僕の視線の先では巨漢の漢女たちが暴れまわっている。敵味方関係なく動揺させ混沌をもたらしている。
努めてその状況を無視し僕は使徒の首を狩っては箱庭へ転送、魔力を枯渇させては転送、空中を走りすれ違いざま切り結んでは転送、首を狩り転送、首が落ち転送、首が飛び転送、首 転送、魔力 転送、首、転送、首、首、転送、転送、と確実に人知れず戦果を挙げていく。
(リアナ そっちはどう?)
(ん、順調)
リアナは要塞前の戦場よりも神山に近い空中で戦闘を続けている。裂け目からあふれ出た使徒は要塞へと加勢に向かう途中、味方に気づかれることなく消えることになる。
使徒が消えた上空では黒い影が縦横無尽に飛び回っていた。使徒の動体視力を持っても死角からでは対応しきれない。また、黒い影、黒兎は殺気も放っていないので気づくことはさらに難しくなる。
では、黒兎はどうやって使徒を消しているのか。答えは、僕の行動と同じだ。使徒に触れてリアナの箱庭へ転送している。
転送された使徒は待ち受けているリアナの分身や配下の魔物に殺され回収される。あとはこれの繰り返しだ。使徒を回収したいリアナが考案した作戦とも言えない作戦。誘い込んで殺し尽くし回収するだけだ。
確実に転送させるために黒兎の能力は機動力に特化している。加えて、南雲に隠密のアーティファクトを渡されているので気づかれにくい。戦闘能力が低くとも十分な戦果を出し続けてくれている。
赤黒い空では竜が雄たけびを上げ空中戦を繰り広げている。いよいよもって神話大戦の形相を見せてきた。
クラスメイトもそれぞれがそれぞれに奮闘している。チート集団のクライメイトだ。戦場を駆ける中で時折見かけるその姿は使徒を前に善戦している。大幅に弱体化した使徒にチートな能力を大幅に上昇させたのだから戦えるというものだ。
それよりも何よりも・・・。
「疾牙影爪のコウスケ・E・アビスゲート、参る!」
(遠藤がめっちゃ強い 技も冴え渡ってるし何かあったか?)
死角や隙をついてはその影の薄さを遺憾なく発揮し首を刎ねていく。周りからしたら一人でに首が刎ね飛ぶホラー現象に見えるのではないだろうか?
上空では白崎が死闘を繰り広げている。数多の使途が同じ顔を持つ黒い使徒に群がるような光景だ。一対多数の戦闘にもかかわらず白崎は一歩も引くことなく使徒を圧倒している。
(神速ねぇ)
白崎が使用した再生魔法の応用を僕も使ってみた。動作の一つ一つを時短する魔法。白崎の様に縦横無尽に動いては魔力をガリガリ削ることになる。
(僕にはもっと部分的に使う方が性に合ってるかな)
移動動作の全てを時短しては魔力消費が半端ないことになる。消費量を下げる為にもっと細かい動作で使うべきと僕は考える。手首の一瞬の返しや摺り足の半歩、力を溜める一瞬の動作、敵へと接触する一瞬の伸縮、相手の意識外を縫うように使えば効率的に使えるように思う。
(まぁ、今の完全隠密では使いどころがないか 誰にも気づかれていない状態だし)
上空で光が爆ぜる。戦場全体に黒銀の波導が伝播した。連合軍の兵士が起き上がる。生きている物の傷が癒え、死んでいる者が蘇った。
(〝回天の威吹〟 効果は聞いてたけど・・・ 南雲に関わるとバグるのか、白崎が凄いのか、神代魔法が強力なのか、なんとも言えないな)
上空の白崎は使徒から魔力を奪い取り消費した魔力を回復している。これで長期戦に持ち込むことが出来るようになった。人間一人が戦況を左右するとはすごいものだ。
その後も戦いは続く。竜人族は制空権を争い、地上では人族、亜人族が死相を抱えて使徒と渡り歩く。白崎は回復し、魔力を奪い、回復し、使徒を蹴散らしながら連合軍の維持を担い続けた。
どれくらいの時間が経ったのだろうか?赤黒い世界では太陽も見えず時間の感覚が曖昧となる。神山の上空で変化が現れる。黒い瘴気があふれ出し、崩壊した神山を黒紫のインクが塗りつぶす。瘴気の奥から見えるのは無数の赤い目。無数の魔物が大地を震わせ進軍してくる。それだけではない、上空では万にも届く数の使徒の群れがあふれ出している。
今までの状況でやっと拮抗を保っていた連合軍には手痛い一撃だ。僕もこの状況はまずいと思い隠密がキレることも構わず能力開放をしようとした思った時・・・。
「――〝壊劫〟」
大地が消えた。魔物と共に。
「――〝壊劫〟――〝 壊劫〟」
三度響いた女の声。
魔物は悲鳴を上げることも敵わず大地の底へと落ちていく。
「やほ~☆ ピンチになったら現れる、世界のアイドル、ミレディちゃん見参ッ! あはは~、最高のタイミングだったねぇ! 流石、わ・た・し♪ 空気の読める女! 連合のみんな~、惚れちゃダ・メ・だ・ぞ♡」
イラっと来た。ミレディだ。
イラっと来るが仕事は完璧。詠唱の一瞬だけ、絶対零度の声音が響くのだ。魔物の軍勢はミレディが連れてきたゴーレムにより押しとどめられ連合軍はどうにか生き延びることになる。
しかし、次に起こるは使徒による突撃。数千人の使徒が一塊となり突撃を開始する。狙いは、能力を大幅に下げる原因、聖歌隊だ。
(リアナ、僕は出る)
(ん、私は間引く)
「エンチャント ボルト 〝神足通〟」
通常の二十倍に行動できる時の中、さらに複数のステータスを解放し速度を上昇させる。
白崎や竜人族が押し止めようと戦っている上空を過ぎ、聖歌隊の前、結界の上空に着地する。
僕が突然現れたことに皆が驚く中、聖武器のスキルを発動した。
「瞬刀一式、二式、三式」
三つの斬線が迫りくる使徒の槍を切り裂き、付与された電撃が触れた使徒を炭化させる。
「ふぅ~ 白崎! 呆けるな! 次が来るぞ!!」
白崎が僕の声に気を取り直し神山へ視線を向けると銀の太陽を収束させている群れと先と同じく強行突破を図ろうと万の使徒の槍が作られようとしている。
連合軍も一斉に発砲し食い止めようを奮闘する。
「セイくん! 次も止められる!?」
「問題ない 止められる 白崎は銀の砲撃に対応してくれ!」
(・・・セイ きりがない 間引いた側から補充される!)
(いや、あのな そんな嬉しそうに報告するなや)
リアナ的には目的の物が取り放題で嬉しいんだろうけど不謹慎と言わざる負えない。
また、聖歌隊を仕留めようと使徒の群れが突撃してくる。今度は五本の槍だ。
『我、靴の勇者が天に命じ、地に命じ、理を切除し、繋げ、膿みを吐き出させよう。龍脈の力よ。我が魔力と精霊の力と共に力を成せ、力の根源足る靴の勇者が命ずる。森羅万象を今一度読み解き、彼の者に再燃の炎を灯せ』
「リベレイション・エンチャントⅩ!」
前準備として付与された雷の能力が再度、爆発的に上昇させて付与される。バチッと微かに生じていた紫電が、今では視認も困難なほどに紫電が迸っている。靴から放出される紫電からは不気味なほどに音が鳴らず、静かにしかし存在感は確かに増し自己主張をしている。
僕の予想外の変化に驚いたのか使徒の群れに動揺が走るがそれも一瞬のことで再度己を槍として突撃してきた。
「卯月 桜花乱舞」
再度、聖武器のスキルを行使する。無数に分裂したかのように見える脚技は脚線を辿る様に使徒の槍へ向けて紫電が上昇する。轟音と閃光が駆け、視力が回復した頃には紫電の花弁が舞い散る以外に何もなかった。
「白崎! 障壁!!」
「ッ!」
余りの光景に敵味方構わず空白となる中、呆然としている白崎に向けて障壁を展開するよう声をかける。白崎は気を取り直し迫りくる銀の砲撃を防ぐために障壁を展開する。
展開して数舜、白崎が展開した障壁に銀の奔流が激突した。
敵が連続で砲撃をぶつけてくるとは言え、スペックを六割減させている。決死の突貫が不発に終わった今、化け物の一人となった白崎に防ぎきれない攻撃ではなかった。
銀の砲撃は継続されるが突破することが出来ない。使徒の数は減ることはないが次々と撃墜されていく。
どれだけの時間が経っただろうか?突如、銀の砲撃が消失する。同時に翼が捥がれた鳥の様に使徒が次々と落ちていく。
神山上空では様々な世界が早回しの映像の様に切り替わり崩壊していく光景が見える。対気が鳴動し今にも世界が壊れそうな雰囲気だ。
(南雲が勝ったってところかな)
(ん、神域の維持が出来なくなってる 自称神がピンチ?)
(致命的な一撃か何かが決まったんだろうな 僕たちは残敵処理だ 神域にはミレディが行くみたいだしね)
(ん、使徒 回収してくる)
遠目からでも分かる速度で地上に落ちた使徒が消えていく。黒兎も回収作業に加わっているようだ。
ミレディが神域へ侵入してからしばらく、成り行きを見守っていると神山上空あたりで空間が歪みシアとティオが落ちてくる。駆け付けた白崎が受け止めたことで地面への激突は免れた。続いて八重樫、谷口、坂上、天之川が戻ってくる。
その後、金と深紅の螺旋が空に上がった。螺旋が終息すると銀と瘴気の断末魔が響き渡りエヒトの消滅を連合軍に伝える。
瘴気も消えると空が元の色を取り戻し始め、徐々に元の景色へと変わっていく。
崩壊していく反転世界が幻であったかのように薄れ消え、赤黒い空は太陽の光が切り裂くように浄化されていく。
そんな中、火の光に照らされるように一つの小さな赤い流星が落ちてくる。
紅の花を散らすように落ちてくる。
(南雲とユエだな ユエは魔力切れのようだが・・・)
(・・・ん、大丈夫 南雲が完璧に落下の勢いを殺してる)
最後は体制を崩してしまったようだが怪我をすることなく着地した。
愛ちゃんの声を切欠に連合軍から大地を揺るがす歓声が上がる。
僕とリアナも南雲の元に駆け寄ると・・・。
「あーー! やっぱりイチャついてますぅ! 人の気も知らないで! っていうか、ユエさんが……」
「大人になってるぅううう! ユエが大人の魅力でハジメくんを襲ってるぅ!」
「うぅむ。予想通りじゃな。いや、大人になっとるのは予想外じゃが……どれ、妾も参戦しようかの」
「うっ、すごい色気が……で、でも引くわけにはいかないわ! 乙女は突撃あるのみよ!」
シア、白崎、ティオ、八重樫が丁度南雲のところに来たところだった。
最近妙に見慣れた、南雲とその女性たちの姦しい光景を見ると全てが終わったのだとなんだかほっこりするのは何故だろうか?
ダイヤモンドダストの様に天が祝福する。南雲の表情はとても温かな優しい笑みを浮かべていた。
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大戦から、一ヶ月。戦後処理など目まぐるしく動くことになる。
壊滅した王都の立て直し、戦死者の弔い、南雲のアーティファクトの処理、等々僕も仕事にかり出されることになった。
自称神エヒトとの死闘により南雲は多くのアーティファクトを失うことになる。クリスタルキーを再度作り出すために神結晶を創り出すところから始めることになった。
チートなクラスメイト総出で作成する。ローテーションを組んで24時間常に南雲の作り出したアーティファクトに魔力を注いだ。人工的に魔力溜まりを作り神結晶を創り出した。
導越の羅針盤とクリスタルキーの作成に必要な神結晶が集まったのが大戦から一か月後だった。
この一ヶ月間もいろいろなことがあった。遠藤が覚醒したり南雲と一勝負してみたり南雲のハーレム生活が始まったり等々、南雲の周りにいれば退屈することはないのだろう。
この調子だと地球に戻ってからも南雲やクラスメイトのハチャメチャに僕たちは巻き込まれつつ過ごすことになるのかもしれない。
(リアナ)
(・・・ん、なに?)
(僕さぁ 神代魔法を習熟するまではこの世界に居ようと思う)
(ん)
(まぁこれも理由付けなのかな? なんだか南雲たちともうしばらくの間、関わりたいんだ)
(ん、いいと思う)
(リアナはどうする?)
(・・・愚問 私はセイと永遠に一緒)
(ははっ そうだよな では、改めて これからもよろしく頼む)
(ん、よろしく)
カランコロン~♪
クラスメイトが帰還できることに沸く中、僕とリアナは傍らでその光景を見ていた。
フェアベルゲンの樹木溢れる街並みにビーちゃんの紫煙が空へと消えて行く。
リアナと見つめ合った視界の端では千日紅が揺れていた。
セイたちは南雲一家のありふれない日常に振り回させるのでしょう。(書く予定なし)
超上の力を持っているにもかかわらず、世界の成り行きに一切関わらない、そんな風に話を書いてみました。
お楽しみいただけたら幸いです。