某国某所にある大企業のビルに、『山田太郎』総本部がある―――いや、この認識は少し違う。 大企業に偽装した『山田太郎』という組織の拠点がある。
その拠点の一室―――企業が会議に使うような部屋に、『山田太郎』の最高責任者である山田太郎の他に、地球上に住む異能の家系の長達が集まっていた。
糸遣いの統堂家当主、
統堂家に仕える闇宮家当主、
自らの意思を血液に宿して、死者の身体を使う、
鬼達を統括する女神。
鬼と交わり混血一族と上がった遠野家当主、
四大退魔の一族の一つ両儀家当主、両儀。
「やぁ、忙しい中集まってきてもらって、感謝してるよ……さて、今回の議題だけど……僕らから聞いた通り、そこの遠野家が七夜を滅ぼした件についてだ」
「…………」
「巫浄、浅神が数人を残して
山田太郎を始めとする統堂、闇宮、両儀が責めるような視線を送る中、遠野槙久は瞑ってた目を開き喋ろうと口を開きかけた時、女神が槙久の言葉を被せるように山田太郎に言う。
「遠野ばかり責めるような物言いだが、先に条約に違反したのは七夜ではないか? 退魔の一族だぞ?」
「それはない。 黄理は退魔と言うより、仕事人気質だからね。 契約は絶対守る。 それに七夜に付かせた『山田太郎』の証言。 遠野に付かせた『山田太郎』から聞いたし、事の報告は女神のとこの鬼達だよ?」
山田太郎の答えにくつくつと笑う女神。 そう、最初に七夜の一族が遠野によって滅ぼされたと言ってきた女性と少年は鬼と呼ばれる存在で、それに見合う異能を持った者達で、遠野を庇うように見せた女神の部下なのだ。 女神の思考を理解出来ずに睨むような目を向ける山田太郎に女神は手を振るだけだった。
「…………例え七夜が条約違反を犯したとしても、滅ぼすのはやり過ぎだよ。 七夜が悪くても遠野を批難しただろうね」
只でさえ異能を持つ家系が減ってる今、教会サイド、魔術師、魔法使いサイド、真祖サイド、死徒サイドに突かれる隙が大きくなるのだ。
そうでなくとも、山田太郎は各方面から求められているのだ。 いつ、自分以外の極限に目を向けられるかわからない。
「さぁ、聞かせてもらおうか? 遠野槙久」
「………………娘を守るためだ。 娘は遠野の中でも最も鬼の血を強く引いてる。 七夜に目をつけられる程に……」
「でも、その七夜も一人引き取ってるそうだね。 たまたまとか気まぐれとか聞くけど、本当にそれはたまたまなの? 志貴くんの年齢から考えて、七夜の暗殺術は身に付いてるし、七夜の本能も魔を殺すよう刷り込まれてるのに?」
「…………」
「…………君はやりすぎだ。 現時点をもって遠野槙久を当主の座から降ろし、遠野四季を当主代理に、まだ未熟な四季を僕たち『山田太郎』が補佐兼教育係を付ける。 七夜志貴には、暗示で遠野家の次男として育った事にして、戸籍も名前も改ざん……七夜志貴を遠野志貴とする」
異論は、ないね?と全員に目で語り、会議は此にて終わると山田太郎が言おうとした時、遠野槙久から待ったが掛かる。
「何かな? 槙久……この期に及んで上手い言い訳でも?」
「言い訳ではないが、当主の座には秋葉にしてもらいたいと……」
槙久の言葉に統堂、闇宮、両儀が驚く。 長男である四季を差し置いて、長女の秋葉を当主にする事は、古い家系の者なら当然の反応だろう。 稀に次子が家を継ぐことがあるが、それは長子がその家系特有の力がない場合だ。 統堂家ならば、繰糸術。 闇宮家ならば、狂戦士化。 両儀ならば退魔の術と……。 しかし、遠野家には長子の四季よりも混血の色が濃いとはいえ、四季にも混血としての色は出てるのだ。 継がせるなら四季―――それが普通の選択だ。
「………………なるほど、槙久の考えをだいたい把握した。 良いよ、君の出した遠野家の未来……最後まで付き合って上げる」
「
「心に無いことを言うもんじゃないよ」
槙久の考えに察した山田太郎は、槙久の最後の頼みを聞き入れて、この会議を終わらせた。 数分が経ち、女神や我夢、他の当主達も槙久の心意を理解して、異を唱えることなく解散した。
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「ふぅ……こういう堅苦しい事は何百年と生きてきても慣れやしないね」
拠点からだいぶ離れて、漸く肩の力を抜いた山田太郎は、そう呟くとまた別の緊張感に全身を張り巡らせて空を見上げる。
山田太郎の視界には、血のような赤く紅い、真っ朱な月と、二つの影。
白をベースに金と青のドレスを着た黄金の双眼と長髪の女性と、紫のドレスを着た青紫の長髪、紅い瞳の女性が自分の方へとやって来る姿。
見覚えが有りすぎる姿に、山田太郎は全速走力を持ってその場から逃げた。
「いや~最近エロティかるな方面に
「そう連れない事を言うな、山田太郎よ」
「お前は……
逃げてた山田太郎であったが人間の走力での全速では、世界認定のチートコンビに逃げ切れるわけもなく直ぐ様首根っこ掴まれる山田太郎であった。
「いや、まぁ……正義の味方が助けに来てくれるかなって…………」
「正義の味方? ああ、あの
「来たら来たで
「言ってやるなsix。 こやつがこう言うのはただの照れ隠しだ」
フッと鼻で笑いながらも上機嫌で山田太郎を担ぎ、今夜の寝床を探しに人町へと戻る朱い月のブリュンスタッドと、朱い月の後を着いていく
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ホテルのとある一室―――朱い月はシャワーを浴びると言って、部屋の中に備え付けられてるバスルームでシャワーを浴びており、今部屋に居るのは連れ去られた山田太郎と、着いてきた闇色の六王権の二人だ。
「それで僕に何か用? 今更家族としての親睦を深めようなんてないでしょ?」
「朱い月は久々の団欒と言っていたぞ? 意図は兎も角な……。 そして私はそろそろ地上の連中にお前は私のだと認識させようとだな……」
「はぁ……何が悲しくて義娘に所有物扱いされないといけないんだか……僕は誰のものでもないよ? 強いて言うなら僕は僕のモノだ」
呆れて首を横に振りながら、世の無常を嘆く山田太郎。 事の始まり―――原因は何だったかと、古い記憶を漁るが昔すぎて発掘するのを諦める。
「ふむ、すっきりした。 山田太郎は…………逃げるからダメだな。 sixはどうする?」
「使うとしよう……。 母にも夫婦水入らずの時間が欲しいだろうしな」
「あの、それ僕の意見は?」
「「ないに決まっておるだろ? 所有物は黙ってろ」」
「うわぁ……妻と義娘に所有物扱いされた……数分前に所有物扱いしないでって言ったにも関わらず……」
山田太郎は絶望しながらもベッドへとダイブして、もう好きにしなよと言ったように不貞腐れる。 しかし、山田太郎も本当に不貞腐れてるわけではない。 二人の言葉も本当に山田太郎を所有物としてではなく、山田太郎個人として尊重してるからだ。
もし二人が山田太郎を完全にモノとして見たのならば、山田太郎は自身の異能を使ってまで逃亡するだろう。 そうしないのは、山田太郎への二人に対する信頼だった。