【聖テレサ女学院】
城塞都市ランドソルの学舎で、うら若き乙女達の学びの場である。その上、生徒の大半が良家の子女という(とある人が見れば、目と胃が痛くなるとのこと)、所謂、超お嬢様学校だ。
その学院に在校している生徒の内、三名は、変わり者……もしくは、異端児と称されている、【聖テレサ女学院(なかよし部)】のメンバーだ。
活動内容は、『教育的見地における社会的構造に準じる共存的融和の意識向上』。
簡単に言えば、『学校を共学にするっていいよね?』ということである。
……本当の目的は(奨学金の為に)仲良くなることだが。
実際のギルド結成の理由は、対外的に『仲の良さ』を形にして示すためである。
聖テレサ女学院では、年々生徒の数が減少しており、その改善のために共学化の道を模索することになっていた。
その施策のため、学院の上層部はそれをエサにして、彼女らに『試験的に新しく入った男子学生と仲良くしろ』などの、よくわからない難題を吹っ掛けてるのである。
正直、ヤバい。誰も彼も、単純に、尚且つ物凄く。
そんな学院の夜、象牙の塔で。
そこでは何故か、黒いオーラを纏っていそうなエルフと、妙にキラキラしたオーラを纏った少女が心底めんどくさそうに、その扉の前に立っていた。
「パイセンこんな時間に何の用があんの?」
「分からないです。でも、もっと時間考えて欲しくないですか、クロエ先輩?」
「わかりみ」
クロエと呼ばれた金髪の気だるげなエルフは、一際大きくため息を吐いた。
彼女は聖テレサ女学院の二年生であり、治安の悪い市街地出身ゆえのその独特な言い回しと、黒いオーラのお陰で不良と間違われる。
しかし実際はそうではなく、家族が好きで、人のことを思いやる事の出来る、とても優しい照れ屋なのだ。
まあ、この事を彼女に話せば殴られるだろうが……少なくとも、悪人ではない。
「ま、話だけでも聞いときますか」
「ですね。可愛い先輩の頼みですから。それに、眠たいですし」
もう一人の少女の名は、チエルという。
一年生であり、【聖テレサ女学院(なかよし部)】の最年少。
見た目通り明るく社交的、全体的に天才で可愛らしいという、ここまで聞けば才能ある素晴らしい生徒だが、毒舌家で、隙あれば『ちぇるーん♪』などという造語【ちぇる語】で話す、うざ絡みするなどといった行動を起こす事が多々あり、非常に残念な生徒である。
しかし、これらは意図的に道化を演じているだけであり、単に皆を楽しませたい一心での行動である。決して悪意はない。
「はぁ……開けますよ、パイセン」
クロエが象牙の塔の扉を開くと同時に、チエルは中に飛び込むように入っていった。
「にゃっ、あぶ!? はぁ……こらこら、人が退くまでは飛び込まない。急に子供みたいな事をーーー」
「ちぇるーん♪ こんな時間に何の用ですか、ユニ先輩?」
「あ、パイセン。夜分遅くにどもっす。
……おいチエル、無視か、てか無視だな。よし、いいかめんどいし、忘れよ」
横でクロエが咎め、愚痴るのを無視して、声をかける。
すると、本の横で座り込んでいた幼い容姿の生徒がぴょんこぴょんこと跳ねる。
「やあ諸君。待っていたよ。我々【ユニちゃんズ】の目的ではない、僕個人の頼みとはいえ、よくぞ来てくれた」
得意気な笑みを浮かべ、胸を張る彼女はこの学園の最上級生、ユニ。
図書館棟の研究室である象牙の塔に住む彼女は、子供っぽい外見と裏腹に、『博士』の学位で呼ばれるほどの学園の大天才だ。
しかし、『テレ女のやべー奴』と呼ばれるほどのなかなかにやべー趣味があるとの事だが……ここでは触れなくともよい。
「はぁ……いつまでその名で呼ぶの? 没案という事実をねじ曲げたいの?」
クロエが、困ったように呟く。
このように、ユニは毎度の如く【なかよし部】ではなく、即没案となった【ユニちゃんズ】だと主張しているが、当然、残る二人に却下される。
「テンション高いですね、ユニ先輩」
チエルの驚いたような表情は、一瞬で冷めた目に変わる。感情表現が豊かである。
「後輩の貴重な睡眠時間削って何のようですか? 私は今すぐお家に帰って眠りたい気分なんですけど」
「ちょーちょー、待ちなってチエル。まず話だけ聞いとこ? パイセンがどうでもいいことで呼び出したかも知んないけど、とりあえず聞いとこ? そしたら、ちゃちゃっと帰ろ」
小さく「面倒だし」と付け加える。
「君達、すぐに帰れると思うかい? それと、先程の少しの感動を即刻返してもらいたい……が、それは脇に置くとしよう。
ともかく、出ていこうものなら、魔法を使ってでも止めてみせる。今日のぼかぁ本気なんだ」
不満げな顔を見せ、ユニは言った。
それと同時に、クロエもため息をつく。
「今日バイトなくても、明日までに見つけたいんでさっさと眠りたいんすよ。勘弁して」
聖テレサ女学院では、校則によりバイトは禁じられているが、クロエの家庭は、あまり金銭的な余裕がない。
学費などの負担で、家族に迷惑を掛けないよう、学院の生徒や関係者に気づかれないように働いている。
以前は怪しげな仕事をしていたのだが、謎の怪盗に襲われ、辞めざるをえなくなった。
そのため、出来ることなら早く仕事を探さなければならない。
当然、二人とも彼女の事情を知っている。汲まない訳にはいかない。
「提案なのだが、僕が君の雇用主となるのはどうかね?
一日だけの、それも数時間のバイトだ、クロエ君。小遣いなら払ってしんぜよう。不完全な研究品を腹いせに売ったお陰で、僕の懐はあったかい」
「わーマジ神。でもパイセンから受け取るのは、なんつーか心が痛いわ。フツーにバイト行く」
申し訳なさそうに、クロエが言う。まあ、無理もない。
良い提案と思っていたユニがむむむ、と唸る。さて、どうしたものか。
「ところで、何の用だったんですか?」
「よく訊いてくれた、チエル君っ」
早めに切り上げたいチエルが訊くと、目を輝かせつつユニが指を指す。
指した先にあったのは、幾何学的な模様の書かれた黒い扉であった。
「あれ、何です?」
二人が、その異様な扉に興味を示したのを見て、得意気な顔をした。
「全くわからん」
「は?」「え?」
二人の怪訝な表情は、ユニの顔を曇らせるのに充分だった。
ユニは困ったようにため息を吐き、話を続けた。
「端的に換言しなくともよかろう。
先程も言ったように、分からないんだ、何も。
何故にこの扉が象牙の塔にあるのか、そもそもこれは何なのか、何処に繋がっているのか……全くもってわからん。
だからこそ、君達を呼んだのだ、後輩諸君」
「は、はぁ? つまり?」
チエルが問うと同時に、状況を理解したクロエがげんなりとする。
「何が起こるのか、興味深くてそわそわしていたんだ。さあ、共にこの扉を開こうではないか」
「「却下!」」
「むぅ、意地でも開けるぞ僕は。既にこの塔全体に施錠魔法を掛けている。逃れられんよ。道連れは多い方がいい」
不穏な事を呟きながら、ユニは扉に向き直る。
いきなりこんな扉が沸いて出たのだ。
この世界が虚構という可能性があると思っていたが……やはり、間違いはなさそうだ。
すぐにでも確めねば。
ユニがそうぼんやりと考えていると、汗をたらたら流しながら後輩二人が必死に声をかけてきていた。
「いや、待ち。ちょい待ち。イミフな理由で巻き込んだ挙げ句、イミフな扉開けるとか危ない事しない……ほら、おばちゃん飴あげるから」
「そうですよユニ先輩! 何しようとしているんですかっ! 頭ちぇるったんですか!?」
「む、むぅ……」
しかし、嫌がる二人を無理に連れていくのは、人としてどうか?
(……それは良くない)
残った理性が、ユニを押し止めた。
今夜は謝罪して、帰宅していただくか。
「君達、今日はすまなかった。すぐ魔法を……」
解こうと言いかけた途端、ギィイイと不快な音が鳴った。
ユニの、すぐ後ろから。
「ちょ……パイセン、後ろ」
「何で、扉が?」
クロエとチエルが、青ざめた顔で指を指す。
ーーーいや、青ざめている訳ではない。
「……まさか」
嫌な予感がした。
突然、周りが淡い光に包まれていたのだ。
考えられるのは、今、後ろにあるものだ。
ユニが慌てて振り返ると、
「!?」
あの扉が開いていた。
中から、青い光を放ちながら。
それに気づいたときには、ばたりと、床に倒れ込んでしまっていた。
続いて、チエルが、クロエが膝をつく。
「……う……な、なんです、これは?」
「な、何だ……一体、何、が……ぁ」
「……く、ぅやばっ……パイセン……チエ、ル…」
クロエの瞼が閉じられていく。それは皆、同じだった。
まるで眠りにつくように、意識が、薄れていく。
身体が徐々に、光に包まれていく。
(何が、起きて……あれ?)
チエルが、必死に目を開けると、扉の先に、光ではっきり見えないその奥に、誰かが居るのが見えた。
(……だ、れ?)
チエルの疑問は、声に、音になって出ることはなく。
扉の光が強まった次には皆、意識を失った。
最後に見えた光景はーーー
“薄汚れた鉄兜の誰かと、白い神官服を身に付けた少女”
であった。
◇◆◇
しばらくして、扉は消えた。
まるで、初めからそんなものはなかったかのように忽然と。
ーーー象牙の塔にいた、三人と共に。
( ゚A゚ )<「想定してた数十倍の人数、読んでくださってる……」
(ノ_<)ゴシゴシ
( ゚A゚; )<「マジか……有難い。頑張ろ」
というわけで、拙いかも知れませんが、頑張ります。