辺境の勇士と聖なる学舎の異端児   作:すろうぺーす

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二話 「目覚めた場所は」

 

 

 下卑た笑い声。

 数人居るのか、足音が多い。

 声が大きくなった瞬間、何かを振るおうとする音がした。

 

 「っ」

 

 咄嗟に飛び起き、避ける。

 

 「はぁ……何これ?」

 

 緑色の何かがいた。

 汚れたこん棒を、錆びた短剣を、ひび割れた槍を持って。

 

 「人……じゃ、ないっぽいな」

 「GOBGOBB?GOGOB!」

 

 クロエが呟くと奇妙な声を発し、それぞれが武器を振るった。

 

 (急だな……てか、わりと遅っ)

 

 軽く避ける、避ける、避ける。

 そして、確信した。

 

 ーーーこいつらは、敵だ。

 

 「はぁ……目覚めたら汚いゴブリンとか、聞いてないわしんどいし。チエルとパイセンの無事、確かめたいから……そこ退きなよ」

 「GOBBB!GOBAAA!!」

 

 一匹のゴブリンが飛びかかり、こん棒を振るう。

 ヒュン、と音がした。

 鮮血が舞う。

 屍が落ちる。

 血塗れになったゴブリンの死体が。

 

 「GOBB!!?」

 「はぁ……ふざけんなよ、邪魔だっての。こんなか弱い乙女に寄って集って鬱陶しいわ。服汚すな殺すぞバカども」

 

 いつの間にか、クロエの手に一振りの短剣が握られていた。

 彼女の愛用する、『フロムダスク・ティルドーン』。

 あの瞬間、短剣の刃が的確にゴブリンの喉を斬り裂いたのだ。

 その光景を見たゴブリン達が、一歩、二歩と後退る。

 

 ーーーあんな奴に勝てる訳がない。

 ーーー……勝てない? あの女に、勝てないっ? 何故だ?

 ーーーオレ達の勝利は確定していた筈! 何もかも奪うのはオレ達の筈ッ!

 ーーーアイツが来たから悪い! アイツがいるから悪い!

 ーーー全部あの女がいるせいだ! オレ達は悪くないッ!

 

 そんな自分勝手な思考が、ゴブリン達の中で溢れ出す。

 その身勝手な思考が、ゴブリン達をその場に止めさせた。

 

 「GOBABB……GOB!!」

 

 ーーーオレ達を襲った報いを受けさせよう。

 ーーーまずは、あの女を捕らえて殺してやる。いや、死ぬまで凌辱してやる。

 

 ゴブリン全員が、恨みと怒りを持って武器を構える。

 全ては、アイツが悪いから。

 

 それを見たクロエは、呆れたように呟いた。

 

 「はぁ……逃げるようなら見逃そうと思ったけど……ま、邪魔すんならしゃーない」

 

 柄を握りなおし、わざとらしくため息を溢す。

 

 「さ、誰から逝っとく?」

 

 血を払うように振るい、不敵に嗤った。

 

◇◆◇

 

 「……う、ん……ここは? っ」

 

 目を覚ますと、冷たい感触した。異様な臭いに頭を掴まれた気がして、一気に目が覚める。 

 何かが腐ったような臭いがする。頭が痛い、気持ち悪い。

 それに、周りに誰もいない。

 

 「ユニ先輩! クロエ先輩!」

 

 そのせいか、起き上がろうにも力が上手く入らない。

 それを無視して、チエルはふらふらと立ち上がった。大切な二人を探さなければならない。

 

 「早く、先輩達を探さなきゃ……あっ」

 

 足が縺れる。傾いた体はそのまま地面に……

 

 「おっと」

 

 叩きつけられる事はなかった。

 誰かが、チエルを抱き起こしたのだ。

 聞き慣れた声がした。

 

 「クロエ先輩っ」

 「ちょーまち、一旦落ち着く。ここはわりとヤバい」

 

 鋭くも優しい声で、クロエは囁いた。

 見ると、彼女の服に血が付いている。

 

 「先輩、怪我をっーーー」

 「返り血。ほんと、最悪。洗う手間増えるっての」

 「そ、そう……いや、一体何の……! っユニ先輩は!?」

 「待ちなってチエル。パイセンは……まだ見てない。落ち着いたらさっさと探すよ」

 

 そう言って遮り、ため息を吐いた。同時に、何処からか取り出した棒つきの飴を舐める。

 

 「あんまし、気分晴れねー……ま、それどころじゃないか」

 

 クロエが、本日何度目かのため息を吐き振り返る。

 チエルが目線の先を追うと、何やら蠢くものがあった。

 

 「GOROB!」

 「GOOB!GOROBBB!!」

 

 それは、武器を手に取り囲む、緑色で背丈が小さい醜悪な怪物。

 

 「ゴブリン!? 魔物がどうして……」

 「話は、こいつらぶちのめした後でよろ。はぁ……いないと思えばこれか……マジうざいわ」

 

 愛刀を構え、怪物を睨む。

 

 「さ、お目覚め間もないかも知んないけど、無理ない程度に逃げるよ。埒空かんし、パイセン探さんと落ち着けんし」

 「……わかってますよ。チエルも、ユニ先輩の事が心配ですからっ!」

 「GOBB!?」

 

 真正面から襲いかかったゴブリンを殴り、狼狽えた者も流れるように突き、槍や剣を軽く避ける。

 達人のような立ち回りを見せるが、チエルは全くの初心者だ。クロエのように、多少の経験があるわけでもない。

 聞きかじったものを、自分流に可愛くアレンジした。ただそれだけ。

 その筈なのだが、ゴブリンが一撃も入れることが出来ない。寧ろ、向かう端から吹き飛ばされる。

 

 (ホント、そんなのどしたら身に付くの。自分流とか……ま、いいか何でも)

 

 「……ふっ」

 「GOOROA !?」

 「GOGAUAA!!」

 「GAABBB!!」

 

 一瞬で疑問とともに三体のゴブリンを斬り伏せる。

 とにかく、急がなければならない。

 残りのゴブリンを倒した後、すぐに探しに行かなければ……。

 

◇◆◇

 

 「はあ……は、ぁ……」

 

 油断してしまった。

 襲いかかる魔物に魔法を使い、倒し、難なく退けたと思った。思ってしまった。

 最後の一体が後ろから短剣を持って飛びかかってきたのだ。

 反射的に魔法を放ったお陰で、掠り傷で済んだ。しかし、毒が塗られていたらしい。

 

 「まずい、な……」

 

 体から力が抜けていく。寒気がする、痺れてくる。

 解毒の魔法は知っている。しかし、この状態ではまともに使えない。

 少しづつ、毒の進行を抑える程度しか出来ない。

 

 (二人は無事だろうか?)

 

 こんなことに捲き込んでしまった。すぐにでも謝りたい。

 何より、無事でいてほしい。

 痺れがどんどん酷くなってくる。

 このまま、僕は死ぬのだろうか?

 目の前が霞む。息が、詰まる。

 

 「大丈夫ですか!?」

 

 誰かが駆け寄っていた。

 足音からして数名、いるらしい。

 

 「解毒剤(アンチドーテ)です!……飲めますか?」

 「……っ、あ……」

 

 どうにかして、差し出された瓶を持ち、中の液体を飲み干す。

 苦い……が、視界と体の痺れは少しよくなった。

 

 「……すま、ない……助かった」

 

 礼を述べ、顔を上げる。

 白い神官服を着た、金髪の少女がいた。聖職者なのだろう。

 その周りには、奇妙な集団がいる。

 民族衣装のようなものを纏った蜥蜴のような人、ほっとしたような顔で髭を弄くる老人……ドワーフだろうか?

 耳の長い、アオイ君やクロエ君と同じエルフの少女。

 そしてーーー

 

 「駆け出しか……何があった?」

 

 薄汚れた鉄兜の男が、神官の少女の側に立っていた。




小鬼殺し「駆け出しか?」
ユニ「え、何?……誰?」

ってなりそう……。

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