俺は……、一体どうなったんだ?
最後に覚えているのは、仕事の帰りに上司の不満をこぼしながら酒を飲んで一人夜道を歩いていたところまでしか……。
これ以上は何も思い出せない。今は体が酷く軽い。まるで水の中を漂っているようだ。けれど、呼吸はしっかりとできる。
そのままボーっとこの感覚に身を置いていると、俺の耳に誰かの声が聞こえてきた。
「ふむ、禁呪法で作り上げたフレイザードが上手く動いているからと気まぐれで作り上げてみたが、こっちも問題はなさそうだな」
「はい。呼吸、脈拍、いづれも問題はありません。このまま時が経てば自ずと目を覚ますでしょうハドラー様」
「ふふふ、いいぞ! 既に六大軍団長の席は全て埋まっているため軍団長にはできんが、それ以外の席を用意するとしよう。これでこやつも何らかの成果を上げれたのであれば我が地位も安泰だ!」
今聞こえてきた会話の中に聞き捨てならない単語が幾つか聞こえてきた。フレイザード、ハドラー、六大軍団長の3つ。
俺はこの名と地位を知っている。高校生の頃に読んだ漫画でダイの大冒険という世界で敵にフレイザードやハドラーといったボスがいて、そのボスが六大軍団長の地位に立っている。
今聞いた会話では、どうやらハドラーがフレイザードを作り上げたのがうまくいったから、他にも禁呪法で生み出して更に己の地位を安定させようと画策しているのだろう。
多分その新しく禁呪法で作り出したのは俺のことだろう。
ここまでくれば大抵の想像はつく、何らかの原因で俺は異世界転生してダイの世界へと来てしまった。そして、俺はハドラーから禁呪法によって何らかの魔物に生まれ変わったのだろう。
ゴボボボボッ!!!
「「っ!!!」」
突然のカプセルの突然の変化にハドラーとそのお付きのモンスターは驚きをあらわにする。
目の前の眠る者がゆっくりと目を見開いてこちらを見つめてくる。その目には生まれたばかりの者とは思えない知性と警戒が垣間見え、ハドラーは無意識に笑みを浮かべる。
(こやつ、生まれたばかりの癖になんという目をしておる。これは、もしかするとフレイザード以上の戦力になるかもしれん)
ただの保険程度に考えていたものが、目を覚ましてみればとんだ掘り出し物。これほどの眼光を秘めるものがただ者であるはずがない。
もし、フレイザードが先ではなく同時に生まれたとしたら、きっとワシはこやつを六大軍団長の席に座らせてたであろう。
「ハ、ハドラー様!」
「ふん、そう取り乱すな。ただ目を覚ましただけだ。ふふ、よく聞け! オレは貴様を作り出した生みの親とも言える魔軍司令ハドラーである。これから貴様にはオレの元で働いてもらう。よいな?」
俺はその返答とばかりに、俺を閉じ込めているカプセルのガラスに手をかざし、手の握力でガラスにヒビを入れる。そのままヒビが入った場所を拳で破壊し、中の培養液が外に溢れ出る。
そのまま俺も壊れて穴が開いた場所から外に出る。
「了解しました。我が父ハドラー様。それで、ひとまずこの俺の名前はありますか? 名無しだとこちらとしても困るのですが?」
「ふふふ、無論貴様の名は既に考えてある。フレイザードの後継として作り上げた故に、貴様の名はイレイザーと名付ける!」
「ふむ、イレイザーですか。なんとも陳腐ですが……。まあ、仮にも親であるハドラー様の名づけを否定しては可哀想ですし、ひとまずはイレイザーと名乗りましょうか」
俺の言葉にハドラーは若干の青筋を立ってながらも堪えて話を続ける。
「そ、そうか。納得してくれたのならば幸いだ。おい! 今すぐこやつの服を持って来い。このままではバーン様にお披露目することもできん!」
「はっ! かしこまりました」
お付きのモンスターは命令されると、すぐさま部屋を飛び出して俺の服を取りに行く。
その間にハドラーから様々なことを聞かされた。バーン様のことやら六大軍団長のことなどを教えてもらい、この俺の種族も聞かされた。
フレイザードは爆弾岩と同じ岩石生命体だが、俺はバーン様に抵抗した魔族の死体を使って作り上げたアンデット族に分類されるようだ。
ちなみに、鏡が部屋の隅に置いてあったので覗いてみると、俺の容姿はドラゴンボールの未来トランクスの黒髪バージョンといったところだ。
アンデットというには腐ったような箇所もなく、普通に生きている魔族のようにしか見えない。
とはいえ、アンデットということはマァムの閃華裂光拳が効かないということ、あの北斗神拳モドキのような一撃必殺技を無効果できるというのはありがたいことだ。
やがて、お付きのモンスターが俺の服を持って来て、俺は素直にそれに着替える。
そのまま、案内される形で魔王軍の幹部である六大軍団長が集まる大広間に足を踏み入れた。
その瞬間、その場にいる6人から様々な視線が俺に集中する。警戒する者、利用できるか探る者、興味本位程度の者、気に入らないといった者、感情が読み取れない者、強いのかと疑う者、などといった様々な視線をバラン、ザボエラ、ヒュンケル、フレイザード、ミストバーン、クロコダインっといった順に向けてくる。
「皆の者、こやつがオレが新たに作り出したイレイザーである。既に六大軍団長の座は全て埋まっているためまだこやつの所属は決まっておらんが、それなりの役職をあてがおうと考えておる」
そうハドラーが告げると、炎と氷でできた魔物であるフレイザードが一歩前に出てその言葉に納得できないと叫ぶ。
「おいおい、ハドラー様よ! いくらこの俺様を作り出したあんたが作った奴とはいえそれはあまりにも贔屓してんじゃねぇか? ここにいるのはそれぞれ何らかの実力を示した奴らが集ってる。生まれたばかりの赤ん坊にそんな好待遇をしていいもんかねぇ? それも、そいつは俺様の予備の保険なんだろ? 多少の実力はあってもいざ戦場で使いものになるのか不安だね!?」
「フレイザードよ、貴様の言いたいことも分かるが……、ぬ? おいイレイザー!?」
俺は目の前に立つハドラーを押しのけて前に出る。
「ならば今ここで実際に戦ってみせようか? フレイザード兄さん?」
フレイザードの挑発に、俺はお返しとばかりに指をクイクイと動かして挑発し返す。
俺は喧嘩を売られたとしても買うような人間ではなかった筈だ。これも恐らく今の俺を作り出したハドラーの性格が表に出ているのだろう。
「面白れぇ! ならお前の力を見せてみな! フィンガー・フレア・ボム」
フレイザードの炎の手から5連発のメラゾーマが放たれる。
(思ったよりも遅いな。確かにスピードはあるかもしれんが、精々が一般の高校球児のストレートくらいの速さといったところか)
真っ直ぐ一直線に向かって来るフィンガーフレアボムから横に数歩移動して避けると、余裕の笑みを浮かべてフレイザードを挑発する。
「どうした? あまりにもノロ過ぎて歩いて避けてしまったよ」
「な、なぁにぃ!!! よくもほざきやがったな! 今のはただの様子見だ。それを避けた程度で勝った気でいるんじゃねぇ!」
俺の挑発に簡単に引っかかったフレイザードは、鬼の形相を浮かべて走り出してきた。そのまま走って勢いのついたままフレイザードは炎の体で出来た方の拳を握って殴りかかってくる。
それに対して、俺は避ける素振りも見せずにただその場で突っ立っている。
「逃げても無駄だと理解したか!? ならば、ここで死ねぇ!!!」
もはやただの実力の確認など忘れて殺しあいに発展しているが、この場にいる誰もが止めようとしない。
それも当然だろう。ここに集っているのは悪の頂点である大魔王の配下である。例え仲間といえど自身の利益にならない者がどうなろうと知ったことではない。
ましてや、同じ六大軍団長とはいえ手柄を奪い合う潜在的敵という認識である。逆にもっとやれとザボエラ辺りは心の中で応援していることだろう。
フレイザードの拳が顔面に当たる直前に、棒立ち状態だったイレイザーが右手に力を込めてフレイザードを上回る速さでカウンターを放ち、フレイザードの腹に強烈な一撃が決まる。
「ぐっ……はぁ!??」
自身の攻撃が決まったと確信した瞬間に、目にも止まらない一撃を腹に喰らったフレイザードは困惑の表情で一歩二歩と後ろに後ずさる。
この場にいた者もハドラー以外はまさかのイレイザーの反撃に目を見開いて驚愕の表情を浮かべる。
(やはり、このオレの目に狂いはなかった。目覚めたばかりとはいえ、こと強さにおいてはイレイザーはフレイザードの上をいっている、だが、奴ではフレイザードに負けることはなくとも勝つことはできまい)
ハドラーの想像は当たっていた。困惑から正気に戻ったフレイザードは近接戦闘では勝ち目が薄いと判断し、中距離遠距離戦法に切り替えを図る。
大体の者はフレイザードは残虐かつ粗暴な輩という認識しかないが、それはフレイザードの持つ側面でしかなく、もう一つの氷のような冷静さとその場に応じた機転も持ち合わせる戦術家としての一面もある。
灼熱の炎と凍える吹雪の連続攻撃でイレイザーを追い詰めようとするも、イレイザーはフレイザードが攻撃する直前の口の動きで、いつどこに向かって攻撃を仕掛けてくるのかを予測しながら動いているので、攻撃がまったくといっていいほど当たらない。
逆に、イレイザーはその肉体スペックを存分に生かして視界を塞ぐブレス攻撃をした瞬間に、猛スピードでフレイザードの背に回り込み強烈な蹴りを無防備な背中に叩き込む。
「グエアアア!!!」
無様に吹き飛ばされ鬼岩城の壁にぶつかってメリ込むフレイザードを見ながら、イレイザーはグーパーグーパーと前世の肉体とまるで違う感覚にようやく慣れてきたのか、闘いの最中だというのにその場でシャドーボクシングを始めだす。
しかも、一発一発が音速の領域に入っており、風も入ってこない鬼岩城内に嵐のような風が吹きすさぶ。
「この肉体は俺の想像以上のスペックだな……」
拳を握りしめながら自身のとてつもない力に歓喜していると、壁にメリ込んだまま動かなかったフレイザードが動きを見せる。
「大した力だ、いいぜ認めてやるオメェは強い! だが、だとしてもお前が俺様に勝つことは不可能だ。この俺様の肉体はハドラー様によって
クハハハハハ!!! と高笑いするフレイザードに俺は余裕を浮かべながらポキポキと拳を鳴らす。
「言いたいことはそれだけですかフレイザード兄さん? 確かに俺は目覚めたばかりでロクな技も持ち合わせてはいない。が! それ故に、俺はまだまだ強くなれる余地が残っているということだ」
そう言ってミストバーンを観る。ただ見るのではない。その法衣の下に隠されてあるミストバーン本体を感じ取るのだ。
奴は肉体を持たぬ暗黒闘気の塊のようなモンスターだ。そんな奴の力を感じ取れれば……。
ゾクリ!
背筋に氷柱を刺されたのかと錯覚するほどの負のエネルギーを感じた。これが暗黒闘気の力か!?
この魔族の肉体ゆえか、負のエネルギーを拒否するどころか歓喜する自分が存在する。
そして、恐らく俺はこの力を既に使うことができる。そういった確信が確かにあるのだ。
特別なことは何一つ必要ない。ただ敵を殺す覚悟を決めること。それこそが暗黒闘気の基本にして原点ともいえるだろう。
俺は目の前のフレイザードに対して、先程までの敵意ではなく殺意を持って相手することにした。
「「「「「「っっっっ!!!!」」」」」」
俺の雰囲気が急変したことに驚いたのか、ミストバーン以外の全員が驚きの声を上げる。
そんな彼らの驚きを無視して、俺は暗黒闘気を練り上げる。
「はあああああ!!!」
すると、体から闇のオーラが溢れ出る。全身からスーパーサイヤ人みたいに黒色の気が炎のように纏わりつく。
目の前の敵を殺せという衝動に襲われるが、何故か俺はそれを完璧に制御することができている。
確かにイラつきは起こるが、だからといって衝動的に殺そうとはならない。深く息を吸って吐くことで理性的な判断ができる。
「テメェ……。まさか、ミストバーンを一目見ただけで暗黒闘気を使えるようになるとは驚いたが、それの使い道を知らないテメェには宝の持ち腐れだぜ!」
俺が暗黒闘気を使ったことに驚いたフレイザードだったが、奴が言うように、俺はこの暗黒闘気の使い方は分からない。
漫画でヒュンケルやミストバーンが使う闘魔傀儡掌なんかもやれる気はしない。
だが、だからといってこの俺をなめてもらっては困る。これでも、クラスメイトからは漫画やアニメばっかのオタクなどと言われた男だ。
例え闘魔傀儡掌が使えなくても、簡単な技ならば使うことができる。
そう例えば……
「お前はこの俺様を完全に倒すことは不可能! だが、それに対して俺様の攻撃が当たらなくとも、当たりさえすれば消耗していくお前は負ける以外の道はのきょされ……!!!」
油断か慢心かは知らないが、長々と演説をかましているフレイザードの炎と氷の境目を綺麗に真っ二つに切り裂いてやった。
お陰で、フレイザードの最後の言葉が聞き取りにくくなってしまったが……、まあ、問題なかろう。
どうせ、くだらないことしか喋ろうとしなかっただろうしな。
「ふふふ、いい切れ味だ。さしずめ
暗黒闘気を手に集中させ、刃のように形成させたただの手刀だが、想像以上の切れ味で難なくフレイザードを一刀両断できた。
(これならば、当面は武器を手に入れる必要性がないな)
六大軍団長は真っ二つに切り裂かれたフレイザードに驚いているが、当のフレイザードを切り裂いたイレイザーは全く別のことを考えていた。
「くっ、クッソォォォォ!!! 殺してやる殺してやるぞ! イレイザー!!!!」
真っ二つになった体が逆再生するかのように元に戻っていったフレイザードは、先程までとは比べ物にならないくらいの殺意でこちらを睨んでくる。
「おやおや、フレイザード兄さん? どうしてそこまで怒っているんだ? これはただの実力を証明する為だけのテストのようなものだろう」
「その通りだフレイザード! もう既にイレイザーの実力は見せた。これ以上はこの魔軍司令ハドラーが許さんぞ!」
「ふざけんな! ここまでバカにされて黙ってられっか!!! こうなりゃ俺様の最後の必殺技で殺さねぇと腹の虫がおさまらねぇ!!!」
もう既に生みの親であるハドラーの命令さえ聞かぬほどに頭にきたフレイザードは最後の切り札をきろうとしていた。
「もう後悔しても遅いぞ! 弾岩爆花散」
自分の体をバラバラの岩石と変えたフレイザードが狙いも何もない全方位に攻撃を放つ。
「くひゃひゃひゃ! テメェがいくら避けようとも、この攻撃だけは避けれまい!」
確かにこれほどの細かい岩石の数を避けるのは不可能だが、それならば避けなければいいだけの話だ。
「はああああ! 全部撃ち落とす!」
自身の拳に暗黒闘気を集中させ、目の前に迫りくる岩石のみを叩き落とす。ドラクエの特技で爆裂拳があるが、もしかすると俺って今それを使えてる?
「グオオオオ! フレイザードめ、俺たちまで巻き込みよって」
「ちっ、厄介な技だ! だが、それを全て拳のみで叩き落すとは、やるなイレイザー」
「ひょえええぇぇぇ! あのバカもんが!? 殺るのは構わんが、儂を巻き込むな!!!」
「……」
「ふん、くだらん技だ。だがそれにしてもあのイレイザーとかいう魔族……、なかなかの強さだ」
フレイザードの攻撃に巻き込まれた他の六大軍団長たち。自慢の肉体で耐えるクロコダインに、持ち前の剣技で迫りくる岩石を斬り落とすヒュンケルや、悪態をつきながら柱などに走って身を隠すザボエラや、その場を動かずに静観しているミストバーンや、同じく何のダメージも喰らっていないバランがイレイザーの評価を上げている。
「はあはあ、ちくしょうが!? これでもダメか、この化け物め!!!」
「この状況でそれは嬉しい褒め言葉だな。ありがたく化け物の称号をいただくとしよう」
飛び散った岩石が再びフレイザードの元に集まるなか、イレイザーの強さに悪態をつくも、それをヒラリとかわされ褒め言葉だと皮肉を返される。
もはや、怒りの感情のみで理性が吹っ飛んだフレイザードは、効かなかった技をもう一度放つつもりだ。
「クソガァ! もう一度喰らいやがれ! 弾岩爆「もうよせフレイザードよ」」
フレイザードが技を放つ寸前に、ハドラーなんかとは違う圧倒的なカリスマ性の声がその場を支配した。
「なっ!? このお声は、大魔王バーン様!?」
ハドラーの声ですら止まらなかったフレイザードが、バーン様の声を聞いた瞬間に動きを止めた。
それと同時に、姿を見せないシルエットだけのバーン様に近寄ったのはハドラーだった。
「これはバーン様! 申し訳ありません。御身にこのような羞恥を見せるとは!?」
すぐさまハドラーが深々と頭を下げてバーン様に謝罪の言葉を並べる。
「よい。此度の戦いは中々に我を楽しませてくれた。故に、今回の私闘は不問にするとしよう」
「はっ、大魔王バーン様の寛大なお心遣いに感謝致します」
深く下げていた頭をさらに下げ、感謝の意を告げる。
「さて、フレイザードとイレイザーよ。此度の闘争は中々に楽しめた。我を楽しませた褒美として、それぞれ望むモノを言うがよい」
「ならば、俺は我が氷炎軍団の更なる戦力アップを願います」
「ふむ、いいだろう。魔界から呼び寄せた精鋭をそなたの軍に派遣するとしよう」
フレイザードの軍の強化にミストバーンとバランを除く他の3人の軍団長が苦い顔をする。
(ちっ、フレイザードの奴めここで俺たちと差をつけるつもりか!?)
(ふん、いくら戦力を強化しようとも俺の剣で叩き斬ってやる)
(おのれ! こうなることが分かっておれば儂が戦っていたものを! フレイザードめ!)
「ケケケケッ! どうした? そんな敵でも見るような目をしてよ!」
憎々しげにフレイザードを見る3人の軍団長の視線を浴びて、先の戦いで打ちのめされたフレイザードの自尊心が多少なりとも回復した。
だが、この隣に立つ弟にあたるこの男が何を願うのか、それによって今の俺様の機嫌も大きく変わるだろう。
「さて、イレイザーよ。お主は何を望む? 六大軍団長の座を望むというのであれば、すまぬが既に我に忠誠を誓う忠臣にその席を渡している。どうしても欲しいというのであれば、六大軍団長の座を賭けた決闘の場を用意するが、どうするかな?」
「「「「「「っっっっ!!!!」」」」」」
大魔王の言葉に六大軍団長の全員が目を見開く、先の戦いを見て既にイレイザーが自身よりも劣る存在でないことはこの場の全員が理解している。
バランやミストバーンは負けるとは思っておらず、ヒュンケルやクロコダインは来るならばコイ! と意気込んでいる。
だが、ザボエラは両手を合わせて指名するな! と念を押している。
「おい! 指名するのなら俺様を指名しな!」
イレイザーが誰を指名するかを待っているなか、先程イレイザーと闘ったばかりのフレイザードが自らを指名しろと立ち上がる。
「へえ、まさかフレイザード兄さんから直々の御指名を受けるとは思ってもいなかったよ。けど、悪いけど俺は誰も指名する気はないよ」
「なに?」
俺の発言に驚きの声を上げるフレイザードを無視して、バーン様に片膝をついて自らの考えを話す。
「バーン様。先程俺とフレイザードとの戦いを見ておられたのであれば、俺に足りないものが存在することにお気づきかとございますが……」
「ふむ、確かに貴様は強かった。だが、それはあくまでも肉体の強さであって、貴様のみの強さともいえる技が見えなかった。最後に見せたのはあくまでミストバーンの暗黒闘気の猿真似でしかない」
「お察しの通り、俺には敵を殺しきる
「なんだ? 何なりと言うてみよ。お主にはそれを願う権利がある」
「それでは、私に強くなるための時間をくださいませんか? およそ一ヶ月もあれば充分です」
「ほう、一ヶ月と申したか……」
バーン様の声にも不満そうな感情は見えず、中々に絶妙な期間だと己でも思っているとフレイザードが怒りの声を上げる。
「テメェ!? 一ヶ月も修業をするってのか? そんなに時間をかけてりゃ俺達が地上侵略を済ませっちまうぜ!」
「へぇ~、ふ~む?」
一ヶ月もあれば地上を侵略できると大言壮語なことを語るフレイザードを横目に、この場にいる六大軍団長をちらりと見ると、ほんの少しの溜息をついてやれやれといったポーズを示す。
「確かに、兄さんは
「「「なにっ!?」」」
イレイザーの言葉に反応したヒュンケル、クロコダイン、ザボエラは怒気を宿した目でこっちを睨み付けるが、まるで恐ろしくない。精々が野良犬が威嚇している程度の脅威でしかない。
「はっきり言って、六大軍団長の半分が足手まとい。特に、ザボエラ辺りは自ら地位を得るために足の引っ張り合いすらしかねないと思っているよ」
そう言うと、ヒュンケルとクロコダインが前に出た。
「そこまで言うのならば、まずは貴様で俺たちの強さを確認してみるか?」
「武人として、ここまでコケにされて黙っているわけにはいかんぞ!!!」
剣と拳をこちらに向けて勝負を仕掛けてこようとするが、イレイザーはそれを前に出した手でやめさせる。
「やめておけ、先程も俺と兄さんの戦いでこの場をずいぶんと荒らしてしまった。これ以上はバーン様とハドラー様をご不快にするだけと知れ!」
「「ぐっ!」」
いかに侮辱されて頭に来ていたとはいえ、己の上司であるハドラーとバーン様を引き合いに出されれば引き下がらざるを得ない。
「ちなみに、後ろでコソコソと呪文で俺を狙い撃ちするつもりだったのだろうが、あいにくとその程度の呪文じゃ鼻歌まじりで躱せるぞザボエラ」
「ぬぐっ!? き、気づいておったのか」
ヒュンケルとクロコダインが前に出ている間に、コッソリとイレイザーの後ろの柱から呪文による攻撃を加えようとしていたザボエラだったが、俺はその程度の不意打ちなど引っ掛かるようなマヌケではない。
2人が前に出てきた際に、コッソリと後ろに回っていたのは最初から見えていたからな。
「ふふふ、もうよいだろうお前たち。それで、イレイザーよ。貴様の修業の期間は一ヶ月でよいのだな?」
「はい。それと付け加えることが許されるのならば、ぜひとも強者が蔓延るような場所を修業の場にしたのですが?」
「ならば魔界がよかろう。今や冥竜王ヴェルザーは石像となっており、儂は地上侵略の為に留守にしている状態だ。空の玉座を巡って戦争も起きているだろう。ついでといってはなんだが、貴様に魔界の統一を任せたい。引き受けてくれるな?」
「はっ、その程度の願いでしたらこのイレイザー。御身の望む成果をお約束いたします」
修業のついでに魔界の統一というかなりの無理難題に近いものを任されたが、ラスボスともいえるバーン様や冥竜王ヴェルザーがいないのであれば、そう難しいものではないとは考えている。
実際に、魔界の半分を支配していた冥竜王ヴェルザーを討ったバランを間近で見たが、今の自分では決して敵わないという感想と同時に、いずれは手が届く領域に立っているというものだ。
半月でバランに迫る実力者になり、残る半月で魔界の統一と同時にそこいらで暴れるモンスターとそれを束ねるボスモンスターを倒していき経験値を増やしていく。
それが今の俺が強くなるための頭の中で考えている道筋だ。
やがて、バーン様が地上侵略計画をお話しされ、それぞれがどの国を攻め落とすかの話し合いが終わるとバーン様は何処かへ消えていった。恐らくはバーンパレスに戻ったのだろう。
「さて、バーン様も席を立ったことだし、俺も魔界へ向かわせてもらう」
「へっ! テメェが帰ってくる頃には地上は俺様の手で全て征服さておいてやるぜ!」
「ふふふ、それは頼もしいな。では、ヒュンケル君、クロコダイン殿、ザボエラの3人は人間たちに返り討ちに会わないように頑張ってくれよ」
最後まで舐めた態度で出ていったイレイザーをヒュンケルとクロコダインとザボエラは苦虫を嚙み潰したような顔で睨んでいた。
「ケケケケッ、かなりの言われようだったな」
そんな3人に追い打ちをかけるようにフレイザードが笑い声をあげてバカにする。
「ふん、勝手に言っていろ。俺はすぐさまパプニカを堕としてみせる」
「俺もだ。ロモス王国を我が百獣魔団ですぐに滅ぼして目にモノを見せてやる」
「キィ~ヒッヒッヒ、ワシの妖魔士団も忘れてもらっては困る。あの若造の節穴っぷりを思い知らせてくれようぞ!」
(((いや、お前だけは正当な評価だと思うがな?)))
★
カツカツと誰もいない廊下を1人歩きながらイレイザーは鬼岩城内を歩いていた。
それにしても、魔界か……。原作ではまるで描かれていなかった。設定だけではあるが、ドラクエシリーズでは魔界はラストダンジョンにあたるステージだ。レベルは40ほどが適切だった筈だが、今の俺のレベルはいくつぐらいだ?
色々と考えながら歩いていると、目的の部屋の前に辿り着いた。
「入るぞ」
部屋の中にいる者の返事も聞かずに無遠慮にドアを開けて中に入る。
「待っておりました。イレイザー様」
部屋の中にはあくまのカガミと呼ばれるモンスターが鎮座していた。
こいつこそが、俺を魔界に案内する役目をバーン様から頂いたモンスターで、ドラゴンクエストジョーカーでは主人公をワープさせる役割を持つキャラとして登場していた。
「それではこれより魔界へワープさせてもらいます。準備はよろしいですか?」
「ああ、大丈夫だ問題ない」
問題ありありの死亡フラグを建設したまま、強者が蠢く魔界へ足を踏み入れるのだった。