アカラナ回廊にて(葛葉ライドウ、超力ラスダンネタバレ注意)
「き、君、生身でこっちに来たのかい?」
アカラナ回廊、それはあらゆる時代を散策できる夢の異次元空間であるかわりに、きちんと手順を踏まなければいけない場所だ。俺はそこで時間旅行を楽しんでいたのだが、なんと生身できている古めかしい格好をした青年を見かけたのでたまらず声をかけてしまった。さっきから同じところをグルグル回っているように見えたからだ。
相手には俺はただの思念体にしか見えないだろう。なにせ普通は歴史に直接干渉しないように、時間旅行者は誰しもが記憶を情報としてある特殊な装置に転写して、そいつがアカラナ回廊を時間旅行するんだ。
そして、その装置が本来の時代に帰ってきて、その装置に刻まれたデータを取り込むことで初めて本来の俺は記憶が共有される。まあ、俺という人間そのものを構成するデータを複製して装置にいれてるのは変わらないから、俺からすれば時間旅行してる時も帰ってきた時も同じなんだけど。
大正時代あたりの書生のような格好をした青年は、生身でここにくる危険性がわかっていないようだった。まさか悪魔に飛ばされたんだろうか、それなら時の迷い児だ、保護しなきゃならない。そう思って話を聞いたら、どうやら理由があってアカラナ回廊に自ら足を踏み入れたようだった。信じられないな、大正時代にアカラナ回廊に行ける技術があるなんて。
「なにが問題って、やばいよ、問題大ありだよ!今からでも間に合うなら、ちゃんと転写してから来た方がいい。きみの時代だって依代をこちらに送る術くらいあるだろう?時の迷い児になりたくなかったら、一回帰ったほうがいいよ。いいかい、ここ、アカラナ回廊に滞在する存在は二種類に大別されるんだ。望んでここに来た、俺たち時間旅行者と、ここにいることさえ認識しえない時の迷い児とにね。きみは時間旅行者だと思い込んでいる時の迷い児にしか俺には見えないよ。だいたい、あれがなにかもわからないだろう?」
俺は後ろにある物体を指さした。
「俺の後ろの物体が見えるかい?あれは通称「砂時計」。聞く所では 物事の記憶を操作したり 次元の歪みを生み出したりするらしいよ。本当の名前なんて誰もわからないし、何の目的で置かれたのかもわからない。そんな謎の装置だ。ちかづかないほうがいい......って言ってる傍から近づかない方が......!人の話は最後まで聞かないか!」
俺は、あわてて青年を引き止めた。
「生身でここにくるのがどれだけ危ないか、きみはしらないだろう!本来、時間旅行というのは当人の記憶を遊離させて、各時代の実態を閲覧する旅のことをいうんだ。実体を介入させない理由は2つある。1つは旅行者の身の安全確保。もう1つは正史への干渉を防ぐ事。ここに流れ着くものは色々ある。悪魔に俺たちみたいなアストラル体、それにアイテム。どれも次元をさまよった存在だ、存在自体が不安定になっていく。だから俺達時間旅行者はここにいるけど、正確にはここにはいない。きみがいま話しているのは俺の記憶。顔を見せられないのが残念だよ。大昔にも時間旅行っぽいことが できたらしいね、オカルトチックなの。トホカミ~とか長い独り言を言うやつ。あれならできないことも......」
「自分はその方法でここまで来ました」
「えっ、ほんとうに?」
こくり、と青年はうなずいた。
「......もしかして、きみ、悪魔召喚師かなにかかい?」
「14代目、葛葉ライドウと申します」
「ライドウ......ライドウ!?」
「......?」
「君もライドウって言うの?俺もライドウ知っているよ。同期のテンプルナイトなんだ。才能あったよ、出世街道まっしぐらさ。でも急に「成すべき事がある」とかでセンターから消えちゃったんだ......いいやつだったのにな。なにがあったんだろう」
14代目だというライドウは俺の時代に興味をもったようで色々聞いてきた。
「どっから説明したらいいかなあ」
未来を謳いながら荒廃し、先進科学を基にしたコロニー、それが俺の世界のすべてだった。
202X年に発生した大洪水を逃れた人々は、水没した東京に建てられたカテドラルで共同社会を築き、生活していた。やがて、その場所は「TOKYOミレニアム」と呼ばれるようになり、メシア教徒で構成される統治組織(通称「センター」)に管理されるようになった。
センターの管理の下、直属エリートのテンプルナイト、センターに住むことを認められた一級市民、アームターミナルの所持を許可された二級市民と厳格な階級社会が作り上げられていた。
センターの支配に反抗するガイア教徒は度重なる反乱を起こすも、弾圧で押さえ込まれていた。
しかし、それももはや限界。いつまでも良くならない生活に不満を抱き始めた一級市民の人々は、状況を打開してくれる新たなる救世主の出現を望み始めるのだった。
そんな世界で日夜治安維持活動に精を出している俺はテンプルナイトの端くれだ。テンプルナイトはメシア教団が抱える戦士たちであり、メシア教がTOKYOミレニアムの実権を握った後は警察官のような治安維持の役割を担っている。 青と白を基調とした色合いの服装で、十字架(特に矢十字や松葉杖十字)のようなシンボルがトレードマーク。
「顔を見せられないのが残念だな、なかなか様になるんだよ、これが」
笑う俺に14代目は40代目について聞いてきた。
「遺伝子工学......あー、その、なんていうか、生き物にはかならずその姿形になるよう設計されてることが俺の時代にはわかってるんだけど、それを人工的に操作しようっていう技術のことをいうんだ。あいつはその手のプロだった。遺伝子工学の理論をベースに自分の記憶を先祖に転写できるんじゃないかってすごい研究してたよ。過去をそんなに変えたいなんて思わなかった......まさか姿をくらませるなんて......もっと話を聞いてやればよかった。ああごめん、そんな話じゃないよな。あいつは本当にすごいやつなんだよ、国津神の本霊たちと契約できるくらいの実力があってさ」
思いつく限りのことを話した。
「......ありがとうございました」
「こちらこそ。ここまで話してみてわかったよ。なんのためにこの先に行くのかはわからないけど、きっとあいつみたいに成し遂げたい事があるからなんだよな、きみは。なら、あの時計に触れるといい。そしたらきっとその先にいける」
「......あの、名前は」
「俺?俺は───────」
その、刹那。光が俺たちを包んだ。
「......あれ?」
気づけばカプセルポットの中だった。アカラナ回廊からはじき出されてしまったらしい。タイムパラドックスが起こりそうになると良く起こる強制帰還だ。もしかして、あの青年は俺のご先祖さまとなにか関係がある人だったんだろうか?