流星降臨(葛葉ライドウ)   作:アズマケイ

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金王屋にて

矢来区筑土町にある金王屋は、客が望むものであれば、たとえ違法なものであっても取り扱う、そんな話のわかる男が経営している。すべては金儲けのためであり、唯一の楽しみは貯金額が増えることといういっそのことわかりやすいくらいの守銭奴である。商売が繁盛しているのは古物商の審美眼が確かな証だろう。

 

その趣味と実益を兼ねた西洋骨董品の輸入ルートを模索していた最中に原田商会やヤタガラスと繋がりをもち、地下にヴィクトルという悪魔合体の研究をしている男性を住まわせているというのだから、デビルサマナーは頭が上がらない存在のようだ。ヴィクトルは骨董の仲介さえしてくれたら、地下が広大な空間を構築され、業魔殿という施設になっているなど夢にも思わないという。

 

俺たちが来店したときも、大福帳を眺めてにやにやしていた。眼鏡をかけた初老の男性だった。ふてぶてしく笑ういけ好かない老人のようでいて、馴染みがでできると違和感を抱かなくなるようだから、この人特有の魅力があるのかもしれない。

 

着物やメガネ、履物に至るまで相当な高級品ばかりなあたり、守銭奴だが自分にかける金は惜しまないタイプのようだ。指輪が見えたから、既婚者なんだろう。世の中わからないものである。

 

ここは地獄の沙汰も金次第という言葉が良く似合うんだ、と安倍さんが笑うのも納得だ。

 

縁起物とされる金のカエルの置物が店先で俺たちを迎えいれてくれた。店内には所狭しと物品が並べられている。帝都ひろしといえども、あらゆる時代、国の家具から美術品から漢方、御札、弾丸まで扱う品揃えの店はほかにない。これもまた原田商会あっての品揃えのようだから、俺の請負う任務がどれだけ重要なのかわかるというものだ。

 

「こんにちは、金王屋のご主人。いつもお世話になっています」

 

安倍さんが挨拶するなり金王屋の主人は態度が豹変した。

 

「これはこれは安倍子爵のところの星命さん......!いつもご贔屓にしてくれてありがとうございます。使いではなく、ご本人からお越しになるとは......なにか入用ですかな?」

 

「それもあるんですが、今回はこちらの挨拶回りに。名田庄村という田舎からうちの預かりになった者です。これからは彼がうちの使いになるので」

 

「土御門ハルアキと申します。これから何度もお世話になると思います、よろしくお願い致します」

 

「くっくっく、うちに来る時はたんまりお金を用意してくるんじゃぞ。いや、心配いらんか?足りなければそちらにツケておけば」

 

「あはは、そうですね。領収書お願いします」

 

「何処ぞの探偵と違って安倍子爵は羽振りがいいからなによりじゃ。これからもどうぞご贔屓に」

 

「今回は僕がいるからこの品揃えだけど、次は一見さんと同じになると思うよ」

 

「くっくっく、よくおわかりで」

 

「ここではなんでも買い取ってくれるからね、とりあえず金王屋に行けば間違いないよ、ハルアキ」

 

「本当ですか?なら、これは?」

 

俺は、異界晴海町の戦果品を金王屋の主人に渡してみた。

 

「これはこれは......!」

 

目の色が変わった。分かりやすいなこの爺さん。

 

「高く買い取らせてもらうから、次もぜひうちにもって来てもらえるかのう?」

 

ソロバンを弾いて見せてもらったけど読み方がわからない。安倍さんをみると笑いながらうなずいた。なるほど、かなり高額の買取りらしい。価値はよくわからないけど、これから慣れるだろうか。なるほど、これが俺の資金源になるわけか。さっそくなにか買おうとしたら、安倍さんが止めた。

 

「今回は初めてだし、ここは僕が出しておくよ。仕事が軌道に乗り始めたら通ってね」

 

安倍さんはかなりの常連のようで、金王屋の主人は慣れた様子でアイテムを出してくる。魔石にチャクラチップ、金丹、反魂香、チャクラドロップを買い込んで、全部俺に渡してくれた。

 

「くっくっく、毎度あり。ずいぶんと期待しているんですなあ」

 

「あはは、その通りです。出世払いも期待できそうだし」

 

「が、がんばります......!」

 

俺はもう安倍さんに足向けて寝られない気がしてきた。

 

「ヴィクトルさんはいらっしゃいますか?」

 

「ヴィクトルか?あやつなら地下室に篭っとるわい。そこの暖簾をくぐって地下に降りるといい。最近地下から騒音が来てうるさいんじゃがなーにをやっとるんじゃろうなあ」

 

ぼやく金王屋の主人に一礼して、俺たちは地下に降りたのだった。

 

 

怪しげや薬品が並んだ棚に禍々しいオーラを放つ魔導書が山積みの研究所がそこにはあった。

 

「ようこそ、わが業魔殿へ!よく来たなァ、安倍星命よッ!!今回は何用だ?我が秘術の恩恵に預かりに来たか?それとも剣合体か?はたまた我が研究のために陰陽師の血を提供する気にようやくなったか!?」

 

白衣の長身の青白い顔をした男がこちらにやってきた。上にはでかい牢が吊り下げられており、手術台まであるなど、どうみてもマッドサイエンティストな雰囲気を醸し出している。

 

「安倍さん......この人、本当に大丈夫なんですか?」

 

思わず聞いた俺に安倍さんは悪い人では無いんだよ、と苦笑いした。

 

「ふむ?見慣れない顔だが......」

 

「あ、はじめまして。俺は、今日から安倍さんのところでお世話になります土御門ハルアキと申します。新入りのデビルサマナーです。よろしくお願いいたします」

 

「これから、彼がこちらを利用することになると思うから、案内しているんですよ」

 

「そうか、そうか!我が研究の理解者がまた増えるというわけだな!実に喜ばしいことだ、歓迎するぞ土御門ハルアキッ!吾輩はヴィクトール・フォン・フランケンシュタインである!Drヴィクトルと呼ぶがいい!」

 

「えっ、それってフランケンシュタインの怪物をつくっ......」

 

「旅行は好きだが南極はトラウマなのだ、その話はやめてくれ」

 

「あ、はい、ごめんなさい」

 

狂気じみてる人が不意に素になると怖くなるのはなぜなのか。ずいっと近づいてきたDr.ヴィクトルは俺の手を握りぶんぶん振り回してきた。痛い痛い痛い!

 

「よ、よろしくお願いいたします、Dr.ヴィクトル」

 

「うむ!」

 

次からフランケンシュタインについて話を振るのはやめよう、怪物に自分の名前が使われているとか言われたら発狂しかねない。

 

矢来区筑土町にある金王屋の地下を借りて悪魔合体施設を運営しているのがフランケンシュタイン博士改めこのDr.ヴィクトルのようだ。

 

金王屋の主人は海外の取引先を紹介する代わりに貸し出したが、地下が怪しい実験施設に変貌した事は知らずにいる。悪魔合体に莫大な電気を利用すため電気代が凄いらしく金銭面が悩みらしい。

 

挙動、言動に落ち着きが無いという話だが想像を超えていた。業魔殿内の秘密の工房で悪魔合体を行ってくれる悪魔や命を研究している謎の人物で、性格はやや狂気的。研究内容上、デビルサマナーとは共利共生の関係にあるらしい。

 

安倍さん曰く、実は数百年の年月を生きる錬金術師。定期的に吸血鬼から提供された血液で作られた血液製剤を摂取しており、自身も半ば吸血鬼と化している。その為長生きと引き換えに日光の下では生きられない体になった。らしい。

 

本名がヴィクトーフォン・フランケンシュタインなら、その名の通りフランケンシュタインの怪物を作り出したフランケンシュタイン博士本人じゃないか。とんでもない人が住んでるのに金王屋の主人はしらないのか......。豪胆なのか商売以外に興味が無いのか......ある意味すごい人だなあ、と俺は思ったのだった。

 

「さあ、次で挨拶回りは最後だよ。この帝都を護っている凄腕のデビルサマナーがいるんだ。ヤタガラスの創立にかかわったとされる葛葉一族の四天王の中でも最も実力ある者だけが襲名を許されている人でもある。先代がなくなってようやく襲名の儀が終わったらしくてね、まだ僕もあったことがないんだよ」

 

「えっ、そんなに大事な人ならいの一番に挨拶に行かないといけないんじゃ?」

 

「当代は僕と同い年らしくてね、今から行けば学校から帰ってきてるはずなんだ」

 

「あ、そうなんですか、なるほど」

 

「表向きは私立探偵の見習いとして書生をしているからそのつもりでね。ヤタガラスが雇った私立探偵は悪魔が見えないらしいから。たしか14代目になるのかな、葛葉ライドウ。僕らでは及ばない生粋の実力者だよ」

 

「14代目葛葉ライドウ......」

 

俺は言葉を失ったのだった。

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