流星降臨(葛葉ライドウ)   作:アズマケイ

11 / 77
鳴海探偵事務所にて

筑土町最大かつ最新のビルの3階にその社屋兼住宅はあった。

 

探偵事務所はかくあるべし、みたいなオフィスだった。アール・デコ調の装飾品が施された机、椅子、壁、ライト、そして書斎。

 

その贅沢な社屋を維持するには相当の財政力が要求されるはずだが、それは当然ヤタガラスの支援によるものだという。葛葉ライドウの名を襲名する者は名田庄村のような実力者を養成する隠れ里で試練を乗り越えた者のみ。ゆえにヤタガラスは葛葉の里から派遣される若きデビルサマナーの受け入れ、監視する役回りを与えているという。

 

帝都の情報を集約するためにも質の高い探偵事務所を運営する必要があるというわけだ。依頼人からの高い信頼を得るためには必要な演出だとこの探偵事務所の主が主張し、それが認められた形だという。

 

元陸軍諜報員だという鳴海という男の名前が刻まれた探偵事務所に足を踏み入れた俺たちだったが、出迎えてくれたのはひとりの書生と黒猫だった。

 

......やっぱりそうだ、14代目葛葉ライドウってこの青年のことだったのか!アカラナ回廊からこの世界に迷い込んでしまってようやく巡り会えた知っている人間に俺は感激していた。

 

生身でアカラナ回廊に潜れるほどの実力者だったから凄いやつなんだろうとは思っていたが、まさか安倍さんと同い年だとは思わなかった。帝都をたったひとりで管轄するデビルサマナー一族の宗家から認められた分家たる四天王にして最強と誉高い一角に座する人だとは思いもしなかった。今思えば馬の耳に念仏だったんだなあと無性に恥ずかしくなってしまった。

 

「はじめまして」

 

思わず声をかけてしまった俺だったが、14代目はきょとんとした顔をしたまま、小さく会釈してきた。あれ?思っていたのと違う反応に戸惑うが、14代目とあったときには時間旅行中だったと思い出す。そうだ、しまった。14代目からすれば俺は、アカラナ回廊にいるたくさんの思念体、いわばマネキンのようなもののひとつにすぎなかったわけだ。俺だってわかるわけがないじゃないか。

 

俺が先んじて挨拶したことに安倍さんは特に気にかける様子もなく14代目に笑いかけた。

 

「こんばんは、今朝連絡していた安倍星命です」

 

「......こんばんは」

 

「もしかして、君が当代の14代目葛葉ライドウかい?お会いできて光栄だよ。僕は安倍星命。安倍晴明の末裔で、今はヤタガラスの情報部に務めているんだ。よろしくね」

 

握手をもとめる安倍さんに14代目は戸惑いながらも応じた。

 

「こちら、本日付でうちの預かりになった新米のデビルサマナーで、うちの分家筋にあたるんだ」

 

「はじめまして、名田庄村から来た土御門ハルアキと申します。よろしくお願いいたします」

 

「───────よろしく」

 

14代目はあいさつしてくれた。握手もすぐしてくれた。安倍さんの時戸惑っていたのはまだ慣れてないからだろうか。俺があったときよりなんかすごい初々しいな。なんでだろう。

 

「こうしてご挨拶をと思ってきたんだけど、鳴海さんはご在宅かな?」

 

14代目は気まずそうな顔をしているる。

 

「......すまない、鳴海さんはまだ帰っていないようだ。自分が帰宅したときにはすでにいなかった」

 

『大方竜宮にでも飲みに行っているんだろう、いい身分だ』

 

「!?」

 

足元の黒猫が喋った。

 

「はじめまして、業斗童子」

 

『ふむ、うちに挨拶に来るとは安倍家の時期当主は殊勝な心がけの持ち主のようだな、ライドウ。若い連中はこいつが若いからと侮り挨拶にも来ないからな。関心だ。俺は、こいつの目付け役でもある業斗童子だ、ゴウトでいい』

 

「はじめまして、ゴウト。よろしくお願いいたします」

 

「なにか調査をしている途中だったのかな?日を改めた方がいいかい?」

 

「───────いや、自分でよければ話を聞こう。鳴海さんはその......ある人の特別捜査で忙しい」

 

『上司の風上にも置けんようなやつを庇いだてする必要はないぞ、ライドウ。あやつは葛葉ライドウが何たるかも知らずに雑用ばかり押し付けてくる。心配には及ばんぞ、安倍星命、土御門ハルアキ。お前たちがわざわざ挨拶のためだけにうちの事務所に来たとは思えないからな。悪魔絡みの事件に関しては実質俺とこいつで請負っているからな、やつは悪魔すらろくに見えない有様だ。今回だってヤタガラスの関係者の来訪と知りながらナンパしにいっていつ帰ってくるかわからん』

 

俺たちは奥の客用のソファに通され、コーヒーを勧められたが断った。そして安倍さんが口火を切る。

 

「ハルアキがミルクホールのマスターからの依頼で原田商会を襲撃している悪魔の討伐を依頼されてね、こちらに来たばかりだから今回だけは僕がついていったんだ」

 

『わざわざ陰陽師の分家筋にか?ずいぶんと指導熱心とみえる。それほどの才覚の持ち主なのか?』

 

「きみたちには到底及ばないけどね。デビルバスター志望を支援する位には期待できるよ、ハルアキはね」

 

『ほう』

 

「それで、今日さっそく現地捜査だけはすませてきたんだけど、例のごとく魔断震から悪魔が湧き出しているのがわかった。ただ......それにしたって悪魔の数が多すぎるんだ。そもそもなぜあそこに出来たのかわからないところがある。詳細はハルアキの調査次第なんだけど、もしかして似たような事例がないかと思ってね」

 

『なるほど......』

 

「それなら心当たりがある」

 

14代目はそういって、今自分が請け負っている依頼について教えてくれた。

 

「意外だなあ、そんな依頼うけるんだね」

 

安倍さんは不思議そうに呟いた。

 

14代目は今孤児の姉弟から5年前に失踪した母親の捜索依頼を請け負っているそうだ。成り行きから知り合い、前金として焼き芋をもらってしまったため調査をしているという。

 

俺たちは顔を見合せた。目付け役のゴウトも呆れ返っていることから、本来はライドウが受けるような任務ではないようだ。

 

任務の大小で選り好みしないデビルサマナーなのかもしれない。真面目なのだろう。

 

「だが、馬鹿にはできない。調査するうちに東京駅を死体が歩いている、という複数の目撃情報に辿り着いた。実際、近くの葬儀場から死体が盗まれるところに遭遇して、悪魔と何度か交戦している」

 

「首謀者は掴めたのかい?」

 

「いや......」

 

『ヤタガラスの使者に止められてな、追いかけることが出来なかった』

 

「えっ」

 

「ヤタガラスの使者に?きみほどの人間の調査を妨害するなんて......さらに上の人が干渉しているってことかい?穏やかじゃないね」

 

『そちらで心当たりはないか』

 

「そうだなあ、東京駅でしょ?鉄の結界くらいかな、思い当たるのは」

 

安倍さんはそういって14代目たちに今の帝都の頻発する地震の原因について話した。

 

大事なのは東京駅も使用される山手線は平将門の怨霊を封じるための鉄の結界であるということ。鉄材は霊が宿るものでり、また霊魂を寄せ付けない(霊は通り抜けられない)。

 

山手線は、この北斗七星を分断する形で路線が敷かれており、将門の首と胴を(霊力を遮断する)鉄の輪で分断することで将門の怨霊の力を弱めることが目的だった。

 

手線が描くループによって、兜神社は東の外側、鎧神社は西側の外側に位置。これにより将門の首と胴と完全に断ち切り、パワーを封印している。

 

ちなみに、中央線は、霊峰・富士からの“気”を皇居に取り込む目的で作られた。中央線の終着である高尾には多摩御陵や武蔵御陵があり、天皇家の聖地、霊的パワーの発信地となっている。

 

中央線は山手線のループとを交差し、皇居、そして円を描きループした後、内房線は成田に至る。 成田山は将門調伏に関係のある場所。

 

北斗七星の結界を分断する山手線の鉄の輪がもう少しで完成して繋がってから、魔断震が頻発しているのはたしかだ。

 

「東京駅は氣の流れなのはゴウトも知ってるよね」

 

山手線の2つ目の目的は都心を守る為の鉄の結界を作るためだ。山手線の路線図を見てみると、丸い環状線状の路線になっている真ん中を蛇行するようなかたちで中央線が引かれている。

 

これを図にすると陰陽道の対極図(陰陽図)が浮かび上がってくる。陽の部分(白い部分)を山の手と呼び、陰の部分(黒い部分)を下町と呼ぶ。

 

下町の全てではないが、あまり治安が良い場所ではなく、どちらかというと治安が悪い場所だ。治安が悪いから悪い気が溜まるのか、元々悪い気が溜まりやすいから治安が悪いのかは不明だが、その悪い気から「皇居を守っている」というように読み解く事も出来る。

 

陽の陰にあたる部分には皇居があり、陰の陽の部分には新宿にあたる。

 

山手線の設計が行われたのは第一次世界大戦中という事もあり、皇居を守る為にこのような大がかりな鉄の結界を引いた。

 

戦争になれば鉄は貴重な資材である。そんな時期に作ったところで爆撃にあえば簡単に破壊されてしまうリスクもある中で、何故こんな大がかりな工事をしたのか。考えれば考えるほど不可解でしかないが、これが答えだ。

 

新宿は様々な陰が溢れる中で、眠る事の無い煌びやかな不夜城であり、日本随一の繁華街は様々な欲望が渦巻いている。まさに陰の中の陽そのものだろう。

「明治政府が敷いた鉄の結界をより強化するには人の魂を集めるのがてっとりばやいんだ」

 

「え?」

 

「───────それは......?」

 

「有名な話じゃないか。明治政府は、東京の守護を将門の霊力ではなく、新政府のために亡くなった人々の霊によって行おうとしているんだよ」

 

安倍さんは俺にくれた地図を14代目に見せた。

 

「このレイラインを将門の北斗七星を重ねてみると、七星のレイラインがズタズタに切られているのがわかるよね。代わりに作られた結界は明治政府の魔方陣のポイントをあげるよ。まずは靖国神社、国のために戦死した人々を顕彰している。谷中霊園は明治6年に出来た神式公共霊園だ。雑司ヶ谷霊園も明治6年に出来た神式公共霊園。築地本願寺は江戸最大の庶民の墓所。青山霊園もまた明治6年に出来た神式公共霊園。この霊園は正確な長方形、そしてその対角線の交点に靖国神社。これが明治政府魔方陣だよ。位置的にこの国を守るためにつくられているんだ。これは鉄の結界も連動している。どこで増幅するかはきみたちの方が詳しいんじゃないかな、東京駅建設に携わったのは葛葉一族なんだから」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。