流星降臨(葛葉ライドウ)   作:アズマケイ

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天主教会にて

「東京駅近辺の魔断震か......情報部でなにかないか洗ってみるよ。なにかわかったら、すぐに連絡するから。ハルアキ、使いを頼むことになると思うから、その時はよろしくね」

 

「わかりました、任せてください」

 

「自分は魔断震が意図的なものか調べてみる」

 

『そうだな、ハルアキは原田商会の襲撃事件を追いかけているのだろう。東京駅は距離があるからな、悪魔の異常な発生が意図的な魔断震と繋がりがあるのだとすればまずい。だからそのあたりを調べてもらえるとありがたい』

 

「わかりました、野良の悪魔と放たれた悪魔がなにかわかるよう調べてみますね」

 

「話がまとまったみたいだし、そろそろお暇しようか、ハルアキ。もう外は夜みたいだ」

 

「そうですね。14代目、ゴウト、これからよろしくお願いいたします。それではまた」

 

「ああ、また、な」

 

『情報提供感謝する。次は俺たちが借りを返す番だ、明日は早いうちに動くぞ、ライドウ』

 

「......ああ」

 

お見送りしてくれた14代目は笑ったよいな気がした。

 

「明日はどうする?」

 

「そうですね、天守教会は一般にも解放されているようなので、一度エルフマンから話を聞いてみようと思います。あとは周辺の悪魔に聞き取りしながら、様子を見て襲撃者の討伐かな」

 

「なるほど、じゃあ1日晴海町にいるんだね。頑張って。学校行かなきゃいけない僕がいえたぎりじゃないんだけど」

 

「華族のご子息が学校サボる訳にはいかないですよね、お疲れ様です」

 

「ありがとう。明日からは1人になるけど頑張ってね、ハルアキ」

 

「ありがとうございます」

 

「さあ、あとはタイプライターの使い方を教えたら今日の仕事は終わりだね。お疲れ様」

 

 

 

 

 

 

翌日、俺は天主教会の前にいた。天主とはローマ・カトリックの教会を指す。噂通り一般に解放されており、俺もあっさり入ることが出来た。生きがいや神の救いをもとめている方々のために、教会の門はいつも開かれている、という態度がうかがえる。ミサが始まる少し早い時間に来たのは、エルフマン神父の話を聞くためだ。

 

「はじめてなのですが…......」

 

エルフマン神父をしているようで、親切にも天主教会内を案内してくれた。

 

「なにも心配なさらなくても大丈夫です。はじめはなにもわからなくてもいいのです。そのうち少しずつわかるようになります。今回のように早めにお越しいただきますと対応することができますよ」

 

「今日はミサの日だそうですが、ミサってなんですか?」

 

「ミサとは、カトリック教会で行う一番大事な祈りです。人々が集まりに賛美と感謝を捧げる儀式です。儀式を通じて、イエスが何をしたのかを忘れずに思い起こし、神とともにいることを実感することに意味があります。それと同時に、一緒にミサに参加をしている人たち、さらには神につくられたすべての人たちとつながっていることを実感する儀式でもあるのです」

 

「なるほど......ミサにはいつ行けばいいんですか?」

 

「基本的には今日のように毎週日曜日の7時からはじまり9時におわります。平日のミサは7時からはじまり30分ほどで終わりますね。また、結婚式、葬儀などの大事な時にも行います、まず、教会に入って、空いている席についてください。教会には、式の途中であっても、どなたでも自由に入れます。中に入ったら、人がすわるときには自分もすわり、立つときには自分も立つというようにまわりの人と同じようにすれば大丈夫です」

 

「毎週日曜日かあ......わかりました。ミサって具体的にはどんなことをするんですか?」

 

「私のような司祭......神父は敬称で、司祭が正式な名称なのですが、司祭が司式し、信者のみなさんとともにミサを捧げるのです。もちろん信者の方だけでなく一般の人も参加できますよ」

 

エルフマン神父は俺がミサの時間なんかを詳しく聞きたがったことから、興味をもってくれていると思ったようで色々と教えてくれた。

 

「教会とはキリストを信じる人々が集まり、お祈りをする家であり、空間です。そもそもキリスト教では、神様はどこにでもいらっしゃると考えています。神社のようにそこに行かなければ神様に会えないというわけではありません。キリスト教の教えを信じる人たちが集まって、皆でお祈りし、神様の教えを学ぶ場所が必要だったので教会が建てられたのです」

 

エルフマン神父はステンドグラスや外から見えるように整備された中庭などを指さした。

 

「教会がなぜこんなに美しいのかとよく聞かれるのですが、それは美しさによって神をたたえるという考えがあるからです。カトリック教会ではとくに感覚的なものを大切にしています。言葉で教えを説くだけではなく、美しいものを見ること、聞くことで神を感じてほしいと考えています。カトリック教会では、主イエスや聖マリアの聖像を見ることが出来ますが、私たちは聖像を神様だと思い拝んでいるというよりも教会を訪れた人々に、神様を想起する手段と考えています。神様が与えてくださった五感を使って、神様をより身近に感じていただきたいのです」

 

「エルフマン神父は神様を感じたことはあるのですか?」

 

エルフマン神父は俺の問いにニコリと笑った。

 

「ヨハネによる福音書にはこういう一節があります。『父を見た者は一人もいない。神のもとから来た者だけが父を見たのである』......つまり、人間には神を見ることが許されておらず、それはキリストにのみ許されているということであります。私は、そのことを謙虚に甘んじなければなりません。神を知ったり見たりすることはできないということです。神をわかることは許されないということです。私は、五つの感覚器官を超えたものを憧れ求める心が与えられています。それが「信ずる」という人間のみが持っている、人間のもっとも優れた能力なのですよ。ゆえに見たことも感じたこともありませんが、ゆえに信じているというわけですね」

 

「それがエルフマン神父の考える信仰なんですね」

 

「そうですね。教会は誰にでも開かれていて、自由に礼拝することができる場ですが、信徒でなくても神様を敬う気持ちを持つことが大切です。ミサや行事、観光などの目的で教会を訪れる際は、ただ入るのではなく、神の前へ出るという意識をもち、神への敬意を忘れてはいけません。雑念を払って沈黙し、礼拝するようにしましょう、と私はみなさんにお話しています。土御門さんはミサに参加されますか?」

 

「白金台から通うことになるので、毎日とはいかないと思います」

 

「白金台からわざわざ!それは大変ですね。私もこの教会を維持するために仕事をしているので平日は7時しか時間がとれないのですが、日曜日でしたら9時までしています。お待ちしていますよ」

 

「わかりました。ええと、ミサでやってはいけないことってありますか」

 

「そうですね。まず、聖堂の中では、肌が多く露出したものなどはさけて下さい。帽子やサングラスは外し、タバコや飲食、ましてや飲酒は厳禁です。礼拝の前はタバコやお酒を控えるなどマナーを守りましょう。信者のみなさんにはミサ一時間前には飲食を控えるようお伝えしているのですが、土御門さんのような一般の方にまで強いることはしませんよ。もちろん、改宗したいというお申し出はいつでもお待ちしています」

 

「わかりました」

 

俺は一礼して長椅子に戻った。

 

会話をするかぎり、エルフマン神父が敬虔なキリスト教徒なのは間違いない。これが大破壊前のメシア教の在りし日の姿なのかと思うとなんだか不思議な気分になる。キリスト教のカトリックという宗派がなぜメシア教にかわっていったのか、ただのテンプルナイトである俺は知り得る立場ではなかったが、あまりにも変質してしまっているような気がしてならない。同じ神を信じる教えのはずなのに、どうしてここまで変わってしまっているのか。

 

俺みたいな一般人でも自由に参加出来るみたいだから、ミサに参加すればなにかしら答えが見つけられるだろうか、とぼんやり思う。

 

考え事にふけっていると、視界の隅に黒が横切った。顔を上げるとエルフマン神父と同じ神父の服を着た男が近づいてくるのがわかる。

 

「───────ッ!?」

 

俺は思わず立ち上がった。その男は聖書を広げるなり、詠唱を始めたからだ。それは安倍さんが式神を顕現させる前とよく似ていた。あれは聖書型のCOMPだ、あの男デビルサマナーだ!!俺はあわてて男とエルフマン神父のあいだにわってはいった。そして襲いかかってきた邪鬼を切り捨てる。

 

「神父の格好してるくせに、使役するのは邪鬼とか無茶苦茶だな!?」

 

男は舌打ちをした。

 

「昨日からコソコソ嗅ぎ回っていると思ったが、やはりか。邪魔だ、そこをどけ」

 

「それは困る。襲撃者の討伐が依頼なんでね」

 

「奇遇だな、お前のような存在が我々の排除対象なのだ。のこのこと自分から現れるとは愚かな......お前の存在自体がこの歴史を間違った方向へ進めてしまうのだとなぜわからない。潔く死ね」

 

どういう意味かと詰め寄る前に天主教会全体が真っ黒にぬりつぶされていくのがわかった。

 

「エルフマン神父、俺から離れないでください!」

 

「え?あ、ああ......はい」

 

俺はエルフマン神父を庇いながらCOMPを起動した。襲撃者は異界に俺たちを引きずり込んでしまったようだ。ああもう、めんどくさいことになってきたぞ!?

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