センターはメシア教が主導権を握っている。だから、テンプルナイトに身を置く俺は、当然ながらメシア教を信仰している。
メシア教はその名のとおり、救世主(メシア)の出現を信じており、その力によって世界が救われることを信じている宗教だ。「信じるもの 皆 救われる」と謳うが、いつまでも救世主が現れないと市民が不満を募らせてもいる。
秩序を重んじ、すべては法の下に管理されるべきであるとしている。基本的には物静かな態度で慈悲深く人々に教えを説いていくような口調で他人と接するが、法に従わない者や救世主の出現を否定する者に対しては非常に厳しい態度を取る。
完全なヒエラルキー階級の下に成り立っており、秩序と平和はあるが個人の自由はないに等しい。統制された世を乱す悪魔は彼らにとって邪悪な存在となるため、悪魔との共生を考えたり、自由意志をうたう集団とは対立している。
俺が信仰しているメシア教とエルフマン神父から少しだけ教えてもらえたメシア教の前身だとセンターの養成所で習ったキリスト教。あまりにも違う在り方に対する動揺よりも、今エルフマン神父に死なれたらこの動揺を納得に着地させるまでの手段が失われてしまうという焦りがあった。
正直、キリスト教の司祭の前でドミニオンやケツアルカトルを出すのは不味いとは思ったが、敵が複数召喚してくる以上一掃するにはドミニオンたちの力が不可欠なのだ。背に腹はかえられない。
後ろで終末にしか降臨しないはずの天使の名前を叫んだ俺にエルフマン神父がびっくりしている声がするが気にしている暇はない。
「マハンマッ!!」
少しでも頭数を減らすために魔法を発動する。俺の周りに光が溢れる。それは拡散する波動となり動揺したとはいえ、一度会得した神聖なる力は無事に邪鬼を一撃で昇天させていく。よかった。ほっとした俺はCOMPの悪魔召喚プログラムを起動した。
さすがに男は反応すらしない。人間は通常破魔属性の魔法に対して耐性があるから無理もないが。
本当は5体フルで出したいがマグネタイトが枯渇したら戦力維持もままならなくなる。置物になるくらいならギリギリバトルが維持できる数だけ召喚するしかない。
《SUMMON OK?》
「ガルーダ、エルフマン神父をかかえて敷地外にでてくれ。ここは狭すぎる!ドミニオン、力を貸してくれッ」
「待ちわびていましたよ、ハルアキ」
「他ならぬ我が友の頼みだ、助太刀しよう。───────しぬなよ?」
「縁起でもないこというなよ、しなねえってば!!」
ガルーダは冗談だ、と笑うなりエルフマン神父のところに向かう。エルフマン神父は悪魔が見えない人間のようだから、敵からの不可視の攻撃を俺が切り捨てているか、時折不思議な光があたりを一掃する光景しか見えないはずだ。なにもないのに連れていかれるのは恐怖しかないだろうがここにいては守るものも守りきれない。
そして、エルフマン神父をともなったままガルーダがトラエストで戦線を離脱した。
そして、待機の最中に詠唱を終えていたようで、即座にドミニオンの真下に俺を含めた魔法陣が形成される。その外には強烈な光が走り、ひび割れるようにしてまたたくまに天主教会の敷地内全体に広がった。逃げ場はなかった。
「天罰」
破魔属性の攻撃ではあるが、この魔法は本人の思想を起点にダメージが増減する特大魔法だ。邪鬼を扱うだけあって敵は思想的に俺たちとは敵対するものだったようで効果は覿面だった。男は呻いた。だがドミニオンは難しい顔をしている。
「......む、思ったよりダメージがでませんね。世界が違うから理が違うのか、私が完全に実体化していないから威力がでないのか。すいません、ハルアキ。仕留め損ないました」
「マグネタイトの不安は常にあるからなあ。無意識にセーブしてるのかもしれないな。シバブー......は、やめとこうか」
あわよくば拘束してやろうと思ったがさすがに効果はないようだ。精神面がずば抜けて鍛えられているか、無効化する装備アイテムでも持っていた場合無駄になってしまう。それはこまる。これは支援を期待しながら切り込むしかないな。ドミニオンが詠唱をはじめる。
俺はプラズマソードを構えたまま距離をとる。
無言のまま俺は男と対峙していた。その無限の交差の中、編み込まれて行くある思考。目もはなさず見つめている。が、男はまだ口を開かない。ただ、彼の顔には意味深な喜びがおりから吹きだした明け近い風のように、静かにここちよくあふれて来る。いいようのない気持ち悪さがあった。不気味だ、この上なく不気味だ。
この男はなにをみているんだろうと警戒心が沸き上がる。まるでこの暗い異界の向こう側に、人間の目のとどかない遠くの空に、冷ややかに存在する不滅ななにかを見たのかもしれない。
「ドミニオン、来るぞ」
「ハルアキ、あなたは?」
「すぐにやられるようなタマじゃないさ」
そしてその思考によって解きほぐされていく心理という名の結び目。戦いの扉は開かれたのだ。そしてそこに水を差す一条の光、その光はさながら破滅の光だった。
「メギドラオンッ!!」
邪鬼を一掃され、本気を出てきた男が繰り出してきたのは、天主教会という狭すぎる戦場において回避が不可能な特大の万能魔法だった。視界が真っ白になる。
「───────ほう、立っていられるか」
「これでもテンプルナイトの端くれなんでねッ!」
口から生暖かい物がでてきたが気にせず切りかかる。男は法衣を翻すが間に合わない。腕を切り捨てる。これで聖書型のCOMPは落とされた。これで追撃はないとは思うが、一応聖書を遠くに蹴飛ばした。男は笑った。
「わざわざ至近距離まで近づくとは愚かな」
「!?」
「まったく無茶をする!」
ドミニオンの回復魔法が俺にかけられる。
「いつまで持つか試してやろう───────メギドラオン」
「なっ!?」
聖書型のCOMPなしでメギドラオンを発動、しかも2発は予想してなかった。人間なのかこいつ!?
あたりはさらに悲惨な状況に陥っていた。俺もドミニオンの回復魔法がなかったら死んでたに違いない。大ダメージを負った感覚はあるがかろうじて意識は保っていられた。助かった。
「ほら言わんこっちゃない、放っておいたらすぐにあなたは死に急ぐ。私がいないとやはりだめですね、ハルアキ。大丈夫ですか?」
「ありがとう」
「あれだけいっても耳を貸さなかったハルアキが、やっとのことで神の教えに耳を傾ける気になったのにその気にさせた敬虔な教徒を殺しにかかるとは余程死にたいと見える。その願い、かなえてさしあげようではありませんか」
いつになく声が冷たい。ドミニオンは相当怒っているようだ。
「───────マハジオダインッ!!」
狭い敷地内では逃げ場がなかった。全てが爆発四散し、粉塵が舞う。
「......やはり、お前たちは危険だ。排除対象として優先順位をあげるべきだと報告するとしよう」
「!?」
男の吹き飛んだ腕から電気がはしる。ようやく俺は法衣からのぞくコードに気づくのだ。義手どころの話ではない。そいつは人間ではなかったのだ。
「なんなんだ、お前っ!」
「知る必要などない」
「ハルアキ、近づいてはいけません!」
腕が自壊する。そして爆発した。ドミニオンが俺を庇ってくれなければ怪我を負っていたに違いない。異界とはいえ瓦礫だらけになった天主教会は、連れ込んだ襲撃者が離脱したためか俺たちは元の場所に戻ることができた。
「死んではないが死にかけているではないか、ハルアキ。まだまだ精進が足りぬ」
「少しは労わってくれよ、ガルーダ......あいたたた」
「私はもう魔力がつきましたよ、ハルアキ。回復してほしければアイテムを下さい」
「わかってるって、まってくれよ俺1番重症なんだが!?」
「まったく」
「......ええと、きみは......いったい?」
透明人間に世話をやかれているのを不思議そうにみながら、エルフマン神父は問うてくる。
「あ、もうそろそろミサが始まりますね。これはいけない、こちらにお越しください。信者の方がきてしまう」
「ありがとうございます」
俺は、教会に通じるエルフマン神父の邸宅にお邪魔することになったのだった。