俺はマスターへの報告と昼食を兼ねてミルクホール新世界にいた。この世界に来てから携帯食や人工肉や野菜とは縁遠いおいしいものばかりお金を出せば食べられるから楽しみでならない。
ミルクホールはお酒も出る喫茶店みたいなもののようで、軽食が出てきた。マスター曰く、ひと仕事前に1杯飲んで出かけるのがデビルサマナーの常識らしいが、俺はアルコールからなにから偽物のなんちゃってな酒しか飲んだことがない。本物飲んだらどうなるかわからないから、休みの日に飲むことにしよう。
「なるほど......襲撃者は人間ではなかった、というわけですね。人間によく似たロボットとはまた......。ただのダークサマナーではなかったとなると、原田商会への襲撃は個人ではなく組織が背後にいることになりますね」
「夕方にでも安倍さんに報告を上げるつもりです」
カウンターにあの男の義手の残骸と聖書型のCOMPを出した。
「残骸はほとんど跡形ないので、手がかりになりそうなのはこれくらいですね」
「私の目にはただの聖書にしか見えませんが......」
「これが安倍さんの式神、14代目の管みたいな役割をしていたのは間違いないです。この目でたしかに見ましたから。ここから魔力を流し込んで起動するタイプみたいです。どうやらロックがかかってるみたいなんですよね、解除さえ出来れば契約してる悪魔から話を聞けるんですが」
「海外ではそういう召喚方法もあるのかもしれませんね......。この国では見たことがない召喚方法だ。興味深い御報告ありがとうございます」
「残念なのは取り逃したことです。今回の襲撃を失敗に終わらせたから、俺も目をつけられたみたいだ。一応、トラエストもちの悪魔をエルフマン神父に護衛につけたので、ひとまずは様子見ですね。この任務、長丁場になりそうです」
「はじめての任務のつもりでおまかせしたのに、大事になってしまいましたね、申し訳ありません。ただの襲撃事件だと思っていたのですが......」
「大丈夫ですよ、マスター。あのあたり、強い悪魔がたくさん出るからマグネタイトの確保に事欠かない。助かります」
「いえいえ......途中報告ありがとうございます。初日からふたりのうち一人を特定するとはお見逸れしました。引き続き調査の続行をお願いいたします。こちらは本日分の報酬になります。どうぞ、お納めください」
マスターから今回の報酬のお金とアイテムをもらった。おお、すごい、当たり前だけど現金だ。電子マネーが当たり前だった俺にはなかなかの衝撃である。俺の世界で換算するならいくらくらいになんのかなあ.....さっぱりわからん。高いのか安いのかわからないが数字はさいわいこの世界も同じだから数字さえあえば支払いくらいなら出来るのだ。
「土御門様には本日からお安くいたしますね。これからも引きつづきよろしくお願いいたします」
「ほんとに?ありがとうございます」
よし、これからしばらくはここで昼ご飯を食べることにしよう。ほんとは安倍さんに連れて行ってもらえた銀座のお店をまた覗いてみたいがゼロの数がここよりひとつ多いのだ。安倍さんのところに衣食住をお世話になっているとはいえ、少しでもお金を貯めて迷惑をかけないようにしなければ。
「あ、そうだ、マスター。このあたりにマグネタイトの売買をしているところってありませんか?」
「マグネタイトのですか?いえ、聞いたことがありませんね」
「そうですか、残念だなあ......。どこかにマグネタイトとお金を換金できる所があればよかったんだけど」
「ふふふ、土御門様は面白い発想をなさいますね。マグネタイトはエネルギー体ですから、それを売買するとなれば固体にする技術が必要でしょう。もし実在するとしたら、唯一無二の技術だ。革新といっていい。私の耳にも入ってくるはずですが、あいにくそこまでの技術がある組織については聞いたことがありませんね」
「そうですか......残念だなあ」
さすがにこの時代はその確信的な技術をもつ生体エネルギー教会はまだ存在していなかったようだ。そのおかげで俺のCOMPはマグネタイトを貯めることが出来るのだが。いつでもマグネタイトが買える環境さえあれば毎日悪魔討伐しなくてもいいのではと思ったがどうも上手くいかないらしい。
「しかし、あれですね。魔断震の発生と襲撃者の背後にいる組織が関係あるとするならば、なにやら帝都全体に不穏な動きがあるようだ。うちにくるお客様にはそれとなく注意を促したいと思います」
「そうですね、是非そうしてください。ああ、そうだ。東京駅近辺の死体が歩くという事案は14代目......ええと、14代目の葛葉ライドウさんが調査しているはずなので、特に注意するよう伝えてください。どうもヤタガラスは帝都の結界を強化しようとしているようで、その余波らしいんですよ」
「......ほう?それは初耳ですね。いつもならばヤタガラスから関係者を通じて事前に通知があるのですが......」
「あれ?そうなんですか?てっきりヤタガラスはヤタガラスで独自に動いてるのかとばかり。14代目が跋扈する死体の調査をしていたら、ヤタガラスの使者から止められたって聞いたのになあ」
「ヤタガラスから帝都の守護を命じられているはずの葛葉ライドウさまのところに伝令が降りてこない......ますますおかしいですね」
「ああ、そうでしたっけ。言われてみればたしかにおかしいなあ。......でも直接伝令を伝えてくるはずのヤタガラスの使者を間違えるわけないだろうし......やっぱりヤタガラスの内部で独自に帝都の結界を強化しようとしている勢力があるってことですかね?ヤタガラスも1枚岩ではないみたいだし」
「その可能性は高そうですね......。土御門様が交戦されたダークサマナーの暗躍にヤタガラスの不穏な動き......原因不明の魔断震......近いうちにとんでもないことが起こりそうでなりませんな」
「俺に出来るのはなにか知ってるはずのダークサマナーの調査だけですね......がんばります。マスターも気をつけてくださいね」
「ありがとうございます」
マスターは俺にコーヒーを出してくれた。
「あれ、俺頼みましたっけ」
「これはサービスですよ。土御門様のおかげでたった数日にもかかわらず大きな動きがありましたからね。あなたの実力はたしかに拝見いたしました。よろしければ、デビルバスターとしてうちでご紹介させていただいてもよろしいですか?」
「えっ、いいんですか?」
「もちろんです。むしろ、ご紹介させてください」
「ありがとうございます!」
「依頼がありましたら、私が承りますのでお立ち寄りください」
「わかりました。えーっと、仲介料はどれくらいですか?」
「そうですね......では報酬の20パーセントでいかがでしょうか」
「わかりました、お願いします」
正直高いか安いかさっぱりわからないけど、食事代が安くなるなら他を利用するよりはいいや、となにも考えずに俺は決めたのだった。
あとで安倍さんに聞いてみよう。