「そんなことがあったのか......初日からお疲れさま。デビルバスターとしてはなかなかのスタートが切れたようだね」
「安倍さんに支給してもらったアイテムがなかったら、今頃エルフマン神父を守りきるどころではなかったです。ありがとうございます」
「きみの仕事の足しになったならよかったよ」
安倍さんはそういって笑った。でも俺が四苦八苦しながらうったタイプライターの文章を読みながらだんだん表情が強ばっていく。
「そうか、ダークサマナーの後ろに謎の組織の影.....ダークサマナーは私利私欲のために悪魔使いの力を使う人間のことだよ。徒党を組むなんて聞いたことがない。まして、オーバーテクノロジーな機械の悪魔使いなんて......」
「聖書型の悪魔召喚器なんて見たことないです。ロックがかかってるみたいで、俺では解除できませんでした。それとこれが自爆したやつの腕の残骸です。この時代にこれを修理できる技術があるとは思えません。次会う時は多分片腕のはずです」
俺は天主教会から持ち帰ってきた戦利品を安倍さんに差し出した。
「ありがとう。一応、解析班に投げてみるよ。きみですら無理ならここから犯人を追跡するのは無理そうだけど......。うちでダメならDr.ヴィクトルに素材として提供した方がいいかめしれないね。それに気になるのはきみの正体についてバレてるってことだ」
「それは、俺も気になってました。俺が将来人だってすぐにわかるなんて、自分も将来人だっていってるようなものですよね」
「うん、僕もそう思うよ。しかも、相手はどうやらアカラナ回廊について詳しい......。きみと同じか、さらに未来からきた人間の可能性があるわけだね。今のこの国の流れは彼らにとって良くない流れ......いわば消滅の危機だから排除しに来たってことか。真面目に受け取るなら、ハルアキがはやく元の時代に帰ったほうがいいんだろうけど......。でも、ハルアキがアカラナ回廊を使うにはまだヤタガラスに有用な人間だと示さないと許可が出そうにない。無茶なこというよね。これは情報局の中でも上に判断をあおがなきゃならない規模の話になってきたなあ」
「何度もすいません、安倍さん。お願いします」
「うん、もちろん報告はあげるよ。僕らが頑張れば頑張るほど、帝都に迫り来る危機に対応が早くなるし、陰陽師の発言権が増す。次期当主として僕にできることはそれくらいだからね、気にしないで」
安倍さんはそういいながら俺に封筒をさしだしてきた。
「これは?」
「東京駅近辺の事件について、情報局で情報収集してみたんだ」
何枚か紙がでてきたのだが、俺は固まるしかない。大正時代は日本語を使っているから頑張れば読めないことはないのだが、カタカナや漢字の使い方が俺の世界と違いすぎてまるで暗号のようなのだ。じっとしている俺を見て、あー、と安倍さんは苦笑いした。
「言葉は通じるのに読み書きになると時代の落差を感じるね。そっか、読めない?」
「ごめんなさい、なんとなくニュアンスはわかるんですけど細かいところはサッパリ」
「あはは、そっか......どうしようかな。いつも会えるわけじゃないし、うーん......あ、そうだ。きみ、ドミニオンを連れているということは英語は読み書きできる?」
「英語ですか?あーはい、大丈夫です」
「そっか、なら次からはそっちで報告した方がいいかもしれないね。一応、これは読めるかい?」
安倍さんが差し出してきたのは、海外のデビルバスターたちの活動をまとめた書籍であり、あたりまえだが英語でかかれている。
「......所々難しいですけど、なんとか」
「辞書いる?」
「あ、ありがとうございます。これならなんとか。ええと......吸血鬼の起源とキリスト教とのかかわり、変遷あたりがまとめられてますね」
「よかった。それがだいたい読めるなら大丈夫だね。次からは英語にするよ」
「わかりました。ええと、俺の報告書は?」
「え?あー、いや、それは日本語のままでお願いできるかな。きみの報告書を作り直して情報局に提出してるから。ヤタガラスの情報局は英語にそこまで堪能な人ばかりじゃないんだよ」
「あはは......そうなんですね」
「うん、ヤタガラスといってもピンからキリまでいるよ。大きな声ではいえないけどね」
「ええと、これはあれですか。東京駅近辺を死体が歩くっていう怪異の正体ですか」
「うん、ライドウの情報を頼りに調べたら吸血鬼の真祖にまでたどり着いちゃって参ったよ。帝都でそいつを使役できる人間なんて指折り数える人しかいない。みんな、僕の立場だと気軽に話を聞くことすら許されないレベルの地位の人ばかりなんだ」
「そんなに?」
「うん、ヤタガラスの創立に関わった葛葉宗家とか四天王とか」
「14代目とか?」
「本来はそうなんだけどね。当代はまだ若いからか目付け役も着いているし、本人がそこまで気にしていなかったからよかったけど本来はそうだよ。あとはヤタガラスの家紋を許された分家とか」
「分家......」
「話を聞くことはできないけど、調べるのは自由だからね。吸血鬼の始祖を使役して大規模なことをヤタガラスに無断でしているのに止めようとしたライドウの方が咎を受けるほどの地位の人は、みんな表向きの地位も高いんだ。半ば公人だからそちらから調べたほうが早いこともある。今回はうちが華族でよかったよ。東京駅付近でパーティなんかがあれば入り込みやすくなる」
「東京駅でパーティ......?」
「あんまりイメージわかないかな?一回いってみるといいよ、きみの時代とはまた違う位置づけなのだろうことは間違いないからね」
安倍さんは何枚か写真を見せてくれた。
東京の玄関口として1908年に建設工事を開始し、6年もの歳月をかけて1914年に長さ約335mにも及ぶ鉄骨レンガ造りの3階建ての東京駅は開業した。正面に皇室専用玄関を設け、南側のドームが乗車口、北側のドームが降車口とされ、駅前は広大な広場が作られた。外壁を彩る仕上げ用の赤レンガは90万個を超えたという。
東京駅開業から1年後の1915年、東京都丸の内駅舎内に東京ステーションホテルが開業した。客室数56室、バンケットを備えたヨーロッパスタイルのホテルは、壮麗な建築と最先端の設備で当初から連日満室の盛況である。
設計を行ったのは建築家・辰野金吾。イギリス留学の経験をもつ、日本における西洋建築のパイオニアだ。駅舎の設計期間は8年に及び、乗車口や中央郵便局、皇室専用玄関などをひとつの建物にまとめあげ、3階建てに設計された。他にも数多く日本の国家の権威を象徴する建築を数多く手がけている。
なるほど、俺の脳内の映像がようやくエレベーターみたいな味気ない光景から真っ赤なレンガ造りの洋風の建物に更新されたのだった。
「近々、東京駅のホテルで著名人を集めたパーティが行われるそうなんだ。父に頼んで参加してもらう予定だから待っててね。ダークサマナーが仕掛けてくるとしたら、そのパーティだと思う。内部に潜入するにしたってチケットくらいは用意しないといけないから」
「わかりました。ええと、14代目にはどこまで報告すれば?」
「もちろん全部だよ。きみたちが主に動くことになると思うからね。チケットのことは心配しなくていいって伝えてくれるかい?僕は父と主催者に挨拶って形で接触しようと思うから」
「わかりました、ありがとうございます」