流星降臨(葛葉ライドウ)   作:アズマケイ

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鳴海探偵事務所にて2

鳴海探偵社に行こうと準備していた俺だったのだが、使用人の人が電話を預かっていた。なんでもエルフマン神父の誘拐未遂事件(彼はそういって相方に説明したようだ)の助けてくれたお礼がしたいとのことで、原田商会から是非とお誘いがかかったのだ。待ち合わせ場所は銀座にある竜宮、妹の嫁ぎ先だ。

 

14代目への報告を終えたらすぐにいくと午後の約束を取り付けた俺は、すぐに新宿に向かったのである。

 

鳴海探偵社なのに鳴海という人とは今回も会うことは出来なかった。俺は14代目とゴウトに招かれて高そうなソファに身をおちつけた。

 

「大丈夫ですか、14代目。肩に怪我?」

 

「いや、大丈夫だ。これは治療痕、違和感が残るだけ」

 

「えっ、治療痕?なにがあったんですか?」

 

俺は14代目たちも大変な目にあっていたのだと知ることになる。

 

「えええっ、首謀者と交戦した!?大丈夫だったんですか、14代目!?」

 

14代目は静かに首をふった。

 

『若さゆえの完敗、とはよくいったものだな』

 

「え、負けたのですか!?」

 

「たしかに、自分の完敗だった」

 

『初めての説教部屋はどうだった』

 

「......堪えた」

 

『ふふ、誰しもが通る道なのだ、精進しろよライドウ』

 

「説教部屋?」

 

『うむ、葛葉一族の者はみな実質不死なのはお前も知っているだろう、ハルアキ?』

 

「ああ、はい。聞いたことがあります」

 

それは40代目のあいつから聞いたことがあった。葛葉一族はその特殊なあり方を守るために誰しもが魂さえ砕けなければ、別の体に憑依することで生き長らえることができる術を会得しているらしい。だから、死んでも魂さえ無事なら身体を蘇生させて、また魂さえ元に戻れば実質不死なのだ。もっとも自分の体が無くなると面倒なことになるとはいっていたが、まさかその面倒なことだろうか。

 

『不死の身に任務失敗の罰を与えるのは容易ではない。ゆえに蘇生前に例外なく魂は歴代ライドウが待つ異空間に送られるのだ。そこで叱責をうける。ゆえに説教部屋。なかなか堪えるぞ』

 

「うわあ......大変でしたね、14代目」

 

「ありがとう、ハルアキ。次は負けない」

 

14代目は思い返すたびに自分の不甲斐なさを思い知らされるのか、はたまた説教部屋を思い出すのか、浮かない顔をしている。

 

生真面目な性分にはただでさえ若すぎる襲名による重責があるのに、歴代ライドウから直々に叱責されるとか精神的にキツいにも程があるんじゃないだろうか。葛葉ライドウという名前の重さに俺は驚いていた。死んだら終わりじゃないのはある意味きつい気がする。

 

14代目曰く、東京駅で見たことがない規模の魔断震を発見し、依頼人の母親を見つけたために追跡した先で首謀者たる男と交戦したらしい。

 

「悪魔の軍勢に囲まれた時点で撤退すべきだった。Dr.ヴィクトルがいなければ、今も自分は昏睡状態だ」

 

14代目はため息をついた。

 

『少々面倒なことになりそうだ───────やつは葛葉ライドウより地位が上だからな』

 

「知ってるんですか?」

 

『当代に会うのは初めてだが、初代に会ったことはある。直接指示をうけることはなかったがな。奴もまた代々襲名する立場ゆえ知っている。やつの名はサイガ......雑賀孫市の末裔だ。そして、我らを始めとしたヤタガラス傘下のデビルサマナーに指示を下す側の人間でもある。当代の葛葉ライドウに悟られぬまま驚異的な布陣を整え、追い詰めることができた、それがなによりの証だ。極めて少ない、家紋を与えられたヤタガラスの正当なる分身......正統たる分家だ。下手なことをすれば不利益を被るのはこちらだ、困ったことになったぞ』

 

「14代目に指示する側の人間......相当地位が高いですね」

 

『ヤタガラスに圧力をかけ、俺たちの調査を妨害することすら可能だろう。それだけの貸しがあるのだ』

 

「貸し?」

 

ゴウトはうなずいた。

 

『《不可侵の約定》、《古来の盟約》、まあそういうことだ』

 

「───────サイガは、帝都守護が目的だといっていた。国体を護るのが目的であり、それがヤタガラスとしての使命だと」

 

『正直、伴天連嫌いすら克服するとは恐れ入った。あれの覚悟は本物だ、帝都防衛という目的のためには手段は問わない、時間が無いの一点張りでな。取り尽く島すらなかった』

 

「だが、自分が鉄の結界をそこまで強化するなんて、なにと戦うつもりなのだと問うたら驚いていたな」

 

『ああ、星命には礼を言わなければならんな。あのおかげで少しではあるが話を聞くことができた。秘密裏にことを進めていたはずなのに当代のライドウは優秀だとな』

 

ゴウトはどこか得意げだ。

 

「なにか、途方もない厄災が来るのだといっていた。ハルアキは覚視(クレアボヤンス)という言葉を知っているか?」

 

「クレアボヤンス?千里眼のことですか?それとも透視?英語ではそのどちらでもあるし、どちらでもないですよ。海外では千里眼と透視を複合する言葉として、クレアボヤンスという言葉があります。サイキック能力......超能力の中でも特に有名な力ですね。才能ある者は時間も空間も距離も関係なく、ありとあらゆるものが見えると言われています。大昔の町の様子や、未来の都市、宇宙のどこかにある星の生活、天界の世界など、どんな場所も見ることができるし、また、過去生での自分や未来の自分も見ることができるとか」

 

『ああ、なるほど、千里眼のことか......やつはなにをみたのだろうな......誰も信じないだろうと初めから悲観しているあたりヤタガラス内部でも真面目に話を聞くものがいなかったとみえる』

 

「だが、自分が駆けつけるところを予測していなかったあたり、そこまで明瞭では無いのでは」

 

『たしかに......言われてみればそうだな。それではヤタガラスも扱いに困る......ああ、だから証明しようとしているのか?やれやれ、結界を強化するにしてももう少し被害が少ないやり方を選べんのかやつは!初代から最小限に抑えるためには最大戦力で叩こうとする!』

 

ゴウトはためいきをついた。

 

「......して、ハルアキは何のためにうちに?」

 

「あっ、そうでしたそうでした、忘れるところだった!」

 

俺は安倍さんから預かったさっぱり読めない大正時代仕様の報告書と写真、書籍がはいった封筒を渡したのだった。

 

「吸血鬼についての書籍か、ありがとう。助かる」

 

14代目はさっそくページを捲った。

 

「......」

 

『どうした、ライドウ......って、英語ではないか......読めるか?』

 

「......」

 

14代目は静かに本を閉じた。

 

「......まともに学校に通えていないせいだ」

 

「......読みましょうか」

 

「......ありがとう、助かる」

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