流星降臨(葛葉ライドウ)   作:アズマケイ

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銀座駅にて2

本来サイガのもつ覚視はかなりぼんやりとしたものだった。それがある日を境にやけに詳細な映像を視ることができるようになったという。

 

ただ、肝心の時期や場所、タイミングなどを特定するには至らないでいる。わかるのは帝都が次第に覚視でみる崩壊する直前の姿に近づいているということだけ。そのとき、はおそらくすぐ近くにまで迫ってきている。そのはずなのにそれ以上を知る術がない。

 

だからサイガは俺が考えている以上に焦っているようだった。

 

覚視のはじまりは、まずは急激な地震を感じることから始まるらしい。

 

両足の蹠を下から木槌で急速に乱打するように感じ、その前に来たはずの弱い初期微動を気が付かずに直ちに主要動を感じたのだろうという気がして、それにしても妙に短週期の振動だと思っているうちにいよいよ本当の主要動が急激に襲って来る。

 

同時に、全く経験のない異常の大地震であると知った。その瞬間にゆたりゆたり揺れるという形容が適切である事を感じる。仰向いて建築の揺れ工合を注意して見ると四、五秒ほどと思われる長い週期でみしみしと音を立てながら緩やかに揺れている。それを見たときこれならこの建物は大丈夫だということが直感されたので恐ろしいという感じはすぐになくなってしまった。

 

そうして、この珍しい強震の振動の経過を出来るだけ精しく観察しようと思って骨を折っていると、主要動が始まってびっくりしてから数秒後に一時振動が衰え、この分では大した事もないと思う頃にもう一度急激な、最初にも増した烈しい波が来て、二度目にびっくりさせられたが、それからは次第に減衰して長週期の波ばかりになった。

 

その先で広がっている光景を聞いた俺は息を呑んだ。時間旅行で何度も見てきた、まさしく関東大震災。

 

本来ならば1923年(大正12年)既に起きていなくてはならないはずの南関東および隣接地で大きな被害をもたらした地震災害そのものだった。神奈川県および東京府を中心に隣接する茨城県・千葉県から静岡県東部までの内陸と沿岸に及ぶ広い範囲に甚大な被害をもたらすはずの大震災だ。

 

日本海沿岸を北上する台風に吹き込む強風が関東地方に吹き込み、木造住宅が密集していた当時の東京市(東京15区)などで火災が広範囲に発生し、多数の焼死者を出した。

 

府県をまたいだ広範囲にわたる災害で未曽有の犠牲者・被災者が発生し、政府機関が集中する東京を直撃して国家機能が麻痺したことから、政府も大規模な対応に追われた。

 

190万人が被災、10万5,000人あまりが死亡あるいは行方不明になったと推定されている(犠牲者のほとんどは東京府と神奈川県が占めている)。

 

建物被害においては全壊が約10万9,000棟、全焼が約21万2,000棟である。東京の火災被害が中心に報じられているが、被害の中心は震源断層のある神奈川県内で、振動による建物の倒壊のほか、液状化による地盤沈下、崖崩れ、沿岸部では津波による被害が発生した。

 

それを事細かに語るサイガは、たしかに本当に覚視ができているのだと俺は確信した。問題はそれが人災によるものだとサイガはいっていることだ。

 

サイガによれば、覚視を繰り返していくうちに、その大災害は自然現象ではなく、ある一人の人間が国津神と手を組み引き起こしたものだという情報を得たらしい。だがそれ以上わからなかった。

 

帝都は焼け野原になり、その災禍を引き起こした人間の処遇をめぐりヤタガラスが明治政府と対立したからだ。帝都を焼け野原にしたなにかは国を護るに値する力だと認識した政府は、ここから加速度的にその人間を味方に引き入れ軍事に力を入れていくことになるようだ。

 

その先に待ち受けるのは......どうやら正史より数十年早い大破壊、あるいは日本という国の崩壊のようだ。歴史改変が雪だるま式に破滅へと直走っている。これはサイガが焦るのも無理はないかもしれない。

 

なんとなく、そう思った。

 

俺はその誰かについて聞いたのだが、サイガはヤタガラスが重い腰をあげるのがあまりにも遅く、大震災だったという荒唐無稽なカバーストーリーを流布するために腐心する羽目になり、肝心の情報が手に入らなかったようだ。  

 

「......わかっているのは、相手が国津神と手を組んだことだけだ」

 

国津神を分霊とはいえ使役できる将来人で、なおかつ歴史改変をしかねない実力をもつデビルサマナー。こころあたりしかなかった。

 

『いつか、歴史改変の咎に誰かしら刺客を送り込んでくるだろうとは思っていた』

 

まさか、あの言葉はそういう意味だったんだろうか?

 

『変革を望む私は、今やお前の知る葛葉ライドウではないということだ』

 

変革の果てが俺たちの時代の到来を早めるだけだとあいつは知っているんだろうか。

 

『どれでもないし、どれでもある。ひとつだけいえることがあるとすれば、ずっと私は変わりたいと願っていたということだ。いや、変わってみせる。今更引き返すことなどできるものか』

 

......もしかしたら、あの時はもう引き返せないところにまでいっていたのだろうか。

 

『わからない、という顔をしているな。別にお前に理解してもらおうなんて微塵も思ってはいない。ただ、私は......いや、私たちは変わらなければならない。その先に待ち受けるのは衰退への進行だ。私はずっと変わりたいと思っていた。古いしきたりや生まれながら定められた役目を打ち砕けるような革命や変革をずっと夢見てきた』

 

この世界が俺たちの世界に繋がるとは到底思えない。すくなくても、違う歴史になりつつあるのは大正20年が証明している。

 

『お前は知らないだろう。私たちの世界はどうしようもなく行き詰まっていて、すぐにでも変わらなければどのみち先はない。無謀だろうが無茶だろうが待ち受けるのは破滅が待ち受けるのが同じなら足掻くべきだ』

 

だからなんだっていうんだろう、いくらこの世界がある意味俺たちの世界になるのを防ぐことができたとして、お前がいる世界はなにひとつ変わらないじゃないか。パラレルワールドがひとつふえただけだ。お前が望むものを手にする人間はいるかもしれないが、肝心のお前はどうなんだよ、ライドウ。お前にはなにひとつ手に入らないんじゃないのか?

 

『いっそ滅びた方がマシなのかもしれないが......その覚悟でもって現状の打破を望むのはいけないことか?革命に憧れるのは、抑圧された人ならば誰しもが抱く夢ではないか?お前はその衝動にかられたことはないのか?』

 

それじゃあ、お前はあまりにも......。

 

俺はたまらず目を閉じた。

 

「まさか......そんなことが......?いや、天津神側のライドウの襲名者が国津神の分霊とはいえ敵対勢力側と契約できるのがそもそもおかしいのだ」

 

サイガは言葉を濁した。そして、しばらくの沈黙ののち、俺を真っ直ぐ見てきた。

 

「きみの歩む未来は想像を絶する動乱の中にいるようだ。言葉を濁されてもわかる。きみの友人はヤタガラスの傘下ではなくきみの所属している新たな傘下でもない。明らかに個人の思惑で動いている。ライドウを名乗っているにもかかわらずだ。どうやらヤタガラスはすでに存在していないか、機能を停止しているようだな」

 

「それは......」

 

「......無理に濁さなくてもいい。遠戚とはいえ陰陽師の末裔たる君がデビルサマナーとして優秀でも、陰陽師の片鱗を微塵も見せないということは失われたものもそれなりにあるということだろう。それは安倍子爵もわかっているはずだ。そうか、はるか将来において、ライドウの名を継ぐ者が何らかの目的をもって足掻いているというのか......その矛先は儂らの時代に向いているというのなら、間違いなくその芽は今この時代に芽生えるからにほかならない」

 

サイガには憂いが浮かんでいた。

 

「残念ながら儂には皆目検討もつかないが......。目的はどうあれ、それぞれ譲れないものがあるのならば、儂は儂のすべきことをするだけだ。帝都の結界を強化してなお破られるとするならば、それは儂の敗北だ。断じて認めん。それだけだ」

 

視界がぼやけていく。いや、俺の周りだけがあいまいになっていくのだ。

 

「サイガさんッ!今からでも遅くない、立ち止まることはできませんか!?これじゃああまりにもッ!」

 

伸ばした手はやはり霞んでいく。結界から弾き出されているのだと悟った俺は声を張り上げた。

 

「君たちが邪魔立てするというのならば受けてたとう。そう、伝えてくれるかね。安倍子爵......あるいは14代目葛葉ライドウに。儂の成そうとしていることを把握して、止めようとしている若人に敬意を評して。そして、ひとつ忠告だ。きみの友が成そうとしていることを止めたいならば、生半可な覚悟では成し遂げられないだろう。心することだ───────土御門ハルアキくん」

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