「安倍さん、ご相談があるんですが......」
「うん?どうしたんだい、ハルアキ。なにか問題でも発生した?」
俺はうなずいた。
「俺がこの時代に迷い込んだのは偶然だと思ってました。でも、どうやらそうじゃない可能性があるみたいで」
俺の言葉に瞬き数回、安倍さんはなにかを察したのか表情が神妙な面持ちになっていく。
「もしかして、サイガ子爵がきみに接触してきたのかい?」
俺はうなずいた。
「僕を通してじゃなく、直接きみに......?」
「サイガ子爵はどうやら覚視の力があるようなんです。それで......」
「そこまで話してきたってことはあれかな、きみはサイガ子爵の目論見の目的に近いところにいると考えたらいいのかい?」
俺はうなずいて、14代目とサイガ子爵から得た情報をすべて安倍さんに開示した。関東大震災のことは話せないが、アカラナ回廊を通る関係である程度サイガ子爵が見た未来を俺も目撃していること、あたっていることも併せて伝えた。
「......なるほど、だからサイガ子爵は帝都を守るために無理矢理結界を臨界点を突破するのも構わないほど強化を急いでいるというわけか......。明治政府の結界でどこまでカバーできるんだろうね......正直期待できないよ。山手線を襲撃されて鉄の結界をやぶられたら、あっさり突破されてしまうほど脆弱だというのに......。なら初めから将門公の結界や江戸時代の結界をいかす方向で帝都を作り上げればよかったんだ」
安倍さんはため息をついた。
「将来人であるきみがいなかったら、サイガ子爵の話を肯定できる要素がなにもないというのが情け無い話だよ、本当に。きみがきてから、末裔たるきみに頼りっぱなしだね」
「気にしないでください。安倍さんがいなかったら、俺はなにもできないまま時の迷い児になっていたに決まってるんだから。少しでも恩を返したいだけなんで」
「あはは、ありがとう、そういってくれると嬉しいよ。正直にありがとううちあけてくれて。僕はその誠意に報いなくてはいけないね。......きみは、止めたいんだね?これから迫り来ると思われる未曾有の大災禍の首謀者たりえるきみの友人を。アカラナ回廊に突き落とすなんて、直接殺すことを躊躇するほど仲がよかったにしては時の迷い児になりかねないようなことをしでかした友人を。正直まだ友人だと呼べるきみに驚きだけれど」
「俺がこの時代に流れ着いた理由は絶対にあるはずなんです。あいつが何らかの形でこの時代に来てるなら、俺は一度あいつと話をしなきゃならない。あの時はなにもわからないまま、検討外れなことばかりいってしまったから。次こそは」
「そっか......それがきみの当面の行動理由になるというのなら、僕は全面的にバックアップをしなきゃならないね。なにもわからないまま対策をねるよりは効率もいいはずだ」
「本当ですか!?」
「ただし」
「ただし......?」
「わかっているとは思うけど、それは僕が今聞いた話の中から首謀者の正体につながる情報......つまり、きみが首謀者たる40代目葛葉ライドウと友人であるという大事な情報だけを意図的にヤタガラスに伝えないことを意味するんだ。ただでさえ地位が低い僕らの企みが露見したら最後、潰されるのは僕らの方だよ。それだけは承知して欲しいな、ハルアキ。40代目葛葉ライドウが先代たちに叛逆を企てているなんて大スキャンダルだ。ヤタガラスは全力で隠匿にかかるし、そうなったら終わりだ、きみは友人と話す機会さえ恵まれないし、アカラナ回廊へいくくらいの信任は絶対に得られなくなる。逆にきみがこの情報をヤタガラスに提供するならアカラナ回廊への許可がおりる可能性は充分ある。それでもいいんだね?」
俺はうなずくしかない。
「このままアカラナ回廊を通じて元の時代に帰ることができたとしても、あいつが何を考えて歴史改変をしようとしているのかわからないまま帰ることになります。それは前となにも変わらない。結果だけ知っても意味がない。経緯を知りたいんです、俺は。そうじゃないとあいつとまともな話ができるわけがない」
「..................わかったよ」
「じゃあ......!」
「危険な橋だけどハルアキがそこまでいうなら渡るしかないよね。僕らが上手いこと事件を食い止めることができれば結果的に僕らへの評価もあがるし、それは陰陽師たちの地位向上につながる。そのあとならバレたって有耶無耶にできる。なんなら最後の最後に気づいたことにしてもいいわけだから。よし、わかったよ。これからも調査を極秘に続けていこう、なにかわかればまた情報共有してどうたちまわるか考えていこうね、ハルアキ」
「はいっ、ありがとうございます、安倍さん!」
「こちらこそ」
安倍さんはそういって笑ったのだった。
「ただ......別件になるんだけど、サイガ子爵のパーティなんだけどね、少々めんどくさいことになりそうなんだ。それだけ先に謝らなきゃならない」
「え、なにかあったんですか?」
「いや、ね?サイガ子爵はたしかにヤタガラスの分家だから地位が高いのは確かなんだけど、分家でしかないのは事実なんだ」
「え?あ、はい、そうですよね。それがどうかしたんですか?」
「魔断震の修復や悪魔の掃討は数が多すぎて人手が足らないって話をしたと思うんだけど、本来これは掃除屋というヤタガラスから派遣されるデビルサマナーが行うのが通例なんだ。結界の修復なんかもあるからね」
「そうなんですか、なるほど」
「うん、そうなんだけど......たしかにうちは安倍晴明の末裔で陰陽師の末裔ではあるんだけど、陰陽道自体は他の家系にも伝わっているし、直系ではないにしろそれなりの実力者を輩出する家系もあったりして、葛葉四天王の分家に座する一族もいたりするんだ。その場合は陰陽道に精通した葛葉一族で陰陽師としては僕の方が地位は高いけどヤタガラス内ではそちらの方が上なんていうこともよくある」
「なんだか複雑なんですね」
「うん......そうなんだ、ほんとにそうなんだよ。陰陽師としては僕が監督責任があるんだけど、デビルサマナーとしては実力が上だからヤタガラス内ではあちらが発言権がある、みたいなねじれた関係でね。あちらに問題児がいるとこれまた面倒になることがよくあるんだ」
「問題児......ですか。たとえばどんな?」
「普通は魔断震が起きた場所を特定して一般人が迷い込んでないか確認して、保護なり、逃すなりしてから悪魔を掃討、結界を修復するものなんだ。それが面倒だからと一般人がいるのにメギドラオンを打ち込み、悪魔より死傷者を出しながら掃討を終える。結界の修復は他の人に丸投げするものだから、彼が去ったあとは異界も現実世界もなにも残らない、みたいな」
「それダークサマナーといった方がいいのでは......?ヤタガラスもよくそんな人に掃除屋させられますね」
「実力者で地位が高いとそれだけしがらみも多いんだろうね......ヤタガラス内では嫌われ抜いてるけど本人は全然気にしないから余計タチが悪い」
「まさか、安倍さんがサイガ子爵のことをヤタガラスに報告したら、掃除屋としてその人が派遣されることになったとか言わないですよね?」
「そのまさかなんだよ......ヤタガラスはなにを考えているんだろう?この場に乗じてサイガ子爵に怪我でもおわせたいのか?僕らがライドウと対処するっていってるのに意味がわからない......」
「......ちなみにその人の名前は?」
「葛葉キョウジ、狂い死ぬと漢字をあてられるほど関係者には忌み嫌われてるデビルサマナーだよ」
「そんなヤバい人に襲名させちゃった分家の葛葉の里がこの国のどこかにあるってことですよね......?」
「そうだね......」
「大丈夫なんですか?」
「聞きたいのはこっちの台詞だよ......」
俺たちはため息をついたのだった。