流星降臨(葛葉ライドウ)   作:アズマケイ

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パーティ会場にて5

星命という名前は、実母が星が落ちてくる夢をみたことから、また安倍晴明という偉大な先祖にあやかってつけられた。待望の土御門家本家後継者となる男の子の名前の由来とするには流星はあまりにも不吉だという話しもあったが、大正時代に入ってなおそれを気にするものではないと実母が笑ったために決められた。

 

そして、星命が生を受けたその日、実母の見た夢の通り流星が落ちてきた。それも土御門家の敷地内に落ちたのだ。すぐに建物は炎につつまれたために実母を含めたお産に携わった人間は星命を除いて全滅した。

 

星命が物心ついたときには、乳母である彼女は、いわば母親がわりだった。

 

 

かつて良質の代用乳が得られない時代には母乳の出の悪さは乳児の成育に直接悪影響を及ぼし、最悪の場合はその命にも関わった。そのため、皇族、王族、貴族、武家、あるいは豊かな家の場合、母親に代わって乳を与える乳母を召し使った。

 

また、身分の高い人間は子育てのような雑事を自分ですべきではないという考えや、他のしっかりとした女性に任せたほうが教育上も良いとの考えから、乳離れした後、母親に代わって子育てを行う人も乳母という。

 

また、商家や農家などで、母親が仕事で子育てができない場合に、年若い女性や老女が雇われて子守をすることがあるが、この場合はねえややばあやなどと呼ばれることが多かった。

 

基本的に、高貴な女性は乳母を付けるのが慣習であった。慣習はそれとして、実際的にはどういう利点があったのか。

 

高級貴族の夫人などの子どもは、後継者男子としても、勢力構築のための兄弟としても、また婚姻関係を通じての勢力拡張のための、他家との婚姻のための娘としても、何にしても、無事に、丈夫に育ってくれることが必要であったこと。これは、別に、子どもを何かに利用しようと思わなくとも、幼児死亡率が高かった昔は、大事に育ってくれることを願ったことがある。

 

すると、初産の女性だと、どうしても育児知識がなく、どうやれば、丈夫に安全に子どもを育てられるか、経験も知識もなかった。そこで、乳母に任せると、乳母として、初妊娠の女性を乳母には普通しないので、経験や知識があり、実際に子を育てた実績もあるので、子どもの育成に信頼ができ、必要であった。

 

また、最初の子どもをそうやって育てると、以降も、乳母に頼まないと、直接の経験が母親は希薄なので、乳母を必要としたということになる。

 

育児のような仕事は、身分の高い女性には、いささか相応しくないと考えられていた。また、強い母親もいるが神経症になる母親もおり、高級貴族の娘出身の女性は、身分の低い女性に較べると、神経質で、また、個人的に、また公的立場から、育児が面倒だから、育児にあまり時間を割くことができないという女性もおり、乳母は好都合であった。

 

星命の乳母はそのどれでもなかった。父の情婦、つまり愛人だったのだ。それでも星命にとって彼女は母親のように慕っていた。本来ならばその暖かな日々は思い出として星命の自我をしっかりとささえてくれたはずだった。

 

「......どうしてあなたなんだろう?普通、ここにたつべきなのはあなたじゃなくて、お母さんじゃないのか?」

 

漆黒の闇の中で地獄のカマをのぞき込むと、目まいがするほどの熱気を顔に受けて、真っ赤に泡立つ火の海が煮えたぎっている。

 

黒い嫉妬の念を心中にうずまかせる人間の方が、嫉妬深くてタチが悪い。分かってはいるけど、と一秒ごとに引き上げるのが難しくなっていく口角を、無理やり引っ張り上げながら星命は考える。

 

嫉妬そのものが、権利だけ主張して義務は認めようとしない、愛玩用の猫ていどの代物だ。

 

たとえば、嫉妬だとか憎みだとかいうものは、生活に暇があって感情を反芻する贅沢者たちの取付いている感情だ。忙しい人間は感情は一渦性で、収支決算をつけて、決して掛勘定しない。感情さえ現金キャッシュ払いだ。現実から現実へ飛び移って行く。

 

嫉妬だとか、憎みだとかいうものは、感情に前後の関係を考える歴史趣味だ。憎悪と羨望と嫉妬に満ちた感情に駆られる。

 

自分が苦痛に似た、灼熱した金棒のような固い一本の憎悪に化していく事が分かった。

 

獰猛でとどろくような思いが胸のなかに渦巻く。

 

星命は一言も乳母とかつて慕っていた彼女と言葉を交わすことはなかった。むしろ即座に切り捨てるために黄泉の国から無理やり引き摺り出された怨霊を祓うために式神を顕現させていた。  

 

「ほんとにふざけてるよね、どのツラ下げて僕の前にいるの?」

 

式神に喰らい尽くされた乳母の姿はすでにない。星命はハルアキにまず見せることはない冷酷な眼差しを乳母がいたところにむけた。

 

星命が大きくなり乳母の役目が終わると同時にお役御免を言い渡した父親に逆上したあげくに、星命ごと無理心中さえしなければ、こんな目にあわせることはなかったのだといいたげな顔をしていた。

 

「......どうしようかな。うちに引き入れようかと思っていたのに、殺した方がいい気がしてきた。うーん......迷うな」

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