流星降臨(葛葉ライドウ)   作:アズマケイ

28 / 77
パーティ会場にて6

式神は陰陽師が使役する鬼神のことで、人心から起こる悪行や善行を見定める役を務めるものたちだ。

 

そもそも陰陽道は神道(古神道)に道教の陰陽五行思想や、密教などの思想が執り入れられて習合したものであり、現在の神社神道にもその系譜としての思想や儀式が引き継がれている。

 

神主や巫女は、神降ろしによって神を呼び出し憑依させることを「神楽」や「祈祷」というが、これは和御魂の神霊であり、式神は鬼神となっていることから、和御魂の神霊だけではなく、荒御魂の神霊、いわゆる「荒ぶる神」や「妖怪変化」の類である位の低い神を呼び出し、使役している。

 

また、人の善悪を監視するということは、人の心(霊魂)の和御魂と荒御魂の状態の変化でもあり、このことも式神という、2つの状態のどちらかの神霊を、使役したことと係わっている。

 

平時には式札(しきふだ)と呼ばれる和紙札の状態にあるものが、陰陽師の術法によって使用されるとき、使役意図に適った能力を具える鳥獣や異形の者へと自在に変身するのだ。

 

「物忌鬼招守」

 

星命の目の前で式札が浮遊する。

 

大物忌神、それは鳥海山のことだ。かつて鳥海山は古代のヤマト王権の支配圏の北辺にあり、火山であったために鳥海山の噴火は大物忌神の怒りであると考えられ、噴火のたびにより高い神階が授けられたことから、大物忌神は国家を守る神とされ、また、穢れを清める神ともされた。

 

この神を模した式神を行使することで呪術に対する能力を上昇させたのだ。

 

「僕としたことが......。ハルアキいなくてよかった。宗家次期当主である僕がこんな幻覚をみるなんて幻滅されかねないもの」

 

ようやく纏わりつく不快な気配が周囲から消え去った。星命は安堵の息を吐く。どうやらサイガはこのパーティ会場にいる人間を贄に殉国の徒に値する近親者、もしくはかかわりの深い人間を黄泉の国から無理矢理引き摺り出すことで会話させ、自らの意思で命を絶つことを唆すつもりのようだ。

 

よほど急拵えの幻覚なのだろう、250人もの人間を一度に集団幻覚をみせてからの心中をさせるには粗が目立つ。殉国の徒に相応しい人間を優先するあまり、会話する本人との相性をまるで考えていないようだ。そこまで考えて星命は眉を寄せた。

 

この考え方だとあの女が殉国の徒に相応しい魂をもつことになってしまう。あの女よりは自分の命よりも生まれたばかりの赤子を使用人に託して流星の火に飲まれた母親の方がよほど殉国の徒に相応しいに決まっているではないか。呼び出す魂の選別は誰がしてるんだか。

 

「......まあ、おかげで早々に祓えたからいいかな」

 

あたりを見渡すがハルアキの気配はない。陰陽道の才能をカケラも祖父から受け継ぐことができなかった父は幻覚に囚われているようだが、星命は父からいつも言われているように、土御門家の次期当主としてなにをすべきか考える。

 

星命が稀有な才能に恵まれたことを知った瞬間に、自分のように表の顔を継がせるのをやめて、土御門家の陰陽師としての正当後継者だとヤタガラスに届けてくれた父に反くことはできない。

 

ゆえに安倍家は星命がいるにもかかわらず父の年の離れた弟......星命からみれば叔父が養子に入っており、貴族議員を世襲することは決まっているのだ。すべては星命が陰陽師として大成することを願ってのことである。それだけ才覚をもって生まれた星命の誕生は土御門家の悲願だった。

 

自分よりはるかに才能に恵まれた、或いは環境に恵まれた人間に幾度もあってきたし、陰陽師の理不尽な境遇を突きつけられもしたが、星命がまだ踏ん張れているのは父がいるからだった。

 

それをあの女は寵愛が失われた程度で逆上したのだ。星命が自分のように陰陽道の才能がないことを前提にしていたからこそ愛人をつけられたのだ、星命が陰陽師の希望となった時点でただの一般人であるあの女がなぜそのまま乳母でいられると思うのか。

 

父親に捨てられそうになって、なんとかいってあげてと縋りたそうな顔を思い出すたびにイライラする。無理心中しようとしたあの女のおかげで今の星命は眠っていた才能を完全に覚醒することができたから、それだけは感謝しているが、それだけだった。

 

星命が乳母を殺したのはこれで二度目になる。もっとも最初は教育係の青年が教えてくれたことであって、茫然自失となっていたせいか幼少期のそのあたりの記憶はあいまいなのだが。

 

「ああ、そうか。今回はちゃんと殺すことができたのか。それはサイガ子爵に感謝しなければならないね」

 

星命は笑った。どうやらライドウたちも幻覚にかかっているようだと確認できたからだ。星命は式札を出す。

 

「宿、霊、元、出でよ水龍」

 

龍の形に切った紙に水の星、辰星の気を宿し、式神として操る陰陽術である。

 

「宿、霊、元、出でよ地龍」 

 

こちらは龍の形に切った紙に地の星、鎮星の気を宿し、式神として操る陰陽術である。

 

「式招来、法城」 

 

大地と水龍の守護である龍神、法城を式神として使役することができる。

 

「ライドウの幻覚を祓ってくれるかい、水龍、地龍。法城はハルアキを探してくれ」

 

式神たちはうなずくなり、パーティ会場に散っていったのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。